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第十一章 深淵
大教皇
しおりを挟む教皇を黙らせたあと改めて神職者たちを見る。
「今から私に肩を叩かれた者も大人しく捕まり、教皇に加担して起こした全ての罪を自白しろ。私欲のため人を利用し、同じ神職者にまで強い復讐心を抱かせるほど苦しめた貴様らの罪は重い。この場で粛清して楽にしてやることはしない」
そう話して魔神から観せて貰った映像に映っていた神職者の肩を叩いていく。
「なぜ分かるのかという表情だな。私が神の声を聞く天啓という特殊恩恵を持っていることはもう話しただろう?やっていないと言えば罪から逃げられると思っているなら甘い。これ以上神の怒りを買いたくなければ全て自白し罪を償え。この場に居ない者も居るが、その者たちも逃がしはしない」
俺が肩を叩いた神職者を軍人が拘束する。
教皇と居た神職者はもれなく悪事に加担した者たち。
そして最後にアマデオ枢機卿の前で立ち止まった。
「アマデオ枢機卿」
「はい」
まっすぐに俺を見るアマデオ枢機卿は落ち着いている。
理由は何であれ、教皇の悪事に加担していた自分も捕まることは覚悟できているんだろう。
「貴殿はアルク大教会の教皇になれ」
「……え?」
俺の言葉にアマデオ枢機卿は唖然として、周りの神職者は騒がしくなる。
「ブークリエ国の民のためプソム教皇が必要なように、アルク国の民のためにはアマデオ枢機卿が必要だ」
「その者に教皇になる能力などない!」
「ある。むしろ誰よりも教皇になるに相応しい才能が」
声を荒らげた教皇を鼻で笑う。
「英雄公、私は」
「本当は気付いているのだろう?オベルティ教皇より自分の方が能力が高いことに。私はアルク大教会が教皇を選ぶ時の基準が分からないが、教皇の最も重要な役割である浄化と結界の能力においてアマデオ枢機卿に並ぶ者はこの国に居ない」
今の時点で既に教皇以上の能力だと魔神が言っていた。
覚醒で〝大教皇〟という特殊恩恵に変わることは知らないのかもしれないけど、教皇との能力差は気付いているはず。
「教皇より優れていてはならない決まりでもあるのか?それとも教皇の機嫌を損ねないよう隠していたのか?」
「…………」
沈黙するアマデオ枢機卿を隣からエルマー枢機卿が見る。
「大切な者を守れる最大の手段を教えよう。それは自分が人の上に立つことだ。教皇となり今の腐敗したアルク大教会を立て直すことで大切な者を守れる環境を得られる」
「私がアルク大教会を……」
悪事を働く者の居る今のアルク大教会では守れない。
本当に守りたいのなら悪事に加担するんじゃなく、自分が上に立って悪事を働く者を大教会から追い出すしかない。
「権力が足りていない中でも最大限に手を打った上での現状なのだろう?それなら私が英雄の権力を使ってアマデオ枢機卿が権力を手に入れられる環境を用意してやる。そうすることがアルク国やアルク国で暮らす民のためになると信じて」
俺に出来ることはそのくらい。
腐敗した中身を変えることはアルク大教会の神職者たちにしかできない。
「英雄公が自由に決められることでは!」
「では潰してしまおう。愚かにも神を名乗るような不届き者が教皇の国教など必要ない。邪教など潰れてしまえ」
「なんと無礼な!神聖な大教会を邪教などと!」
「神より授かった能力を偽り悪用して私腹を肥やす教皇が居る大教会が神聖とは何の冗談だ?笑わせるな」
神聖という言葉がこれほど似合わない人も居ない。
この中の誰よりも神聖とは程遠いのに。
「今のお前たちが仕えているのは神ではなくヒトだ。自分たちと同じヒトが作った教義に振り回され神を蔑ろにして教皇に仕えている使用人に過ぎない。神職者の本分を忘れ神ではなくヒトに仕えるならば二度と神職を名乗るな。ヒトでありながら神を名乗り三度も創造神の怒りを買う教皇に従う神職者しか居ない邪教など私が潰してやる」
神職者たちが変わらなければ大教会はこのまま。
今のアルク大教会はヒトに仕える使用人の集まりであって、神に仕える神職者の集まりではない。
