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第十一章 深淵
神殿
しおりを挟む騎士に周りを護られて別館に向かう。
別館に向かう途中で通る中庭には神殿の中では見かけなかった修道女の姿もあって、大名行列かのように進行の邪魔にならないよう避けてその場にしゃがみ深く頭を下げていた。
貴賓室から別館まで十分ほど。
階の移動には術式を使ったのにそれだけかかったんだから、神殿(中庭含む)がいかに大きい施設なのかが分かる。
「英雄公爵閣下!」
「なぜここに!」
渡り廊下の両側で待機している騎士たちが先に気付き、ダンテさんとラウロさんも俺が来たことに気付いて駆け寄る。
「三度も騒ぎが起きたとあらばさすがに静観できない。何が起きているのか自分の目で確認に来た」
正確には精霊神がどこまでやったか確認に来たんだけど。
「念のため障壁はかけておりますがまだ安心はできません。現在帰城のための術式を構築しに魔導師二名が城へと戻っておりますので、準備が整うまでお部屋でお待ちください」
ダンテさんから言われて報告に来た騎士を見ると、俺が言いたいことを察してくれたらしく記録石をダンテさんに渡す。
「これは?」
「宣言を記録してある。仮にここで私の身に何かあっても争いが起きないように。もし何かあれば両陛下に渡してくれ」
「な、なぜそのような」
「ここまでしないと身動きが取れなさそうだったからな」
自分の立場は理解してるつもり。
だから止められるのも当然だと思ってるけど、知らないふりで貴賓室に居たところで直接教皇に裁きが下ればますます騒ぎが大きくなることは目に見えてる。
「それより中の調査はもう終わったのか?」
神殿の前には軍人の他に見習いを含む神職者たちの姿も。
その中には教皇も居て、俺が来た時にはダンテさんやラウロさんと話している最中だった。
「それが……」
「ん?」
言葉を濁すダンテさんに首を傾げる。
「創造神の神殿には神に仕える者しか入れないと」
「だから調査を拒んでいるということか?」
「はい。緊急時だからと説得はしているのですが」
確かに教皇を含め数名の枢機卿以外の立ち入りを禁じていることは聞いてたけど、まさか調査すらも拒むとは。
「分かった。一旦空から神殿を確認してくる」
「え?」
キョトンとしたダンテさんとラウロさんに少し笑って恩恵の大天使の翼を使い翼を出して少し空に浮かぶ。
「要は中に入らなければいいのだろう?外から見ることや記録を撮ることは禁じられていない」
記録石を見せつつ話すと二人は理解したらしく苦笑した。
翼を使って上空に飛び空から創造神の神殿を見下ろす。
「わー……」
前から見た神殿は大した被害がないように見えたけど、そこに祭壇があるんだろう奥側の屋根は大きな穴が空いている。
いや、むしろ、ほぼほぼ屋根がない。
『随分と加減してやったようだな』
「これで?」
九割は屋根がない状態になっていても加減したらしく、魔神のそんな声が聞こえてくる。
『加減していなければ辺り一帯木っ端にされている』
「…………」
神の激おこの破壊力は俺も一度恩恵を使って理解してる。
俺が使ってもあの破壊力だったんだから、神本人が使えば星一つ簡単に壊せそう。
『壊せる』
「そこは答えてくれなくていい」
あっさりと恐ろしい返事を聞いてしまった。
星を創れるんだから壊せるのも当然と言えば当然だけど。
「教皇は神殿がこうなってることを知ってるのか?」
『いや。騎士の居る前では神殿の扉を開けたくないようだ。あの男もまだ中には入っていない』
「だから精霊神の怒りに気付いてないんじゃないか?」
『ああ。状況を見ずとも創造神の神殿が破壊されたということだけで察して跪き祈っている勘のいい者たちもいたが』
「神を祀る神殿が破壊されたとか不吉だからな」
その人たちは神の怒りに触れたことを察して怒りを鎮めてくれるよう祈りを捧げていたんだろう。
「ん?」
神殿の中に入ったと言われないよう屋根より少し高い位置まで降りて、黒焦げの破片が飛び散っている場所を見る。
「柱じゃなくて神像だったのか」
最初は折れた柱の根元かと思ってたけど、よくよく見ると膝辺りから上が破壊されている神像。
「……神像?」
創造神の神殿に神像?
