異世界で猫に拾われたので

REON

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chapter.5

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しっかり休憩をして早速出発。
買い物の最中は目隠しを外していたライノも、ここからは再び目隠しをして行動することになる。

「ブランシュのチケットはこれだ」
『ありがとう』

野営をする夜まではまだ時間があるから、帝都の外を走る馬車の乗り方を教えるため、あえて転移魔法は使わず、一番近くの街までは乗合馬車を利用することにした三人。
ライノに教わって乗合馬車協会の窓口でチケットを二枚購入した天虎は、一枚をブランシュに手渡した。

「チケットを頂戴します」
『はい、どうぞ』

乗合馬車の停留所でチケットを渡すブランシュ。
先に渡したライノや天虎を真似て自分のショルダーホルスターからチケットを出して差し出す可愛らしいブランシュに視線を合わせて受け取る守衛はニコニコ。

「たしかに頂戴しました。よい旅を」
『ありがとう』

口をパクパク動かしたものの声が出ていないブランシュを見て喋れないのかと察したもののそれには触れず、兄だろうそっくりな容姿の人物と手を繋いでいるブランシュを笑顔で見送った。

「ブランシュは私とブランさまの間に座ろうか」
『うん!』

まだガラガラの馬車の乗降口に近い場所を選んでブランシュには天虎と自分の間に座るよう言ったライノ。
安全性を第一に考えるなら奥側がいいけれど(盗賊や魔物が出た際に一番に狙われるから)、他の人は基本的に避ける場所だから席の取り合いにはならないということと、初めて乗合馬車で帝都を出るなら景色が見えた方がいいだろうと考えて。

『大丈夫?』
【怖いのか】
『す、少し。こんなにヒトが乗るんだね』

後から次々に人が乗り込んでくるのを見て天虎とライノのマントをキュッと握ったブランシュの様子で怖いのかと察した二人は大丈夫かと顔を確認する。

【やめておくか?】
『ううん。少し吃驚しただけ』
『無理しなくていいよ?天虎神の魔法でも行ける』
『普通は馬車で移動するんでしょ?私も慣れないと』

ヒトとしてヒトの子のを学び中のブランシュ。
次々に知らない人が乗って来たから少し怖くなったけれど、それもヒトとして生きるために必要な常識や経験だと分かっているから降りたくない。

「ブランシュ。手を貸してご覧?」
『手?』
「反対の手はブランさまと繋いで?」
『天虎さんと?』

言われるがままに右手はライノと、左手は天虎と繋いだブランシュはきょとん。

「私たちが傍に居るから大丈夫。もし何かあっても必ず私とブランさまがブランシュを守るから怖がらなくていい。私とブランさまだけでなく黒鷹や白鷹も守ってくれる」

頼もしい手の温もりと気遣う優しい言葉。
それだけのことでブランシュはホッと安堵して強ばっていた身体から力が抜ける。

『うん。もう怖くない』

天虎とライノと精霊たち。
自分の傍には頼もしい人たちや精霊たちが居ることに改めて気付かされたブランシュは笑顔を浮かべた。


ある程度の人数が乗って出発した乗合馬車。
一人で乗っている人も居れば装備を身に付けた冒険者パーティだろう人たちや子連れの家族なども居る。
自分より小さな子供の様子や和気藹々とした冒険者パーティの様子を見てすっかり緊張が解けたブランシュは、手を離してももう怖がることはなく景色に興味津々。

「妙に揺れるな」
「舗装された道を走っている今はまだマシな方です」
「これで?」
「これでも」

乗合馬車は庶民が利用する馬車。
安価で利用できるよう高性能な作りにはなっていないから、貴族が個人で所有する馬車のように揺れが軽減される仕様にはなっていないし、椅子もお尻が痛くならないよう質の高いクッションが敷かれている訳でもない。

【ブランシュをクッションに座らせては駄目か?】
『大丈夫です。組合ではそこまで用意していないだけで、自分で用意した物を使うのは禁止されていませんから』
【それなら使おう。私は何ともないが、お前たちは身体が痛くなりそうだ】

アイテムバッグ(に見せかけたインベントリ)からクッションを二つ出した天虎はブランシュを一度抱き上げると椅子に置きその上に座らせ、もう一つをライノに渡す。

『私は結構ですので天虎神がお使いください』
【私をヒトの子と同じに思うな。身体の頑丈さが違う】
『言われてみれば。ではお借りします』
【ああ】

一度は断ったものの神とヒトの子の身体の頑丈さが違うと聞けば確かにと納得できる理由で、ライノも天虎からフカフカのクッションを借りてそれに座り直す。

『お心遣いありがとうございます』
『ありがとう、天虎さん』
【肝心の時に痛くて動けないと困るからな】

ブランシュの頭を撫でる天虎。
実際に自分でも庶民が乗る乗合馬車の揺れを体験してみて、初めて乗合馬車で長距離の移動をするブランシュも、普段は性能のいい馬車に乗っているライノも、後々になってお尻や腰の痛みを訴えるだろう未来が読めた。

