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chapter.3
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しおりを挟むベッドに座らせたユハナ公の身体を確認した天虎。
「ブランシュの料理を食べたことで体力も回復したようだな。これなら完治と言って差し支えないだろう」
緩和治療で熱は下がっても体力は回復しない。
だから怠さが残っていてもおかしくないけれど、ブランシュの回復効果のある料理を食べたことで体力も回復した。
「天虎神とブランシュ嬢のお蔭です。感謝申し上げます」
「感染が止まっても指揮を執る領主が動けないのでは後始末に時間がかかるからな。ただ、今度は働き過ぎて他の病にかかるということのないよう注意しろ。私が滅したのは熱病の原因となるものだけで、全ての病がなくなった訳ではない」
「はい。肝に銘じて」
天虎が滅したのは熱病の病原菌。
それ以外の病は変わらず罹るから、過労で抵抗力が落ちて風邪をひくというようなことは起こりうる話。
「此の度は到底お返しすることの出来ない大恩を賜りました。この御恩は生涯をかけお返ししていく所存です。私に出来ることであればなんなりと申し付けください」
ベッドから降りて床に片膝を付き頭を下げたユハナ公。
自分を筆頭に息子や使用人まで治療して貰っただけでなく、幾ら金を積もうとも買えない祝い子の能力と死山の食材を使った回復料理を用意してくれたり、領に蔓延する病原菌を滅するという神にしか出来ない所業までして貰ったのだから、この二人への恩は生涯をかけても返せるものではない。
「恩を返す必要はない。今回は少年が私の娘に贈り物をしたその礼に過ぎないのだから。軽々しく私たちの正体を話してブランシュに害を及ぼすことさえしなければそれでいい」
ブランシュが贈り物を貰ったから礼を返しただけのこと。
恩を売るためにしたことではない。
「恩人の秘密を暴露するなど恥ずべき愚行はいたしません。この身命を賭け口外しないと固く誓います」
それは命をかけて誓える。
大恩を受けた相手を裏切るなど恥ずべき行為。
命で罪を償わければならないほどの大罪なのだから。
「知っている。神の私には取り繕っただけの上辺の姿は通用しない。お前が義理を重視する口の堅いヒトの子だと分かっているから私と娘の正体を明かすことを許可した」
天虎も誰彼構わず許可をする訳じゃない。
口が堅いことは分かっていたから、先に正体を明かしておいた方が必要以上に詮索されないだろうと考えてのこと。
「完治はしたが、ひとまず今夜はこのまま休め。明日からはまた領主としての役目に追われることになるのだから」
「はい。お心遣い感謝申し上げます」
今晩まではしっかり休むよう言って、四人はユハナ公の寝室を後にした。
「ブランシュ。眠いのか」
『うん』
「大量の料理を作って魔力を使ったからな」
『うん』
天虎に抱っこされたままブランシュはうとうと。
領民に作ったあの時より少ないとは言え数十人分の料理に調味料を使ったのだから疲れていてもおかしくない。
「明日に備えてこのまま眠れ」
『うん。おやすみなさい。天虎さん』
「おやすみ。いい夢を」
『ヴァルお兄さんとライノお兄さんもおやすみなさい』
「おやすみ」
「おやすみなさい」
我慢していたのか、挨拶をしたらすぐに眠りに落ちる。
愛らしい寝顔ですやすやと。
「ありがとう、ブランシュ」
ライノはブランシュの白く長い髪を少し手に取ると呟いてそこに口付けた。
「部屋をご用意してございますので案内いたします」
「では私は家族の手伝いに戻ります」
「ヴァルフレードもありがとう。この礼は必ず」
嫡男が案内するのだから付き添う必要もなくなり、家族の手伝いに戻る事にしたヴァルフレードへ頭を下げたライノ。
「ライノも早く休むようにな。病み上がりなのだから」
「ああ。弟妹の様子だけ確認したら休ませて貰う」
やはり弟妹のことは心配なのか。
返事を聞いてヴァルフレードは苦笑すると天虎に頭を下げて先に廊下を歩いて行った。
「弟妹というのはどこに居るんだ?」
「この屋敷の別の階におります」
「その者はまだ治療していないが症状が軽いのか?症状の重い者には治療を施して回ったが、案内されなかった」