自分で言ってハッとする。
「なあ。神像の元の姿を見せて貰う事って出来る?」
「構わないが」
顕現した魔神は神職者たちの映像を見せてくれた時のように手のひらの上に元の神像を映して見せてくれる。
「エルフ神じゃない。……まさか創造神の神像か?」
「一切似ていないがそのようだ」
それは駄目だろぉぉぉぉおお!
どんどん穏便に済ませることが出来ない状況になってる!
「神像に問題が?」
「精霊族には万物の頂点に位置する創造神の姿だけは神像にしたり絵画に描くことを禁ずる法律があるんだ。たった1cmの大きさだろうと最高神への冒涜行為で重罪になる。だからみんな神の御使いの天使を神像や絵画にして祈りを捧げてる」
この世界で生まれ育った精霊族なら誰もが知ってること。
教会や聖堂はもちろん国王の王城にすら創造神の姿はない。
それほどこの世界の人にとって創造神は特別な存在。
「そうか。ならば私が跡形もなく破壊してやろう」
「魔神の姿は見えないんだから俺が破壊したと思われる!」
「今音がしなければ裁きが落ちた時に壊れたと思うだろう」
そう言って神像の残骸の上に降りた魔神が手で触れると一瞬にして神像の残骸は砂のように崩れ落ちた。
『これはどうする?』
「これって?」
『神像の台座に隠してあった金品だ』
屋根から下には降りないようにしてる俺と距離があるから頭の中に語りかけてきた魔神からその話を聞いて吹き出す。
『消すか?』
「いや。それはそのままでいい」
禁止された神像の台座に隠してあった金品だからろくな金じゃない可能性が高いけど、運営資金をしまう場所として決まった人しか入れないそこが一番安全だったからという可能性もあるし、もしそうなら罪のない神職者にもしわ寄せがいく。
『それはない。教皇が信徒から不正に集めた私財だ』
「あ、はい。一旦俺の異空間で預かります」
過去を知ることができる創造神の前で隠しごとなど無駄。
俺の心を読み何の金か教えてくれた魔神は金品に触れる。
『お前の異空間に移動した』
「え?そんなこと出来るの?」
『言っただろう?異空間も狭間だと。狭間から狭間に移動できる精霊神や私が出来ないはずもない』
「……さすが創造神」
万物の創造主は万能。
念のため異空間を開いて本当に入っていることを確認してそのことを実感した。
「もう一つ記録するのか?」
「騎士には今の状態になったこっちの記録石を観せる」
隣に転移してきた魔神に答える。
さっきの記録石には神像の残骸や不正金も映ってるから、ダンテさんたちに観せるのは魔神が消してくれた後のこっち。
「珍しく悪事を握り潰してやるのか」
「俺がそんなお優しい奴だと思うか?今はまだ事を荒立てたくないってだけで、教皇の味方をしてやるつもりはない」
神像や不正金が映った記録石は大切な証拠品。
今後の流れ次第では十二分に活用させて貰う。
「これって雷を落とした?」
「ああ。生命への裁きには自然の力を利用する」
「自然の力ってことは雷だけじゃないってこと?」
「一部を破壊する今回は雷を利用するのが都合が良かっただけだ。全ての生命へ裁きを下すのであれば大洪水や大地震や巨大竜巻といった天災を起こして滅亡させることもできる」
そんな話を聞いて背筋がヒンヤリする。
星すらも創ってしまう創造神には自然を利用して生命を滅ぼすことなど容易く出来てしまうんだと、改めて神の力の大きさに恐怖心を覚えた。
「実際にやったことはないがな」
「え?」
「今回のように神を名乗り多くの者を苦しめるような者には仕置きくらいするが、創造も破壊も容易にできる精霊神と私だからこそ裁きも救済も余程のことでなければしない」
俺の恐怖心を感じとったのか、魔神はそう付け加える。
「星がどう営むも自由。その星で生命がどう営むも自由。精霊神と私は多くを干渉せずただ営みを見守っている」
なんでも出来てしまうからこそ下手に干渉しない。
それが創造神の精霊神と魔神の『決まりごと』なんだろう。
「よし。これで一通り記録できた」
そこに雷を落としたんだろう丸焦げの場所もしっかり記録できたからもう良いだろう。
「そうだ。戻る前に聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
一つめの記録石を異空間にしまいつつふと気付く。
「俺の神系の特殊恩恵の名前って人に明かしても平気?」
「神系?」
