異世界で猫に拾われたので

REON

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chapter.3

34

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「ところで天虎神はどちらへ?」

横になっている(させられた)ベッドの端に座り自分も一粒飴を食べているブランシュに聞いたライノ。

『この領にある熱病の病原菌を消滅させに行った』
「……ん?」
『今魔法を使ってるところ』
「え?」

領にある病原菌を消滅させると言った?
うちの領に蔓延している熱病の原因を?
いや、まさかな。
どれほどの面積があると思っているのか。

『ディアちゃんたちの領の病原菌も天虎さんが消したの』
「ソレイユ領を全部!?」
『うん。神さまの天虎さんはヒトの子の事に手を貸さないようしてるんだけど、ディアちゃんたちは何代も天虎さんに果物をお供えに来てお祈りをしてくれる一族だから特別なの』

つまり自分を信仰する信徒への神の慈悲か。
ソレイユ公爵家は天虎神を信仰していて、年に一度供物を捧げに行ったり祠を建てて守っていると聞いている。

「ということは、父や私を治療してくれたことも、病を祓ってくれていることも、ソレイユ公が頼んでくれたから?」
『ううん。お兄さんが氷の薔薇をくれたから』
「え?それだけ?」
『贈り物の御礼って言ってた。あと私がお兄さんに飴をあげなかったから熱病に罹かったって泣いたからだと思う』

何代にも渡って信仰した信徒と比べて何と軽い理由か。
それほど天虎神がブランシュを可愛がっているということだろうけれど。

『ペンをくれたルイお兄さんの領にも行って御礼に病原菌を消滅してくれるって。そしたらライノお兄さんの領もルイお兄さんの領も流行病がおさまるからもう少し頑張って。天虎さんの魔法は凄いから街の人もきっと元気になってくれる』

そう言いつつ元気のないブランシュの声を聞いて顔を下から覗き見るライノ。

「嬉しそうじゃないね」
『私は祝い子なのに、ヒトが亡くなる前に何も出来なかったから。ヒトのことはヒトが解決しないと駄目なのに』

天虎さんはヒトに森の恵みを与えてくれている。
サヴィーノも神に頼りきってはいけないと分かっていたから自分たちヒトの力だけで建国して生活していたのに、同じ祝い子のはずの私は天虎さんに育てて貰ってる。
今回のことも祝い子の私が役に立たなかったからヒトが亡くなってしまった。

『きっとみんな苦しかったよね』

十歳の子とは思えない責任感。
私が十歳の頃は自分のことで精一杯だったのに。
辛い経験をしたからなのか、ブランシュはまるで大人のような考えをしている。

「ブランシュ。ヒトのことはヒトが解決しないと駄目と言いながら、どうしてブランシュが一人で責任を感じているんだ?祝い子のブランシュ以外は私も含めヒトじゃないのか?」
『ううん。私もヒトだしお兄さんたちもヒトだよ』

大きく首を横に振って否定するブランシュ。

「それなら領民が亡くなる前に病を収束できなかった領主の責任でもある。国民の治療薬を確保せず隣国との流通を禁じなかった国の責任でもある。幾らブランシュが祝い子でも一人で全ての人を救うのは無理だ。ヒトは神のようになれないからこそ協力して生きていかないといけないんじゃないかな」

今まで溜め込んでいたのか、堰を切ったようにポロポロと大粒の涙を零して泣くブランシュにライノの胸も痛い。
元から小さいのに背を丸めてますます小さくなっているブランシュを引き寄せ抱きしめると頭を撫でる。

「天虎神が祝い子もヒトの子だと言っていただろう?ヒトの子の十歳ならもっと大人に甘えていい歳だ。責任感が強いところも心優しいところもブランシュの良いところだと思うけど、今はまだ十歳の子供らしく大人に守られていい。一人で責任を感じなくていい。一人で背負わなくていい」