この屋敷で治療をしたのはユハナ公とライノの二人。
執事が案内しなかったということは軽症なのか。
「第二夫人も居る階だから案内できなかったのかと。夫人はこの屋敷の使用人が入るのを嫌がりますので」
ジーノが案内できなくとも仕方がない。
夫人が本邸の使用人に世話をされることを嫌がり自分の屋敷の使用人をわざわざ連れて来ているのだから。
「図々しいことを承知でお願いがございます。弟妹の治療もお願いできますでしょうか。私なら案内できますので」
ユハナの嫡男の私の行動は夫人でも強制できない。
夫人が罹っているだけなら自分たちでどうにかしろと放っておくけれど、自分が移るまではずっと看病をしていて熱が高く苦しそうな姿を見ていただけに、弟妹の治療は頼みたい。
治療薬があればと何度も思ったくらいなのだから。
「構わない。案内しろ」
「ありがとうございます」
少し冷めた少年だけれど弟妹を心配する心は本物。
それは伝わった。
「先にブランシュをベッドに寝かせますか?」
「いや。知らぬ屋敷で目覚めた時に一人だと怯える。探しに部屋を出て心を許していない者に会えばどうなることか」
私としてもベッドに寝かせてやりたいけれど、顔見知りの光の一族も私も居ない部屋で目覚めれば怯えてしまう。
私は捨てたりしないと言ってもなお、ブランシュの中にはまだ捨てられる恐怖心が残っているから。
こればかりは時間をかけ分かって貰うしかない。
「心の傷は簡単に消えるものではありませんからね」
傷口は瘡蓋となるだけで消えはしない。
傷が深ければ深いほど何度でも思い出しては辛くなる。
「魔眼による体質が顕著になったのはいつからだ」
「魔眼?」
「その目のことだ。自分が魔眼持ちだと知らないのか」
「初めて聞いた言葉です」
ヒトの子に聖印が刻まれなくなり扱える魔法が減ったことで光の一族の光魔法が伝承されなくなったことと同じく、少年が持つ魔眼も今時代には知る者が居なくなったのか。
「魅了体質が顕著になった時期はいつだ」
クアドルプルに生まれた少年の身に起きた弊害。
授かった加護の数が多く適性も高い者の中には、少年のように弊害を持って生まれる者がいる。
「物心ついた時から。酷くなったのは七歳の時です」
魔眼という言葉は初めて聞いたけれど、体質のことは『厄介な体質を持って生まれたものだ』と言われた時に気付かれていると分かっていたから、今更隠すつもりはない。
「お前がヒトとの接触を嫌うことは執事の男から聞いたが、理由は自分の口からは言えないと言われた」
「潔癖だとはみんなが知っていますが、原因を知る者は昔からこの屋敷に仕えている一部の者だけですので」
執事のジーノは家令の息子で長く屋敷に暮らしているから知っているけれど、父上が口外を禁じているから話せない。
「幼い頃からそれはそれは可愛がられて育ちました。特に乳母も含め私の世話をする者から異常なまでに。最初はなぜ入浴中や着替え中でもないのに身体に触るのかという疑問から始まりましたが、まだその頃は私も無垢な幼子でしたので知識も力もなく、乳母たちのなすがままになっていました」
物心ついたその頃からおかしかった。
もしかしたら物心つく前から異常な者は居たのかも知れないけれど、さすがにそこまでは分からない。
「幼いながら日に日に異常さが増していくのを感じて乳母や世話役を避けるようになったのは六歳の時です。一日中書庫に篭り本を読み耽っていました。そこだけは唯一多くの知識を得ることが出来たという点でいいことだったと思いますが」
ライノが幼い頃から賢かったのは乳母もメイドも入れない書庫が唯一の安らげる場所だったから。
本を読むことで毎日をやり過ごす内に知識を得ただけで、最初から本が好きだった訳でも賢かった訳でもない。
「事件が起きたのは七歳の時。深夜に目覚めたら私の上に乳母が居たのです。一糸まとわぬ姿でまるで恋人同士の戯れかのように私への愛を語りながら。さきほどの侍女の時のように能力を暴走させたのもその時が初めてです」
すぐに騎士が駆け付け乳母は助かったものの、公爵家の嫡男に手を出したのだから結局そのあとは首が飛んだけれど。
その時の経験がライノを『潔癖』に至らせた原因。
