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chapter.3
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しおりを挟む『みんなお掃除してるね』
『熱病が流行り始めてから清掃は毎日三回行われてる』
『そうなんだ。感染対策はしっかりしてたんだね』
廊下のあらゆる所で掃除をしている使用人を見かける。
窓を拭いている人や花瓶を拭いている人、床にモップをかけている人の姿も。
大きな屋敷の掃除は大変だろうと思っているとガシャンと何かが倒れる音が聞こえてブランシュはビクッとする。
『『?』』
音の後に聞こえてきたのは笑い声。
数人の女性が、それはそれは楽しそうに。
『何か楽しいことがあったのかな?』
とっても楽しそうと思うブランシュには答えずライノは歩きながらも耳を澄ます。
使用人が掃除しながら雑談を楽しむなど有り得ないこと。
中には誰も見ていないところでヒッソリ話す人は居るし、こちらとしても見なかったフリをしているけれど、公爵家の使用人が廊下で雑談しながら大声で笑うなど減俸もの。
廊下の角で身を隠したライノは声がする方を確認する。
そこに居たのはお仕着せ姿のメイドたち。
「早く拭きなさいよ。ほんとグズなんだから」
「お客さまが濡れた床で滑ったらどうするの?」
「も、申し訳ありません」
倒れたバケツを起こして雑巾で拭くメイドを罵る二人。
その後ろに居るメイド二人も間に入って止めるでもなくクスクスと笑っている。
随分とベタな嫌がらせを。
愚か者ほど群れて強気になる。
『ブランシュ!』
溜息をついたライノの腕から飛び降りたブランシュ。
呼び止めようとしたライノの手をすり抜け勢い良く走って行くと濡れた床に座っているメイドの前で止まった。
『お姉さん大丈夫!?大変!風邪ひいちゃう!』
怪我はないかと駆け寄ると濡れていて慌てたブランシュは、ポシェットから布を出してお仕着せをゴシゴシと拭く。
その姿を見て、拭かれているメイドも、そのメイドに嫌がらせをしていたメイドも、笑っていたメイドも唖然。
「お、お嬢さま!手が汚れてしまいます!」
『大丈夫。それより怪我はない?転んじゃったの?』
「ご衣装に水が!」
『平気。洋服は着替えればいいから』
ブランシュは自分の声が聞こえていないことを忘れてメイドに答えながら変わらずお仕着せを拭く。
転んでバケツを零したのだろうと心配したけれど、怪我はなさそうでホッとした。
『私が拭いておくからお姉さんは着替えて来て?それじゃなくても熱病が流行ってるのに風邪をひいたら大変』
顔をあげパクパク口を動かすブランシュを見て何かを言っていることは分かっても理解できないメイドは首を傾げる。
「これは使用人の仕事ですので!」
「お客さまに拭かせるなんて!自分で拭きなさい!」
「は、はい!お嬢さま、私が」
お仕着せを拭いた布はメイドに渡して雑巾を拾い床を拭くブランシュを見て、嫌がらせしていたメイドたちも慌てる。
それはそうだろう。
屋敷に来た来賓に掃除をさせたなど知られたら減俸どころか厳しい罰を受けることになるのだから。
「ブランシュ」
「ら、ライノさま」
ライノの姿を見て青ざめるメイドたち。
腰を抜かしたのかという勢いでその場に跪く。
『お兄さん、このお姉さん転んじゃったみたい。濡れてるから風邪をひく前に着替えるようお兄さんからも言ってくれる?私が言ってもまだお仕事しようとしてるから』
『ブランシュ。君の声はメイドに聞こえていない』
『あ』
私と会話が出来ているのは念話のお蔭。
それを忘れるほど心配して慌てていたのだろうけれど。
「君は着替えて来なさい。風邪をひく」
水で濡れているメイドに言ったライノは片膝を付きブランシュの手から雑巾を取ると濡れた床を拭く。
