異世界で猫に拾われたので

REON

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chapter.6

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朝食を済ませて席を立った天虎とライノとブランシュは、二日酔いで食欲がないらしい三人がスープや水を飲んでいる姿を横目に見て二階へ上がる。

「軽く片付けたらそちらの部屋に行きます」
「ああ」

帰り支度をするためにライノは自分が宿泊した部屋に入り、天虎とブランシュも隣の部屋に入った。

『どうしたんだろうね、ライノお兄さん』

抱っこされていたブランシュは床に下ろしてもらうと、昨日まで着ていた外套をかけてある椅子まで行ってそれを畳みつつ、改めてライノの言動に首を傾げる。

「私にも分からない。後から来た冒険者だろう三人に何か思うところがあったということだけは分かるが」
『顔も見たくないくらい煩かったのかな』
「ただ煩かったという理由だけで根に持つほど狭量な少年ではないはずだが」

天虎にも分からないけれど、自分が寝不足になった原因の三人だから顔も見たくないというような理由ではなく、ブランシュを気にして早く宿を出ようとしている。

「少年の部屋にはあの三人がたてる物音や声が聞こえていたようだから、その時にブランシュの教育によろしくないと思うような会話をしていたのかもしれないな」
『悪いことでも話してたってこと?』
「もしかしたら」

ライノがブランシュの教育によろしくないと思うようなことと言えば、そのくらいしか思い浮かばない。
清濁併せのむ度量はある少年だから、よほどの内容ではない限り聞き流すだろうとも思うけれど。

「確かなことは本人に聞かなければ分からないが、ブランシュのことを考えて言っていたことは分かる。私たちも早く帰り支度を済ませて宿を出よう」
『うん。分かった』

そう話して部屋に出していた私物を全てポシェットやインベントリにしまい、新品の外套を出して羽織る。

「その外套も可愛らしいな。似合っている」
『これはライノお兄さんが選んでくれたの』

くるりと回って新品の外套を見せるブランシュ。
そのショート丈の薄手マントも冒険者の装備品を扱う店で購入したと聞いたけれど、女児向けの外套だからか、フードと裾にレースの飾りが付いていて可愛らしい。

「訓練や鍛錬の際に着るその手の衣装も少しずつ買い足していこう。汚れてもいいように」
『うん!ありがとう!』

愛娘が初めて欲しがったのが、可愛らしい衣装や美しい装飾品ではなく冒険者が着る衣装というのが複雑な心境だけれど、これからブランシュも訓練や鍛錬の時間が増えて行くのだから、汚れたり破れたりしてもいい衣装をいくつか持っておくに越したことはない。

嬉しそうに外套を見せていたブランシュは、扉の向こうからゴトンと大きな音が聞こえてきてビクッとする。

『な、なに?ライノお兄さん?』
「いや。違う」

ライノはまだ隣の部屋の中に居る。
気配を探ってそれが分かった天虎は部屋の扉を開けた。

「おい。大丈夫か?」

一階に降りようとしていたのか、階段のある方に向かって倒れている人物を見つけて声をかけた天虎。

「大丈夫ですか?」

天虎に続いて部屋から出てきたライノも、大きな荷物を背負ったまま倒れている男性に駆け寄り声をかける。

『え!そのお兄さんどうしたの!?』

一足遅れて部屋から出て来たブランシュも天虎とライノがしゃがんで見ている男性の姿を見て驚く。

「酷い熱だ」

天虎が男性の身体を少し動かして確認すると、生きてはいるもののハアハアと荒い呼吸を繰り返している。
高熱で意識が朦朧としているのか、声をかけたり触れたりしても反応がない。

「病にかかっているのでしょうか」
「これは魔力欠乏症の症状だ。四肢の変色と痩せ方を見るに、普段からろくに食事や睡眠をとらず回復しないまま体力や魔力を酷使しているのだろう」

男性の手が変色していることに気づいた天虎は履き物を少し捲って脚も確認しつつライノに答える。
ベランジェ公の娘がそうだったように、魔力系統の病にかかると熱発や四肢の変色という症状がみられ、最終的には全身が赤黒く変色して死に至る。

「よくある魔力切れではないということですか?」
「ああ。少年にも毎晩極限まで魔力を使わせているが、眠って身体を休めることで回復しているだろう?多少魔力を使い過ぎたところで休んで回復すれば問題ないが、回復しないまま魔力を使い続けた場合はこのように欠乏症を起こす」

