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第十二章 邂逅
アルク校
しおりを挟む聖地アルク国の王都にある訓練校と魔導校。
ブークリエ国にある訓練校と魔導校は別々の敷地に建てられているけど(隣同士の敷地だから簡単に行き来は出来るようになってる)、アルク国の訓練校と魔導校は一つの巨大な敷地に並んで建てられていて、校舎から校舎へは渡り廊下で繋がっている。
外から見ても改めてアルク国はこの世界での都会だと思う。
校舎は広くて立派な三階建てだし、全体的に裕福な家庭が多いのか生徒数も多いし、グラウンドも広い。
恐らく体育館的な場所だろう建物も当然のように大きい。
アルク国に来て二回目の公務。
今日は訓練校と魔導校の見学に来た。
制服を着た生徒たちが向かうのは巨大ゲート。
不審者が入れないよう警備兵も立っていて、設置されている水晶に生徒たちは学生証をかざして次々とゲートを通って行く。
「こっちか」
俺が通るゲートは来賓用。
水晶にギルドカードをかざすとゲートが開く。
駅の改札を抜ける時を思い出して少し懐かしい気分だ。
「体験入学の方ですか?」
「はい。おはようございます」
「おはようございます」
声をかけてきたのはショートカットの女性。
城を出る前に師団長が来賓用のゲートを抜けた先で講師が待機していると言っていたから、この女性が講師だろう。
「メテオールと申します。本日はよろしくお願いします」
「アルク校講師のビオです。よろしくお願いしますね」
互いに挨拶を交わして頭を下げる。
「メテオールさんは白銀の髪と瞳なのですね」
「英雄公と同じ色で不思議ですか?」
「ええ。英雄公以外で白銀色は初めてみました」
「よく言われます」
会話を聞いての通り今日の俺は英雄じゃない。
体験入学(一日見学)に来た人族の貴族令嬢、メテオール。
生徒や講師の普段通りの様子を見せて貰うため、雌性体の姿になりブークリエ国にある魔導校の女子の制服を着ている。
尤も学長や警備や一部の講師には知らされているけど。
「アルク校には英雄公に憧れる生徒も少なくないので興味本位に色々と聞かれるかも知れません。大丈夫ですか?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
髪や瞳の色の話題を出したのはそれが理由だったのか、少し心配するビオ講師に笑って答えた。
「では最初に学長室へ案内しますね」
「はい。お願いします」
ビオ講師に案内して貰う俺に向けられる視線。
みんな英雄色だとは思っているだろうけど、雌性体になっている俺を見て英雄本人だと気付く人は少ないだろう。
クルトの継承能力以外に性別を変える魔法はないから(幻覚で別人に見せる恩恵を持つ魔族は居る)。
・
・
・
「偉大なる巨星、英雄公爵閣下へご挨拶申し上げます。アルク王都校学長のヴァレンテ・ブーケと申します」
「訪問を受け入れてくれたことに感謝する」
「光栄にございます」
案内してくれたビオ講師とはわかれて学長室に入ると英雄本人だと知っている学長は胸に手をあて正式な礼をしてきて、俺もそれに従って礼をしながら挨拶を交わす。
「性別を変化させる恩恵を使っての訪問となることは事前に聞かされておりましたが、ここまで変化をなさるとは。今の英雄公爵閣下を拝見して男性と思う者は皆無でしょう」
それはそうだろう。
見た目だけじゃなくて体内まで雌性になってるから。
「私のこの能力は両国の国王陛下と一部の者しか知らない。仮に気付かれたとしても頑なに隠すほどのことではないが、私本人が明かすまでは安易に口外しないよう願う」
「重々承知しております」
エルフ族の中で俺が雌性体になれることを明かしたのはアルク国王と軍の上官だけで、王妃や子供たちも知らない。
変身の恩恵は秘匿能力とまでは思ってないけど、使う機会と言えば人前に出る時に姿を偽ることが目的になるだろうから、雌性体になれることを知る人が少ないに越したことはない。
椅子に座って校内の地図を開いた学長から説明を聞く。
体験入学の生徒として見学させて貰うために護衛をつけていないとあって、非常口の場所を特に入念に教えられた。