ライノの胸に顔を埋めて泣くブランシュ。
流行病で人が亡くなっていることを知り『私は祝い子なのに役に立てなかった』と自分を責めてきたけれど、ライノはそんな自分を許してくれたと涙が止まらない。

「自分が辛い経験をしたのに苦しむヒトを思って胸を痛めてくれてありがとう。父や私を救ってくれてありがとう。心優しいブランシュ。私はこの先ずっとブランシュの味方だ」

自分を見上げるように見たブランシュの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていて、それに少し笑いながら額に口付ける。

心優しい祝い子。
身も心も壊されてしまわないよう守ろう。
守れるよう強くなろう。


病の元を祓い終えた天虎はまたライノの寝室の窓から戻ってくるとヒトの姿に変身して、室内の静けさに首を傾げる。
少年は寝てブランシュは光の一族のところに行ったのかと思いながらベッドに行くと、ライノの腕の中でぐっすりと眠っているブランシュを見つけて少し驚いた。

……泣いたのか。
少し赤みがある瞼を見て気付いた天虎は回復をかける。
寄り添いぐっすり眠っているということは、少年がブランシュに泣かせるようなことをしたのではなく、泣いたブランシュを少年が慰めていて眠ってしまったというところか。

愛らしい寝顔のブランシュを見て天虎はくすりと笑う。
警戒することもなく身を任せて眠っているということは、よほどこの少年を信用しているのだろう。

このまま寝かせてやろう。
まだ完治した訳ではない病人のライノも含め、安心した様子ですやすや眠っているブランシュを起こすのも可哀想で、天虎は二人を起こさず窓を閉め静かに寝室を出た。

「お疲れさまです。ライノさまのご容態は如何ですか?」
「あ。待っていたのだったな」
「え?」

ユハナ公の治療と違って時間がかかっていたから心配していた執事を見て思い出した天虎。

「すまない。治療は終わっていたが、娘にくれた贈り物の礼をしたりと話し込んでいた。寝込んだ間の体力が戻るのはすぐにとはいかないが、数時間から数日で完治するだろう」
「左様でしたか。ありがとうございました」

遅かった理由を聞いて安心した執事はライノの治療もしてくれた天虎にまた深々と頭を下げる。

「待たせていたのにすまなかった」
「滅相もないことです。お心遣い感謝申し上げます」

治療薬もない、聖者や聖女も派遣して貰えない。
治療する側もいつ自分が伝染るかも分からないという状況で領地まで足を運び治療をしてくれた人なのだから、何時間待たされたところで文句など欠片もありはしない。

「お嬢さまはまだライノさまとお話しを?」
「二人とも寝ている」
「……え?」
「娘も浄化魔法を二度使って疲れたのだろう。ぐっすり眠っているから暫く寝かせてやってくれ。後で連れに来る」

それを聞いて執事はライノの寝室の扉を見る。
未婚の男女(どちらも未成年だけれど)が同じ寝室で寝ているというのは色々と問題になりそうだけれど。

「……よろしいのですか?寝かせておいて」
「娘もまだ病み上がりだからな。寝かせておく」
「承知いたしました」

少女の父親(?)が言うのだから大丈夫か。
ライノさまも幼子に不埒なことはしないだろう。

「私は光の一族のところへ行く」
「光の一族?」
「ソレイユのことだ」
「ああ、はい。では一階へご案内します」

ライノとブランシュのことは気になったものの、複雑な造りの屋敷だけに案内を優先した。





「て」

執事の案内で天虎が一階に戻るとエントランスにヴァルフレードとグラードが居て、つい普段通り名前を呼ぼうとしてしまったヴァルフレードはハッとして口を結ぶ。

「ブランさま、ライノの容態は」
「今は落ち着いた。数時間から数日で熱も下がるだろう」
「そうですか。ありがとうございます」

帰る前は熱も高くて随分と苦しそうにしていたから心配だったけれど、落ち着いたことを聞いてホッと息をついた。

「ブランシュさまは」
「少年の寝室で寝ている」
「「え?」」

一緒に居るものと思っていたブランシュが居らずどこかで休ませているのかと思って聞くと、さらっとそう言われてヴァルフレードとグラードは驚く。

「ブランシュは氷の薔薇をくれた優しいお兄さんと言っていたが、なかなかの曲者で面白い少年だったぞ。加護も稀少なクアドルプルで潜在能力も高い。鍛えれば強くなりそうだ」

