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chapter.2
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しおりを挟む「グルナ姫!」
無言の時間が続いて数分。
妖精姫が力が抜けたようにその場にペタリと座り込んだのを見てブランシュや一族は驚き初老の男性が駆け寄る。
「おい!お前たち何をしている!」
「ひ、姫さま!」
ブランシュを見たまま動かなかった侍女や騎士たちは初老の男性の声でハッとして妖精姫の身体を支えた。
「……なさい」
侍女のコートを握りしめて呟いた妖精姫。
外は寒いというのに汗をかいてブルブルと震えながら。
「殺しなさい、あの、不快な子供を」
「な、何を言っているのですか!」
「今すぐに殺しなさい!」
顔をあげた妖精姫はブランシュを指さして騎士に命じる。
その瞬間に一族は身体に突き刺さるような不快感を覚え、初老の男性と青年は咄嗟に剣に手を添え、少年はブランシュに駆け寄り腕を掴んで自分に引き寄せ、青年の妻と少女もブランシュと少年を庇うように二人の前に立って両手を広げる。
「幾ら王家の姫とは言え、何もしていない罪のない子供の命を奪うなど許されると思うのか!」
剣を抜いた騎士たちに声を荒らげる初老の男性。
執事や公爵家の騎士たちも初老の男性や青年の隣に付いていつでも反撃できるよう剣の柄を握る。
「無垢な子供に剣を奮うというなら許しはしない!」
剣を構えた騎士たちに初老の男性はもう一度忠告する。
「大旦那さま、お待ちを」
騎士の様子を見て止めた執事。
構えた剣をブランシュと一族が居るこちらに向けていることは確かだけれど、その剣は大きく揺れている。
全ての騎士たちの剣先が。
「なにをしているの!殺しなさい!」
剣を構えたまま足を動かさない騎士たちに命令する妖精姫。
その声にまた一族は身体がゾワッとする。
「…………出来ません」
震えながら地面に剣を落とした騎士たち。
妖精姫に答えながらも目では少年の腕の中に居るブランシュを見ている。
「申し訳ございません。私にはあの方を殺せません」
「死んでお詫びを」
謝罪しながらその場に跪いて落とした剣を拾った騎士たちはそれを自分の首に寄せる。
「死になさい!私に従わない者は死になさい!」
「ま、待て!」
ゾワッとする妖精姫の命令で侍女までが隠し持っていた短剣を首元に寄せるのを見て初老の男性は声をあげる。
『死んだらメッ!』
念話で声をあげたのはブランシュ。
力強いその声で不快感が拭えなかった一族の身体がスっと楽になり、念話が聞こえていないはずの騎士や侍女たちもハッとして手を止める。
【愚かな】
空から聞こえたその声と同時に妖精姫も含む来訪者たちが全員その場に倒れた。
『天虎さん!』
少年から離れたブランシュは地面に降りた天虎へ真っ先に駆け寄って抱き着く。
【お前たち、よくやった】
尻尾でブランシュを包んだ天虎は光の一族に声をかける。
【約束通りブランシュを守ってくれたことに感謝する】
『みんなありがとう』
ふかふかの尻尾からひょこっと顔を出したブランシュも一族にお礼を言って頭を下げる。
「私どもは何も。それどころか祝い子さまをうちの騒動に巻き込んでしまったことをお詫び申し上げます」
妖精姫が屋敷に来たのは少年に会うため。
無関係のブランシュを巻き込んでしまったことを詫びた一族はその場に跪き深く頭を下げる。
【この者たちは何の為にここへ来たんだ?】
「ヴァルに会いに来たと話しておりました」
【婚約の約束を取り付けに来たというところか】
「恐らく」
最初に対応した初老の男性も詳しくは聞いていない。
すぐに少年を見つけて行ってしまったから。
【わざわざ来るとはご苦労なことだ】
「姫や従者たちは生きているのでしょうか」
【眠らせただけだ。ここで殺してはお前たちが疑われる】
「お気遣い感謝いたします」
眠っているだけと知ってホッとする初老の男性。
実際にブランシュの命を奪おうとすれば迷わず斬ったけれど、騎士たちは葛藤しながらも命令には従わず剣を捨てたからこちらも戦うつもりはなかった。