「精霊神から貰った天啓や魔神から貰った天命も含め俺の特殊恩恵の名前って神がついたり神に関係した名前が多いから、みんなが人族だと思ってる俺がそういう神系の名前がついた能力を持ってることを知られたらマズいかなって」
俺の能力が普通じゃないことはみんなもう分かってるけど、神という御大層な名前がついていることは極力隠している。
「神族ではない者が神を名乗り悪事を働くことや、神力ではない能力に神や神に関わる名を付け偽ることは許さないが、実際に神とつく能力を持つ者が他者へ話すのは構わない。もしそれが問題なら、神のつく神官には既に裁きを下している」
「神官は神に仕える者だけど俺のはモロに神だから」
神官は神に仕える者のことだから、あくまでも人間。
でも俺は特殊恩恵も恩恵も〝神子〟とか〝神罰〟とか〝神力〟とか〝神の裁き〟とか〝神の怒り〟とか、俺自身が神族だと証明するかのように神そのものの名前がついている。
「能力にしろ種族にしろ神を利用し悪事を働くことを許さないのであって、精霊神と私の愛子のお前が神力の名を明かすも種族を明かすも自由。真実を話しているだけなのだからな」
「そっか。分かった。ありがとう」
種族は気付かれた魔王以外に明かすつもりはないけど。
「さて。また精霊神の激おこが落ちる前に片付けないと」
「これ以上は騒ぎにしたくないならそうした方がいい」
「うん」
ダンテさんやラウロさんが居る地上に下降すると神殿前から移動したらしく騎士たちと一緒に神職者が集まっていて、教皇もダンテさんたちと一緒に居た。
「英雄公爵閣下。神殿は神を祀る神聖な場所ですぞ」
「知っている」
地上に降りると早速教皇からお小言を喰らう。
「神聖な神殿を上から見下ろすなど言語道断。幾ら英雄公と言え神への冒涜行為を見過ごす訳にはまいりません」
『精霊神や私にはただの建築物だがな』
「主神は万物の頂点におられる御方。冒涜して怒らせたとなればどのような災いが起こるか。考えただけで恐ろしい」
『怒らせたのはお前で神殿を破壊されたことが災いだが』
俺にだけ聞こえている魔神の返答に笑いを堪える。
たしかにそうなんだけど。
今の教皇には巨大ブーメランが突き刺さってるけども。
「神から祝福を受けている私たち神職でも主神の祭壇があるこの神殿に立ち入ることを許された者は極僅か。神界と繋がる神聖なこの場所を祝福を受けていない者が穢すことを止められなかったなど、主神にどう許しを乞えばよいのか」
深刻な顔でつらつらと話し続ける教皇。
一見すると神を献身的に敬い崇めるよい教皇に見えるけど、その中身は真っ黒なんだからヒトは怖い。
これこそ『腕のいい詐欺師ほど善人の顔をしている』の典型的パターンだ。
「ああ……神の啓示が」
教皇が言ったそれで神職者たちがザワつく。
「啓示、ね」
「オベルティ教皇は啓示という特殊恩恵を持っていて、神の声を聞くことが出来るそうです」
「へぇ」
ダンテさんがそう小声で教えてくれる。
啓示の意味が分からなくて呟いた訳ではなかったけど。
「主神よ。どうか怒りをお鎮めください。遠き異界より参られた英雄公は知らなかっただけなのです。主の祝福を受けた私が必ず英雄公を改心させますのでお許しください」
神殿に向かって両手を組み祈る教皇。
神職者たちも一緒になって跪き神殿に向かって祈る。
創造神の一人ならそっちじゃなくて俺の隣に居るけど。
「主神よりお言葉を賜りました」
「聞こう」
しばらく祈っていた教皇が振り返って俺にそう告げる。
「神々と交信できる唯一の者である私が英雄公に代わり懺悔いたしましたが、主神はお許しくださいませんでした」
深刻な顔で教皇が言うと神職者たちは嘆声を洩らし、騎士たちも少し騒がしくなる。
「ですが、英雄公は今までに多くの者の命をお救いくださった御方。そのような御方が一度の過ちで神罰を受けることを私をはじめ多くの者が望まないでしょう。ですので英雄公が主神より祝福を授かることが出来るよう、啓示を授かった私が責任を持って英雄公の御身を浄化し改心させることをお約束したところ、一度だけ機会をくださるとのお言葉を賜りました」
神職者たちの表情がホッとしたのを見て、この人たちは本気で教皇が神と交信できると信じているんだと分かる。
それとは反対に不信な顔で教皇を見ているダンテさんやラウロさんは心から信じている訳ではなさそう。
過去の実績があるから嘘とは言いきれない。
ただ、神と交信するなど眉唾な話だけに確信ももてない。
神職者は別として、多くの人はダンテさんやラウロさん側の考えを持っているだろう。
