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一章
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しおりを挟む「クロちゃん」
屋上に着いてドアを開けるとクロちゃんがいて緋色さんはパッと手を離す。
「身軽」
クロちゃんが軽快に肩へ飛び乗ると緋色さんはクロちゃんの身体を撫でた。
「優香ちゃん」
「こんにち……どうしたんですか!?」
昨日と同じ場所にシートを敷いて座っていた2人。
萌葱さんに挨拶をしながら青藍君の姿が目に入って驚く。
「木登りしたら落ちたみたい」
「大丈夫なんですか!?」
「うん。低いところだったから平気」
青藍君の顔はガーゼがしてあって腕にも包帯が巻かれている。
「青藍君大丈夫?痛いよね」
「大丈夫。このくらいすぐ治る」
「そっか。強いね。でも無理しないでね」
姿を見る限り大丈夫には見えないけど。
「それより肉は?」
「あ、作って来たよ。沢山食べて早く治してね」
緋色さんは昨日と同じ位置に座るとお弁当箱を私の前に置く。
それを青藍君から期待の眼差しで見られながら二つのお弁当箱を開いた。
「こんなに作って来てくれたの?大変だったでしょ」
「昨日より少し美味しく出来たから恥ずかしながら張り切って詰めてきてしまいました」
そう説明すると萌葱さんと青藍君は笑う。
上手く出来たから沢山詰めてきたなんて、今更だけど自慢したかったかのようで少し恥ずかしい。
『いただきまーす!』
来るのを待っていてくれたのか、萌葱さんも青藍君と食べるお弁当を開いた後にまずは私が作って来たミートボールを食べてくれる。
「美味い!」
「うん。美味しい」
「良かった」
喜んで貰えて嬉しい。
今まで自分のためにしか作ったことがないから人に食べて貰えることが嬉しかった。
「あの、緋色さんも良かったら」
「ありがとう」
あれ?また無口に。
慣れて話してくれるようになったんだと思ってたのに、緋色さんは昨日ここで会った時のように言葉数が減ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ。緋色さん、食べる時はこの楊枝を使ってください」
萌葱さんに訊かれて首を横に振る。
無口ですねなんて言えない。
食事や休憩中は静かにしていたいタイプなのかも。
その人のリズムがあるんだから訊くのは失礼だよね。
一緒に誘って貰えただけで充分。
「はい。優香の」
「くれるの?ありがとう」
「肉のお返し」
青藍君の今日のお菓子は長い棒のようなゼリー。
青藍君は子供らしく駄菓子が好きなのかな。
「これもどうぞ」
「ありがとうございます」
「クッキーも食べてね」
「いただきます」
萌葱さんからは紙皿に置かれたクッキー。
ポットから注がれた飲み物も渡される。
「……紅茶?」
「そう。本当はテーブル用意して優雅なティータイムしたいけど、緋色から止めろって言われてるからこんなダサい魔法瓶」
学校の屋上で優雅なティータイム。
想像してみたら場所に似つかぬ光景で、楽しいことを考える人だなと笑った。
「あ。緋色こっそり食べた」
青藍君の声で緋色さんを見ると楊枝を片手に口がもぐもぐ動いている。
「お口に合いますか?」
大きくコクンと頷かれて嬉しくなる。
こうして無口な時の緋色さんの空気もやっぱり心地好い。
作って来て良かった。
「あ、行かなきゃ」
楽しい時間は過ぎるのが早い。
チャイムを聞いてお弁当箱を片付ける。
「優香、明日も来る?」
「良いの?」
「来て欲しい」
片付ける私をジッと見る青藍君。
何度もお邪魔するのも悪いかなと萌葱さんを見ると「おいで」と頷いてくれた。
「じゃあ明日はミートボール以外のお肉料理を作って来るね」
「絶対だぞ!約束!」
「約束」
小指を絡めて約束を交わす。
何か事情があってお姉さんの萌葱さんとここで食べているのだろうから他人が混ざるのは新鮮味があるのかなと、ニッコリ笑う青藍君に笑顔で答えた。
ごめんね。約束守れなくて。
AM4:04
貴
方
の
憎
し
み
譲
っ
て
く
だ
さ
い
「……本当にあった」
4時4分ジャスト。
3時台までにアクセスした時には『404 Not Found』と出ていたのに、4時4分にアクセスしたらクラスメイトが話していた通り『貴方の憎しみ譲ってください』と画面に映った。
「リンクはどこ?」
マウスを動かしてメールフォームのリンクを探す。
どこ?
どこにあるの?
カチカチカチカチ。
あらゆる所をクリックしてみるけど反応はない。
〝選ばれた人の時だけリンクが〟
私じゃ駄目なの?
私の憎しみじゃ貰ってくれないの?
カチカチカチカチ。
真っ暗な部屋でクリックし続ける。
どこ?
どこなの?
「……貰ってよっ!」
ピ────────。
キーボードを叩くと音がしたと同時に画面には文字とメールフォームが映る。
「……あった!」
ようこそ迷い子さま。
人生は順調でございますか?
よろしければ手前どもに深い憎しみの一つでも話してみませんか?
なにも怖いことはありません。
手前どもは貴方の憎しみを失くしてさしあげたいのです。
代価は貴方が話す〝憎しみの質〟次第。
貴方の憎しみ譲ってください。
そんな言葉の下にあるメールフォーム。
とても奇妙なメールフォームで本文を打つ場所しかない。
「……憎しみを譲るには代価が必要ってこと?」
それでも。
取り憑かれたように私は憎しみを書いた。
虐め?
どうでも良い。
母が嫌い?
どうでも良い。
そんなのはどうでも良いの。
私の憎しみはそんな物じゃない。
お願い。
私の憎しみを貰って。
貴方が誰でも良いから。
私の憎しみを譲る。
送信。
ピ────────。
『貴方の憎しみ承りました』
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