天気もよくおかしな輩も居ない馬車は平和そのもの。
各々が軽い飲食をとったり会話を楽しんだり。
御者が気を使って幌を半分ほど上げてくれたことでブランシュや他の子供たちも退屈することなく景色を眺めている。

「お嬢さんも果物はいかが?」

そう言って声をかけたのは子連れ家族の母親。
自分たちの子供が食べている果物のお裾分け。

『……くれるの?』

果物と母親を見比べてパクパク口を動かしたブランシュ。
きょとんとされて伝わっていないことに気付くと急いでメモに文字を書いて見せる。

「すみません。私たちは文字が読めません」
『え?』
「失礼しました。この子は声を出せない変わりに文字を覚えて私たちと会話をしているんです」
「声が。そうでしたか」

突然口調を変えて謝った母親に首を傾げたブランシュに代わってライノが説明する。

「てっきり貴族さまかと」
「気を遣わせてすみません。私たちは冒険者です」

ライノと母親の会話でブランシュが文字を書いたから貴族と思われたのかと納得した天虎。
庶民が利用する乗合馬車に貴族が乗っていたら周りが気を遣うことを考えあえて「冒険者」と名乗ったのだと。
少年は貴族だけれど今は冒険者でもあるし、ブランシュや私はそもそも貴族ではないから嘘は言っていない。

「この文字はくれるの?と書いてあります」

メモやペンの形は分かっても書かれた文字までは見えないライノは、目隠しを少しずらして内容を教える。

「食べられるならどうぞ」
『ありがとう』

もう一度差し出された果物を両手で受け取ったブランシュは口を動かし頭を下げて御礼を伝え、行動で『ありがとう』と言っていることが伝わった母親はどういたしましてと笑う。

「お裾分けありがとうございます」
「感謝する」

ライノと天虎は口頭で感謝を。
二人にも母親はニコニコ笑ってどういたしましてと答えた。

『オレンジだ』
『好き?』
『好き。食べたことないけど』
『ん?』

貰ったオレンジをキラキラした目で眺めるブランシュに聞いたライノは意味が分からず首を傾げる。

『多分転生する前に食べたことがあるんだと思う。初めて見たけど、名前も味も分かるから』
『ああ。そういうことか』

別の物語の中で食べたことがあるということ。
初めて見たものの名前を知っていたり、食材の味や調理方法まで知っていることも少なくないブランシュなら、『食べたことはない(この物語では)けど好き』という摩訶不思議な状況も有り得ること。

『三人で食べよう?』
「ブランシュと少年で食べるといい」
「私もいいよ。ブランシュが食べな」
『二人はオレンジ嫌い?』
「食べたことがない」
「嫌いではないけど、これはブランシュが貰ったんだからブランシュのものだよ」

一つしかないのだからブランシュが。
断った二人にブランシュは頬をぷくっと膨らませる。

『オレンジが嫌いじゃないなら一緒に食べたい。みんなで食べた方が美味しいもの』

可愛い。
ぷくーっと膨らんだブランシュも愛らしい。
そういう仕草はしっかり十歳の子供。

「よければもう一つどうぞ?人数分はなくてごめんね」

仲睦まじい三人の様子を見ていた母親は追加でもう一つオレンジを差し出す。

「一つで充分だ」

そう言って天虎はブランシュの手からオレンジを取ると風魔法を使ってスパっと半分に切る。

「これはブランシュの。私と少年はこちらを貰う」

ブランシュに半分渡した残りの半分をもう一度半分にすると片方をライノに渡した。

「凄い!今のどうやって切ったの!?」
「風の属性魔法を使った」
「お兄さんはウェントゥスさまの加護なんだね!」

オレンジをくれた家族の子供たちは天虎が使った風魔法を見て興味津々。

「風の加護を持つ者が身近に居ないのか?」
「いない。お父さんもお母さんもイグニスさまの加護」
「おじいちゃんとおばあちゃんもイグニスさまの加護」
「ほう。みんな火の加護か」