「それで?私に何をしろと?」
「英雄公には大教会に属していただき、神がお許しになるまで神職の見習いとして神について学んでいただきます」
「そのようなことが許されるはずがないだろう!」
ダンテさんが真っ先に声を荒げ、神職者たちもそれはさすがにという様子で隣の人たちとヒソヒソ会話を交わす。
「英雄は精霊族の守護者という重責を背負う代わりに個の権力を与えられた者。例え両国王陛下であろうと英雄に強要することは出来ない。その保護法を破り、アルク大教会は、いや、オベルティ教皇は信仰を強要すると言うのか」
ラウロさんのその声は静かながら怒りを含んでいる。
それもそのはずで、オベルティ教皇が言っていることは英雄保護法に反する強要行為に値するから。
一つの国が権力を使い勇者や英雄を抱えこめば、それをいいことに政治に利用したり戦を仕掛けたりとできてしまう。
何より、強い力を持つ勇者や英雄が精霊族に反旗を翻さないよう権力に逆らえる権力を与えられたのが勇者と英雄。
保護法に護られた俺の意思なしに大教会に属させアルク国に滞在するよう強要すればブークリエ国が黙っていない。
国や種族同士の争いになるのだから軍人のダンテさんやラウロさんが怒るのも当然。
「強要などいたしません。私は神の怒りを買った英雄公に災いが起きないよう手段を提案しただけで、ご本人が望まないのでしたら静かにその時を見守るだけにございます」
「そうか。では断る」
強要じゃないなら権力を使うまでもない。
俺は神職になって見知らぬ神に仕えるほど信仰心はないし、神に祈るのなら見た事がある創造神や月神に祈る。
「主神の怒りを買ったままで構わないと?」
「そもそも創造神の怒りを買った覚えがない」
だって創造神の一人は俺の隣に居るし、神殿の上に飛んだけど怒られるどころか一緒に来て協力してくれたくらいだし。
精霊神だって怒ってたら俺に直接言ってるだろう。
「私には神の声など聞こえなかった」
「ああ、まだご存知ではなかったのですね。英雄公には聞こえなくて当然です。私は啓示という特殊恩恵を神より賜り神の声を聞き交信することを許された唯一の者ですので」
それを聞いてつい鼻で笑う。
恐らく啓示という特殊恩恵が珍しくて詳しく知られてないからそんな嘘を言えるし周りからも信じて貰えるんだろうけど、創造神の魔神から話を聞かされている俺には通じない。
「異世界には仏の顔も三度という言葉があってな。どんな温厚な者でも何度も無法な事をされれば怒るという意味だ」
そう話しながら記録石に魔力を通す。
「こ、これは」
「どうやら雷が落ちたようだ。雨雲一つない快晴にこの神殿だけを狙ったかのように三度も雷が落ちて創造神を祀る祭壇が破壊されるとは、何を意味しているのだろうな?」
屋根がほぼない神殿の映像を見た教皇は目に見えて青ざめ、神職者たちは騒がしくなる。
「一体なにがあったのですか!」
声が聞こえて振り返ると、誰かに起こされたらしくアマデオ枢機卿とエルマー枢機卿を含む数名の枢機卿が走って来た。
「……それは主神の神殿!?」
「私が翼で飛び空から記録した神殿の奥の様子だ」
「怪我人は!怪我人は居なかったのですか!?」
エルマー枢機卿が映像で気付いて驚き、アマデオ枢機卿は真っ先に怪我人の有無を教皇に聞く。
俺が神殿の上に飛んだことでも神殿が壊れたことでもなく、最初に心配したのは怪我人が居るかどうか。
アマデオ枢機卿はエルマー枢機卿を守るため悪事に加担していたようだけど、教皇との人間の差が出ている。
「怪我人の有無や原因を知るため立ち入りを願い出たが、神に仕える者以外は駄目だと断わられ調査できていない」
「そんな!オベルティ教皇許可を!瓦礫の下に助けを求める者が居るかもしれません!教会の決まりを優先して命を見捨てるなど神がそのようなことを望むと思うのですか!?」
俺から聞いてアマデオ枢機卿は必死に教皇を説得する。
決まった人しか入れない場所だし祈りの時間でもないから恐らく居ないだろうとは予想していても、もし万が一のことがあったらと心配になるのは当然だと思う。
魔神から聞いた俺しか居ないと確信を持てないんだから。
「創造神の神殿に神の祝福を受けていない者の立ち入りを認める訳にはいかない。神聖な神殿が穢されてしまう」
アマデオ枢機卿の必死の説得も教皇には届かず。
ヒトの命よりも教会の決まりの方が大事らしい。