加護の話が出て執事は驚く。
未成年の今はまだ加護を公開していないから国と三大公爵家しか知らないのに、秘密を話すほど親しくなったのかと。

「ブランさま。加護は未成年の今は極秘でして」
「そうなのか?」
「国の防衛を司る私ども三大公爵家はそれぞれの情報を共有しているので知っておりますが、他の者には」
「では他の者の前では黙っておこう」
「申し訳ございません。ありがとうございます」

神の天虎にヒトの世の決まりを押し付けるようで申し訳ないけれど、これも未成年の子供たちの身を守るため。

「それでお前たちはここで何を?蜜は飲ませたのか?」
「ちょうど使用人が暮らす離れから戻ってきたところです。飲みやすいよう白湯に溶かして全員に配りました」
「そうか。予防にはそれで充分だ」

摂取させたのはアベイユの蜜のみ。
祝い子のブランシュが精霊の実を使って作った〝蜂蜜レモン〟と違って傷や病を回復する効果はないけれど、病のとしては充分な効果がある。

「罹患者もこれで少しは楽になるだろうが、治るまでは飲ませるようにしろ。お前たちの屋敷で蔓延した時と同じく」
「承知しました」

治療薬と違って既に罹患している者への即効性はない。
だから数回に渡って飲ませる必要がある。
ソレイユ邸の使用人の間で蔓延した時もそうしていた。

「後でお前も忘れず飲んでおけ。熱病の予防になる」
「ありがとうございます」

何のなのかは分からないけれど、飲むよう言われた執事もそこは追求せず頭を下げた。

「夫人と幼子は?」
「ベルタが魔法で精製した水を温めたお湯を使って、ユハナ公の幼い令息と令嬢の清拭をしております」
「ああ。少年は弟妹の看病をして罹患したのだったな」

グラードから聞いて思い出した天虎。
熱が高いと汗をかくから身体を拭いてやってるのだろうと。

「清拭もだが、清掃にも夫人の水が役に立つ。教会で売られている聖水で拭くようなものなのだから贅沢な話だがな」
「……聖水?そこまで?」
「お前と夫人の相性はそれほどに良い。素晴らしい才能を持つ者を妻に迎えられたことの幸運に感謝することだ」

聖水は聖女や聖者が精製する浄化効果の高い水のこと。
買えば高価なそれで拭くようなものと聞いて驚くグラードに天虎はフッと笑う。

「ただ、魔力の残量は気にかけてやれ」
「はい。ありがとうございます」

心配なのは夫人の魔力量。
ブランシュと同じく自分も役に立ちたいと意気込み無理をしそうな性格をしているから、そこだけは夫のグラードが気を付けてセーブさせるよう話しておいた。

「何か考え事か?」

心ここに在らずなヴァルフレードに声をかけた天虎。
ライノと寝ていると話した後から黙ったままだから理由は分かっていたけれど。

「失礼しました」

この少年も難儀な性格をしている。
ブランシュに恋心を抱いているから、あの少年と寝ていると聞いて気になっているのだろうに。

「まあいい。この地の病の元は神聖魔法で滅した」
「あ、あの、その話は」

チラリと執事を見たグラード。
天虎の正体を知らない執事も居るのに話していいのかと。

「案内を頼むことになるこの者に隠し通すのは面倒だ。察しがいいようだから追求も口外もしないだろう」

この後も執事は天虎を案内することになる。
言わずとも治療風景を見ないよう部屋を出たのを見て、察する能力が高く追求しない人物と分かったから信頼できる。

「話は後にしよう。今は罹患者の治療が優先だ」
「はい。よろしくお願いいたします」

天虎の言う通り今は長話をしている場合ではない。
領主のユハナ公爵家が機能してくれなければ領民を助けることが出来ないのだから。

「原因は絶ったのだからこれ以上この地で熱病が伝播することはないが、既に罹患していて重い症状が出ている者に対しては別の緩和治療が必要だ。ブランシュが目覚める前に治療を終わらせたい。重症者のところへ案内しろ」
「承知いたしました」