「本日は五日に一度の解放日ですので校内のどこを見学するも自由です。ただ、英雄公爵閣下以外にも体験入学に来ている方々がおりますので身の安全には十分お気を付けください」
「承知した」
解放日というのは大学のオープンキャンパスのようなもの。
在校生は通常通りの生活と変わらず座学や実技を行うけど、体験入学者も実際に授業に参加したり食堂で食事をしたり、在校生と同じ体験をすることが出来るらしい。
その日は在校生も見知らぬ人が居ても体験入学者だと分かっているから公務訪問も今日の解放日に合わせた。
「ではブーケ学長さま、後程」
部屋を出る前に軽く制服のスカートを摘み貴族令嬢風に挨拶をした俺に学長はフフっと笑い声を洩らすと「お気を付けて」と見送ってくれた。
「さて、どこから行くかな」
学長から貰った校内の地図(案内図)を早速開く。
グラウンドを見たいなら魔導科の校舎から。
体育館を見たいなら訓練科の校舎からが近い。
研究室がある建物もあるし、どこから行くか悩む。
「やっぱ最初は座学かな」
勉強が嫌いな俺としては一も二もなく実技といきたいところだけど、勇者のヒカルたちと違ってこの世界の講義がどんなものか経験したことがないから少し見てみたい。
体験入学者は自由に入って自由に出られるからまずは座学の講義を見に行くことにした。
向かったのは学長室と同じ校舎にある魔導科。
日本の学校と同じく時間割があって講義の内容も教室ごとに違うらしいけど、そもそも俺は座学に関してはさっぱりだから学長室から一番近い第三室に行った。
自由に出入り出来るようオープン状態になっている教室の後ろ出入口からひょこっと中の様子を覗く。
後方が体験入学者用の机と聞いているけど家族と来ている体験入学者が多いようで、席の空きが少ない。
別の教室にしよう。
一つ二つ空きで席はあったものの、家族が多い中にひとり寂しく座る気にはなれずに隣の教室に向かった。
「……一人で来た体験入学者の肩身の狭さに心を抉られる」
第二室も第一室も状況は同じ。
体験入学者の他に両親らしき人も座っているから席がない。
あっても家族と家族の間の一席とかで座る勇気はない。
廊下の端にしゃがんで再び案内図の書かれたパンフを眺める。
訓練科の校舎も同じ状況なんだろうか。
ぼっち切ない。
「三階が上級科の生徒なのか」
二階は中級科の生徒の教室(アルク国では初級科は学校が別)。
思えば見学に来ている人は中級科に入る人が多いだろうし、今居る二階の教室の方が体験入学者が多いのも当然か。
「素直に三階に行こ」
この世界の都会だけあって術式がある二階の端に向かう。
もし三階も同じ状況なら訓練科の校舎に行ってみよう。
三階の上級科の教室は五つ。
中級科より多いから座って見学できる教室があればいいけど思いつつ術式から一番近い教室を覗く。
あ、座れる。
この教室も後方には体験入学者が座っているけど、中級科とは違って一人で座っている人も多くてホッとする。
それはまさしくぼっち仲間を見つけた時の陰キャの気分。
静かに入って出入口から近い場所に座る。
この世界では書籍に使うような紙は高級だから地球より紙の質は劣るけど、今日の講義の内容を複写したんだろう教科書代わりの冊子が各机に用意されているのがありがたい。
ペラペラ捲って前方のボード(黒板ではなく白板)を見る。
……うん、なんの話をしてるのかさっぱり。
魔力の循環がどうとか小難しい話をしてるけど、実際に魔法を使う時にこの内容は役立つんだろうか。
座学をすっ飛ばして実践から入った俺は全て感覚。
この魔法は通常でこれだけの魔力を消費するとか、威力をあげるためにはプラスでこれだけの魔力を消費するとか、そんな基本的な常識はエミーから教わることもなく体感で覚えた。
使ってみて弱ければ流す魔力を増やす。
逆に強ければ流す魔力を減らすというように。
消費量を数字で言われても画面を見たところでオールセブンの俺には意味が無い。
実際に魔法を使えるし、それ以上の上級魔法も使えるけど、講義の内容は俺には当てはまらない。
そもそも魔力量を気にしたところで魔攻値や想像力がないなら威力も出ないと思うんだけど。
あ、だから若い世代のエルフはお綺麗な魔法の人が多いのか。
