貴方の憎しみ譲ってください

REON

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一章

7

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「沖野先生に来て貰いますから本田先生は生徒からしっかり話を聞いてください。私は濱名さんを保健室に連れて行きます」

駒形先生が本田先生を見る目は厳しい。
本田先生は青白い顔をしていてこちらを見ることはなかった。

「日下先生。この子を診てあげてください」
「はい。え!どうしたの!?」
「念のため全身を確認して貰えますか?蹴られたらしくて」
「蹴られ……分かりました」
「私は先生方に話して来るのでお願いします。後は髪も」
「はい」

保健室の養護教諭は日下先生という優しそうな先生。
突き指をした時にしか来たことがないけど私の名前は知っていたようで「濱名さんここに座って」と椅子に座らされた。

「先に脚の擦り傷を消毒しちゃおうか」
「はい。お願いします」

蹴られたのにどうして擦り切れたのか分からないけど、血が滲んでいる部分を日下先生が優しく消毒してくれる。

「あの、この赤くなってるところ青くなりますか?」
「そうね。何ヶ所かはなりそう」

なったら困るのだけれど。
母に気づかれたら面倒だから。

「脚はタイツを履いちゃえば隠せるわよ?」
「あ、そうですよね。良かった」
「後で購買に行って買って来てあげる」
「ありがとうございます」

良かった。
他の人はまだしも母にだけは見られたくない。

「恥ずかしいかも知れないけど制服の下を診せてくれる?」
「……はい」
「同性でも恥ずかしいよね。ササっと診るだけにするね」
「はい」

恥ずかしいけど病院に行ったと思って我慢。
ベッドのある場所に連れて行かれてカーテンを引いた中で制服を脱ぐ。

「あの、下着は」
「着けてて大丈夫。痣が出来てないかを診るだけだから。背中も診せてくれる?」

渡された薄い毛布で前を隠して背中を向ける。

「脇腹は痛い?」
「少しだけ」
「何ヶ所か赤くなってるね。もう着て大丈夫よ」
「はい」
「先に出て待ってるわね」
「ありがとうございます」

日下先生は気を使って先に出てくれて、本当にすぐ済ませてくれたとホッとしてまた制服を着た。

「ここにどうぞ」
「はい」

制服を着て出ると日下先生が机の所で待っていて、座るように椅子を引いてくれる。

「私のでも良かったら鏡とブラシ使って?」
「ありがとうございます。お借りします」

酷い髪。
緋色さんがぐしゃぐしゃと言ったのも分かる。
鏡に映った自分の髪型の酷さを見てこんな姿を見られたのかと少し恥ずかしくなった。

「そのブレザーはクラスメイトの?」
「緋色さ、冬川先輩が貸してくれました」
「冬川……ああ、学年トップの子」
「え?学年トップなんですか?」
「うん。2年生の綺麗な顔をした大人しい子でしょ?」
「はい。綺麗な人です」

Aクラスだから上位者だとは分かってたけど学年トップ。
なにか勉強のコツでもあるのかな。
お昼休みに訊いてみようかな。

「あれ?でも濱名さんは1年生よね」
「はい」
「どうして冬川君のブレザーを?」
「蹴られてた場に居て」
「え!冬川君が蹴ったの!?」
「違います!一度教室に戻ったけどまた戻って来たみたいで」

どういうこと?と首の傾きで問われて、おかしな勘違いをされては大変だから昨日ジャージを借りて返しに行った時からのことを説明した。

「そうだったの。たまたま居合わせた牧君が間に入って止めてくれて、冬川君もブレザーを貸してくれたと」
「はい。これなのでお言葉に甘えてお借りしました」

ブレザーの前を開いて制服を見せる。
ブラウスのボタンが1ヶ所なくなって下着が見えているからこのままでは授業に出られない。

「タイツと一緒にブラウスも買って来るね」
「ありがとうございます。助かります」

優しい先生で良かった。
借りたブレザーで隠しながら歩かずに済む。

「失礼します」
「どうぞ」

ノックの音と駒形先生の声がして日下先生が迎え入れる。

「どう?どこか痛いところはない?」
「はい。大丈夫です」

日下先生が私の前に移動させた椅子に駒形先生が座る。

「日下先生。濱名さんの怪我はどうでしたか?」
「脇腹と腹部と二の腕と脚に痣が。脇腹が特に酷いです」

痣の位置をメモしていたようで、日下先生は身体の位置に印をつけた紙を駒形先生に見せて説明した。

「ご両親に連絡して病院に行こうか」
「両親は止めてください!」

絶対にそれだけは嫌。
母親にだけは知られたくない。

「でも虐めがあったのならご両親にもご報告を」
「母に知られるくらいなら虐めの方が良いです!」

七海たちから虐めを受ける方がまし。
母からは私が責められるだけだと目に見えているから。
肉体的な痛みより精神的な痛みの方が辛い。

「「…………」」

駒形先生と日下先生は私の様子を見て顔を見合わせる。
先生たちが心配してくれていることは分かるし、学校で起きた虐めの事実を揉み消そうとせずにいてくれることもありがたいけど、私には他の何よりも母に知られることが嫌。