胸に手をあて軽く頭を下げた執事。
この御仁が何者だろうと手段が不明だろうと構わない。
重要なのは蔓延している熱病を収束させること。

「私たちも早く飲み物を配ろう」
「はい」

入れ替わりで天虎が使用人の暮らす離れに向かうのを見届けたグラードとヴァルフレードも、今は目の前のことをしっかり成し遂げようと厨房キッチンに向かった。





『……お兄さん?』
「あ、起こしてしまったか」

物音で目覚めたブランシュ。
いつの間にか寝ていたようだと思いながら起き上がるとライノが姿鏡の前に立っていた。

『起きて大丈夫なの?』
「ああ。熱も下がった」
『もう?今日はまだ寝てた方がいいと思うけど』

天虎が治療をしたとはいえ幾ら何でも。
無理をしているのではないかと心配するブランシュを見たライノはくすりと笑うと、シャツの袖のボタンを留めながらもベッドに歩いて来る。

「天虎神とブランシュのお蔭ですっかり元気だよ」

そう言ってブランシュの額に額を重ねる。

『本当だ。お熱はもうないみたい』
「ああ。だからもう大丈夫」
『身体が怠くないの?』
「それが不思議とないんだ。高熱で寝込んで体力が削られたから、まともに動けなくてもおかしくないんだけど」

ライノにも理由は分からないけれど怠さもない。
寝込んでいた数日は入浴が出来なかったから目覚めてすぐシャワーも浴びたけれど、怠さも疲れも一切感じない。

『あ。飴』
「飴?」

そんな急に元気になる?と考えて気付いたブランシュ。
治療をした後に食べさせた飴で体力が回復したのだと。

『お兄さんにあげた飴はアベイユの蜜を使った飴なの』

それを聞いてライノは吹き出しそうになる。
皇室に献上されるあのアベイユの蜜?
小瓶ひとつで屋敷が建つアレ?

『私が作った食べ物は回復効果があるから、栄養価や殺菌作用の高いアベイユの蜜と私の祝い子の能力が合わさった相乗効果のある飴で早く体力が回復したんだと思う。多分だけど』

一人納得するブランシュにライノは眉間を押さえる。
まだ十歳なのに殺菌作用やら相乗効果やら難しい言葉を知っているなと感心もするけれど、同時に十歳らしい迂闊さも併せ持っていることに。

「ブランシュ。貴重で高価なアベイユの蜜を使っていることもだけど、何より祝い子の能力を簡単に明かしては駄目だ。私が悪い人でブランシュを騙して利用するかもしれないよ?」

それでなくても愛らしく美しい容姿をしているから悪い奴から誘拐されないか心配なのに、回復効果のある料理を作れる祝い子と知られたらどうなることか。
もし皇帝の耳に入ればブランシュは王家に嫁がされるなり監禁されるなりして生涯利用される。

真剣に言い聞かせるライノにブランシュはきょとん。

『お兄さんは悪い人なの?』
「まさか。私はブランシュの味方だと言っただろう?」
『うん。だから隠さなくてもいいと思って』
「……私を信用しているから話したと言うこと?」
『うん。私が呪い子だと知っても嫌がらずに親切にしてくれてる優しいお兄さんだから』