教科書通り『この魔法に消費する魔力量はこれ』と決めて魔法を使うから、形は綺麗で威力はスカスカの魔法になっている。
魔法は魔力量と魔攻値が高ければ強い攻撃魔法になるし、魔力量と魔防値が高ければ頑丈な護りになるんだから、みんな同じ魔力量で魔法を使っても個人の能力値の差で威力が変わる。
「これはこの程度の魔法を使う時に必要な目安の消費量であって、個人の魔力系数値によっては目安の数値以上に必要になる者も居れば、これ以下の数値で済む者も居る。あくまで目安であることを忘れず個人で試すことで最適量を見つけるように」
手のひらサイズの水球を作って見せた講師。
必要な数値を教えただけでそれが全てではないことをしっかり生徒たちに教えている。
なるほど、学校で教えるのは目安になる数字なのか。
俺は魔力量が多いから意識しなくても済んでいるだけで、通常の人にとっては自分の魔力で何回の攻撃魔法が使えるかという予測をたてるのに有用な授業内容なんだろう。
後は生徒たち次第。
自分の能力値に合わせて魔法を使えるよう練習あるのみ。
今の若い世代のエルフ族はその『教えの先』が出来ていない人が増えて、形ばかりのスカスカ魔法になっているんだろう。
魔法のレベルを上げるには実際に魔法を使って鍛える。
体力や攻撃や防御や精神力といった肉体の基本レベルと同じ。
特殊な札を使用した魔法攻撃を使えるラウロさんのように、個人のやり方に合った方法を見つけて戦える強い魔導師や魔法士が増えてくれることを願いたい。
その後は魔力点という謎言葉が出てきてすっかり授業に夢中。
連続で魔法を使う時にずっと魔力を流し続けるんじゃなく、手の魔力神経の一点で魔力の流れを止め打ってまた止める。
そうすることで無駄な魔力消費を抑えられるとのこと。
俺の魔力量なら通常魔法を使ったところで残量を気にする必要がないけど、消費量の多い魔法を使う時には役に立つかも。
実際に魔力点という部分がある訳じゃなく、自分が魔力の流れを止められる場所を探してそこを魔力点とするらしい。
上級科だけあって基本知識より応用の内容が多く、普通すら教わっていない俺には目から鱗の話も多くて面白かった。
・
・
・
「んー!」
終了を報せるチャイムが鳴り在校生が動き出したのを見て椅子に座ったまま大きく背伸びをする。
「見えているぞ。脇腹」
「あ」
一つ席を空けた隣の体験入学者から指摘されて手をおろす。
「すみません。気遣いのない言い方をして」
指摘した男子の隣から女子が俺にぺこりと頭を下げる。
「あのまま不埒な目で見られているより良いだろう」
不埒な目。
ああ、思春期男子にはたかが脇腹も気になってしまうのか。
それは申し訳ないことをした。
中身は男だけど。
「不埒って。言い方があるでしょう?女性ですよ?」
どうやらこの二人は知り合いのようだ。
一緒に体験入学に来たんだろうか。
リア充め。
「講義に夢中になっていたあまり気が抜けておりました。恥をかく前に教えてくださってありがとうございます」
椅子から立ち上がってスカートを軽く摘み感謝を伝える。
「恐れながら人族の貴族家のご令嬢ですか?」
「はい。メテオールと申します」
「私はアリアネと申します。こちらは兄のレオポルトです」
リア充じゃなくて兄妹だったのか。
体験入学の時は貴族であっても家系を明かさないよう決められているから(家同士のいざこざがあったら困るかららしい)相手も名前だけ名乗り、俺と同じくスカートを摘んで軽く膝を曲げる簡易的な挨拶で返してきた。
「メテオール嬢、君は美しい。例え校内でも絶対に安全だとは言えないのだから己の美しさを自覚して行動するように。一人で来たようだが誰か同行させるべきだったのではないか?」
「兄さま!言い方!」
真顔で恥じらいもなく『美しい』と口にして忠告する兄と拳を握り力説する妹が面白くて笑う。
「お心遣い痛み入ります。十分に気を付けて行動いたします」
「すみません。言葉が悪いと家族も注意しているのですが」
「危険だと心配してくださってのこと。謝罪をいただくことではございませんのでお気遣いなく」
要約すれば『美人なんだから気を付けろ』と言うこと。
気を抜いて脇腹をチラ見せしてしまうような脇の甘い俺に気を付けるよう言ってくれただけ。
この姿が仮の姿だと知らないから、万が一がないよう同行者を連れてくるべきだったという心配からの気遣い。