子供たちの身近な人に風の加護を持つ者が居ないから生活魔法程度でも物珍しく見えたのかと納得した天虎。

「ウェントゥスさまの加護の人は少ないんだよね?」
「よく知っているな」
「お父さんが教えてくれたから」
「そうか。幼い頃から学んでおくのはいいことだ」

ヒトの子に一番多いのはイグニスの加護。
逆に一番少ないのがウェントゥスの加護。
少ないと言ってもリュミエールの加護やテネブルの加護のように一部の者だけが持つ特別な加護ではないけれど。

剥いたオレンジを食べつつ天虎と子供たちの会話をニコニコしながら聞いているブランシュ。
まだ小さいのにお勉強していて偉いなあと思って。

「お兄さんの加護は?」
「私はアクアの加護です」
「わあ!いいなあ!いつでもお水が使えて!」
「便利ではあります」

加護の中で最も人気があるのはアクアの加護。
他の属性魔法に比べて攻撃力という点では劣るものの、生活に必要な飲み水になるから庶民の間では重宝されている。
劣ると言ってもの時の話で、ライノのように氷魔法を使えるようになれば攻撃力も跳ね上がるけれど。

「すみません、子供たちが次々に話しかけて」
「構わない。こうして見知らぬ者同士で交流を深めることも馬車旅の醍醐味だろうからな。娘も嬉しそうだ」

興味津々に次々と話しかける子供たちにハラハラして謝罪した父親に天虎はそう答えてくすりと笑う。
この家族は性根の腐ったヒトの子ではないからブランシュと交流させることを避ける必要もない。

「娘?」
「私の娘だ」
「兄妹ではなく?」
「娘だ」

いや、その歳の娘が居る年齢には見えない。
確かに珍しい容姿を見れば血の繋がりは感じるけれど。
そう思ったものの『何か事情があって親族の娘を養子に迎えたのか』と察して父親はハッとする。

「じゃあこっちのお兄さんもお兄さんの子供?」
「少年は私の弟子だ」
「弟子!?かっこいい!」
「師匠と弟子!」

純粋な子供たちは天虎とライノが師弟関係と聞いてまた興味津々に目を輝かせる。

「師匠と弟子という言葉を知っているんですね」
「お隣の家具屋のおじさんにも弟子がいるから」
「ああ。それで」
「お兄さんの師匠も厳しい?」
「とても。今も訓練の成果を確認するためにギルドで依頼を受けさせられて狩りに向かっているところです」
「わあ!本当に冒険者だ!かっこいい!」

プライベートのことも質問する子供たちに父親と母親はハラハラしたものの、天虎もライノも嫌な顔をせず子供たちと会話をしてくれてブランシュもニコニコしているのを見て、近くに座った人が善い人たちで良かったと安堵した。

はしゃぐだけはしゃいだ子供たちはうとうと。
電池が切れたように静かになって父親と母親に寄り添って眠り始めた子供たちを見てブランシュは微笑む。
両親と子供二人の家族がとても幸せそうで。

貧民街の子供たちとの出会いを経て両親に捨てられた自分と同じく両親がいない子もいることを目の当たりにしたけれど、だからこそ目の前で眠っているこの子供たちはこれからも幸せで居てくれたらと思う。

この子たちには優しい両親が居て良かった。
これからも四人が幸せでありますように。
ブランシュは心の中でそう願った。


日が沈み始めた夕方。
乗合馬車は途中の『乗合馬車協会』の停留地で二度停まりトイレ休憩や食事休憩を挟みつつ、夕日に染まった道を次の目的地の街に向かって走り続ける。

『綺麗』

流れる景色を染める夕日のオレンジ色。
初めて夕日を見た訳ではないけれど、天虎の森でも帝都でもない場所で夕日を見るのは初めて。

『なにが?』
『夕日。オレンジ色でとっても綺麗なの。ライノお兄さんも目隠しを外して見た方がいいよ』
『ああ、本当に綺麗だね』

おすすめされて目隠しを外し景色を見たライノ。
次の街までだから幌馬車に乗ったけれど、こうして風を感じる馬車に乗り景色を眺めるなどライノも初めて。
貴族が乗る馬車は箱型だから風を感じることはないし、景色を見るのも窓越しだから。

【街まであとどのくらいだ?】
『この森を抜けた先ですから一時間くらいかと』
【そうか。予定通り街からは私の魔法で狩場に行く】
『はい』

今向かっているのはA級依頼の狩場。
狩場(目撃地点)は帝都から比較的近いものの、等級の高い依頼だけに期限は一ヶ月ある。
ただし、期限内に発見できなかったり討伐できなければ依頼失敗ということで罰金を払うことになる。

