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Prologue
しおりを挟むこの世界には四大精霊がいる。
火のイグニス。
水のアクア。
風のウェントゥス。
土のテッラ。
人々はその四大精霊のいずれかの加護を受けて産まれることで魔法を使うことができる。
それがこの世界では当たり前のこと。
使える種類や威力は異なるものの誰もが魔法を使える世界。
ただ、誰もが四大精霊の加護を受けて産まれるこの世界にも極めて稀に加護なしで産まれる者が居て、加護のないその赤子は産まれてすぐ蔓でできたタマゴに身体を覆われ、十歳の誕生日を迎えるまではその中で過ごすことになる。
そんな特異な産まれ方をした赤子を人々は『祝い子』と呼ぶ。
十歳の誕生日に蔓が解けた赤子は四大精霊の加護とは別に何かしらの特別な能力を持っているからだ。
四大精霊から愛され特別な能力を授かった子供。
数十年から数百年に一度産まれる『祝い子』は十歳の誕生日に蔓が解け特別な能力を得ると『祝福の子』と呼ばれるようになり、国の宝として愛され大切に育てられる。
ただし、全ての『祝い子』が『祝福の子』となる訳ではない。
同じ『祝い子』として生まれた赤子でも十歳の誕生日に蔦が解けない者が居て、人々はその子供のことを『呪い子』と呼ぶ。
『祝福の子』が蔓のタマゴに覆われているのは保護するため。
『呪い子』が蔓のタマゴに覆われているのは隔離するため。
そのどちらなのかは十歳の誕生日までは分からない。
そのため『祝い子』が生まれた家では赤子が十歳の誕生日を迎える日までは誰にも知られることがないよう秘密にする。
『祝福の子』はこの世界に幸いを齎す存在。
『呪い子』はこの世界に災いを齎す存在。
『祝福の子』は四大精霊から愛された存在。
『呪い子』は四大精霊から見捨てられた存在。
それがこの世界の人々の常識。
「おい。まだか」
「少し待て。なかなか火がつかないんだ」
「早くしろ。こっちまで喰われるのは御免だ」
「俺だっ、あ、ついた」
二人の男が火を放ったのは白い布袋。
モゾモゾ動いているそれを眺める。
「この子も不幸な星のもとに産まれたもんだ」
「違う家に産まれてれば少しは長生き出来ただろうに」
「長生きしたところで辛いだけだと思うがな」
「まあ」
男二人は布袋にしっかりと火がついたことを確認するとすぐにその場を離れた。
『ようやく終わる』
男たちが去ったあと、パチパチ燃える音を聞きながら布袋の中に居る子供は思う。
死ぬことに恐怖はない。
生きることの方が辛いから。
私は呪い子。
加護なしで産まれた子供。
目も見えない。
喋ることもできない。
身体は棘のついた蔓に覆われていて成長もできない。
四大精霊から見捨てられた子供。
それが私。
ほんの数日前のこと。
「呪い子だったというのか」
「残念ですが」
十歳の誕生日を迎えても私の蔓は解けないまま。
それが表すものは〝加護を与える価値がない存在として四大精霊から忌み嫌われた子供〟ということ。
「始末しろ。この家から呪い子が出たなど恥でしかない」
「承知しました」
私は知っていた。
自分が祝福の子ではないことを。
特別な能力など持っていないことを。
呪い子だということを。
『祝福の子となれば名誉はもちろん金もたんまり入る』
『女児なら王家に嫁ぐことになるわね』
『王家はこんな草の塊が欲しいの?気味が悪いだけなのに』
『そういうな。これが十歳になるまでの我慢だ』
『早く十歳になってくれないかなぁ』
私の家族は知らなかった。
目が見えず言葉も発せずとも耳は聞こえていることを。
だから私の前でそんな話をしていた。
祝福の子の可能性があるから育てていただけ。
ううん。家の中に置いてあっただけ。
蔓に覆われた私は食事も排泄もしないから、ただの置物。
顔も知らない両親と兄弟。
抱きあげるどころか声をかけて貰ったこともない。
名前すらもない。
十歳の誕生日を迎えたら私は死ぬ。
呪い子として殺される。
そのことを知っていた。
・
・
・
「ミャアー!」
『!?』
額を叩かれた痛みと鳴き声で目覚め、叩かれた額を押さえつつ慌てて身体を起こす。
『ここは……』
目の前には月や星を映した湖面。
夜空には満天の星。
「ニャー!」
『!!』
驚いて下を見ると、そこに居たのは白くふわふわの猫さん。
私の太腿で前脚を動かしふみふみしている。
『……!?』
蔓のタマゴがない!