「ライノさまがそのような!」
「本当にな。君たちがくだらない嫌がらせなどしなければ、ブランシュも私も床を拭くことにはならなかった」
顔をあげたライノの目が冷たくて震えるメイドたち。
見られていたのだと分かって。
「聞こえなかったか?君は早く着替えなさい。ブランシュは君を心配して代わりに拭くことを申し出たのだから」
「は、はい!」
ライノからもう一度言われたメイドは二人に深く頭を下げると着替えをするためにその場を離れた。
「君たちはマルタ夫人の屋敷から来た使用人だったな。幾ら女主人の母上が不在だからと言って、この本邸で第二夫人やその使用人が我が物顔で振舞うことを私は許していない」
着替えに行ったメイドは本邸のメイド。
そしてこの四人は第二夫人の屋敷のメイド。
熱病が流行している今は何かあった時にすぐ対応できるよう父が本邸に呼び暮らさせているけれど、あくまで緊急事態中の対応であって、本邸の女主人は第一夫人の私の母。
「このことは父上に報告する。追って処分を待て」
真っ青になって震えているメイドたちと無表情で床を拭くライノを見比べるブランシュ。
『ブランシュ。後はメイドに任せよう』
『まだ濡れてるよ?』
『使用人から仕事を奪ってはいけないよ。彼女たちは自分の仕事をしなければ給金を貰えないのだから』
『あ、そうだよね』
労働の対価で給金を貰える。
転生者のブランシュはそれを思い出して納得する。
『じゃあ後はお任せします』
パクパク口を動かしメイドたちに頭を下げたブランシュ。
そんなブランシュを見てライノはくすりと笑う。
『おいで。抱っこしよう』
『雑巾を触っちゃったし、濡れちゃったから』
『いいよ。雑巾を触ったのは私もだ。手を洗おう』
『ありがとう』
立ち上がったライノは躊躇するブランシュを抱き上げる。
「来客が滑らないよう拭いておくように」
恐怖で顔を上げることも出来ないメイドたちにそれだけ言うとライノは再び歩き出した。
『ブランシュも着替えないとね』
『天虎さんが持ってる』
『そうか。じゃあ先に手を洗ってから天虎神を捜そう』
『うん』
ブランシュを見るライノは笑顔。
お姉さんたちには怖い顔をしてたのに。
転んだお姉さんを助けなかったから怒ってたのかな?
『お兄さんのお母さんはお出掛けしてるの?』
ライノが『母上が不在』と言っていたから、どこかに出掛けているのかと思って聞いたブランシュ。
『ああ。私が産まれた時からね』
『え?』
『私を産んだ代償に空の星になったんだ』
お空の星に?
少し考えたブランシュは意味が分かって青ざめる。
『……ごめんなさい』
無神経に辛いことを聞いてしまった。
泣きそうな表情で謝るブランシュにライノはくすりと笑う。
『大丈夫。私はもう十五だからね。何とも思っていない』
『歳は関係ないと思う』
『十五年も経てば居ないことにも慣れたってこと』
慣れたというのは事実。
物心ついた時から母親が居ないことが当たり前だったから今更なにかを思うこともない。
『ブランシュは天虎神と二人では寂しい?』
『ううん』
『母親が居ないと幸せじゃない?』
『幸せだよ?』
『じゃあ一緒だ。私も父上しか居ないけど幸せだ』
ブランシュの父親は天虎。
ライノの父親はユハナ公。
どちらも父親しか居ないというのは同じ。
『この世には権力やお金や努力次第で手に入るものもあれば、どれほど頑張ろうとどれほどお金を積もうと絶対に手に入らないものがある。私にとってはそれが母上というだけのこと。父上が後妻を迎えようとそれは私を産んだ母上ではない』
父上は母上の亡きあと第二夫人を迎えたけれど、第二夫人は父上の妻や弟妹の母親であって私の母親ではない。
私の母親は亡くなった母上だけ。
『……お母さんが好き?』
『どうかな。肖像画でしか見たことがないから』
