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一章
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しおりを挟む今日も授業で使うかも知れないから朝の内に返しておこうと思って、2年生の教室がある2階への階段をあがる。
「頭が良いんだあ」
そう言えば駒形先生が学年上位と言っていた。
この学校は1年の成績でクラス分けをするから、2・3年生のAクラスは成績が上位の人ばかり。
「すみません。緋色さ、冬川先輩は登校してますか?」
「冬川に用?ちょっと待って」
上級生のクラスを覗くのは気が引けて、Aクラスに入って行こうとしていた男の人に声をかけて緋色さんを呼んで貰う。
「冬川。彼女が来てるよ」
え?彼女じゃないのに。
「彼女?あ、優香」
「おはようございます。体操服ありがとうございました」
ドアまで来て顔を覗かせた緋色さんへ紙袋に入れてきたジャージを渡す。
「わざわざ届けに来てくれたんだ」
「今日も使うかも知れないので」
「急がなくても何枚か持ってるよ」
「あ、たしかに私も持ってます」
言われてみれば。
制服は別として、体操服やジャージは毎回洗濯するから替えを持っている方が普通だった。
「なにかあった?」
「え?」
「顔色が悪い」
「私ですか?具合は悪くないんですけど」
「保健室で休む?連れていくよ?」
「いえ。本当に大丈夫です。ありがとうございました」
緋色さん……顔が近い。
屈んで顔色を伺われ、返事とは裏腹に動揺が隠せない。
父と兄以外の男の人をこんなに近距離で見たことがないから。
「ああ、ごめん。目が悪いんだ」
「そうなんですか」
沢山勉強をして少し視力が落ちてるのかな?
そういう理由なら近くで見るのも仕方ないかと、深い意味はなかったことにホッとした。
「これから教室に行くの?」
「はい」
「教室へ行く前に返しに来てくれたんだ?」
「萌葱さんと昇降口で会ってクラスを教えて貰ったので」
「萌葱が?……そっか。教室まで送るよ」
「え?え?」
私の意思は?
と言う暇もなく手を掴まれて半ば引きずられるように連れて行かれる。
なにか怒らせたのかな。
萌葱さんの話が駄目だった?
訊きたいけど止まらない振り返らない緋色さんの後を手を引かれながら必死について行った。
階段を降りた踊り場で緋色さんは止まると自分の首元を触りながら振り返る。
「今日はこれ着けといて」
「……え?」
「魔除け」
「魔除け?」
「顔色が悪いから」
「パワーストーン的な物ですか?」
「そのような物だと思ってくれたら」
緋色さんが私に見せたのは透明な水晶のような物がついたネックレス。
「私がお借りしても良いんですか?」
「うん。必ずつけておくって約束して」
「えっと、はい。今日は体育がないので大丈夫です」
わざわざ私の首にネックレスをつけてくれた緋色さんはどうしてなのか真剣で、そんなに心配されるほど顔色が悪いのかなと思いながらもありがたく借りておくことにした。
「あの、ありがとうございました」
ネックレスをつけた後また手を掴まれ、結局は教室の前まで送って貰ってお礼を伝える。
「昼休み迎えに来るから」
「え?」
「昨日の約束」
「ああ。持ってきました」
ミートボールを期待して迎えに来るのかと思うと青藍君のようで可愛い。
「頑張って」
「はい。緋色さんも勉強頑張ってください」
これからすぐ授業だからそのことだと思い、私もそう返して緋色さんを見送った。
「私たちの忠告聞いてなかったの?」
スクールバッグをロッカーにしまっていると七海の声がして振り返る。
「忠告って?」
「さっき言ったでしょ!馬鹿にしないで!」
「さっき?……あ、ツトム先輩と冬川先輩に近づくなってあれのこと?」
また5人から取り囲まれてこの場を抜ける方法を考える。
もう絶対に突き飛ばしたりはしないけど。
「どうして七海も真美も本当に好きなら告白しないの?告白しないのに私も近寄ったら駄目ってどうして?ツトム先輩って人は付き合ってる人が居るのか訊かれただけだから接点はないけど、緋色さんとは約束してるから近づかないのは無理だよ」
正直に伝えると久美から思いきり脚を蹴られる。
七海からも髪を引っ張られ昨日の夢の中で見た光景が蘇った。
「調子に乗るなって言ってんだろ!」
「濱名さん!」
「え!……ヤダ!」
誰かに呼ばれて七海の手が緩んだあと乾いた音が教室に響く。
「なにやってんだお前ら!」
怒鳴ったのは下駄箱で声をかけてきたあの男の人。
この人がツトム先輩かと、目の前で見て顔を思い出した。
「なんでクラスメイトが虐められてるのに誰も止めないんだ!どうなってんだこのクラス!」
誰も止めたりしない。
巻きこまれたら面倒だから。
自分たちにまで火の粉が降りかかったら嫌だから。
うん、みんなの気持ちも分かるよ。
「濱名さん大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
あの乾いた音は叩かれた音だったようで、七海は頬を押さえ声をあげて泣いている。
「どうしてここに?」
「居たのはたまたま。冬川の話が耳に入って見に来ただけ」
「緋色さんのこと?」
ツトム先輩が顔を向けた先に居たのは緋色さん。
教室に戻る姿を見送ったのにどうしてまたここに?