「よければアリアネと見学するといい」
「え?」
「兄さまはどこに?」
「私は第一グラウンドで行われる合同実技を見に行く」
アリアネ嬢と見学することをお勧めされて、二人に待ってと手を向けて止める。
「身を案じてのご配慮は大変ありがたいのですが、私も次は実技を体験したいと考えておりますのでグラウンドに」
いま教わった魔力点に挑戦してみたい。
だから次は実技が行われる授業を見に行くつもりだった。
「そうか。では私と行こう。アリアネはどうする」
「それなら私もグラウンドに。兄さまと二人では……」
「私はメテオール嬢に何かしたりしない」
「言葉です。兄さまの言葉の刃が心配なのです」
公務を兼ねているから一人で良かったんだけど。
まあ行く先は同じグラウンドらしいし、英雄としてじゃなくメテオールとして仲良くするのは悪いことじゃないか。
あくまで体験入学生として来てるんだから。
「ではお言葉に甘えてご一緒させてください」
「喜んで。兄さまは無愛想で言葉を選べない性格ですが、多少腕がたちますので安心してください」
両手を握り力説する妹を不満そうに見る兄。
兄妹仲がいいようで、その微笑ましさに少し笑った。
授業の間の休憩時間だけに廊下を歩く在校生が多く、ガン見されたり二度見されたりしながら兄妹の後を着いて行く。
考えるまでもなく気になっているのは髪と瞳の色だろう。
「メテオールさま」
「メテオールで結構です」
「じゃあ私のこともアリアネと呼んでください」
「光栄です。どうかいたしましたか?」
振り返って声をかけてきたアリアネ嬢に敬称は不要と伝えて、どうしたのかと聞く。
「グラウンドへ行く前にカフェテリアに寄りませんか?」
「カフェテリアに?」
「私たちの父と母もアルク校の卒業生なのですが、カフェテリアの飲み物や果物が充実していて味も美味しいらしいのです」
なるほど。
俺も西区でカフェをやるから興味はある。
「アルク国でしかとれない珍しい果物もある。ブークリエ国のメテオール嬢の知らない果物も中にはあるだろう。興味があるならば学びの一つとして足を運ぶのもよいと思うが」
「ではお言葉に甘えて」
授業の間の休憩は一時間あるから時間は十分ある。
好きな講義をとって休憩時間にはゆっくり休んで必要な単位を修得すれば卒業となるのがこの世界の学校。
何年もかけて卒業するもよし、実力があれば飛び級で卒業するもよし、自分のペースで学べるのはいいことだと思う。
ただし授業料はお高いけど。
術式を利用して向かったのはグラウンド傍のカフェテリア。
アリアネ嬢が美味しいと言っていただけあって在校生にも人気があるらしく人が多い。
「ここを」
「?」
レオポルトがここと言ったのは制服の腕部分。
意味が分からず首を傾げる。
「人混みで迷子になっては困る。小さいのだから」
「兄さまもっと言葉を選んで」
「事実を言ったまで。アリアネも掴んでおくように」
「私はもう子供ではありませんよ?」
人が多いから迷子にならないよう制服を掴んでおけと。
レオポルトは異性に悪意なく期待を持たせるタイプらしい。
女性に優しい(言葉はキツイけど)のはいいことだけど。
「ありがとうございます」
顔に似合わず心配症のようだし安心できるならと思って袖を少し摘むと反対側をアリアネ嬢も摘み、二人で顔を見合せて少し笑った。
店内に並ぶ十台の食券機。
休憩時間でさえこんなに混んでるんだから昼食時間にはきっとこのくらいの台数が必要なんだろう。
直接注文するんじゃなく機械を使うところが技術の発展したアルク国らしい。
「たくさん種類があって悩んでしまいます」
食券機の上の壁に貼られているメニュー。
特に飲み物の種類が豊富にあって確かに悩む。
「飲料の中のジェネルーやシエルはまだブークリエ国に流通していなかったように思う。ジェネルーは少し酸味のあるさっぱりした果物で、シエルは果肉の柔らかい甘みのある果物だ」
「確かに初めて聞きました」
ブークリエ国にない果物と味まで教えてくれたレオポルト。
メニューを見てるフリで鑑定を使い写真(画像)を確認すると、ジェネルーは蜜柑のような見た目の黄色い果物で、味も日本の蜜柑、シエルは見た目も味もメロンだと分かった。