魔力が減っている状態が長く続くとなる病。
回復しきれず魔力が減ったままの状態で翌日も魔法を使ってと繰り返してきたのだろう。
既に枯渇しているようで魔力を感じない。

「変色が始まっているということは症状が進行している。すぐにでも治療をしなければ死ぬ」
「『え?』」

大きなバッグを抱えたまま倒れていた男性の腕から肩紐を外しながら言った天虎にライノとブランシュは驚く。
命に関わるほどの重症なのかと。

「少年は宿の主人に知らせてきてくれ。単独で来た宿泊客なのか、連れが居るのかも」
「分かりました」

仰向きに寝かせた男性の額に手のひらを重ねて熱の高さを確認している天虎に返事をしたライノは、食堂に居る主人に知らせるため階段を駆け下りて行った。

『お兄さん苦しそう』
【高熱に耐えられるほどの体力もないようだ】
回復魔法ヒールをかけても治せないの?』
【無理だ。私の神聖魔法なら治せるが、使わない】

神の天虎の神聖魔法なら助けることができる。
ただ、使うつもりはない。

『どうして?』
【この男に連れが居て状態も知っているなら、変色した手足が突然戻り元気になったことを不思議に思うだろう。誰がそれほどの治癒能力を持っているのかと疑われるのは、この場に居合わせた私とブランシュと少年だ】

回復魔法ヒールはまだしも神聖魔法は神の力。
三大公爵家のように私やブランシュを裏切らないと信用できる者ならまだしも、見ず知らずの男には使えない。

【私が優先するのはブランシュと少年。私が見知らぬこの男に神聖魔法を使ったことで、ブランシュと少年が悪者から目をつけられるかもしれない。だから使わない】

誰の耳に届くか分からないのに、神聖魔法を使って疑われるようなことはしたくない。
天虎が守らなくてはならないのはブランシュやライノだから。

【ブランシュ。この後この男がどうなろうとも、祝い子の能力を使って救おうとするな。心優しいのはブランシュのいいところだが、ブランシュの行動がユハナの少年にも悪影響を及ぼす可能性があることを自覚してくれ】

心配そうに男性を見ているブランシュに言い聞かせる。
天虎が神聖魔法を使わずにいても、ブランシュが祝い子の能力を使って助けては隠した意味がない。

【悪巧みする者や皇帝の耳に入ってブランシュが利用されるようなことになれば、私は神の権限を使ってヒトの子を滅ぼす。仮に私を止めたとしても、大精霊がヒトの子からあらゆる恵みを奪うだろう。お前はもう一人ではない。大切な者たちを守りたければ軽率な行動はするな。自分の行動が大切な者を悪い方に巻き込む可能性があることを理解しろ。誰を優先して誰を切り捨てるのか、心が痛くても悲しくても選ぶんだ】

真剣な表情で言われてブランシュは数回頷く。
大切な人たちが自分の行動の所為で危険な目に合うのはイヤだ。

「ブランさま!」

階段を駆け上がって戻ってきたライノ。

「この男性は先程の三人の仲間のようです」
「それで三人は?倒れたことは話さなかったのか?」
「いえ。四人が仲間だと知っている宿の主人が彼らに話してくれたのですが、倒れるのはいつものことだと」
「いつものこと?」

呆れるようなその返事を聞いて眉を顰める天虎。
欠乏症がここまで進行しているということは以前も倒れたことがあったのだろうけれど、自分たちのパーティの仲間だろうに『いつものこと』とは。

「お、お客さんの様子は」

息を切らして階段を上がってきたのは男性主人。
年配の男性には階段を上るのも一苦労だろうに、急いで様子を見にきたようだ。

「この男は魔力欠乏症という病にかかっている。このまま治療をせずに放っておけば死ぬ」
「死ぬ!?」
「手足の先が黒ずんでいるだろう?これは既に欠乏症が進行している者に見られる症状だ。初期ならまだ薬を使った治療で治せたが、ここまで進行していると難しい」

天虎から話を聞いた宿の主人は青ざめる。
長年宿を営んでいれば体調の悪い客が宿泊することも初めてではないだろうけれど、それが命に関わる状態と聞けば青ざめてしまうのも当然のこと。