【性根の腐った者にブランシュの顔を覚えられて逆恨みされては面倒だ。ここに来た記憶は消して追い出そう】
「記憶を?」
【記憶を消さなければ執拗にブランシュを捜すだろう?一緒に居たお前たちは間違いなく追求される】
この姫がブランシュを放っておくとは思えない。
一緒に居た一族は追求を受け、それが皇帝の耳にも入りブランシュについて話すよう命令されるのは目に見えている。
口の堅い一族は口を結ぶだろうが、未成年の少年や幼子まで拷問を受けるとなれば後味が悪い。
【それにな、先程から大自然が怒りを訴えている。ブランシュを傷つけようとした者たちへの怒りで。このまま記憶を消さず目覚め再びブランシュを傷つけようとすれば、神の私が何もせずとも大精霊たちが許しはしない】
天虎の足元から広がった闇の魔法陣。
妖精姫や侍女や騎士たちの下の地面にまで広がった魔法陣が倒れて眠っている者たちの身体を包み、黒の球体となったその魔法陣は空に浮かんで消えた。
「……妖精姫たちはどこへ」
【皇帝が居る帝都へ送り返した。目覚めてなぜここにと思うだろうが、そこまでは知ったことではない】
ブランシュの事はもちろんこの屋敷へ来た記憶も消したから、帝都から離れた場所に暮らしている光の一族が疑われるようなことにはならない。
【刻が来たか】
ふわりふわりと空から落ちてきた三つの光。
最期の力を振り絞るようにチカチカと点滅している。
【デスティネ、ボヌール。別れを】
天虎の言葉で姿を現したボヌールとデスティネ。
三つの光に別れの口付けをする。
【ブランシュ。祝い子のお前も別れをしてやれ】
『……うん』
ブランシュの手のひらに乗りチカチカと輝く妖精たち。
真っ白な魂のブランシュに口付けられた三匹の妖精は徐々に光を失っていく。
『また会えるよね?』
【ん?】
『この光さんたちに。お姫さまに悪気はなくても支配されて力を使い果たして消えるなんて可哀想だもの。次はみんなを大切にしてくれる優しい人と出会ってね』
そう言ってもう一度口付けたブランシュの背後に光のリュミエールと水のアクアと火のイグニスが顕現する。
「……祝い子さま」
一族の目に映るのは美しい祝い子と大精霊の姿。
三匹の妖精たちへ命を吹き込むように美しい花が舞う。
【祝い子に祝福された妖精たちよ。お前たちを蝕むものは祓われた。再生の神の聖寵を受け新たに生まれ変われ】
真っ白に輝く三匹の妖精。
花弁を舞わせる風に乗ると自然に溶け込むように消えた。
『行っちゃった』
そうブランシュが呟くと大精霊たちもスっと姿を消す。
【心配は要らない。また大精霊の力を蓄え再び蘇る】
『良かった。次は素敵な人と出会えますように』
両手を組んで祈りを捧げるブランシュの頭を天虎はふかふかの尻尾で撫でる。
「ありがとうブランシュ。仲間を綺麗にしてくれて」
「感謝する」
『え?私は何もしてないよ?』
「えー……分かってないの?」
「これほど自覚のない祝い子も珍しい」
無自覚のブランシュに呆れるボヌールとデスティネ。
天虎は意味が分からずきょとんとしているブランシュと呆れる二匹を見て笑った。
「あの妖精さまたちは再生するのですよね?」
【ああ。私の聖寵を授けた】
「良かった。ボヌールの言った事は本当だったのね」
【ん?】
一族の元に来た天虎へ聞いた少女は胸を撫で下ろす。
本当はブランシュが祝福をしたから再生の聖寵を受けられたのだけれど、ボヌールは笑ってごまかす。
「祝い子さまの祝福というのは?」
妹のために優しい嘘をついたボヌールに助け舟を出した少年は天虎に問いかけて話題を変える。
【美しい魂のブランシュには浄化作用があって、無自覚にもあの妖精たちを蝕んでいた穢れを祓うという祝福を与えた。それだけでなく、姫の付き人たちを支配している信仰の能力もブランシュの祝福には適わず祓われていた】
あらゆる生命を蝕むものを祓う祝い子の浄化。
白く美しい魂の祝い子だけが生命に与えられる祝福。
「騎士が剣を捨てたのは支配が解かれたからですか?」
【一時的にだが。深くかかった支配を祓うのは容易ではない。醜い感情を膨らませた強欲な祝い子の支配と清らかな祝い子の祝福の間で揺れて、姫には逆らえないという感情を拭えないままブランシュも殺せず自死を選ぶという結論に至った】