「お母さんと何かあったの?」
「何もありません」

本当に何もない。
私をに入学させることに必死なこと以外は何も。
それ以外の私には興味を示さないどころか煩わしく感じていると思う。

母の自慢は兄だけ。
私は母の

「じゃあご両親の話は一旦置いておいて、教室で何があったのかを教えてくれる?ゆっくりで良いから」

それには答えられる。
昨日の体操服のこと、放課後にも蹴られたこと、手(足)を出されたきっかけはツトム先輩に声をかけられたからだったこと、今日蹴られたきっかけは緋色さんと話したからだったこと。

間で駒形先生に質問されながら今までの経緯を正直に話した。

「……そんなことで虐めを」
「多感な年齢ではありますが」

先生たちにとっては虐めのきっかけが一番衝撃だったようで困惑の表情を浮かべている。

「元から私が気に入らなかったんだと思います」
「濱名さんを?」
「塾に通っていて母が迎えに来たりするので」
「……」
「放課後は塾があるから遊べないし、元々独りで本を読むことが好きなので、みんなと違うからなんじゃないかと思います」

七海たちの気持ちも分からなくはない。
常にグループになって行動している七海たちには独りでいる私が異色に見えるのだと思う。

群れて同調して同情して。
それがだから。
でも私にはそれがない。

「気付いてあげられなくてごめんね」
「いいえ。ありがとうございました」

こうしてしっかり聞いてくれただけで充分。
母だったら話を遮り虐められる私が悪いと言うだろうから。

「タイツとブラウスを買って来るから待っててね」
「ありがとうございます」
「タイツ?」
「脚に痣があるので見えないように」
「ああ、そうよね。そういうところに私は気が利かなくて。日下先生が居てくれて良かった」

私も良い先生がいてくれて良かった。
駒形先生も日下先生も優しい。

「授業はどうする?戻りたくないなら無理しなくても」
「出ます。勉強が遅れてしまいますから」
「大丈夫?辛くない?」
「はい。遅れを取り戻す方が辛いです」

母に小言を言われてしまう。
数分の遅れが命取りと言う人だから。

「濱名さんのクラスは1時限目HRになったの」
「え?数学はどうなるんですか?」
「次回のHRに。だから出るなら2時限目からね」
「そうですか。分かりました」

良かった。勉強が遅れずに済む。
真面目に勉強に取り組んでるクラスメイトまで巻き込んでしまって申し訳なかったけど。

「あの、七海たちは」
「相談室で堀田先生と話してる」
「堀田先生と」

堀田先生は学年主任の男性教師。
規則に厳しい先生で少し怖い。

「何かあれば先生に話してね。話しやすい先生で良いから」
「はい。ありがとうございます」
「先生たちも話し合うけど濱名さんも無理をしたら駄目よ」
「分かりました」

いま七海たちも堀田先生から注意を受けてるけど、もしまだ続くようであれば必ず話すと約束をして、今回だけは両親に連絡をしないと言ってくれて安心した。

1時限目が終わるまで日下先生と駒形先生と話をして、買って来てくれたタイツを履いて新しいブラウスに着替え、心配してくれる先生たちに感謝を伝えて教室に戻る。

私な教室に入ると休み時間の喧騒が一瞬で静かに。
多分そうなるとは思っていたから気にせずそのままロッカーの前に行って、緋色さんから借りたブレザーをしまった。

まだ七海たちは戻ってない。
堀田先生とまだ話してるのかな。
そう考えながら席につき授業の準備をしてから読書を始めた。


そのまま授業に出てお昼休み。
七海たちは戻って来ないままお昼休みになってしまった。
クラスメイトも遠巻きに見てるだけで近寄って来ない。

あ、それはいつものことだった。
ここまで避けられたのはさすがに初めてだけど、用がないと話しかけられないのはいつものこと。

「優香」

授業の道具を片付けていると名前を呼ばれる。
ドアの前に居たのは緋色さん。
そう言えばお昼休みに迎えに来ると話していた。

「少し待ってください」

慌てて教科書などを片付けてロッカーの中から借りたブレザーとお弁当箱を出す。
今日のミートボールは少し自信作。
昨日よりは美味しく出来たと思うから、萌葱さんと青藍君も喜んでくれると良いけど。

「これ先にお返しします。ありがとうございました」

二つのお弁当を抱え先にブレザーを緋色さんに渡していると、狙ったようなタイミングで七海たちが戻って来てかちあう。

「優香、行こう」
「あ、はい」

これはわざと……かな?
七海たちを睨むように見た緋色さんは私の腕からお弁当箱を取ると、一緒に手も取って歩き出す。

こうして牽制してくれたんだろうけど少し恥ずかしい。
兄と父以外の男性と手を繋いだことがないから。

手汗かいちゃってないかな。
濡れてて気持ち悪くないかな。
温かいな。大きいな。

気になるのは自分の手を掴んでいる大きな手のことばかりで、少し速い速度で歩く緋色さんの後を必死に着いて行った。

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