「口で説明しても分からないだろうから両方買って試しに飲んでみるといい。選ばなかった方は私が飲もう」
「私はラクの実にします」
「ああ、それもブークリエに流通していないな」
「はい。色々と飲んで好きな味を見つけて貰いましょう」
「そうしよう」
ついさっき初めて言葉を交わしたばかりの俺を気遣ってくれるんだから人の善い兄妹だ。
「あ、自分の分のお代は自分で」
「ここは私たちにご馳走させてください。それで人族の口にも合うかを教えて貰えると助かります」
「?」
俺の分も食券機に硬貨を入れるレオポルトを止めるとアリアネ嬢からそう言われて首を傾げる。
「うちは果物が中心の商会を営んでいるんです。父と母が初代のまだ小さな商会ですけど、今後ブークリエ国でも商品を売り出したいと思っていて。ただ人族には親しい方が居なくて口に合うかの調査がまだできてないので、図々しいお願いですが人族のメテオールに協力して貰えたらと」
コソコソと耳打ちしたアリアネ嬢の話を聞いてプッと笑う。
「そういうことでしたら喜んで」
「本当ですか?ありがとうございます」
俺の両手を繋いでアリアネ嬢は嬉しそうに笑う。
両親が営む商会のために出来ることをしたいと考えている子の願いを断る理由もない。
「メテオール嬢は礼儀作法を見るに上級貴族と見受けるが、その割には私たちのような新参の商人貴族を嫌がらないのだな」
「嫌がる?どうして嫌がるのですか?」
ボソリと呟きつつレオポルトは三人分の果物食べ放題を押す。
「人族の貴族は違うのだろうか。エルフ族の貴族はうちのように商売人から始まり貴族爵を賜った者を嫌う。元より貴族爵を持っていて商売をするのであれば問題はないんだが」
「え?そんなことで?」
「商売で稼いだ金で貴族爵を買っただけ。貴族には相応しくないと。だからうちはブークリエ国での商売を考えている」
ある意味、格式を重んじる貴族らしいと言うのか。
貴族も当然のように商売を営んでいるけど、貴族が商売をするか商売人から貴族になるかの違いで嫌がるとか。
いや、功績ではなく金で爵位を買ったのを嫌っているのか。
そういう制度があるんだから利用しても悪くないと思うけど。
国も世襲貴族の心境にも配慮して、買えるのは領地を与えられない騎士爵だけという制限も設けているんだし。
「わざわざ他国に進出しようと考えているということは自国での商売は芳しくないのですか?」
「果物を買うのは貴族が多い。だから両親も貴族に購入して貰い易いよう爵位を買ったのだが、それが裏目に出た」
納得。
確かに果物を買える経済的余裕がある人と言えば貴族。
一般国民が買うのは手軽に買える値段の果物だけで、高級な果物は到底手が出ない。
「こんな話をしてすまなかった。好きな果物をとるといい」
果物が並ぶケースの前に行ったレオポルトは先にアリアネ嬢と俺にトレイを渡すと自分の分も持ってケースの中を眺める。
「これはまだ少し早熟なようだ」
「ええ。二日ほど早かったようですね」
「生徒数が多いために出すしかなかったのかもな」
ケースの中の果物を見て会話をする二人。
俺は見ても全く分からないけど、両親が果物中心の商会をやっているだけあって二人もたくさんの果物を見てきたんだろう。
「あの、二人のおすすめを教えていただけますか?」
「喜んで。みんなで分けあって食べましょう」
「ありがとうございます」
この二人、果物の知識に関しては優秀なんじゃないか。
あれこれと食べ頃の果物や早熟の果物を教えてくれながら選ぶ二人を見てそう思った。
最後に受け取った飲み物はレオポルトが持ってくれて、アリアネ嬢と俺は果物を載せたトレイだけ持って空いてる席を探す。
「あ、外の席が空いてます」
「そこにしよう」
アリアネ嬢が空いているテラス席を見つけて席を確保するために一足先に外へ出ていく。
すぐにトレイを置いたのを見て座れる席があって良かったと思っていると三人の男女が後から来て椅子に座る。
「アリアネ!」
歩いていた隣のテーブルに慌ててトレイを置いたレオポルトはアリアネ嬢の名前を呼んで走って行く。
「申し訳ございません。失礼いたしました」
「いいえ。一人で運べる?持って行ってあげる?」
「このくらいであれば大丈夫です。お心遣い感謝します」