姫の命令に従い剣を抜いておきながら何故と不思議に思えばそういうことかと初老の男性は納得する。
神々から愛された祝い子を前にして『命令には背けない、でも殺せない』と妖精姫の根深い支配に抗っていたのだと。
「天虎さま。私、妖精姫が来てから寒気がしたり不快だったりしたのですが、ブランシュさまの死んでは駄目という念話が聞こえた瞬間に不思議と不快感が消えました。もしかしてあれもブランシュさまの浄化が関係していたのでしょうか」
そう聞いたのは少女。
妖精姫が来たばかりの時はブランシュを守らなければとそれだけだったけれど、姿を見て声を聞いてとしている内に奇妙な不快感を覚えたり寒気がしたりとした。
【不快感や寒気がしたのは光の一族の本能が姫の支配の能力を感じ取り抗っていたからだろう。それが消えたのはブランシュの祝福が支配の力に勝って効果を打ち消したからだ】
「やはり」
ブランシュが愛らしく『メッ!』と怒った瞬間に消えた。
だからきっとそうだろうとは少女にも予想ができたけれど、天虎から聞いてやはりと確信できた。
【ヒトの子は祝い子がただそこに居るだけで幸福を齎すと信じているが、実際はそんな都合のいい存在ではない。幸福とは真逆にそこに居るだけでヒトの子に悪影響を齎す妖精姫のような祝い子も居れば、そこに居るだけで穢れを祓い清めるブランシュのような祝い子も居る。生まれ持った性根と育て方次第でヒトの敵にも味方にもなるのが祝い子という存在だ】
妖精姫とブランシュは対極の祝い子。
闇の一族と光の一族のように。
強欲な妖精姫が闇の黒なら無垢なブランシュは光の白。
【ヒトの子が祝い子をどう育てるも自由。育て方を誤りヒトの子が滅びたところで新たな生命が誕生するだけのこと。既に命と選択肢を与えた私たち神は止めはしない。ただ一つ、私たち神や大精霊にとってブランシュは特別な祝い子だ。人々を導く宿命を持つお前たち光の一族にはそれだけ話しておこう】
一族はごくりと生唾を飲む。
大精霊や妖精や精霊から愛されている祝い子ということはもう一族にも分かっていたけれど、まさしく神の天虎が『特別な祝い子』と断言したことで改めてブランシュの存在の偉大さを実感して。
『私が特別な祝い子?』
【ああ。私にとって特別な娘だからな】
『そういう意味かぁ。私にも天虎さんは特別だよ』
【そうか。特別同士だな】
『うん!』
ふかふかな尻尾に包まれ幸せそうに笑うブランシュ。
扱いを誤ればヒトの子に災いを齎す特別な祝い子だとしても、心優しく愛らしいブランシュを一族は嫌いになれない。
むしろ沢山の愛に包まれ幸せになって欲しいと思う。
『お兄さんたちも私にとって特別なヒトだよ。守ってくれてありがとう。いつも優しくしてくれてありがとう』
ああ、この祝い子を守ろう。
美しく愛らしい特別な祝い子を。
笑顔で感謝を伝えたブランシュに一族は胸が熱くなり、改めてそう強く心に誓った。
「ところで天虎さまは不在中の状況をご存知のようでしたが、いつお戻りになっていたのですか?」
ふと気付いて聞いたのは少年。
居なかった間の騎士の様子を一緒に居て見ていたように話していたことに気付いて。
【戻ったのは眠らせたあの時だ。状況を把握するため記憶を消す前に妖精姫と仕えの者の記憶を読んだ】
「……記憶を」
【心配するな。読もうとしない限り分からない。もしお前が悪さをした時は記憶も心も読むがな。気を付けることだ】
ニヤリと笑う天虎に少年は苦笑する。
記憶を読んで状況を把握できるとはさすが神。
【冗談はさて置き、姫が来ることは知っていたのか?】
「いえ。訪問予定になっていたら今日を訓練日に指定しておりません。ヴァルに会いにということと、近くへ来たついでに嫁ぎ先を見に来たと。事前の報せもない突然の訪問でした」
天虎に聞かれて答えた初老の男性。
来ることを事前に知っていれば訓練は別日にしている。
一族の問題に天虎や祝い子を巻き込むつもりはない。
【嫁ぎ先か。あの姫の中では少年と成婚することが既に決定しているようだな】
あの日聞けなかった返事を聞きに来たのだろう。
婚約するという返事を。