「三度?この崩壊は神の怒りと言うことですか?」
「ああ。それを話すには私の秘匿能力を明かす必要があるためこの場では落雷が原因ということにするつもりだったが、もう明かしたのだから隠す必要もないだろう。神職者の中には創造神の怒りだと薄々感じていた者も居たようだが」
ダンテさんから聞かれて正直に答える。
俺自身が神の声を聞く能力(実際は声どころじゃないけど)を持っていることを秘密にしたかったことプラス、被害者の意志を聞く前に大事にしたくなかったから教皇に釘を刺す以外は秘密にしておくつもりだったけど、俺も大教会に引き込もうとする教皇の能力を否定するために自分の能力を明かしたし、被害者も自分たちの意思で教皇たちの悪事を明らかにしたから、大事にしないという選択肢は消えた。
「教皇は神に仕える神職でありながら神の存在を悪事に利用しただけでなく、遂には自分を神と名乗った。神ではない者が神を騙り悪事を働こうとしたことに創造神はお怒りだ。まずは神殿を破壊し悔い改めるよう忠告したのは創造神の慈悲。だがその慈悲も三度まで。次は直接教皇の身に裁きが下る」
軍人だけでなく神職者も騒がしくなる。
創造神が何か伝えようとしているんじゃないか、創造神が怒っているんじゃないかと察せた神職者たちも、まさかその怒りの原因が教皇だとは思っていなかったんだろう。
「詳しくは後ほど師団も交えた場で報告する」
「承知しました」
詳しい報告は城に戻ってから。
ダンテさんは胸に手をあて頭を下げると再び前を向いた。
「アマデオ枢機卿。どうか教皇になってください」
「だが私は」
「神力を扱い主神のお声も聞くことのできる英雄公が申されるのです。私たちの知らないお力をアマデオ枢機卿はお持ちなのでしょう。どうかこの国の民をお守りください」
両手を組みアマデオ枢機卿に願うエルマー枢機卿。
アマデオ枢機卿が一番守りたいのは自分だとも知らずに。
「もちろんお一人に全てを背負わせてしまうようなことはいたしません。私も出来ることはいたします。心優しいアマデオ枢機卿が教皇になるのであれば多くの者が賛成するでしょう」
多くの神職者がアマデオ枢機卿に手を組み願う。
中には被害者たちも。
教皇の悪事に加担していたものの信頼はされているようだ。
「大きな決断となるだけに考える時間を与えてやりたいところだが、重要な結界をはる新星の祝儀までもう日がない。指揮を執る教皇が居なければ、アルク国は弱まったままの結界で不安を抱えながら新たな年を迎えることになる」
「確かにそれは避けなければならないですが……」
魔物の侵入を防ぐ結界は一年に一度はり直す。
神職者の中心となって結界をはるための祈りを捧げる教皇は必要不可欠。
「どこまで自分の能力について知っているのか分からないが、覚醒後の貴殿の特殊恩恵はアルク国や民にとって重要で貴重なものとなる。オベルティ教皇の啓示よりも遥かにな」
「啓示よりも?」
驚いた表情で俺を見たアマデオ枢機卿に頷く。
「啓示も貴重な能力ではあるが、夢の中で神が伝えてきた内容を受け取るだけに過ぎない。危機の報せを受け取り国と協力して困難を乗り越えるという使い方をすれば有用だが、オベルティ教皇のように使い方を誤れば何の役にも立たない。だが、貴殿の特殊恩恵は神職者の務めである浄化や結界に長けた能力。どちらが国や民に有用な能力かは言わずもがな」
今の名前は知らないけど、数百から数千年に一度しか素質を持つ者の現れない〝大教皇〟と比べれば〝啓示〟も霞む。
「授かった能力を使って大切な者を、国や民を守る覚悟を決めろ。唯一無二の能力を授かった私もそうであるように、それがこの世界で特殊な能力を持った者の宿命だ。善悪から逃げるでも目を逸らすでもない清濁併せ呑む教皇となれ。創造神は清く美しいものしか受け入れないほど狭量な神ではない」
アマデオ枢機卿の中にある〝穢れた者〟という思想。
それが引っかかっているんだろう。
ただ、神職は身も心も清くあれと決めたのはヒト。
清くあろうと自戒するのは自由だけど、それは神が言ったことではないと気付いて欲しい。