いや、本当に大事なのは法律に違反して創造神の神像を作ったことや、その台座に隠した私財がバレないことか。
「オベルティ教皇。選択肢を与えよう」
同じ神職者の説得に応じてくれたら俺は黙ってたけど、枢機卿という最高顧問の声も届かないなら仕方がない。
「教皇が調査の許可を出すか、私が英雄権限を行使し国王軍へ調査を命ずるか、好きな方を選べ。なお私が権限を行使した際には、そこまでしなければ見せないほどに隠したい何かがこの神殿にはあるとみなして隅々まで調査させて貰う」
俺が英雄権限を行使すれば大事になるという違いだけで、どちらを選んでも神殿内の調査はする。
俺が訪問してる時に起きたことだけに、国王軍も直接原因を調べて国に報告する義務があるから。
「主神に背き神殿を穢せと申されるのですか?」
「一部の神職者しか入るなと創造神が言ったのか?」
「左様にございます。私が神と交信しお声を聞きました」
「それを本気で言っているなら何の声を聞いてるんだ?」
「ですから神の」
「天罰を受けたくなければ口を慎め。啓示は夢の中で何かしらの神が一方的に伝える言葉を感覚で受けとる特殊恩恵で、生命の方から語りかける事は疎か会話する事など出来ない」
神の力を話していいかを確認したのはこのため。
啓示で神と会話できるという嘘をつけば俺が引くと思ってるようだから真実を明らかにするしかない。
「そ、そのような嘘を!」
「神の声を聞くことが出来るのは天啓という名の特殊恩恵だ。言っただろう?私には神の声など聞こえなかったと。天啓の特殊恩恵を持つ私の目の前で何者かの啓示を受けとり怒っているらしいそれへ代わりに懺悔してくれたらしいが、神の声が聞こえる私には声が聞こえない何者に懺悔をしたんだ?」
神職者だけでなく軍人も俺の話で騒がしくなり、真実をバラされた教皇は血の気が引いている。
「よろしかったのですか?秘匿能力をお話しになって」
「この場に居ただけで意図せず秘匿情報を聞かされた者にはすまないが、持つ者の少ない特殊恩恵であることを幸いと能力を偽り神を私欲に利用する者が居るとあれば黙っている訳にいかない。尤も私が人の常識を超えた人外の力を持っていることなど周知のことであって、今更隠すことでもないがな」
ボソリと聞いたダンテさんに答えて苦笑する。
「自衛目的で能力を隠すことは法で認められているが、教皇は神から啓示を受けたと主張し幾度となく国の決定に刃向い大教会の勢力を広げたのだから話は変わる。神に仕える神職でありながら神を利用するなど、それこそ神への冒涜に他ならない。このことは国に報告をして罪を償って貰う」
なるほど。
国と大教会がバチバチしてる理由はそれか。
と、ラウロさんの話を聞いて納得する。
能力の真偽が確信できない教皇から神の啓示と言われたら国も強くは出られなかっただろうし、それが分かっていて嘘の啓示で国を黙らせてきたというなら処罰を受けるだろう。
「オベルティ教皇。神殿内部を調査する許可を」
「そ、それは!」
「では私が英雄権限を行使しよう」
「なりません!主神の神殿が穢れてしまいます!」
「穢しているのは誰なのだろうな?」
両手を広げ声を荒げて拒否する教皇にくすりと笑う。
「なあ、オベルティ教皇。私が何も知らないと思うか?貴様の啓示と違って本当に神の声を聞くことのできる私が。信徒からせしめた私財を隠すには貴様の悪事に加担する一部の者しか入れない神殿が都合良かったのだろうが、まさか重罪にあたる創造神の神像の台座に隠してあるとは思わなかった」
教皇に近付き口元を隠してそう耳打ちする。
「嘘で人々を欺き従わせて気分が良かったか?神に身を捧げた若い神職者が純潔を失う恐怖と痛みで泣き叫ぶなか貞操を奪うのは気持ち良かったか?薬を使われ虚ろな目で涙する者を色欲の捌け口にして楽しかったか?我が身を悪に染めても義弟を守りたかった者の頭を踏みつけるのは面白かったか?」
魔神に見せて貰った過去のことや狭間から見たこと。
思い出すだけでも虫唾が走る。
「安心しろ。神像は跡形もなく消して私財も隠した。貴様と仲間が行ってきた非道な行為も誰にも話していない。だがそれは貴様のためではなく、事が事だけに公にしてほしくない被害者も居るだろうと考えてのこと。被害者がどうしたいかを聞く前に大事にしたくない。神像のことで騒ぎが大きくなれば国もアルク大教会の内部調査を強行するだろうからな」
そこまで話してチラリと教皇を見ると、ガチガチに体を強ばらせて冷や汗をかいている。