私を産んだ所為で亡くなったことは申し訳ないとは思うし、産んでくれたことを感謝しているけれど、どのような人だったのかも分からない人を好きかと聞かれても答えようがない。
『ブランシュのことは好きだよ』
『私もお兄さんが好き。優しいから』
照れくさそうに頬を染めて答えるブランシュ。
それは『優しいお兄さん』という対象への好意だろうな。
『まあ、今はそれでいいよ』
お互いまだ未成年。
ブランシュが成人するまでに時間がある。
このさき『優しいお兄さん』というだけの殻を破れるかは私の努力次第。
「ライノさま!?」
エントランスへ続く階段を降りて来たライノ。
ブランシュを抱いて降りて来たライノの姿を見て執事は驚き声をあげ、一緒に居た使用人たちも驚く。
「起きて大丈夫なのですか?」
「ああ。もうなんともない」
「治療をしていただいてまだ数時間ですよ?」
「熱もなければ怠さもないから心配するな」
数時間から数日で熱は下がると聞いていたけれど、つい数時間前まで寝込んでいた人とは思えないほど顔色がいい。
数日高熱で寝込んでまともに食事も出来なかったのに。
「予想していたよりも早く回復したな」
「ブランさまとブランシュのお蔭です。心より感謝を」
離れの使用人たちの治療を終えて戻ってきたタイミングだったから天虎も居て、熱が下がるどころか平然とブランシュを抱いて歩けるほど回復していることに少し首を傾げる。
『あのね、多分あの飴』
【食べさせたのか】
『うん。私ももう元気になったからまた作れるし』
【道理で。熱を下げる緩和治療はしたが、体力が回復するような治療はしていないのにおかしいと思えば】
さすがに早すぎると思えばそういうことか。
ブランシュが作ったものには回復効果があるから。
「ブランシュの衣装をお持ちだと聞いたのですが」
「ああ。持っているが」
「濡れてしまったのでお着替えを」
「濡れた?」
人の目があるから念話を使わず天虎に話しかけたライノ。
傍から見れば顔を見ながら黙っている三人に見えてしまうから変に思われてしまう。
『お掃除してたお姉さんが転んでお水を零しちゃったの。お洋服が濡れてるのに拭いてたから代わりに拭いてあげようと思ってしゃがんだら、スカートが床に付いて濡れちゃった』
そう説明しながらスカートを摘んで裾を見せる。
【困っている者を助けたのか】
『風邪をひかないように着替えた方がいいと思って』
【そうか。優しい子だ】
困っている人を見たら放っておけないのがブランシュ。
今日は可愛らしい衣装を着せて貰ったのに、それよりも目の前に居る困っている者の方が心配で衣装が濡れることは気にならなかったのだろう。
『待って。手を洗ってから』
【ん?】
ライノの腕に抱かれているブランシュを抱っこしようと手を伸ばすと拒まれる。
『お兄さんも私も雑巾を触ったから。手を洗って来る』
「先に手を洗って来ますので、着替えはその後で」
「分かった」
まさかブランシュから拒まれる日が来るとは。
そのまま手を洗いに行く二人に複雑な心境になる天虎。
心を許せる者が増えたことは喜ばしいけれど、いつもならすぐ手を伸ばして返すブランシュが拒んだことが少し寂しい。
天虎とは別の感情で二人の後ろ姿を見る執事。
「……ライノさまが抱いて歩く姿を見る日が来るとは」
「ん?」
「い、いえ」
ボソッと呟いた独り言に首を傾げた天虎に、執事はしまったと思って言葉を濁す。
「…………」
いや、やはりこの御仁には話しておくべきか。
隠さなければならないことではないし、何よりこの御仁はあのお嬢さまの父君だから。
「実はライノさまは潔癖症でして」
「潔癖症?」
この屋敷の、いや、親交がある者なら知っていること。
ライノが病的な潔癖症だということを。
「他は大丈夫なのですが、ヒトに直接触ることや触られることに強い嫌悪感を覚えるようです。普段から手袋をしておられますし、仮に触った後は手袋をお捨てになって手を洗ってからまた別の手袋をしてとするほどでして。あのように手袋もせず嫌がることもなく抱いているのは初めて見ました」