ああ、信用されることがこんなにも嬉しいことだとは。
ブランシュはユハナ公爵家の嫡男という身分や金でもなければ容姿でもなく、私自身を信用して心を許してくれた。

「ありがとう」
『え?なにが?』
「色々と。私を治してくれたり」
『治療をしたのは天虎さんだよ?』
「ブランシュもだよ。飴のお蔭で回復したから」

話しながらライノはブランシュを抱いてベッドを降りる。

「これもの一つだな」
『え?』
「なんでもない」

首を傾げるブランシュにくすりと笑う。
やはりブランシュには触れられる。
その理由は恐らく……。

「天虎神とブランシュのお蔭で元気になったから、私もユハナの嫡男としてやれることをやらないと。領民を助けるためにもまずは家族や使用人に元気になって貰わないとね」
『うん!私もお手伝いする!』

元気いっぱいに答えて愛らしく笑ったブランシュにライノも釣られて笑みを浮かべた。


『まずは天虎神を探さないと』
『戻って来てるのかな?』
『出掛けた時の窓が閉まってたから戻って来てると思う。私たちが寝ていたから起こさなかったんじゃないかな』

ブランシュを抱いて寝室を出たライノ。
天虎が出て行く時に開けた窓が目覚めた時には閉まっていたから屋敷のどこかに居るだろう。

『ブランシュは人が苦手なんだよね?』
『うん。少し慣れたけどまだ怖い』

だから抱いて歩いているのだけれど。
ブランシュを大事にしている天虎神が、親交があるものの今は見知らぬ者と居るソレイユ一族の所に連れて行くより、異性だけれど顔見知りではある私と二人きりにさせる方を選んだくらいだから、それほど人が苦手なんだろうと思って。

『こうして抱いていれば我慢できそう?』
『うん。お兄さんと一緒なら大丈夫』

すっかりライノを信頼しているブランシュ。
呪い子だと知っても変わらないことと、自分を捨てた両親や伝承を作った人に怒ってくれた人だから。

ライノも純粋に自分を信用してくれたブランシュが可愛い。
傷つかないよう大事にしてあげなければと思う。
守ってあげなければと。

『人前では天虎神とは呼べないから、何て呼べばいい?』
『ヴァルお兄さんたちはブランって呼んでる』
『ブランとブランシュか。白く美しい二人にピッタリだ』
『私のお名前は天虎さんと大精霊さんが付けてくれたの』
『……天虎神と大精霊が?』
『うん。名前がないまま捨てられたから』

神と大精霊から名を貰った子供。
そんな人物はこの世に居ない。
ブランシュは神々から愛された特別な祝い子ということ。

『それも人前では秘密にするようにね』 
『ディアちゃんたちは知ってるよ?』
『ソレイユ一族は別。彼らはブランシュを裏切って人に話すような愚かなことはしない』

信仰している神と、その神が大事にしている娘。
それを知っている一族が裏切ることはないと分かっているから天虎神もブランシュと親交させているのだろう。

『天虎神を魔物と言う人も居るけど、少なくとも三大公爵家のソレイユとユハナとベランジェは天虎神を、この国に恵みを授けてくださる神だと信じて感謝している。天虎の森のお蔭でこの国は守られていると言っても過言ではないからね』

ヒトが触れてはいけない破滅と再生と豊穣の神。
実際にお会いしたらブランシュを溺愛している話し易い神だったけれど。

『天虎さんは優しいよ。天虎さんが拾ってくれなかったら私はここに居なかった。蔦のまま燃やされて死んでた』

ブランシュにとって天虎以上の優しい人は居ない。
自分を救ってくれた命の恩人。
大切で大好きな人。

『そうだね。天虎神が居てくださったから私もブランシュと出会えた。これからはそれも感謝しないと』

ブランシュが生きていてくれて良かった。
それも天虎神がブランシュを救ってくれたお蔭。
私にとってブランシュと出会えた事も神の恵みと言える。

『お兄さん。私を嫌がらずに抱っこしてくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう』

ブランシュにギュッと抱き着かれたライノは足を止める。
急にどうしたのかと。

『あのね。本当は私、漸く終わると思ってたの』
「え?」
『自分が呪い子だと分かってたから。十歳の誕生日に蔦が解けないから捨てられるって分かってたの。生きてる方が辛かったから、火を付けられた時に漸くこれで終わると思った』