「と、とにかく自警団を呼んでくる。この町には大きな医療院や教会がないから大病や大怪我の治療はできない。すぐにデコールまで搬送してもらわないと」

冷静になるために深呼吸した宿の主人。
小さな町だけに、欠乏症を治療できるような医療院や教会がないことは天虎にも予想できたけれど。

「三人に搬送させろ。仲間なのだから」
「そうするのが当然だとは私も思うが、どれだけ言ってもいつものことだから放っておいていいとしか」

宿の主人も仲間が医療院や教会に連れて行くのが普通だとは思っているけれど、笑いながらいつものことだと相手にしなかった三人が連れて行くとは思えない。

「クズどもが」

舌打ちした天虎は呟いて立ち上がる。

「気休め程度の応急処置にしかならないが、ブランシュと少年は冷たい水で濡らした布を男の両脇に挟んで冷やしておけ。私はあのクズどもを連れてくる」
『分かった!』
「分かりました」

医療院や教会に搬送しても助かる保証はないけれど、仲間の三人が何もせずにいるのはおかしい。
宿の主人はもちろん、客の天虎やブランシュやライノが見知らぬ男性の命の責任を負う理由はないのだから。

「まず話してみるが、駄目なら少し騒がせることになる。人命がかかっているのだから目を瞑ってくれ」
「うちは構わない。あの三人以外のお客さんには事情を説明してくれるよう妻に話してきた」
「そうか。宿の物は壊さないよう配慮する」

宿の主人も揉め事になるのは承知。
倒れたことを知っても動かなかったあの三人が素直に仲間を搬送するとは思えなかったから。
自警団を呼べば揉めるだろうと予想して、妻の女性主人に他の客には帰ってもらうよう話してきた。

「私も手伝おう」
「ありがとうございます。そちらの脇にこれを」
「ああ」

天虎が階段を降りるとすぐに来て床に座った宿の主人に水魔法で濡らした布を渡すライノ。

「昨晩来た時に顔色が悪いと話したんだが、魔法を使いすぎたと言っていた。まさか病だったとは」
「恐らく本人も分かっていなかったのかと。ブランさま曰く、欠乏症は一度の魔力切れでなるものではなく、回復しないまま魔力を使い続けているとなるそうですから」
「……まともに休ませてもらえなかったのか」

ブランシュが冷たい布を挟んだ反対の脇に同じく冷たい布を挟んだ宿の主人は、男性の姿を見て察する。
一人だけ随分と痩せているなとは思ったけれど、仲間から酷い扱いを受けていたのだろうと。

「実は深夜に私の部屋まで怒鳴り声や大きな物音が聞こえてきたんです。それでなくても声や物音が響いているのに喧嘩までされては眠れないと腹が立ちましたが、酔っ払い同士が喧嘩をしているのだろうとしか思わなくて」

来た時から大声で騒いでいたから酒でも呑んで陽気になっているのだろうと思ったけれど、途中で聞こえた怒鳴り声は恐らくこの男性に対してだったのだろう。

「言ってくれたら私が注意したのに」
「いえ、それはいいんです。あまり関わりたくない人種だとは姿を見ずとも分かりましたから。私がご主人に話した所為で暴行されるようなことにならなくて良かった」

むしろ主人に言わなくて良かった。
平然と仲間を虐げるような人たちだから、注意に行った主人が暴行を受ける危険性もあった。

「ただ、私が酔っ払い同士の喧嘩だと軽く考えていた時にもこの男性はあの三人から暴力を奮われていたのかもしれないと思うと、心が痛みます」

いつこの男性が今のような状態まで悪化したのか分からないけれど、あの時私が静かにするよう注意をしに行っていたら、ここまで悪化せずに済んだかもしれない。

「君たちは優しいな。見ず知らずの人だろうに仲間を大切にしない三人に腹が立ったり、心配したり。この町に来てくれる冒険者も色んな人が居るけど、君たちは優しい」

そう話しながら宿の主人は自分のハンカチをエプロンから出して男性の顔の汗を拭う。

「私も昨晩の時点でおかしいと思っていた。何度も扉を叩かれて何事かと開けたら泊まらせろと高圧的な態度だったし、体調の悪そうな彼に大きな荷物を背負わせて三人は何も持っていなかったし、物言いも彼には命令口調だった。おかしいとは思ったけど、部外者の私が口を挟むわけにもいかない」

何かしら言っていればと考えたのは宿の主人も同じ。
本来なら深夜の宿泊客は断るけれど、体調の悪そうな男性を見て休ませた方がいいと思って受け入れた。
できたのはそれだけ。