嫌々抱いている様子もなく、手袋もしておられなかった。
手袋をしていない姿を見たのなど何年ぶりか。
幼い頃からずっとしていたから。
「そこまでか。弟妹の看病をしていて移ったと聞いていたから面倒見のいい少年なのかと思っていたが」
「それに関しては間違っておりません。手袋越しにしか接触することが出来なくとも愛情がない訳ではないのです」
「嫌いではない者にも手袋なしに触れないということか」
「はい。御兄弟のことは可愛がっておられます」
幼い弟妹のことは可愛がっていて面倒見もいい。
それでも手袋なしには触れることが出来ず、触られれば離れて手を洗いに行き手袋を変える。
「看病の際も身体を清拭しておられました」
「だがその後は手袋を捨て手を洗ったのだろう?」
「はい」
「誰かが触ったものを触れないということは?」
「ありません。身体への接触のみです」
異様な程の嫌悪感を示すのはヒトと接触することだけ。
手が汚れることを極端に嫌がり他人が触るようなものには触れられないという潔癖症とはまた違う。
「原因は分かっているのか?」
「これだろうと思われることは」
どんな?
そう窺うように顔を見られて執事は口を結ぶ。
「私の口からは。申し訳ございません」
多くの者が知っている潔癖症の話は出来るけれど、そうなるに至った原因は私の口から話すことではない。
「では直接少年に聞こう。弟妹にですら嫌悪しているのに、なぜ私の娘は大丈夫なのかを知っておきたいからな」
父親としてはそうなるだろう。
お嬢さまはまだ幼いと言っても異性に違いないのだから。
一緒に眠ったということもあるのだから、そのことも含めお嬢さまの今後の婚約や成婚に響いては困るだろう。
そう思っているのは執事だけで天虎は気にしていない。
ブランシュが祝い子だということが関係しているのだろうかと気になっただけで。
「ブランさま」
「そちらも終わったか」
「はい。なんとか夜までに間に合いました」
ライノとブランシュより先に戻って来たのは光の一族。
夫人とクラウディアは使用人と手分けをして罹患者の清拭をして、グラードとヴァルフレードは使用人と手分けをして離れの清掃をした。
『あ、ディアちゃん』
「ブランシュさ……え?」
手を洗って戻って来たブランシュとライノ。
光の一族の姿を見つけて念話で声をかけると、名前を呼ばれたクラウディアは辺りを見渡し二人を見つけて驚く。
「ライノ。……大丈夫なのか?」
ブランシュを抱いているライノに聞くグラード。
しかも手袋をしていないことに気付いて二重に驚く。
「ブランシュのことは大丈夫なようです」
『なにが大丈夫なの?』
『抱っこしても』
『え?抱っこしたら駄目だったの?』
『違うよ。私が抱っこしているから驚かせただけ』
無言になる光の一族。
ライノも念話でブランシュと会話していることに。
『天虎神。ブランシュの着替えは個室をご利用ください』
【ああ。そうさせて貰おう】
天虎とも。
しかも天虎神だと知っている。
「ブランシュが着替えをするからブランさまを空き室へ案内してくれ。私は応接室でグラード卿たちと話をする」
「承知いたしました」
天虎がブランシュを受け取り抱っこしたあと、ライノは執事に指示をしながらいつもの黒い手袋をした。
エントランスから近い応接室に移動した光の一族とライノは椅子に座る。
「数日寝込んでいた上に父上ともまだ話せていないので状況を把握できていないのですが、ソレイユ屋敷の使用人を連れて来てくださったようで、ありがとうございます」
対面のグラードに頭を下げるライノ。
光の一族と一緒にソレイユ公爵家の使用人が居たから、手が足りず連れて来てくれたんだろうと気付いた。
「もう起きて大丈夫なのかい?」