景色が見えてる!
身体も成長してる!
混乱していた子供は今更ながらそのことに気づいて驚く。
解けなかった蔓が解けていることや、ずっと赤子のままだった身体が成長していることや、目が見えていることに。
地面には焼け焦げた跡。
その生々しい焦げ跡こそが燃やされたことや今生きていることが夢ではないと物語っている。
呪い子のはずなのにどうして蔓が。
蔓だけが燃えて中に居た私は助かったの?
『…………』
「ニャー?」
理由は分からない。
でも私は生きている。
目も見えている。
抱きあげた白猫さんの温もりも本物。
白猫を抱いて子供は泣く。
口を開いていても声は出ていない。
それでも子供は大粒の涙を流して泣いた。
一頻り泣いた子供は鼻をスンとさせると空を見上げる。
綺麗な夜空。
たくさんの星が今にも降ってきそう。
『………?』
どうして私、星と分かるの?
今日初めて蔓のタマゴから出たのに。
知らないはずのことが当然のように自然と浮かんでくる。
本来であれば子供の知識はゼロ。
産まれた瞬間から蔓のタマゴで覆われてしまうのだから、タマゴの外の世界にあるものを見たことがあるはずもない。
知識といえば誰かが蔓のタマゴの外で会話している内容を聞いて覚えた程度のこと。
「ニャー?」
『…………』
真っ白でふかふかの猫さん。
初めて見たはずなのに『猫』だと理解できている。
まるで他の誰かが見たり聞いたりした知識がそのまま私の頭の中に植えつけらたみたいに。
どうしてなのか分からない。
でも私は『星』を知っていて、この真っ白のふわふわが『猫』だと知っている。
「ニャー」
『!!』
白猫が鳴くと同時に空中にぽっかりとあいた黒い穴。
驚く子供をよそに白猫は上半身をその穴の中に潜らせると口に咥えてなにかを引きずり出した。
『?』
「ニャー」
白のワンピースと赤いポンチョとポシェット。
首を傾げる子供を見て白猫はワンピースを咥えて膝に置く。
もしかしてこれを着るよう言ってるのかな?
誰の持ち物か分からないけど私が着ていいの?
白猫とワンピースを見比べる子供に白猫は「ニャー」と鳴く。
子供は声の変わりに身振り手振りで着る仕草をしてみせると白猫はもう一度「ニャー」と鳴いた。
『ありがとう』
蔓のタマゴから出たばかりの子供は裸のまま。
頭を下げてお礼を伝えると白いワンピースに腕を通した。
「ニャー」
ワンピースとポンチョを着た子供に白猫は満足げ。
やっぱり不思議。
生まれて初めて見たはずのこれが着るものだと知っていたし、どうやって着るのかも知っていた。
きっと私の中の誰かの知識なんだろう。
『?』
白猫が口に咥えて『これも』と言いたげに渡したポシェット。
これもくれるということなんだろうと子供も理解して、リボンのついたポシェットを受け取り中身を確認する。
入っていたのは七つの小瓶。
それとホルダーにおさめられているナイフが二本。
『なにが入ってるんだろう』
手のひらサイズの小瓶の二つには白い粉が入っていて、一つには白い粉より少し大きな黒い粒。
他の四つの小瓶には黒い液体と茶色の液体と赤い液体と黄色がかった液体が入っている。
怖々と小瓶の蓋をあけて香りを嗅いで気付く。
『これ、調味料だ』
白の粉は甘いのとしょっぱいのだから砂糖と塩。
黒の粒はピリッとするからコショウ。
液体はお醤油とソースとケチャップとマヨネーズ。
これも誰かの知識。
私は今まで食事をするどころか料理を見たことすらなかったんだから、間違いなく私の中の誰かの知識。
誰なのか分からないけど、誰かのお蔭で分かる。
知らないはずのことが理解できている。
それはとてもありがたいこと。
『ありがとう』
私に知識をくれた人。
子供は小瓶やナイフを再びポシェットにしまうと胸元を押さえて自分の中の誰かに感謝を伝えた。
『…………』
「ニャー」
分からないなりに誰かの知識のお蔭で少し気持ちが落ち着いた子供のお腹が鳴って白猫が鳴く。
それもそのはず。
蔓のタマゴの中では食事が必要なくても、蔓のタマゴから出た今は生きるために食事をしなければならないのだから。
「ニャー」
『!?』
鳴くと同時に大きくなった白猫を見て子供は驚く。
白猫さんが大きく……ううん。
これは虎?たてがみがあるからライオン?
