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chapter.1
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しおりを挟む【野菜を運び切ってまたここへ持ってきてとするのは手間になるだろう。祝い子が作った台の隣に作り作業するといい】
「承知しました」
と答えたものの作業台を作るなど初めてのこと。
咄嗟の防御に使う時もある土魔法は砂の状態で、子供が作った作業台のように石のような固さを作ったことがない。
子供が作った作業台の前にしゃがんだ少年はコンコンと軽くノックして固さを確認してからうーんと考える。
【作らないのか?】
「土魔法は得意ではなくて。何度やっても土ではなく砂になってしまうので、作業台にするにはどうしたものかと」
【それで考えこんでいたのか】
しゃがんだままで一向に魔法を使わないから何をしているのかと思えば。
『今なら土になると思うよ?』
【ああ。土にならないのは魔力が足りていないからだ】
作業に戻った子供が言って天虎も言葉を付け足す。
【聖印の刻まれた今なら大精霊の加護の力を正しく引き出すことができる。試しにこれと同じものを作ってみろ】
そう話しながら天虎は少年の隣に来ると四角の土塊を作り、天虎が作ったそれを少し眺めた少年は腰の剣帯にさしてあった短い棒を手に取る。
『その小さな棒はなに?』
「魔杖と申します。普段から携帯し易いよう小さく作られていますが、魔力を通せば大きくなります」
持ち手に銀の装飾がされているそれに少年が魔力を通すとミシリという音がして、破裂するようにバキッと砕け散る。
『だ、大丈夫!?』
「ヴァル!」
火の支度を終えて暇を持て余し様子を見ていた一族は、少年の魔杖が砕け散ったのを見て慌てた様子で走って来た。
「大丈夫か?」
「どこか怪我は」
「えっと……大丈夫なようです」
真っ先に飛んできて身体を確認する青年と初老の男性に少年は自分の手を確認しながら少し首を傾げる。
破片がどこかに突き刺さっていてもおかしくないような砕け散り方だったのにと。
【その程度、闇の精霊に防げないはずもない】
「君が護ってくれたのか。ありがとう。助かったよ」
精霊はお礼を言って少年が近付けた指にスリっとする。
何千年と生きている精霊にとって砕けて飛んできた破片など虫を払うレベルのことと変わらない。
『あ、思い出した。それ神杖だよね?』
「いえ。これは魔杖です」
『違うものなの?クリステルも自分の背より大きな神杖を使ってたけど。先端に星の飾りが付いてた』
物語で大聖女が神杖を持っていたことを思い出した子供が言うと、少年は残った持ち手部分を拾いながら否定する。
【星ということは星神の加護を授かっていたのだろう】
『そう。神杖の名前もステラだった』
【やはりそうか。だがこれは魔杖だ。神杖とは神が作った杖。魔杖は神杖を真似てヒトが作った長杖のことをいう】
『へー。違うんだね』
同じ長杖でも全くの別物。
ヒトが作る魔杖は神杖を真似た杖で天地ほど性能が違う。
「本物の神杖は現存しておりません」
『え?そうなの?』
「城に神杖と名付けられた品がありますが模造品です」
今あるものは全てレプリカ。
それでも価値のある代物だから城で保管されている。
『でも杖って必要なの?なくても魔法は使えるのに』
【杖を使った方が魔力が安定して威力もあがる】
『そうなんだ。ちゃんと意味があるんだね』
天虎と子供と少年の会話を黙って聞いている一族。
魔杖が砕けたのを見てつい近寄ってしまったけれど、下手に自分たちが声を出すと今は気にしていなさそうな子供を怖がらせてしまうんじゃないかと思って。
「魔杖に亀裂がないことは今朝も確認したのですが」
魔杖が砕けて大怪我をすることもある。
だから少年も魔杖を定期的に買い替え毎日欠かさず傷みの確認もしているのに、何故か砕けてしまった。
【今のお前の魔力量に耐えられなかったということだ】
話しながら天虎はインベントリを開き上半身を潜らせる。
『わあ……大きくて綺麗な剣』
天虎が身体を引いたかと思えばインベントリからヌーっと大きな剣が出てきて、子供は興味津々に眺める。
【これが私の神杖だ】
『神杖?剣じゃないの?』
【私は破壊と再生の神。この神杖も剣と長杖に変化する】
『天虎さんの神杖だけあって凄いんだね!』
パチパチと拍手する子供に天虎も満更でもない様子。