天虎神が居てターゲットを発見できないことはないだろうし、移動も本来なら一瞬で帝都に戻れるから期限を過ぎる心配はしていないけれど、あとは私が討伐できるかの問題。

天虎の森では天虎神に連れられ食糧となる魔物を狩りに行っているけれど、今回の依頼で戦うのは私一人。
A級の魔物と目隠しをして戦うというハンデがあるのだから、私が討伐できるかというのが最大の難関。

今夜は狩場の近くに組む予定の野営で一晩過ごすから実際にターゲットを見つけて狩るのは明日になるけれど、目隠しを再び巻く前に改めて装備の確認をしておこうとしたライノの腕にコテンとブランシュが寄り添ってきて、ドキッとする。

【眠かったようだな】

ああ、寝たからもたれかかってきたのか。
天虎の念話で理解したライノは苦笑する。
急に甘えて寄り添ってきたのかと勘違いしてしまった。

【娘はまだ十の歳だぞ?】
『頭の中を読まないでください』

恥ずかしそうなライノに天虎はくすりと笑う。
この少年はなかなかの曲者ではあるけれど、ブランシュに好意を持っていて大切にしていることは分かっているし、ブランシュも少年のことは信用して気を許している。

いつか少年がブランシュと添い遂げたいというなら、ブランシュもそれを望むなら、嫁ぐことを認めてもいい。
ただし、ブランシュを守れるだけの力を持つ強い男になれたらという条件付きだが。

天虎から認められる強さとなればそれこそ最大の関門。
ブランシュが結婚するのはまだまだ先のことになりそうだ。

起こさないようジッとしているライノ。
買い物のために歩き回ったから疲れていたのだろうと。 
ぐっすり眠りについた後なら移動する時も天虎神が抱いて歩くだろうし、このまま寝かせてあげたい。

「うわっ!」
「きゃ!」

静かに景色を眺めていると何の前触れもなく馬車が乱暴に停まり乗客は驚きの声をあげ、急停止した勢いで幌馬車の後ろから外に投げ出されそうになったブランシュをライノが咄嗟に抱きしめ、天虎が二人をがっしり抱えて止めた。

「御者!なにがあったんだ!」
「脱輪でもしたのか!?」

頭や身体をぶつけたのか押さえながら、外にいる御者の二人に声をかける冒険者たち。

『な、なに?どうしたの?』

衝撃と乗っている人々の声や子供たちの泣き声で目が覚めたブランシュは馬車の中を見渡して目を丸くしてぱちくり。

「うわーん!お父さんお母さん怖いよ!」
「大丈夫。大丈夫よ」
「怪我はないか?」

オレンジをくれた家族の子供たちも目覚めて大泣き。
両親が子供たちを抱きしめて落ち着かせる。

「お前ら金目の物を出せ!」
「大人しくしろ!」

幌が切り裂かれて姿を見せた男たち。
怪我をしている人や泣いている子供たちの姿にオロオロしていたブランシュは、その見知らぬ男たちの怒鳴り声にビクッとする。

【急停止の原因はコイツらか】
『そのようです』
【精霊たちは姿を隠しておけ】

自分のフードを被りながらブランシュにもフードを被せた天虎が光の精霊と闇の精霊にも指示を出すと、二匹は天虎やライノの肩に乗ったまま姿を消した。

【ヒトの子の多い森だとは思っていたが盗賊とは】

天虎は馬車が停まる前から森の中に数十人のヒトの子が居ることには気付いていたけれど、ここに来るまでの間にも道を歩いているヒトの子や森に居るヒトの子と馬車がすれ違っても何も起きなかったから気にしていなかった。