「それ以降も誘拐されて監禁されたり、付き合っているような話や関係を持ったような話を吹聴されたり。見知らぬ令嬢の親が娘を傷物にしたと乗り込んで来たこともありますし、どこの誰と見覚えすらない夫人と関係を持ったと言われて夫から不貞行為の慰謝料請求されたこともありました」
ライノにとっては身に覚えもないこと。
それなのに『その日は〇〇に行っていた』とか『その時間は誰と居たから会ってすらいない』と証明しないといけないのだからたまったものではない。
「完全な事実無根なのですが、向こうはそれを本気で言っているので私が嘘をついていると思われることも多く、今ではユハナ公爵家の嫡男は節操なしの遊び人だと思われています」
夜会や催事で挨拶を交わした程度の覚えしかない者。
会話どころか見覚えすらない者。
私と付き合っているとか愛し合っていると言う者に女性や男性は関係なく、何よりも恐ろしいことに本人は至って真剣。
本気で私と恋仲になり愛し合っていると思っている。
ライノの話を聞いて溜息をついた天虎。
少年が人前で冷めた態度をとる理由や、使用人の方にも少年に怯える様子を見せる者が居る理由が理解できたから。
数々の経験が原因で心からヒトを信用することが出来なくなった少年と、節操なしの悪評にプラスして実際ヒトに怪我を負わせている少年に対して嫌悪感や恐怖心を持つ使用人。
性根の悪い少年ではないのになぜと思えば。
全ては魔眼を持って生まれてしまったことが原因。
「クアドルプルの中でも特に全適性が高い者の身体には何かしらの弊害が起きる。少年の魔眼と魔眼の影響による魅了体質もその一つだ。四大精霊の申し子とも言えるクアドルプルがヒトの子から愛されるのは当然と言えば当然だが、耐性の低い者や心の弱い者は姿を見るだけでも惹かれて正気を失う」
四大精霊と相性がいいために魔眼を持って誕生した少年。
身を守る術として人々から愛されるのは祝い子の特性と同じだけれど、少年の魅了体質は愛され方が度を超えてしまう。
「魔眼を持つ者は魔力量も多く魔法の威力も高い。悪巧みに使おうと思えば、目を合わせ言い聞かせるだけで嘘を真実だと思い込ませることや人の心を操り傀儡にすることも出来る。使い方によっては強力な能力である反面、扱い方を誤ればその代償かのように不幸な人生となってしまう者も少なくない」
そもそもが稀少なクアドルプルの中でも魔眼持ちは稀少。
加護を授かった四大精霊全てと相性のいい(適性の高い)ヒトの子など滅多にいないのだから、魔眼持ちは極めて稀な存在。
能力が高い利点がある反面、その極めて稀な存在として誕生してしまったがために不幸な人生を送る者も少なくない。
「簡単に言えば魔眼とはヒトを惑わせる能力。特に少年のように強力な魔眼持ちは魅了の効果も大きく、相手の好意を増幅させる。街中で見かけた少年の顔が好みだと思った程度の些細な好意でも。好意的に思った程度でも増幅するのだから、恋愛感情を抱いた者なら尚のこと強く魅了されてしまう。事実無根なのに相手は本気で言っている理由はそういうことだ。本人はそれが自分が思い描いただけの妄想だと気付いていない」
魔眼持ちは魅了体質だけれど、その効果は様々。
少年のように見知らぬ者まで魅了して正気を失わせてしまう者もいれば、好意的に思われる程度の魅了で済む者も。
魔眼が強力であるほど魅了体質も強くなる。
「全ては私の目が原因ということですか」
自分がヒトの狂わせてしまうことは分かっていたけれど、それが魔眼というものによる魅了体質だったとは。
「魔眼を失えば体質もなくなるのですか?」
「いや。例え目を抉り取ろうとも魅了体質は変わらない。魔眼を持って誕生した者の肉体に刻まれた体質なのだから」
つまり私は死ぬまでヒトを狂わせ続けるということ。
生きている限り続くなど絶望でしかない。
「ライノさま」
話している間にも第二夫人が居る階に着いて、廊下で警護にあたっている騎士がライノに声をかける。
「申し訳ございません。お客人はご遠慮願います」
「第二夫人の騎士が本邸で嫡男の私の行動を遮ると?」
騎士も第二夫人から命じられたことに従っているだけ。
ユハナ公と嫡男以外は階に入らせるなという命令に。
父上は『慣れない者が彷徨いては落ち着かないのだろう』と言い夫人の屋敷の使用人でこの階を占拠することを許可をしてしまったけれど、嫡男の私は別邸の女主人の第二夫人が我が物顔でこの本邸に制限を作ったことを許していない。