一族もこの短時間の間に分かり易い天虎の性格は何となく察せるようになっていた。
【少年。この神杖をお前に預けよう】
『……え?』
空中に浮かんでいる神々しい神杖を眺めていた少年や一族は預けるという言葉に反応して天虎を見る。
【今のお前の魔力であればまだ耐える魔杖もあるだろうが、じきにそれも使い物にならなくなる。それほどお前の潜在魔力量は多い。彼奴は神杖を兼ねた太陽神の神剣を使っていたが、彼奴の血を色濃く継ぐ子孫のお前は私の神杖を使え】
そう言われて少年はハッと我に返る。
「お預かりして壊しては弁償の仕様もございません」
【破滅と再生の神の私の神杖は壊れない。仮に強大な力で破壊されようとも再生する。失くそうが誰かに奪われようが必ず主人の元に戻り、主人の命が尽きた時には私の元へと戻る】
『あ。だから預けるなんだね』
【そういうことだ。生きている間だけ預けておく】
少年が生きている限り神杖も少年と共にある。
ただ少年が生涯を終えれば天虎の元に戻るから預けるという表現をしたんだと子供は納得した。
「私ではなく祝い子さまがお持ちになった方が」
【この娘には別の神杖がある】
『そうなの?』
【祝い子は自分を加護する神の神杖を授かる。だから誰にも加護を授けていない私の神杖はこの少年に預けようと思う】
『うん。お兄さん、天虎さんの神杖を大切にしてね』
少年を見た子供は一族にハッと気付いて天虎に隠れる。
もちろん一族が少年を心配して走ってきたことは分かっていたけれど、今更になって近いと思ったというのが正しい。
一族も『ああ、気付いてしまったか』という気分。
【要らないか?杖なしに魔法を使うなら必要ないが】
「……いえ。お預かりいたします」
【そうか。では契約をしよう。神杖に手を置け】
「はい」
本心では怖い。
他の誰も持っていない本物の神杖を持つことも、その神杖の主が一族が神と崇める天虎だということも。
けれど、初代の子孫の自分になら預けてもいいと天虎が思ってくれたのならと決心した。
【誓え。私の神杖を悪事には利用しないと】
「私、ヴァルフレード・フォン・ソレイユは、天虎さまの神杖を悪事に利用しないと固く誓います」
【契約期限は汝の命が尽きるまで。その時まで破滅と再生の神の私の神杖を光の一族の汝に預けよう】
天虎と少年が契約を交わすと神杖は眩い光を放つ。
みんなその眩しさに一瞬目を閉じゆっくり瞼をあげると、今まで大きかった剣が少年に合うサイズに変わっていた。
【持ってみろ】
「は、はい」
緊張した表情で少年がグリップを握ると、まるで自分の手に合わせて作られているかのように馴染む。
【この神杖は剣と長杖に変化するだけでなく、お前の成長に合わせて成長する。剣と杖は生涯買い替える必要はない】
壊れない(再生する)、紛失しない、そして成長する武器。
そんな武器は今まで聞いたことがないし、存在もしない。
途轍もない代物を預かったと少年も一族も息を飲んだ。
【長杖を思い浮かべ魔力を流してみろ。形は問わない】
「承知しました」
よく知る自分の魔杖を思い浮かべながら少年が魔力を流すと、背丈よりも少し高い長杖に変化する。
「…………」
その神杖はまさしく天虎。
持ち手は天虎の虹彩と同じ華やかな金で装飾されていて、二股になっている先端には天虎の姿もあしらわれている。
そして杖本体の部分は白く輝くような白銀。
神々しさと美しさに少年も一族も声が出ない。
『剣の時も杖の時も天虎さんの姿と同じ色で綺麗』
【私の姿を表している神杖だからな】
『天虎さんと同じ金の瞳のお兄さんにもピッタリだね』
【そうだな】
そう話してこちらを見た天虎と子供。
これだけの大きさでありながら不思議と軽い神杖を持った手を少年はギュッと握りしめる。
「お預かりした神杖に恥じる事のない者になると誓います」
神の天虎と神に愛された祝い子。
二人に少年は誓う。
【そのように堅苦しく考える必要はない。お前の姿を見て縁のある彼奴を少し懐かしく思い出しただけのこと。太陽神の祝い子として多くの者に祝福を与えた彼奴の功績を子孫のお前たちに返したに過ぎない。無理をして立派になる必要もない。ただ健やかに生きよ。それが私の願いだ】
神の天虎とヒトの子の初代が共に居た時間は決して長くはなかったけれど、それでも色濃い時間だった。
いまだに記憶に焼き付いている初代とよく似た少年を天虎が気にかけるのも当然のこと。
「はい。ありがとうございます」
まっすぐ天虎を見て頷いた少年は改めて神杖を強く握った。