「緋色さん。私また何か忘れてましたか?」
「制服も髪もぐしゃぐしゃ」
また忘れ物でもあったのかとドアの所に居る緋色さんの所へ行くと脱いだブレザーをかけてくれて、ぐしゃぐしゃを直してくれているのか頭を撫でられる。
言われて見ればブラウスのボタンは1つ外れているしリボンは千切れているし、自分でもなかなか大変な身なりになっていることに気付いて緋色さんがかけてくれたブレザーで隠した。
「貴方たち集まって何をしてるの?」
教室に入って来たのは担任の本田先生。
みんなが集まっているのを見て泣いている七海の所へ行く。
「誰が泣かせたの?」
「俺です」
「三年の牧君よね。授業が始まるから戻りなさい」
「泣かせた理由は聞かないんですか?授業より先に傍観者しか居ないこのクラスをどうにかした方が良いですよ」
本田先生は少し気の強い女性教師。
牧君と呼ばれたツトム先輩の反論にムッとして立ち上がる。
「下級生を虐めて楽しいの!?退学にするわよ!」
「は?俺は虐めを止めてただけなんですけど。濱名さんがコイツらから蹴られてるのを見て止めに入ったのに退学?」
「本田ちゃん自分のクラスで虐めが起きてることに気づいてなかったんだ?生徒には偉そうなのに恥ず。教師向いてねー」
「なんの理由も訊かずに一方的に牧が悪いって決めつけるとか酷すぎるんじゃないの?それでも本当に教員?」
「自分のクラスの生徒たちがやってることをまず知ってから物言った方が良いよ。説得力ないから」
廊下側の窓から教室の中を見ていた先輩だろう男の人たちは本田先生に言って大笑いをしている。
この人たちは牧君が言われてこんなことを言っているんだからツトム先輩の友人なのかな。
「3年生は教室に戻りなさい!みんなも座って!」
「出た逆ギレ。ウケる」
「駒先に話した方が早い。本田ちゃん逆ギレーゼだし」
「そうする。話すだけ時間の無駄」
「ちょっと待ちなさい!」
「どっちだよ!戻れって言ったり待てって言ったり、教師ならもっとしっかりしろよ!」
凄い。
3年生ってこんなにハッキリ先生にも物申すんだ。
1年生の私には考えられない。
「なんの騒ぎなの!チャイム鳴ってるのよ!?」
騒ぎを聞きつけて来たのは駒形先生。
走って教室に入って来た。
「本田先生これはなんの騒ぎですか!?」
「それが……」
教室や廊下を見渡した駒形先生は本田先生の姿を見て問う。
「駒先。牧が本田先生から虐めっ子扱いされたんだけど」
「どうしてそんなことに!?」
「牧はそこの子が蹴られたり髪を掴んで振り回されてるの見て止めたのに、本田先生はなんの事情も聞かずに上級生が下級生を虐めて楽しいの退学にするぞ。だってさ」
窓の所に居る先輩の一人から事情を聞いて駒形先生は私の前にくると、ぐしゃぐしゃの髪を撫でて表情を強ばらせる。
「もしかして昨日の体操服も虐めだったの?」
「……」
「俺が濡らしたと話したのは嘘です。昼休みに忘れ物を届けに来たら体操服がない話をクラスの子にしていたので、嫌がらせをされたんだと思って貸しました。嘘をついてすみません」
私が黙っていると緋色さんが昨日のことを駒形先生に話す。
「そうだったの。こんなにボロボロになって。しっかり話を訊かずにごめんなさいね」
何も悪くないのに謝ってくれる駒形先生に首を横に振る。
私自身が何も言わなかったんだから先生が気付かなくて当然。
「3年生と冬川君は教室に戻って。事情は私から担任の先生に話しておくから。後で詳しい話を訊かせて貰うからお願いね」
『はーい』
「あの、ありがとうございました!」
駒形先生に返事をして戻ろうとする廊下側に居た先輩たちにお礼を伝える。
「お礼はツトムに言って。俺らは一緒に来てただけだから」
「はい。でも先輩たちもありがとうございました」
あのまま何も言ってくれなければ私を助けてくれたツトム先輩の方が退学にされてたかも知れないから。
「ツトム先輩。ありがとうございました」
「俺の名前知ってたんだ?」
「えっと、はい」
七海たちが呼んでいたから知ったのだけれど。
「駒形先生に全部話した方が良いよ。何をされたのか」
「分かりました」
苦笑しながらも私の頭に軽くポンと手を置いて教室を出て行ったツトム先輩は良い人。
本当に顔も見たことがない人だったけど、本当にあの時のアレが告白だったのかも分からないけど、勝手に告白してきて云々と思ってしまったことが申し訳ない気分だった。
「冬川君も戻って」
「はい。話す前に髪をどうにかしてあげてください」
「うん。心配しないで」
「お願いします。優香、昼休みに迎えに来る」
「はい。あ、これ」
「着ておいて。後で返してくれれば良いから」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて少しお借りします」
借りていたブレザーを脱ごうとすると手を押さえて止められ、後で会った時に返す約束をして2度目の見送りをした。
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