貴方の憎しみ譲ってください

REON

文字の大きさ
8 / 46
一章

8

しおりを挟む

「クロちゃん」

屋上に着いてドアを開けるとクロちゃんがいて緋色さんはパッと手を離す。

「身軽」

クロちゃんが軽快に肩へ飛び乗ると緋色さんはクロちゃんの身体を撫でた。

「優香ちゃん」
「こんにち……どうしたんですか!?」

昨日と同じ場所にシートを敷いて座っていた2人。
萌葱さんに挨拶をしながら青藍君の姿が目に入って驚く。

「木登りしたら落ちたみたい」
「大丈夫なんですか!?」
「うん。低いところだったから平気」

青藍君の顔はガーゼがしてあって腕にも包帯が巻かれている。

「青藍君大丈夫?痛いよね」
「大丈夫。このくらいすぐ治る」
「そっか。強いね。でも無理しないでね」

姿を見る限り大丈夫には見えないけど。

「それより肉は?」
「あ、作って来たよ。沢山食べて早く治してね」

緋色さんは昨日と同じ位置に座るとお弁当箱を私の前に置く。
それを青藍君から期待の眼差しで見られながら二つのお弁当箱を開いた。

「こんなに作って来てくれたの?大変だったでしょ」
「昨日より少し美味しく出来たから恥ずかしながら張り切って詰めてきてしまいました」

そう説明すると萌葱さんと青藍君は笑う。
上手く出来たから沢山詰めてきたなんて、今更だけど自慢したかったかのようで少し恥ずかしい。

『いただきまーす!』

来るのを待っていてくれたのか、萌葱さんも青藍君と食べるお弁当を開いた後にまずは私が作って来たミートボールを食べてくれる。

「美味い!」
「うん。美味しい」
「良かった」

喜んで貰えて嬉しい。
今まで自分のためにしか作ったことがないから人に食べて貰えることが嬉しかった。

「あの、緋色さんも良かったら」
「ありがとう」

あれ?また無口に。
慣れて話してくれるようになったんだと思ってたのに、緋色さんは昨日ここで会った時のように言葉数が減ってしまった。

「どうしたの?」
「いえ。緋色さん、食べる時はこの楊枝を使ってください」

萌葱さんに訊かれて首を横に振る。
無口ですねなんて言えない。

食事や休憩中は静かにしていたいタイプなのかも。
その人のリズムがあるんだから訊くのは失礼だよね。
一緒に誘って貰えただけで充分。

「はい。優香の」
「くれるの?ありがとう」
「肉のお返し」

青藍君の今日のお菓子は長い棒のようなゼリー。
青藍君は子供らしく駄菓子が好きなのかな。

「これもどうぞ」
「ありがとうございます」
「クッキーも食べてね」
「いただきます」

萌葱さんからは紙皿に置かれたクッキー。
ポットから注がれた飲み物も渡される。

「……紅茶?」
「そう。本当はテーブル用意して優雅なティータイムしたいけど、緋色から止めろって言われてるからこんなダサい魔法瓶」

学校の屋上で優雅なティータイム。
想像してみたら場所に似つかぬ光景で、楽しいことを考える人だなと笑った。

「あ。緋色こっそり食べた」

青藍君の声で緋色さんを見ると楊枝を片手に口がもぐもぐ動いている。

「お口に合いますか?」

大きくコクンと頷かれて嬉しくなる。
こうして無口な時の緋色さんの空気もやっぱり心地好い。
作って来て良かった。


「あ、行かなきゃ」

楽しい時間は過ぎるのが早い。
チャイムを聞いてお弁当箱を片付ける。

「優香、明日も来る?」
「良いの?」
「来て欲しい」

片付ける私をジッと見る青藍君。
何度もお邪魔するのも悪いかなと萌葱さんを見ると「おいで」と頷いてくれた。

「じゃあ明日はミートボール以外のお肉料理を作って来るね」
「絶対だぞ!約束!」
「約束」

小指を絡めて約束を交わす。
何か事情があってお姉さんの萌葱さんとここで食べているのだろうから他人が混ざるのは新鮮味があるのかなと、ニッコリ笑う青藍君に笑顔で答えた。







ごめんね。約束守れなくて。





AM4:04




            貴
            方
            の
            憎
            し
            み
            譲
            っ
            て
            く
            だ
            さ
            い






「……本当にあった」

4時4分ジャスト。
3時台までにアクセスした時には『404 Not Found』と出ていたのに、4時4分にアクセスしたらクラスメイトが話していた通り『貴方の憎しみ譲ってください』と画面に映った。

「リンクはどこ?」

マウスを動かしてメールフォームのリンクを探す。

どこ?
どこにあるの?

カチカチカチカチ。
あらゆる所をクリックしてみるけど反応はない。

〝選ばれた人の時だけリンクが〟

私じゃ駄目なの?
私の憎しみじゃ貰ってくれないの?

カチカチカチカチ。
真っ暗な部屋でクリックし続ける。

どこ?
どこなの?


「……貰ってよっ!」


ピ────────。


キーボードを叩くと音がしたと同時に画面には文字とメールフォームが映る。

「……あった!」


ようこそ迷い子さま。
人生は順調でございますか?
よろしければ手前どもに深い憎しみの一つでも話してみませんか?

なにも怖いことはありません。
手前どもは貴方の憎しみを失くしてさしあげたいのです。
代価は貴方が話す〝憎しみの質〟次第。

貴方の憎しみ譲ってください。



そんな言葉の下にあるメールフォーム。
とても奇妙なメールフォームで本文を打つ場所しかない。

「……憎しみを譲るには代価が必要ってこと?」

それでも。
取り憑かれたように私はを書いた。

虐め?
どうでも良い。

母が嫌い?
どうでも良い。

そんなのはどうでも良いの。
私の憎しみはそんな物じゃない。

お願い。
私の憎しみを貰って。

貴方が誰でも良いから。
私の憎しみを譲る。

送信。





ピ────────。









『貴方の憎しみ承りました』


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...