『お兄さん。早速その神杖で作業台を作ってみたら?』
「そうですね。神杖は初めてですので緊張しますが」
『大丈夫。ただ、普段より加減した方がいいかも』
「加減?」
『聖印があれば加護の力を正しく使えるんでしょ?聖印がなかった時の感覚で魔法を使ったら大変なことになりそう』
「言われてみれば」
たしかに魔力の流れが変わったのだから同じ感覚で魔法を使っても以前と同じ結果にはならなさそうだ。
【土塊を作るのなど微量の魔力でいい】
「それだと砂になってしまうのでは」
【私の言葉が嘘かどうか、試しにやってみろ】
「承知しました」
【お前たちは私の後ろに少し下がっていろ】
「はい」
少年の傍に居た一族を自分の後ろに下がらせた天虎。
聖印を刻んでから初めて使う魔法だから念のため。
「では始めます」
天虎が見本に作った土塊を確認した少年は言われた通り加減して神杖に魔力を送り、土塊を思い浮かべて土魔法を使う。
「きゃあ!」
「な、なんだ!?」
ズシンと揺れた地面と一瞬の強い風。
天虎の後ろから少年の様子を固唾を呑んで見守っていた少女や初老の男性は驚きの声をあげる。
【微量と言っただろうが】
『わあ……大きいね』
少年の前に聳える土塊。
いやもうそれは土の壁と言える。
「せ、生活魔法程度しか使っていないのですが」
【それが大精霊の加護の真の力だ。光適性の高いお前の能力は大幅に強化されている上に私の神杖を使ったのだから尚更。だから微量でいいと忠告しただろうに】
そっと振り返り聞いた少年に天虎は呆れたように答える。
少年にとっては微量というのが生活魔法を使う時の感覚だっただけで、天虎に従わなかった訳ではないのだけれど。
『私が作った作業台は潰されちゃった』
「も、申し訳ございません!」
『大丈夫。食材は光さんたちが守ってくれて無事だったし。それよりお兄さん凄いね。私が作った作業台が潰れるくらいの大きな土の塊を作れるんだから』
少年が作った土塊を見上げて感心する子供。
大きな土塊が地面に落ちた時の風圧で吹き飛びそうになった大精霊の恵みは妖精や精霊がしっかり守って無事だけれど、子供が作った土塊は押し潰されてしまった。
「私も薪に火をつけた際に威力の変化を感じましたが、光の適性が高いとこれほど大きな差が出るのですね」
【少年だけでなく、今回聖印が刻まれたお前たちも今一度自分の能力を知る必要がある。昔は幼い頃に鑑定を受けていたために最初から正しい感覚で魔法を使えていたのだがな】
幼い頃に鑑定を受け聖印を刻むことには意味がある。
両親が早く自分の子供が授かった加護を知りたいなどという単純な話ではなく子供のため。
魔法を習う前から加護が馴染むよう、魔力が安定するよう、魔法を習った時から正しい魔力量の感覚を掴めるよう、子供のために聖印を刻んで貰う。
「なんの。この歳になって鍛える理由が出来たと思えば」
「理由などなくても鍛えておられたでしょうに」
「あったぞ?家族を守るという理由がな」
「ほどほどに願いますね」
「昔のように二人で鍛えようではないか」
肩を組み豪快に笑う初老の男性と嫌な顔をする執事。
幼なじみでもある二人の会話に一族はくすくすと笑う。
【どうした】
そんな一族をジッと見ている子供に天虎は直接念話を送る。
『家族が居るって本当は幸せなことなんだなって』
子供が知る家族は蔦のタマゴの中で聞いていた声だけ。
それも自分に話しかけてくれているのではなく、自分以外の家族や来客と会話をしている声。
自分の話題になるのは祝福の子なら王家に嫁ぐことになる話やお金の話だけで、家族が居て幸せだと思ったことなどない。
『天虎さん。私を拾ってくれてありがとう』
ピタリと寄り添った子供を天虎も長い尻尾で包む。
神の天虎でも血の繋がった本当の家族にはなってあげられないけれど、天虎にとっても子供にとっても互いが大切な存在。
そんな二人の様子に傍に居た少年だけが気付く。
天虎が遮断して少年には声が聞こえなかったものの子供の表情が悲しそうに見えて、自分たち一族が何か子供の悲しみに触れてしまったのだと察した。
「祝い子さま。私と作業台を作ってくださいませんか?」
『お兄さんと?』
「加減したはずがコレですので自信がなくて。お腹も空いてますし一刻も早く食事にしたいのでお願いできないかと」
『天虎さん、お兄さんと一緒に作っていい?』
【構わない。魔力を使い過ぎないようにな】
『はーい』
天虎から離れて子供は少年の元に行く。
すっかり気を許している事が嬉しいような寂しいような。