「弟妹の治療をしてくださる御仁だ。夫人がどうなろうと関係ないが、父上の血で繋がった弟妹は救いたい」
夫人も熱病に罹患しているけれど、それはどうでもいい。
私が天虎神に救ってほしいのは弟妹だけ。
「夫人に伝えろ。私が御仁を連れて入ったことに文句があるのなら父上に言えと。この方は父上や私や使用人を治療してくださったユハナ公爵家の恩人なのだから、私と夫人のどちらが父上の怒りを買うことになるのか楽しみにしていると」
鼻で笑ったライノは天虎に「お待たせしました」と詫びて再び弟妹の部屋に向かって歩き出した。
「第二夫人とは仲が悪いのか」
「潔癖の原因の一人ですので。父上は知りませんが」
返事を聞いて納得した天虎。
夫人に対しては冷たい態度という以上の敵意を感じた原因はそれかと。
「迫られたのか」
「ただ迫られただけならここまで不快にはなりません」
ライノにとって迫られるくらいは日常茶飯事。
幼い頃から数々の苦い経験をして既に心が枯れてしまったライノはその程度で敵意を抱くほどの感情にはならない。
またかというだけの話。
「乳母の時は七歳でしたので最後まで至ることなく済みましたが、第二夫人の時はもう精通後でしたので最後まで。卑怯にも薬で行動や能力を封じられ抵抗することも出来ずそのまま。薬の所為で意識はぼんやりしていましたがその時の情景は覚えていて、今でも夫人を見ると虫唾が走ります」
幼い頃から乳母や世話役に触られる経験はしていたけれど、触られる以上の最後まで至ったのは第二夫人が初めて。
私の身体が成熟して精通する時を待ってのこと。
「なぜ父親に言わない」
「弟妹が可哀想なので。自分たちの誕生日に母親が罪を犯したことを知ればもう誕生日を喜べないでしょうから」
弟妹の誕生日を祝うために多くの人が集まっていたから飲食にまで警戒しなかった私も迂闊だった。
来客に万が一のことがないよう、祝いの席で出されるもの全てにしっかり鑑定がかけられていたから。
仕掛けられていたのは魔力を抑える薬を飲むための水。
それなら私しか飲まないから他の人には影響がない。
いつも同じ時間に薬を飲むことは夫人も知っていたから、祝いの席が終わり間際だった時間に薬入りの水を運ばせた。
水を運んで来た使用人は覚えていたから問い質すと、夫人から脅され金も握らされたことを白状した。
「私にとってこの世は苦行です。誰一人として心から信用することができない。その内裏切るだろうと予想ができる性根からの悪の方がまだましです。この人は私の体質が影響しないと信用した人から豹変される方が辛いので」
だからヒトを心から信用しないようにしている。
己の身と心を守るために。
「では僅かながら安心を与えてやろう。少なくとも神の私と清浄の祝い子のブランシュにお前の体質は通用しない」
それを聞いてライノはピタッと足を止める。
「神の私に矮小なヒトの子の魅了が通用するはずもないのは言わずもがな、位の高い神の加護を授かった清浄の祝い子のブランシュにも通用しない。もしお前がブランシュと恋仲になりたいなら、好きになって貰えるよう自力で頑張ることだ」
鼻で笑った天虎は少年の額を指先で軽く弾く。
魔眼を持って生まれたために心からヒトを信用することができなくなってしまった哀れな少年に、警戒する必要のない相手を教えてやる程度の慈悲を与えてやるくらいはいいだろう。
そうしなければこの少年の心は壊れる。
心から信用できる者も居らず、常に警戒していなければならない人生など、少年の言うように苦行でしかない。
「弟妹を治療してほしいのだろう?早く案内しろ」
「……はい!」
少なくとも天虎神とブランシュに警戒する必要はない。
目を抉り取ろうとも死ぬまで苦行が続くことの絶望に僅かな光がさしたライノは心から笑みを浮かべた。
弟妹の居る部屋の前には使用人が二人。
ライノの姿を見てまずは深く頭を下げる。
「恐れながら入室はライノさまお一人で願います」
「こちらは治療のために来てくださった御仁だ。父上と私と使用人の治療を終え、どうか弟妹の治療もと私が頼んだ」
ここでも止められたライノは事情を説明する。
わざわざ説明しなければならない事に腹は立つけれど、騎士と同じく使用人も夫人の命令に従っているだけだから。