分からないけど、白猫さんは普通の白猫さんじゃない。
誰かの知識で理解した子供はハッと思い出す。
自分がここに捨てられたことを。
父親は自分を確実に始末するためにここを選んだことを。
『アールにある天虎の湖に行って始末してこい。仮に燃え残った部分があっても天虎の餌になるだろう』
ここまで運んできた男二人に父親が話しているのを聞いた。
カタカタ揺れながら運ばれる最中にも
『よりによって天虎の湖か』
『知ってたら引き受けなかったのに』
『もし天虎に出くわしたら確実に喰われるな』
『たしか天虎って大きな魔物なんだろ?アールの奴らですら天虎の湖には滅多に近付かないって聞いたことがある』
と話しているのを聞いた。
ここには大きな天虎という魔物が居て人を食べる。
だから呪い子の私は跡形も残らないようここに捨てられた。
大きな身体に立派な牙。
白猫さんは猫じゃなくて天虎だった。
ああ……私は今から食べられる。
死を覚悟した子供は静かに瞼を閉じる。
最期に綺麗な景色が見れて良かっ
『…………?』
身体が浮いたかと思えば下ろされたのは天虎の背中。
子供は瞼を上げて大きな疑問符を浮かべる。
なにが起きているのか分からない子供をよそに天虎は軽く地面を蹴って歩き出した。
どこに行くんだろう。
別の場所で食べるのかな?
子供は天虎の背中の上でキョロキョロと辺りを見渡す。
樹が生い茂る深い森はあちらこちらに淡い光が灯っている。
その淡い光がふよふよ動いていることを不思議に思いながら初めて見る景色に心惹かれていた。
天虎が脚を止めたのは数分ほど経って。
また子供の身体が浮いたかと思えば地面に下ろされる。
『果物?』
辿り着いた先にあったのは実のついた大樹。
天虎はヒョイと樹の枝に登ると実をとって下に落とす。
それを見た子供は実が傷んでしまわないようスカートを広げて天虎が落とす実を二つ受け止めた。
立派な果物。
洋梨かな?
すぐに降りてきた天虎は果物の一つを口に咥えると子供の前に差し出す。
『……くれるの?』
「グルル」
躊躇しつつも子供が受け取ると天虎も最初に地面に落とした果物にシャリっとかぶりついた。
食べていいってことだよね?
天虎と手の中の果物を交互に見た子供は意を決してパクリとかぶりつく。
……美味しい!
甘くて瑞々しい果物に子供は夢中。
これがこの子供が生まれて初めて口にした食事。
「グルル」
食べながら涙を零す子供の頬を天虎が舐める。
このあと食べられるんだとしてもいい。
蔓のタマゴの外の綺麗な景色をこの目で見ることができて、可愛いお洋服も着れて、美味しい果物も食べることができた。
『ありがとう』
子供は泣きながらも頬を緩めて笑う。
十歳の誕生日に死ぬことを知っていた子供にとって、例え短い時間であろうと蔓のタマゴの外に出られたことは幸せだった。
お腹が満たされてうとうとする子供。
天虎は再び子供の身体を浮かせると背中に乗せて湖へ戻る。
落ちないよう気を付けながら慎重に。
天虎の体温で眠りについた子供とゆっくり歩く天虎の周りを飛ぶ淡い光が暗い道を照らしていた。
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