ただ、ヒトの子の祝い子が同じヒトの子と交流を持ち『ヒトらしさ』を学ぶことは天虎の願いでもある。
そればかりはヒトの子ではない神の天虎や妖精では学ばせてあげることが出来ないから。
天虎と同じく少年と子供を見守る一族。
家族から手酷く捨てられヒトに怯えていた子供が、少年にだけではあるものの怯えず済んでいることに安心する。
「エミリオ。情報屋や影を使って祝い子さまの生家を探せ。生きて天虎さまとおられることを知られれば連れに来るかもしれない。祝い子で天虎さまの寵愛を受けているとなれば皇族は金を積んででも欲するだろうからな。もう二度と祝い子さまが家族から傷つけられることなどあってはならない」
「承知しました」
初老の男性と執事は小声で会話を交わす。
ここへ子供を運んできた者たちは天虎から制裁を受けこの世にはいないようだが、裏稼業の者は何かと繋がっている。
祝い子を捨てたことを知っている者がいてもおかしくない。
自分たち一族が秘密にしてもそこから情報が漏れる可能性があるのだから安心は出来ない。
「私の影は他国に出しましょう」
「ああ。報酬は問わない。必ず見つけさせろ」
会話が聞こえていた青年もポツリと呟き、初老の男性は金に糸目つけないことを付け加えた。
『お兄さん。この塊は崩すよね?』
「はい。さすがに作業台にはなりませんので」
『じゃあ崩すのは私がやるね』
「危ないので私が」
『大丈夫。お兄さんはここに居てね』
少年の隣に居た子供が前に出て土塊に両手を添えると、風もないのに長く白い髪が風を受けたようにふわりと浮かぶ。
「…………!?」
子供の背後に現れたのは土のテッラと風のウェントス。
それを見て少年は後ろに居る天虎をパッと振り返る。
『天虎さま、これは』
【精霊魔法だ。いや、大精霊魔法と言った方がいいか】
精霊どころか大精霊が力を貸すなど聞いたことがない。
一族もあまりの驚きに声も出ずただただ子供を凝視する。
「祝い子さま……貴女さまは一体……」
少年の呟きのあと土塊は砂に変化して崩れ落ち、崩れた砂が風で飛ばされ跡形もなくなると二大精霊も姿を消した。
『天虎さん。今回の精霊魔法は成功した……かな?』
【ああ。上手く扱えていた】
『ほんと?良かった!』
ああ、本人は気付いていないらしい。
自分が力を借りているのが精霊ではなく大精霊だと。
少し不安そうに振り返って天虎に聞いた子供を見て少年はそのことを察する。
「祝い子さま凄いです!精霊魔法は初めて見ました!」
夢中で見ていた少女は興奮気味に声をあげ、すぐにハッとして口元を両手で塞ぐ。
『あ、ありがとう。褒めてくれて嬉しい』
ほんのり赤い顔で手元をモジモジしながら子供は答える。
「精霊使いは貴重ですからな。素晴らしい才能です」
『あ、ありがとう』
少女に答えたことに便乗して様子を伺いつつ褒めた初老の男性にも子供は照れながらまた答える。
「祝い子さまはきっと素晴らしい精霊使いになりますね」
「そうだね。十歳にしてもう使えているのだから」
一族から口々に褒められ真っ赤になった子供は少年の後ろにサッと隠れてしまい、調子に乗って話しかけ過ぎたかと一族がヒヤリとすると天虎が笑い声をあげる。
【みなお前と仲良くなりたいようだ】
『……私と?』
天虎の話を聞いて子供はほんの少し顔を覗かせる。
「なりたいです!私は祝い子さまと友達になりたいです!」
『友達?』
「一緒にお話をしたりお茶を飲んだりお菓子を食べたり遊びに出かけたり!本を読んだりもしたいですわ!」
そう力強く訴える少女。
今まで近付くことの出来る少年を羨ましく思いつつも怖がらせないよう我慢していたけれど、子供が答えてくれたことで親しくなりたい思いが溢れてしまった。
『本は……私も好き。今世ではまだ読んだことないけど』
「まあ!私の本をお持ちしますわ!沢山ありますの!」
『貸してくれるの?』
「もちろんですわ!」
本を貸してくれると聞いて子供は嬉しそうに微笑む。
その愛らしさと言ったら。
一族は胸がキュンとするのを感じた。
『天虎さま』
【なんだ】
『先に謝罪を。私の家族は加減が少々苦手でして』
【…………】
『本棚をご用意くださいますと助かります』
念話で会話を交わす少年と天虎。
加減というものが通常の人とはズレている、そんなところまで彼奴に似なくて良かったのにと天虎は溜息をつき苦笑した。
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