「ですが入室許可を出せるのはユハナ公とライノさまの」
「なぜ嫡男の私が自分の屋敷にある部屋への入室許可を部外者の第二夫人から貰わねばならない。緊急時だから、弟妹のためだと目を瞑ってきたが、図に乗るな。私にはお前たちをこの屋敷から叩き出す権限があることを忘れるな。退け」
説明しても引かなかった使用人に言葉を付け加えたライノは自分で扉をノックして静かに開け中を確認する。
「ライノお兄さま」
「起きなくていい。横になってなさい」
ゴホゴホ咳をしながら起き上がった弟妹を止めたライノは天虎にどうぞと入室を促した。
「苦しそうだね。熱もまだ高いな」
天虎が入ったあと扉を閉めたライノは弟妹が居るベッドに行くと二人の額に手のひらを重ねて熱を確認する。
薄手とはいえ手袋越しでも伝わってくる体温は熱い。
『……重い』
【起きてしまったか】
身体の不快感で目が覚めたブランシュ。
まだ幾らも寝ていないのに目が覚めてしまうほどこの部屋の瘴気は濃い。
『ブランシュ』
『お兄さ……え、なに?お兄さんの前のその黒いの』
『黒いの?』
念話で声が聞こえて声をかけたライノの方を見たブランシュはベッドの上に黒い塊が二つあってビクッとする。
【瘴気だ。病で死を迎えようとしている者はこうなる】
『『死?』』
天虎の話を聞いてパッと弟妹を見たライノ。
まさか二人のことを言っているのか?
【あれは少年の弟妹だ】
『……え!?』
【私が治療をする前に浄化できそうか?】
『うん!』
床に降りたブランシュは走ってベッドに近寄る。
近付いて見れば黒い塊だと思っていたそれは男児と女児の周囲を包むように漂っている黒い霧で、ヒューヒューと苦しそうな呼吸をしながらも自分を見ている二人と目が合った。
『すぐに綺麗にしてあげるね!』
自分よりも小さな子。
ソレイユ領で見た子供たちが苦しむ姿が真っ先に思い浮かんだブランシュはすぐに二人へ手をかざす。
「……わあ」
「綺麗」
瞼を閉じたブランシュの後ろに現れたリュミエール。
二人にリュミエールの姿は見えていないけれど、真っ白な花弁が部屋中を舞う美しい光景に掠れた声を洩らす。
「……ブランシュ」
神や大精霊から愛された祝い子。
花弁が舞い散る光景もブランシュもあまりにも美しい。
弟妹だけでなく私の身と心も浄化されていくのを感じた。
『天虎さん、黒いの消えたよ』
【よくやった。あとは私が変わろう】
『お願い。この子たちを助けてあげて』
【ああ】
ブランシュの隣に移動した天虎が神聖魔法を使うと弟妹の身体の上に黄金色の召喚陣が描かれる。
【病に肉体を蝕まれた幼子に天虎の聖寵を与える】
放たれた眩い光に二人はビクッとして瞼を閉じる。
突然なにが起きたのかと。
「怖がらなくていい。治療してくださってるだけだから。治療が終われば楽になるから、もう少しジッとしていなさい」
聞こえたのはライノの声。
優しいライノの声を聞いて安心した二人は頷く。
温かい水の中に居るような不思議な感覚。
それがとても気持ちがいい。
「……あれ?苦しくない」
「ほんとだ。もう痛くない」
自分の変化に気付いた二人。
息が苦しくて身体中が痛かったのに。
声も普通に出せている。
「二人とももう目を開けていいぞ」
天虎の声で瞼を上げた二人。
さっきまでぼんやりしていた視界も綺麗に見える。
「リーサ、セリノ」
「「お兄さま!」」
ライノと目が合い飛び起きた二人。
息をするのすら苦しそうにぐったりしていた二人が元気に飛び起きたのを見たライノは二人を抱き寄せる。
人と触れ合うことの恐怖心や不快感も忘れて。
「良かった。助かって良かった」
ライノの目に滲む涙。
治療が少し遅れていれば命を落とすところだった幼い弟妹を天虎神とブランシュが救ってくれた。
『天虎神、ありがとうございます。ブランシュ、ありがとう。大切な弟妹を救ってくれてありがとう』
「ライノお兄さま、痛い」
「ぎゅーって」
「ああ、ごめん。二人が元気になったのが嬉しくて」
念話で天虎とブランシュに御礼を伝えたライノは、元気に話す弟妹の声と体温で生きていることを実感して涙を零した。
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