少年が断るとは考えていないから既にここを自分の嫁ぎ先として見に来たと。
『お姫さまはお兄さんが大好きなんだね』
【さあ。どうだろうな】
『違うの?会いに来たのに』
首を傾げるブランシュの頭を尻尾で撫でる天虎。
皇族と貴族の婚約や成婚は旨みがあるかどうかで、好きかどうかなど二の次三の次。
【もし少年が姫と成婚したらブランシュはどうする?】
『ご馳走を作ってお祝いする』
キッパリと答えたブランシュのそれを聞いて少年は心にグサリと矢が刺さり、落ち込む少年を見て天虎は笑う。
「私はイヤですわ。妖精姫が義姉になるなんて」
『どうして?』
「何も悪くないブランシュさまを殺すよう騎士に命じた人など好きになれません。絶対に絶っっ対にっ!許せませんわ」
力強く拒否を訴える少女。
元から隣国の姫という以上に何も思っていなかったけれど、今回のことで大嫌いな相手になってしまった。
【姫にとってブランシュは何も悪くない相手ではない】
「え?」
【信仰という能力を授かり祝い子として生を受け、蔓が解けた時から祝福の子だ妖精姫だ神の子だと周りの者から持て囃され生きてきた。醜く膨らんだ祝い子の能力が他者の心を支配しているだけだと知らず、本人は自分が素晴らしい人物だから人々が崇めていると勘違いしている。崇められて当然だと】
そう話して天虎はくつくつと笑う。
【自業自得と言え可哀想だと思わないか?支配された者たちから崇められ神の子の自分に勝る者など存在しないと確信していたのに、ブランシュと出会い粉々に砕かれたのだから。神の子のはずの自分より美しい少女。神の子のはずの自分を無感情で見るだけの少女。神の子のはずの自分を崇めない少女】
天虎が読んだ記憶にあった妖精姫の感情かと察した一族。
想像にしては具体的すぎて。
【神の子の自分を崇めない者など生意気だ。神の子の自分より美しい者など許さない。神の子の自分より勝った者など存在してはならない。生かしておけない。殺せ、殺してしまえ】
一族は天虎が語った妖精姫の記憶を知りゾワッとする。
妖精姫がブランシュを殺すよう命じた時に感じたあの突き刺すような不快感は、大きく膨らんだ信仰の能力が自分たちのことも支配しようとしていたのだと。
【祝福の子を神の子と言うのはヒトの子だけだ。一方的に敵対心を持ち優劣を付けるなど実にヒトの子らしい祝い子だというのに。勝手に比べて勝手に敗北するのだから哀れな】
ヒト以外の何者でもない祝い子が神の子とは笑わせる。
創造神を侮辱しているのかと疑うほどに。
ヒトの子以外の神や大精霊や精霊や妖精や大自然にとって、あの妖精姫はヒトらしいヒトでしかない些末な存在。
【少年は姫の申し出を受けると決めているのだったな。忘れぬ内に話しておくが、私とブランシュがお前たち一族と関わるのはあの姫と成婚するまで。お前が成婚すれば二度と会うことはない。それまでに光魔法を覚えられるよう力を尽くせ】
成婚するもしないも自由で止める理由もない。
ただ、関わりを持つのは成婚するまで。
例えそれが彼奴の子孫の光の一族に嫁いだ者でも、ブランシュの死を願うような者とは関わりを持たせたくない。
『みんなと会えなくなっちゃうの?』
【こればかりは仕方がない。成婚すればあの姫も少年たちの家族になるのだから関わりを避けることが難しくなる。ブランシュは自分を殺そうとした者と親しくなりたいのか?】
『それは怖いけど』
自分を殺そうとする人は怖い。
でも光の一族と会えなくなるのは寂しい。
天虎もブランシュのその気持ちは分かっているけれど。
【生きている限り幾度も出会いと別れを繰り返すものだ。少年が成婚できる年になるまであと二年ある。その間に一族は歴史から消された魔法を学び、ブランシュは一族からヒトの子のことを学べ。それが共に過ごした思い出となる】
尻尾で包まれたブランシュは小さく頷く。
少女も天虎やブランシュと会える時間に期限があることを知ってポロポロと涙を零し青年の妻に抱きついた。
複雑な心境で少年を見る初老の男性と青年。
少年がブランシュに芽生えたばかりの淡い恋心を抱いていることは分かっているけれど、同時に姫の申し出を断ったところで王命を受けるだけだとも分かっている。