突然トレイを置かれて驚いた在校生だろう女子に謝ると親切にも運んでくれようとして、気持ちだけ受け取り丁寧にお断りしてトレイ二つを両手に持って外に出た。
「お前たちの座る場所なんてねーから」
椅子にどっかりと座っている三人の中の男が言う。
生で『お前の席ねーから』を聞く日が来るとは。
いや、この世界の人は知らないからただの偶然だけど。
「卑しい下賎貴族が入学料の高いアルク校に来るなど身の丈に合わないことをしない方がいいのではなくて?」
「お前たち家族は土で汚れて果物を育てるのがお似合いだ」
うーん。
果物の話をしてるってことは知り合いなのか。
この三人は在校生のようだけど。
「両親を侮辱しないでください!」
「アリアネ。相手にするな」
「でも!」
アリアネ嬢を自分の後ろに隠すレオポルト。
両親を見下すようなことを言われて本当は自分も腹が立っているだろうに、冷静に対応しようとしているのは立派。
「メテオール嬢。持たせてすまない。重かっただろう」
「いえ。そこまで孅くはありませんよ」
「すみません。持たせたままお待たせしてしまって」
「大丈夫です」
俺に気付いて小走りに目の前に来たレオポルトは二つともトレイを持ってくれて、アリアネ嬢からも謝られる。
今の今まで自分たちが変な奴らに絡まれてたのに俺を気にしてくれるんだから人が良過ぎる。
「まあ。素敵な英雄色」
「君は英雄公爵のご令嬢かい?」
「ご兄妹ではないか?」
コイツらも小虫と同じ相手を見て態度を変えるタイプか。
俺を見て態度をコロっと変えた三人の内二人は椅子から立ち上がると俺の方に歩いてくる。
「近付くな」
二人と俺の間に入って止めたのはレオポルト。
俺のことを自分の後ろに隠すと、アリアネ嬢も庇うように俺を腕におさめてくる。
「英雄公爵閣下はまだ未婚で年齢もお若いのだからこの年齢のご令嬢が居るはずがない。そのようなことも知らないのか。仮に異界から共に召喚された妹様だったとしても、英雄公爵閣下が明かしていないことを憶測で語るなど不敬だろう」
俺の正体を知っている警備兵の二人がこちらを見て足を踏み出したのを見て止まるよう手で伝える。
「レオポルトさま、アリアネ、私は大丈夫です」
俺がツッコミたいことはレオポルトが言ってくれた。
この世界の人には雌性体の時の俺が何歳に見えてるのか知らないけど、22歳にして二桁の年齢の娘が居るはずもない。
「英雄公は22歳ですわ。私の年齢の娘が居るなどとは御無礼が過ぎるのではなくて?」
二桁の最小の10歳だったとしても12歳の時の子供だぞ。
単純に俺の年齢を知らないだけだろうけど、この歳の子供が居る年齢に見えてるなら結構ショック。
「私のこれは変異で偶然にも英雄色になっただけですの。レオポルトさまとアリアネとご両親を侮辱する貴方がたは私のことも変異をした人族など気持ちが悪いと侮辱なさるのかしら」
目一杯高慢な令嬢を演じる。
上級貴族の令嬢は気の強いイメージだから。
「これ以上レオポルトさまご家族を侮辱なさるのであれば覚悟して名乗りなさい。例え公爵家であっても許しませんよ。私が貴方がたの一族ごと今の地位から引きずり下ろしますわ」
悪役令嬢気分で申し渡すと俺が上級貴族だった時のことを考えたのか三人は余計なことは言わずスっと去って行った。
「まさかメテオール嬢は賢者公爵のご親族なのか?」
「いえ?しがない貴族令嬢ですが?」
「強すぎるだろう」
レオポルトに聞かれて否定すると吹き出して笑われる。
特級国民というのは賢者公爵と同じだけど。
俺と勇者を除けば特級国民は賢者しか居ないから、賢者公爵の親族なのかと思うのも当然。
「ありがとうございます。スッキリしました」
「私も悪役令嬢の気分になれて楽しかったです」
「悪役令嬢?」
「そういう役割のご令嬢です」
両手を握ってお礼を言いながら笑みを浮かべるアリアネ嬢にくすりと笑った。
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勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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