「はい。天虎神とブランシュのお蔭で完治しました」
その言葉通り顔色がいい。
今朝まではぐったりしていたのに入浴も済ませたようだ。
「ユハナ公もそうだが、寝込んでいた日数が長かったライノは特に回復するまで時間がかかるものと思っていたが」
「ブランシュがくれた飴で体力も回復したようです」
祝い子さまが毎日食べている飴のことか。
少し黙ったグラードは普段通りのライノを見る。
「どこまで知っている?」
「どこまでとは、ブランさまが天虎神でブランシュが祝い子ということですか?それともソレイユの収束が早かったのは天虎神が神聖魔法で熱病の病原菌を絶ったからということですか?同じくユハナの病原菌も絶ってくれたことですか?」
ああ、全て知っているのか。
それを話したのは天虎さまなのか祝い子さまなのか分からないけれど、念話を繋げ溺愛する祝い子さまを任せていたということは、ライノは天虎さまの信頼を得たということ。
「収束の理由を話せなかったことは詫びよう」
天虎さまに手を借りられれば死者を出すこともなかった。
そこを責められてしまえば言い訳の仕様もない。
「それは話せなくて当然では?私が自分たちだけ神の力を借りて狡いと言うとでも?天虎神は自分を代々信仰して来た一族が危機を迎えた時に信仰心に応えただけのこと。普段は信仰していない者が危機の時だけ神の力を借りようなど都合のいい話ではありませんか。私はそこまで愚かではありません」
ソレイユが救われたのは代々天虎神を信仰していたから。
自分の信徒に対して救いの手を差し伸べただけ。
「むしろ、ソレイユ公爵家は口が固く、信仰する神の正体を易々と話すほど愚かでもないという証明になりました」
やはりライノは恐ろしい。
武力に特化した父君のユハナ公が苦手な分野を引き受け、幼い頃から数々の政策を行っている頭の回転の早いキレ者。
今は亡き母君の血をしっかりと継いでいる。
「そのように警戒しないでください。私はソレイユのように献身な信徒ではありませんが、このアール帝国に森の恵みを授けてくださっている天虎神を利用しようとは思いません。同じく天虎神やブランシュの正体を誰かに話すつもりもありません。口外して娘に害が及べば許さないと天虎神からも忠告を受けておりますし、私自身もそれは望まないので」
それを聞いてホッとした様子を見せたグラード。
警戒していたのはやはりそこか。
信仰している天虎神はもちろん、娘のブランシュのことも随分と大切にしているようだから。
「私がみなさまをお呼びしたのは純粋に感謝を伝えるため。ソレイユ公爵家のみなさまが居られなければ天虎神と出会うこともなく、領に蔓延する病原菌を消滅していただくこともなかった。領民をお救いくださいましたことに心より感謝を」
胸に手をあて深々と頭を下げたライノ。
収束させる手立てや天虎神と懇意なことを黙っていたことを問い詰めるために呼んだのではなく、わざわざ使用人を連れて来て手を貸してくれていることも含め御礼を伝えるため。
「ユハナやベランジェにも手を貸すと決めたのは天虎さまご自身。私たちが頼んだのではないのだから礼は不要だ」
そう答えたグラードにライノは苦笑する。
相変わらずソレイユ一族はお人好しだ。
心配になるほどに。
「それでも。献身な信徒のソレイユが天虎神と出会っていなければそれもなかったのです。ブランシュが私に飴をあげなかったからと罪悪感で泣いたから、ブランシュを大切にしているソレイユと懇意にしている公爵家だから。その理由も全てはソレイユが天虎神と出会っていたからこそ。巡り巡って救われたのですから、みなさまにも感謝するのは当然のことかと」
始まりがなければ今の結末もない。
今の結果に導いてくれた始まりの人たちに感謝をする。
それがヒトとして当然のこと。
「では感謝の心は受け取ろう。しかし、ライノと会話をしていると達観した大人と話しているような気分になるな」