「選べ。神に背くアルク大教会を私に潰させ新たな国教が誕生する日を待つか、貴殿が教皇となりアルク大教会を真の国教となれるよう立て直すか。破壊か再生かどちらかを」
民のためにならない今のアルク大教会なら潰す。
信心深い神職者たちと力を合わせてアルク大教会を再生させるというなら、そう出来るよう権力を用意する。
「再生させるなど私に出来るでしょうか。この私が」
「未来のことは私にも分からない。だが、貴殿なら出来ると信じる。才能もあり信頼もされている貴殿なら、同じ志しを持つ者たちと手を取り合い再生できると」
出来るか出来ないかはアマデオ枢機卿次第。
いや、アルク大教会の神職者たち次第。
「なります。教皇に。真の神職者の姿を取り戻すために」
両手を固く組んだまま考えていたアマデオ枢機卿は顔をあげるとまっすぐに俺を見て答える。
それを聞いてエルマー枢機卿と一緒に手を組み願っていた神職者たちも喜びの声をあげた。
『条件は揃った』
『うん。解放しよう』
聞こえてきたのは魔神と精霊神の声。
俺以外の誰にも聞こえていないらしく神職者たちは変わらず喜んでいる。
「アマデオ枢機卿」
「はい」
「ステータス画面を確認してみろ」
「?」
喜ぶ声で賑やかな中、アマデオ枢機卿の耳元で囁く。
「…………これは」
「それが貴殿の真の能力だ。その名の特殊恩恵を持つ者が教皇にならないなど有り得ないと思わないか?」
「ですから私に教皇になれと」
画面を確認して驚き俺を見たアマデオ枢機卿の肩を叩く。
エドの時と同じく解放される条件の最後のピースが覚悟だったんだろう。
「能力も権力も使い方一つで毒にも薬にもなるのだと忘れないでほしい。民に寄り添う教皇となってくれるよう願う」
「身を以て償う機会を与えてくださった英雄公に感謝を。私の力は国と民のため、大切な者のために使うと誓います」
アマデオ枢機卿は両手を組みハッキリと答える。
その隣でエルマー枢機卿は嬉しそうに微笑んだ。
「待たせてすまない。遅くなったが早速調査に入ろう」
『はっ!』
教皇と教皇に加担した神職者を連行して行く軍人と神殿の調査をする軍人に分かれる。
アマデオ枢機卿は神職者たちの指揮を取るためこの場に残り、エルマー枢機卿は加害者から受けた被害を訴えることを決意した被害者たちに付き添い王宮警備棟へ行くことになった。
・
・
・
「以上が本日の報告です」
アルク城の幸福の間(王の寝室)。
今日の公務中に起きたことを一通り報告した。
「浄化が目的だったはずが長い報告となったな」
ベッドの上で背中に重ねて置いたクッションに凭れて座っているアルク国王は苦笑する。
「啓示という特殊恩恵の詳細が分からず、神の啓示と言われれば蔑ろにはできなかった。民はもちろん国の上層にもオベルティ教皇が神と交信できると信じる者もいたのでな」
そう話してアルク国内は溜息をつく。
「陛下は信じていなかったのですか?」
「私は疑いの方が強かった。星や生命を創造した神からすれば吹けば飛ぶような存在だろう生命に交信する能力を授け、行事の開催日や場所など些細なことまで指示するだろうかと」
「たしかに。占術を盲信する人のような神ですね」
啓示の中には『行事の日程がよくない』とか『開催はこの場所がいい』とかもあったらしいから、星と生命というとてつもない規模のものを創り見守っている神がエルフ族の行事の日程や場所に拘るなど、疑って当然かと笑い声が洩れる。
「だが、真実の可能性も考えねばならなかった。もし私が教皇の意見を退けたことで神の怒りを買えば、避けることのできない天災に国や民を巻き込んでしまうかもしれない。国王としてそれだけは何としても避けなければならなかった」
「はい。分かります」
可能性がゼロじゃないからというのは分かる。
国王だからこそ疑わしいとだけで危ない橋は渡れない。
国や国民のことを考えての判断。
そこを責めるつもりはない。
「そういう理由でアルク大教会には手を焼かされてきたが、浄化だけでなく悩みの種だった国教問題まで英雄に解決して貰うことになるとは。巻き込んですまなかった」