「神の慈悲は三度。次は神殿ではなく教皇自身に創造神の裁きが下る。神に仕える神職として最も恥ずべき神罰で死にたくなければ二度と自分は神などという戯言は言わない方がいい。神を名乗り悪事に利用したことに創造神はお怒りだ」
自分が神を名乗ったことが原因で神殿が破壊された事実を教えて屈めていた体を起こす。
「ああ、もう一つ。貴賓室の記録石は全て壊した。私の弱味を握り利用しようとしても無駄だ。アマデオ枢機卿が言ったように、私は弱味を握られようとも貴様に従うことはない」
最後に付け加えて今度こそしっかりと体を起こし、真っ青になっている教皇に笑い声を洩らす。
「神殿に神職者以外が入った程度で怒るほど万物の創造主の心が狭いとは私には思えないんだが、どう思う?」
「それは」
「それに神職者だけが神から祝福を受けている話は初めて聞いた。私は神職ではないが、神から祝福されていないのに神の声を聞く力や神を召喚する力を授かっているのだろうか」
言葉を遮り被せると教皇はぐっと口を結ぶ。
「なあ、オベルティ教皇。三度もの騒音を聞いて何が起きているのかと不安になっている民も居るだろう。一刻も早く調査をして安心させてやりたい。そのためなら私は躊躇なく自分に与えられた権力や能力を使う。それを承知で返答を」
これが最後。
拒むなら英雄権限を使って神殿の調査を強行する。
そうなればアルク大教会の中だけで片付けられる問題までも全て明るみになる。
「……分かりました」
「協力感謝する」
肩を落として許可した教皇へ胸に手をあて敬礼した。
「騎士団長に記録石を渡しておく。この場に居ない者もこれを見れば瓦礫を退ける前の状態が分かるだろう」
「ありがとうございます。お預かりします」
ダンテさんに調査前に撮った記録石を渡す。
調査をする時には人がまだ触っていないありのままの状態と調査後の状態を記録しておく必要がある。
今回は既に俺が空から撮った記録石があるから行ってすぐに瓦礫の撤去や原因の調査に入れる。
「記録石で見せたように崩壊したのは祭壇がある奥側だ。空から見て他に崩壊した箇所は見られなかったが、内部の柱や壁に亀裂が入っている事も考えられる。細心の注意を」
『はっ!』
俺が見たのは外側からで内部までは分からない。
地下に居ても聞こえるほどの音と沈むような振動が届いたんだから柱や壁が脆くなっていてもおかしくない。
崩壊したのは奥側だけと気を抜かず注意して進んでくれるよう話すと、団長のダンテさんとラウロさんが何部隊に分かれて調査を行うかの話し合いを始めた。
『入るだけでも一大事だな』
『本当に』
『祀られているらしい精霊神と私は誰が入ろうと空から見下ろそうとどうでもいいというのに、ヒトが勝手に神聖な場所と決めて同じヒトを制限しているのだからおかしな話だ』
『信仰なんてそんなもんだ』
あれは駄目これは駄目と決めているのは生命。
実際に神と会って会話ができる訳じゃないんだから。
信仰は神ではなくヒトの心の安らぎのためにある。
魔神の呆れたような声に苦笑した。
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慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活
シン
ファンタジー
世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。
大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。
GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。
ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。
そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。
探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。
そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。
たまに有り得ない方向に話が飛びます。
一話短めです。
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