それを断れば追放されるだけだということも。
ブランシュを守るためにこの国に残りたい。
大恩に報いるため守ると決めた一族と同じそれにプラスして、少年には好きになった相手への感情も含まれる。
いや、むしろ、好きになった相手だからこそ自分の手で守りたいというのが正解なのだと思う。
成婚を断れば天虎の森のあるこの国から追放される。
けれど姫と成婚すればブランシュとの別れが来る。
姫の言動を目の当たりにして、成婚後も天虎やブランシュと関わりを持つことは出来ないと痛いほどに実感しただろう。
どちらを選んでも結ばれない二人。
【今日の訓練はここまでにしよう。互いに時間が必要だ】
「はい」
天虎から離れないブランシュと泣いている少女。
どちらを選んでも好きな人との別れが待つ少年も含め、今の子供たちには考える時間と落ち着く時間が必要だと判断して。
【森へ帰ろう。ブランシュ】
『うん』
ヒトの姿になった天虎はブランシュを抱き上げる。
泣いているのかブランシュは天虎の肩に顔を伏せていてこちらを見ない。
【また都合のつく日を報せろ】
「承知しました」
初老の男性と青年と青年の妻が深く頭を下げると天虎とブランシュはそのまま姿を消した。
「ヴァル」
「……部屋で休みます」
「ああ。ゆっくり休め」
声をかけた青年に顔を上げず答えた少年は家族と目を合わせず屋敷へ歩き出し、その後をデスティネも着いて行く。
「ディアも部屋で休みましょう。疲れたでしょう?」
「はい」
青年の妻は少女に声をかけ初老の男性と青年に目配せして、心配そうに少女の肩に乗ったボヌールも連れ屋敷に戻った。
「妖精姫は私たち一族にとって疫病神だな」
「ええ。とても厄介な」
大きな溜息をつく初老の男性と青年。
執事は無言で二人に羽織を渡す。
「姫の愚行を見れば天虎さまが祝い子さまと関わらせたくないと判断するのは当然だ。今回は結果として騎士が剣を捨て記憶も消したが、また会えばあの姫は同じことを繰り返すだろう。祝い子さまに適わなかったことも忘れたのだから」
敗北したことを忘れまた高慢な姫に戻っているのだから、再会してもまた一方的に敵対心を持つと予想がつく。
天虎が読んだ記憶を聞いて、妖精姫が自分より優れた者に憎しみを抱く厄介な人物だということが分かったから。
「そうですね。祝い子さまの立場をディアに置き換え考えると私も危険な姫とは関わらせたくありません。だから天虎さまが成婚までと期限を切ったことは理解できるのですが」
祝い子の身を守るために関わる期限を設けた。
それは同い年の娘を持つ青年にも十二分に理解できることではあるけれど、それが理由で子供たちは苦しんでいる。
ブランシュに恋心を抱く少年も、ブランシュと友達になりたい少女も、二人に心を開き始めたブランシュ本人も。
「姫さえ私たちに関わってこなければと思ってしまう。向こうは今日の愚行の記憶を失っていたとしても、私たちの方は姫が自分の気に入らない者を殺せと命じる残酷な人物だと知ってしまった。ヴァルの妻どころか一族にも関わらせたくない」
これが貴族令嬢であれば断っていた。
ただ厄介にも人々から崇められている祝福の子だけに、皇帝は王命を下しても姫の影響力を手に入れようとするだろう。
「大切な孫たちの為なら爵位を失っても構わない。王命に背き追放されようとまたやり直せばいいだけだ。だが、私がそう思っていてもヴァルは望まないのだろうな。祝い子さまが居る天虎の森があるこの国から追放されたくなくて」
少年がこの国に執着する理由はそれだけ。
ブランシュと出会い恋に落ちたことが少年の選択肢を奪う結果になってしまった。
「私たちはもうヴァルの決断に寄り添うしかないのでしょう。子供たちに残された時間がせめて良い思い出となるように。この先関係が変化しても良い思い出として思い出せるように」
父親の自分に出来ることは子供たちに寄り添うことだけ。
自分たちの人生をどう選びどう決断するかは子供たち次第。
初老の男性と青年はどちらともなく空を見上げるともう一度大きな溜息をついた。
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