「いえ。むしろ私の方が帰還指示に従わず勝手に事を進めてしまって申し訳ありません」
深く頭を下げて謝ったアルク国王の肩にストールを掛け直しながら、師団からの帰還指示に従わず浄化を強行したことや大教会の問題に首を突っ込んでしまったことを詫びる。
「師団の指示は英雄の身の安全を第一に考えての策に過ぎず、それに従うかは貴殿次第。何より優先されるのはその場で最も高い権限を持つ者の意思なのだから謝る必要はない」
権限で言えばたしかにそうなんだけど、ここは他国だけに俺には知られたくないことだってあるだろうから。
「此度の件、どう対処したい」
「どうと申しますと?」
「不祥事の中には貴殿への不敬罪が含まれる。英雄の弱味を握るため記録石を仕掛けた部屋に案内するなど英雄保護法違反。本来であれば民にも公にして公開裁判を行うところだが、報告を聞くに貴殿がそれを望んでいないように思えてな」
勇者や英雄保護法違反は重い罪として扱われる。
国も国民へ事件が起きたことを公開する決まり。
でも今回は俺が一部のこと(少年の殺傷事件など)を隠すような行動をとったから、どう対処したいのか聞いたんだろう。
「英雄保護法違反はありませんでした」
「ん?」
「ですので私の件を公にする必要はありません」
俺は被害を訴えるつもりはない。
だから公にする必要もない。
「アルク大教会は多くの信徒を抱えた国教。英雄保護法に違反したことを公にすればもう再生することも叶わないでしょう。そうなれば神を信仰する民は心の拠り所を失ってしまいます。ですから私の件はなかったことにして公にはせず通常の裁判を行い、法に違反したことや被害を訴える者たちに対しての罪を償わせてください。民のため、被害者のために」
アルク大教会を潰すなら法に則って公にして貰った。
英雄の弱味を握るため盗撮したと知れば、エルフ族だけじゃなく人族や獣人族も大教会の存続を認めないだろう。
「私の件を公にすれば大教会どころか国や種族間での対立にも成りかねませんが、私の件さえ伏せれば教皇と一部の神職者が起こした内部の不祥事として片付けられます。国教が再生するなら国王陛下にも決して悪い提案では無いかと。ただ一つ、事実を闇に葬る変わりに新教皇を選任する権利を私にください。それ以降の再生や運営には口を挟みません」
俺が望むのはアルク大教会の再生。
それを成し遂げてくれる新教皇の選出だけさせてくれたら後のことは口を出さない。
「闇に葬れば本国にも報告できなくなるがよいのか?」
「構いません。浄化のため足を運んだ際に偶然崩壊に居合わせ原因と負傷者の調査協力をしただけ。それが全てです」
神殿が崩壊した理由は自然災害と発表される予定。
そのタイミングでたまたま浄化に行っていたから、公務の一環として原因と負傷者の有無を調べる協力をしただけ。
負傷者がいなくて良かった。
俺が国に報告するのはそれだけ。
「承知した。民を第一に考えての配慮、感謝する」
「勿体ないお言葉を」
胸に手をあてたアルク国王に敬礼で返した。
「ひとまずこちらに。その姿で軍人から報告を受けているかのように振舞われるのは奇妙な気分だ」
雌性の姿で寝衣(ローブ)を着て軍人のように後ろで手を組み報告していることが奇妙らしく、入るようベッドの掛け布団を少し捲ってみせるアルク国王は苦笑する。
「つい癖で。報告をする時はこれが通常ですので」
「既に師団から報告を受けた。堅苦しい報告は不要だ」
「承知しました」
王城に帰還してからダンテさんやラウロさんと一緒に師団へ報告したあと、俺は宿泊している部屋に戻り夕食をとったり風呂に入ったりとしていたから、その間に聞いたんだろう。
そう納得しながらベッドに入る。
「新教皇に選出する者は特別な力を持っているらしいな」
「はい。本人が国へ報告する前の今は私の口から能力名を明かすことは出来ませんが、彼は今後アルク国やエルフ族にとって重要な存在となるでしょう」
例えアルク国王でも他人の特殊恩恵を俺が勝手に話せば法に反することになるから言えないけど、アルク国の防衛を左右することになる重要な存在になることは間違いない。