「動くな!」
「「ネバ!」」
「お母さん!お父さん!」

幌を切り裂いて開いたそこから家族の娘が捕まり、それまで剣や杖を構えていた冒険者たちも下手に動けず。

「大人しく武器と荷物を置いて全員出てこい」

馬車から引きずり出された子供たちが人質にされてしまっては言うことを聞くしかなく、大人たちは馬車の中にそのまま武器や荷物を置いて降りる。

『天虎さん……運転してたお兄さんたちが』

天虎に抱かれているブランシュは馬車の隣に倒れている二人の男性を見て震えた声で言いながら指を差す。

【馬車を停めるために襲われたのだろう】

血だまりに倒れている二人の男性は御者。
途中の停留所の休憩時間に少し筆談で会話をしてお菓子を貰ったから、ブランシュにもすぐに分かった。

「女子供は生かしておけ。売れる」

盗賊が欲しいのは金目のもの。
女性や子供は奴隷として売れるから生かしておく。

「やめて!子供に乱暴しないで!」
「煩い!離せ!」

小さな子供を庇って抱きかかえていた母親は子供を奪った盗賊を必死に止めようとしたことで殴られ地面に倒れた。

戦えそうな男性を優先的に縄で拘束する盗賊たちと、女性や子供を捕まえ拘束する盗賊たちと、見張りの盗賊たちに分かれていて、人数の多さを考えても下手に動けない。

『どうしますか?』
【まだ待て。こちらへ向かっている仲間が居る】
『分かるのですか?』
【知ろうと思えば知れると言っただろう?】

自分たちの他にも戦える冒険者たちも居るのになぜ大人しく盗賊の言うことを聞いているのかと思っていたけれど、既に状況を把握したうえで様子を見ていたようだ。

【私が神の力を使えば一瞬で片付くが、もうヒトの子の冒険者としては生活できなくなる。私はそれでも構わないが、私と居るブランシュにも目をつけ悪事を企む者が現れるだろう。もし主神の愛しい子のブランシュを悪事に利用し傷付ければ、私はもちろん神々や大精霊もヒトの子を許さない】

全てはブランシュのため。
ブランシュをヒトの子から引き離さずに済むように。
ブランシュが今後もヒトの子と交流できるように。

【仕掛けるのは仲間も揃ってから。私はヒトの子が使える力の範囲で殺る。お前も戦う心構えをしておけ】
『分かりました』

今ここで天虎神の正体を知るのはブランシュと私だけ。
天虎神が人ならざるものと知られれば皇帝の耳にまで入る可能性が高く、ブランシュの身の危険に繋がる。
ヒトが使える力の範囲で冒険者として盗賊を倒すことにしたのは愛娘のブランシュを第一に考えた上でのこと。

【神剣はどうした】
『縮めてブーツの中に』
【上手く使いこなしているようで何よりだ】

少年のことだから最大の武器となる神剣は置いてきていないだろうと分かっていたが、案の定。
今は盗賊たちに従いながら状況を見ているものの、隙あらば人質を奪い返そうとしている。

『ブランシュ。大丈夫?』
『うん。それより子供や女の人たちが心配』
『もう少し我慢して。今私たちが焦って動くと傍に見張りが付いている子供たちや女性たちが危険だから』
『分かった』

さすが天虎神の娘。
他の子供たちは怖がって泣いているのに、ブランシュは怖がることも泣くこともなく冷静。

「お前の子供も寄越せ」
「断る」

子供や女性は一ヶ所に集められ、ブランシュの番。
キッパリ断りながらブランシュに手を伸ばした盗賊の手を蹴った天虎。

【ブランシュ。精霊魔法で人質を守れそうか?】
『うん。天虎さんに教わった魔法で守る』
【いい子だ。ブランシュが人質を守ってくれさえすれば後は私と少年で戦える。使うタイミングは念話で伝えよう】
『任せて!』

蹴ったり殴ったりする盗賊の攻撃を受けながら時間を稼いだ天虎はブランシュと念話で話し、次に伸ばされた手ですんなりとブランシュを手放して奪われてみせる。
他の両親も子供を守るために必死で抵抗している姿は見ていたから、この程度の反抗なら人質が傷つけられることはないと見極めたうえでのこと。

「その子供は傷つけるな!高く売れそうだ!」

反抗された怒りでブランシュの腕を強く掴み乱暴に引っ張って行く盗賊は仲間からそう言われてブランシュを見る。

「……たしかに」

白い肌に白く長い髪。
眉やまつ毛までも白いのに瞳だけは黄金色。
さっきまでフードを被っていたから気づかなかったけど、端正な顔立ちも含め、珍しい容姿をしたこの子は高く買い取って貰えそうだ。

「大人しくしていれば怪我はさせない」

ここを通るはずだった貴族の馬車が来ず今日は収穫なしかと腹立たしく思っていたけれど、庶民しかいない乗合馬車にとんでもない掘り出し物が乗っていたものだ。

ニヤリと口元を緩ませる盗賊。
ブランシュ一人でも相当な金になりそうだと北叟笑んで。

【こちらに向かっている者たちもじきに着く。ブランシュが人質に守護壁の精霊魔法をかけたら一気に殺る】
『分かりました』

盗賊たちの反応からしてブランシュは最も安全。
それが人身売買目的ということに腸が煮え繰り返るけれど、傷を負わせたことで価値を下げないよう、ブランシュのことは守るだろう。

深呼吸をして怒りをおさめるライノ。
盗賊たちが最期を迎えるまであと少し。
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