ライノと宿の主人が互いに昨晩のことを話している間にも一階に降りた天虎はというと。

「廊下で倒れている男の仲間というのはお前たちか?」
「そうだけど、誰?」
「宿泊客だ。帰り支度をしている最中に物音が聞こえて廊下を確認したら、お前たちの仲間の男が倒れていた」

他に客が居ないことを確認した天虎はカウンターに居る女性主人にそこに居るよう目配せしたあと、三人が居る席まで行って声をかける。

「いつものことと言っていたのは宿の主人から聞いたが、今回はいつものことで済まされる状態ではない。今すぐ医療院か教会に連れて行ってやれ。あのままでは死ぬ」

天虎が真剣に話すと三人は顔を見合わせて笑う。

「今まで何度も倒れてるけど生きてるし、死んだとしても俺たちは痛くも痒くもないから放っておいていい」
「役たたずが死んでくれるならせいせいする」
「テイマーだからパーティに入れてあげたのに弱い魔物しかテイムできないとか、損したのは私たちの方だし」

どこまで醜いヒトの子なのか。
この者たちに仲間を心配する心は欠片もない。

「騙されたかどうかは知ったことではない。パーティという関係性のお前たちと違って宿の主人や私はあの男の命に責任を負う理由などないのだから、仲間のお前たちが責任をもって医療院や教会に連れて行け」

騙されたとか役たたずだとか言われても。
あの男性とパーティを組んでいる限り宿の主人や天虎たちよりも関係性があるのだから、たとえ仲が悪くとも医療院や教会に連れて行くくらいの責任はある。

「だから放っておいていいって」
「放っておいて宿で死なれては主人も迷惑する」
「分かった分かった。後で気が向いたら連れて行くから、邪魔にならないようにベッドまで運んでおいて。ガタイのいいあんたなら簡単に運べるだろ」

からかうような軽い口調で言った男性や、何が面白いのかそれを聞いて笑う女性二人。

「後でなどと悠長なことを言える状態ではない。自分たちで動く気がないのなら私が運んでやる」

以前にも倒れたことがあるからか、何を言っても他人事で危機感もなく見に行こうとすらしない三人に天虎は拘束魔法をかけ、右肩に男性冒険者を、左肩に女性冒険者の二人を抱えて階段を駆け上がった。

『天虎さん』
「ブランさま」

階段を上がってくる音が聞こえてきて、倒れていた男性から顔を上げ階段の方を見たブランシュとライノ。
大人三人を抱えてきたことに驚く宿の主人を他所に天虎は倒れている男性の傍に三人を下ろすと拘束魔法を解く。

「な、何するんだ!」
「痛いでしょ!」
「怪我したらどうするのよ!」

自由に話せるようになった途端に苦情。
仲間の姿は視界に入っただろうに、やはり心配する様子もなければ声をかけることもしない。

「おい!なにボサっとしてんだ!客が暴行を受けたんだから自警団を呼べ!コイツを捕まえろ!」

天虎を指さし宿の主人に怒鳴る男性冒険者。
世話になった宿に迷惑がかからないよう穏便に済ませようと思ったけれど、その態度を見て堪忍袋の緒が切れた。

「私の話を信じていないだけかと思ったが、性根から腐った咎人だったようだな」

天虎の身体から漏れ出した殺気。
黄金色の虹彩には天虎神の刻印が浮かぶ。

「醜いヒトの子。お前たちに救いは必要ない」

唐突に体内や周囲の空気が失われたかのように呼吸が出来なくなって、胸や喉を押さえる三人。
もがいても呼吸が出来ず悶絶の表情を浮かべて口をパクパクしながら喉を掻きむしる。

宿の主人はそんな三人の様子に唖然。
今まで大声で怒鳴っていたのに突然どうしたのかと。

「苦しいか。この男もお前たちから奴隷のように扱われて辛かっただろうな。ろくに休ませてもらえず、食事もまともに食べさせてもらえず、依頼の分け前ももらえない。グズノロマと罵られ、暴行を受けて、毎日ただただ重い荷物を背負わされ肉体も魔力も酷使させられるのだから」

天虎の話を聞いて三人を見たブランシュとライノ。
神の天虎が記憶を読めることを知っている二人には、それが三人がしてきたことなのだと分かったから。

「魔力欠乏症という病の者が迎える最期は、今のお前たちと同じく呼吸が出来ない苦しみに悶絶しながら死ぬことになる。どんな気分だ?仲間が味わうことになる苦しみを先に経験してみて。これでもいつものことと笑えるか?」