「貴殿がそこまで言うのだから能力は高いのだろうが、人格はどうなのだろうか。能力が高くとも人格破綻者ではな」
アルク国王がそこを気にするのは当然。
能力の高い人格破綻者なんてむしろオベルティ教皇以上に厄介な新教皇にしかならない。
「彼が人格者かどうかは断言できかねますが、授かった能力を国や民のため、大切な者のために使うと私に誓った彼の目に偽りや迷いは感じませんでした。もし彼が能力を悪用し新たな厄介者となって国や民を蝕む新教皇となった時には、選出した私が責任を持ってその座から引きずり降ろしましょう」
今日出会ったばかりの人が人格者かどうかは分からない。
ただ、神への信仰心が篤いことと慕う者が多かったことだけは間違いない。
「承知した。英雄の貴殿にそこまで言わしめる者なのであれば私も信じよう。新教皇の選出は貴殿に一任する」
「ありがとう存じます」
良かった。
後は教皇となったアマデオ枢機卿がエルマー枢機卿や他の神職者たちと大教会を改善してくれることを願おう。
「報告はここまでにして治療を。魔法検査から行います」
「ああ。よろしく頼む」
治療に入る前に現状を知るための魔法検査をかける。
「体調は如何ですか?」
「夜になって少し体が重だるくなったように思う。暫く寝込んでいたために体力が落ちているだけかもしれないが」
「他に不調はございますか?」
「いや。それ以外は特に」
「承知しました」
顔色はさほど悪くは見えない。
ただ、クッションに背中を預けている姿を見ていると気怠げには見える。
【ピコン(音)!魔法検査の結果が出ました】
『ありがとう』
早々に検査結果が出て画面を確認する。
確かに状態を知らせる項目に疲労と書かれていた。
『中の人。この疲労の原因は分かるか?』
【体が弱っているため通常の行動でも疲労が嵩むという理由もありますが、一時的に柔らかくなっていた魔力神経が夜になり再び硬化し始めたことによる異常反応が主な原因です】
『たった数十時間で硬化が始まるってことか』
【数日はその状況が続くと予想されます】
『分かった。ありがとう』
朝方まで体液を与えていたのに夜には硬化が始まった。
これは思った以上に治療に時間がかかるかもしれない。
「お待たせしました。結果が出たのでお見せします」
「うむ」
身体状況の書かれた画面と魔力神経の画面を出す。
先に身体状況の画面に目をやったアルク国王は、魔力神経硬化症の後に書かれている疲労の文字を見て「やはりか」と独り言を呟いた。
「日中に運動などなさいましたか?」
「いや。国の重要書類に目を通し紋印を押すくらいのことはしたが、ベッドに座ったまま時間も一時間ほどだ」
じゃあ中の人が言う通り魔力神経の硬化が原因だろう。
硬化が始まり体が異変と捉えて一気に体力を削られたと。
後で報告できるよう治療前の身体状況をスクロールに書き写してベッドの隣にあるナイトテーブルに置いた。
「再び硬化が始まったことが主な疲労の原因になっているようです。本格的に治療を始める前に体液を送りながら回復をかけますので、陛下は動かず居てください」
「承知した」
まずは疲労を改善しないと致す体力がない。
ヤッてる最中に体力切れになってぐったりされると困るから、口付けで体液の一つを口から摂取させつつ回復をかける。
「痛みがありますか」
「大した痛みではない。気遣わせてすまない」
硬化が始まってしまったから痛かったようで、眉を顰めるアルク国王に気付いて聞くと苦笑される。
「痛みだけでは苦痛でしょうから、気休めでも」
再び口付け肉体の中で最も快楽を得られる場所に触れる。
手から体液は出ないから治療のプラスにはなってないけど、疲労が改善したら続く治療の内容には関係することだから意味の無い行動ではない。
「今日も妙な気分だ」
「苦痛と快楽を同時に体感しているから?」
「ああ」
痛い、気持ちいい。
その状況を妙と表現するアルク国王に笑う。
治療していれば途中で軟化してきて痛みもなくなるけど、それまでは妙な気分のまま我慢して貰うしかない。