「父上が武力に全振りしていますからね。それはそれで良いのですが、母上に代わり私が父上を裏で支えなくては」
確かにな。
嫌でもそうなるかと納得してグラードたちは笑う。
ユハナ公爵家は武力のユハナ公と賢いライノの二人で成り立っていると言っても過言ではない。
そのあとライノが寝込んでいた間に起きたことを報告していると、執事の案内で天虎とブランシュも応接室に来る。
「着替えた衣装も良く似合っているね。可愛らしい」
『あ、ありがとう』
白いワンピースから赤いワンピースに。
ライノから褒められたブランシュは天虎の後ろに隠れて少し顔を見せると恥ずかしそうに御礼を言う。
「天虎神、どうぞこちらへ」
「ああ」
自分が座っていた上座側のソファに座るよう促したライノはブランシュを抱いたまま天虎が座ったことを確認して、「お隣失礼しますと」一言声をかけて隣に座り直す。
「グラード卿から伺ったのですが、重症の使用人にも緩和治療を施してくれたそうで。遅ればせながら感謝を」
「使用人も含め領主家をまず機能させなければ収束が難しいだろう。収束させることを目的に来たのだから当然だ」
収束させるためには人手が必要。
だからまずは領主家そのものを復活させる必要がある。
そのために使用人たちにも治療をした。
会話をする天虎とライノの間で自分のポシェットを開けて中からティーセットを取り出し始めたブランシュ。
光の一族はそんなブランシュの行動を無言で眺める。
「ブランシュさま、一体なにを」
天虎とライノの邪魔にならないよう、会話が途切れたタイミングで声をかけたヴァルフレード。
『お茶とお菓子の用意。みんなお腹が空いてるから』
夕食の時間にはまだ早いから軽く食べられるお菓子を。
そう説明しながらも応接机の上に手際よく支度をしていくブランシュ。
『みんな疲れてるだろうけど、お兄さんのお母さんの顔色が少し悪い。お水の魔法をたくさん使ったからだと思うけど、魔力が回復するようお菓子を食べてお茶も飲んでね』
清拭や清掃に使う水を魔法で出したから。
グラードが止めたから使い果たすことはなかったけれど、無理をしたから顔色が悪い。
テーブルに並べられたケーキやクッキー。
茶葉を入れお湯を注いだポットからはふわりと香りが。
まるで熟練のメイドのような手際のよさ。
「食事前だが、一族も少年も魔力と体力が回復するよう摂取しておけ。力尽きて動けなくなっては話にならない」
「はい。お心遣い感謝いたします」
「頂戴いたします」
天虎からも言われた光の一族とライノは頭を下げ天虎とブランシュに感謝を伝えると、いい香りのお茶を口へ運ぶ。
「……美味いな」
爽やかな香りのする透き通ったグリーンのお茶。
薬草系の茶葉を使っているのだろうと思いつつ飲んだ初めての味が思いのほか口に合い独り言を呟いたライノ。
「四大精霊山に咲く花を茶葉にしたものだ。四重の加護を持つクアドルプルのお前は特に美味く感じるだろう」
それを聞いたライノは思わず吹き出しそうになる。
四大精霊の山に咲く花と言った?
いや、それもだけれどクアドルプルと言った?
「なぜそのことを」
「私は神だぞ?どの大精霊の加護を授かっているかは見れば分かる。ただ、未成年の間は親交の深い一族だけが知っていることだと聞いたから他の者の前では言わない。安心しろ」
「あ、ありがとうございます」
ヒトの子が加護を隠すのは昔から。
身を守るために、力を利用されないように、信頼できる者にだけ明かすというのが一般的だった。
光の一族と少年の一族は親交が深いことが分かっていたから当然知っているものとして話題にしたけれど。
さすが神と言えばいいのか。
ライノは苦笑してティーカップを口に運んだ。
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