どうしてそれを知っていたのか自分でも分からない。
でも私は自分が祝福の子じゃないことを知っていた。

『蔦の中に居たから声しか分からないけど、父親は私の蔦が解けたら名誉もお金も手に入るって言ってたし、母親は王家に嫁がせることになるって言ってた。それに、私の兄弟だったのかな?草の塊で気持ち悪いって言った男の子には両親が、十歳になるまでの我慢だって言い聞かせてた。家族にとって私は名誉とお金が手に入る存在でしかなかったみたい。だから一度も声をかけてもくれなければ抱き上げてもくれなかった』

自分が家族から愛されていないことも知っていた。
食事もしなければ排泄もしない蔦の塊を名誉とお金を得るためただ置いてあるだけで、育てて貰った訳じゃない。

『蔦の中に居た時は成長できなかったし、喋れないし、目も見えなかったけど、耳だけは聞こえてたのにね。家族に愛されてないことも祝福の子じゃないことも知ってたから、捨てられて火を付けられた時に漸く終わるんだって安心したの』

話を聞いたライノはブランシュを強く抱き締める。
祝い子は蔦が解けるまで眠り続けると言われているから家族も聞いているとは思わなかったのだろうけれど、家族が自分を名誉や金としか見ていないことや祝福の子ではないことを知っていたブランシュにとって、捨てられる未来を知りながら生きる十年間という月日はどれほど長く辛かったことか。

『天虎さんが拾ってくれた今は生きてて良かったって思ってるけど、生きたいと思うようになったら今度は、両親が私が生きてることを知ったら連れ戻しに来たり殺されるんじゃないかって怖くなって、あの人が両親だったらどうしよう、あの人が両親に話したらどうしようって、ヒトが怖くなったの』

そういう理由でヒトが苦手に。
いや、苦手すら超えて恐怖を覚えている。
たった十歳で、こんなにも小さな身体で怯えている。

『でも優しい人から抱っこされるのは好き。両親にも兄弟にも抱っこして貰えなかったから嬉しい。私も普通の子に生まれてたら家族も愛してくれて抱っこもしてくれたのかな』

胸が締め付けられる程に痛くて抱き締める腕に力が入る。
十歳という年齢で大きな心の傷を抱えていながら必死に生きているブランシュがあまりにも愛おしくて。

『お兄さん?……どうしたの!?どこか痛い!?』

黙ったまま動かないライノの顔を見たブランシュは泣いていることに気付いて驚く。

「ライノさま?」

焦るブランシュの背後から聞こえた声。
カートを運ぶお仕着せ姿の男性や女性たちで、ライノの涙に気付いてギョッとするとピタリと止まる。

『どこか痛いみたい!お医者さんに』
『違うよ。痛くないから大丈夫』
『え?でも泣いて』
『目にゴミが入っただけ』

声が出ないことも忘れパクパク口を動かし使用人に伝えようとしたブランシュにライノはをして微笑む。

『ゴミ?』
『もう涙で取れたみたいだから大丈夫』
『痛くない?』
『ああ。痛くないから大丈夫と言っただろう?』
『うん。取れて良かった』

ジッと目を見たブランシュは取れたことを聞いてポシェットから布を出すとライノの涙を拭う。

「清掃か?」
「は、はいっ!」
「私の部屋も頼む」

どうしたらいいか分からず固まっていた使用人たちに言ったライノはそのまま歩き出して横を通り過ぎた。

「…………」

その後ろ姿を見送りつつ使用人たちは無言で目を合わせる。

ライノさまが泣くなんて。
しかも愛らしい女児を抱っこしているだけでなく、ハンカチ越しとはいえ顔に触られることも嫌がっていなかった。
ライノさまが。

様々な意味で衝撃を受け驚かされた使用人たちは暫くそこから動くことが出来なかった。
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