「治療が目的とはいえ、閨を共にしているのに痛みだけでは忍びないですから」
口から体液を摂取させることを繰り返し合間に話す。
痛みが強いのか元気にはならないけど、妙な気分になっているということは一応快楽も感じられているようだから、疲労が改善されるまでは続けよう。
・
・
・
疲労が改善され本格的に治療を始めて数時間。
「……元気になり過ぎでは」
最初は俺が積極的に行動してたのに逆転してしまった。
昨日(早朝)にしたまでは積極的に行動するほどの体力はなかったのに、今日は途中から様子が変わった。
「治療が効いているのだろうか。体の調子がいい」
そう話してアルク国王はくすりと笑う。
【魔力神経が軟化して魔力の流れが改善されたことで、一時的ではありますが本来の能力値に近しくなっています】
『本来のアルク国王の体力がこれってこと?』
【まだ完全ではありません】
『まだ?体力おばけじゃねえか』
逆転して組み敷かれながらも中の人から聞いて思う。
アルク国王が全回復したらとんでもない絶倫になりそう。
体力おばけの魔王で慣れてる俺ならまだしも、元貴族令嬢の王妃たちや一般国民の王宮妃たちが付き合いきれるだろうかと少し心配になった。
「魔力神経が軟化している間の一時的なもので」
「そうだろうな。だが、せっかく今まで経験したことがないほど調子がいいのだ。どれほどのものか知りたくもなる」
「後で辛くなっても知りませんから」
苦情を言う俺にもアルク国王は笑うだけ。
35年生きて初めて体感した本調子の自分の限界を知りたくなるのも分からなくはないけど。
「神は私に天罰をお与えになるのだろうか」
「え?」
「矮小なヒトの身でありながら、神の力と神々しく美しい容姿を持つヒトならざるものに欲求をぶつけている。そんな私を神はお怒りなのではないかと思ってな」
神族の俺は確かにヒトではない。
ヒトならざるものというのは正しいけど、俺のステータス画面を見た訳じゃないんだから知るはずがない。
「私は人族ですが?」
「左様か」
くくっと笑われる。
そう答えることなど分かっていたんだろう。
俺の能力を知るほど『ヒトじゃない』と思ったのかも知れないけど、地上で暮らす限り神族だとは明かさない。
真実を知っているのは神々だけ。
俺自身ですらまだ分からないことが多いのだから。
元は神族だったということは分かったけど、創造神からどんな役割を与えられた神だったのか、創造神から愛されていながら決まりを破り堕天してまで何がしたかったのか、なぜこの世界の人族ではなく地球人になっていたのか、地球の両親や祖母や魔王との関係も分からないまま。
ただ、ヒトでも神でも俺は俺。
どの世界でもどんな種族でも俺らしく生きていくだけ。
「生命が自分たちで数を増やし繁栄するよう性欲という生理的欲求を授けたのは創造神です。陛下と私は創造神が授けたその本能的な欲求に従っているだけ。嫌がる私を組み敷いているのではないのですからお好きなだけどうぞ」
それだけ伝えると唇が重なる。
「貴殿が神なら愛欲の神か慈愛の神か。いい歳をした私を翻弄するのだから恐ろしい。だが、閨の最中は美しい神に翻弄されるのも悪くない。国王ではなく一人の男になれる」
伴侶の王妃にも素を曝け出すことが出来ない国王だからこそ、都合のいい俺が相手の時には気が楽なんだろう。
治療を任されている俺としても、体液を多く摂取して貰うために素を曝け出してことに没頭してくれる方が好都合。
閨(治療)が済めば国王の顔に戻ることは知ってるから。
閨の最中の素顔は共犯者のアルク国王と俺だけの秘密。
アルク国王と俺の記憶には残っても、王家の記録に遺されることはない。
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マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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