息が出来ずに泡をふく三人。
天虎がわざとすぐには死なない程度に加減しているから、長い苦しみを経験させられている。

ライノの衣装をギュッと掴むブランシュ。
天虎が静かに怒っていることを肌で感じて。
倒れている男性は今の三人のように苦しみながら最期を迎えることを知って。

そんなブランシュを優しく抱きしめるライノ。
見知らぬ人でも救おうとする心優しいブランシュには辛い光景だろうけれど、どうか乗り越えてほしい。

これは再生と破滅の神による神罰。
彼らは神の怒りを買った咎人。
救いは必要ないと判断された者の末路。

「だ、大丈夫なのか?その子たち」

今にも死にそうな三人を見て天虎に聞く宿の主人。
倒れている男性やブランシュやライノや自分は何ともないけれど、天虎が三人に何かしていることだけは少なからず理解できたから。

「安心しろ。一晩世話になったこの宿を墓場にはしない。穢れた魂に仲間の苦しみを体験させているだけだ」

ここで死なせはしない。
ただ思い知らせているだけ。
自分たちが奴隷のように扱っていたこの男が最期に経験することになる苦しみや痛みを。

「そろそろ限界か」

白目を向き始めたのを見て天虎が指を鳴らすと三人も呼吸が吸えるようになって咳き込む。

「今のは始まりで終わりではないぞ?ヒールをかけた後にまた同じ苦しみを経験させてやる。お前たちが今までに犯したあらゆる罪に見合うだけの苦痛を」

死なないよう回復をかけながら冷笑する天虎に短い悲鳴をあげた三人は、腰が抜けたように這って逃げる。
天虎がそれを許すはずもなく再び拘束魔法をかけた。

「善行も悪行も巡り巡って自分に返る。どうやらお前たちは私が途中で止めなければそのまま死ぬほどの悪行を重ねているようだが、仲間に治療を受けさせる前に死なせて楽にしてやるほど私は優しくない」

数回の苦痛を経験して、失禁したり、空中を見て笑ったり、ブツブツ独り言を言ったり、精神が壊れてしまった三人。
それでも回復をかけられれば正常に戻って、また同じ苦しみを味あわされる。

「罪深い咎人たちに贖罪の機会を与えよう」

死の淵を何度経験したか。
すっかり静かになった三人に回復と浄化をかけた天虎は最後に償いの機会を与える。

「この男が死ねばお前たちも死ぬ魔法をかけた。それがお前たちに課す罰だ。お前たちに出来る贖罪だ。死にたくなければこの男を死なせないよう必死に守ることだ」

人生の残された時間を使って贖罪を。
破滅の神が咎人に課した神罰。

「さあ、早く連れて行け。間に合わず死ぬぞ」

パンと叩いた手の音でパッと起き上がった三人。
男性冒険者が倒れていた男性を背負い、女性冒険者は大きなバッグを二人で持って階段を降りて行った。

「お前の記憶も改竄させてもらう」

フードを少し捲り宿の主人と目を合わせた天虎。
宿の主人はどちらも善良なヒトの子。
今見たことをうっかり誰かに話したことで厄介事に巻き込んでしまわないよう、記憶を改竄させてもらう。

ほんの数秒。
フードを戻した天虎の虹彩から刻印は消えていた。

「すまない。想定していた以上に騒がせた」
「うちは大丈夫。お客さんのお陰で仲間を治療に連れて行く気になってくれて良かった。これに懲りたらしっかり反省して心を入れ替えてくれるといいな」

宿の主人はふてぶてしい態度だった三人が大人しく階段を降りて行く姿を見ながら天虎に答える。

「私は少しばかり説教しただけだがな。後はあの者たちの問題で、今後どうなるかもあの者たち次第だ」

この先どうなるかは四人次第。
もしかしたら立場が逆転するかもしれない。
立場が逆転したことで、今まで虐げられていた男が三人を虐げるようになる可能性もある。
それもまた因果応報。

「兄さんとお嬢さんも処置をしてくれてありがとう」
「お役に立ちましたなら幸いです」
『どういたしまして』

天虎がどのような記憶に改竄したのか分からないから下手なことは言わず、ライノとブランシュは頭を下げた。
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