貴方の憎しみ譲ってください

REON

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二章

2

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「失礼します」

誰も居ない家に一度帰って制服に着替えてから学校に行ってまず職員室へ行く。

「牧君?珍しいね。遅刻?」
「はい。申し訳ありません」
「顔色が悪いな。寝不足か?」
「眠れなくて」

遅刻した生徒が書く名簿に名前を記入していると鎌田先生と女性教師の原田先生から話しかけられて答える。

「辛かったら少し保健室で休め」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「今無理して体調を崩したら勉強どころじゃなくなるわよ?」
「本当に辛い時は休ませて貰います」

腫れ物に触るような2人。
全校集会であんな姿を見せたから精神的にも大丈夫なのかと気にかけてくれてるんだろう。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。休み時間の間に授業の準備をしたいので失礼します」

罪悪感で逃げるように職員室を出る。
先生たちは俺が寝ていない理由が不埒な行為をしていたからだとは思いもしないだろう。

「おはよう」
「あ。おはよ。サボりかと思った」
「いやさすがに。単位落とす」

トイレに行っていたのか優弥が手を洗っていて挨拶を交わす。

「寝不足?」
「まあ」
「もしかしてツトムも4時4分にアクセスした?」
「いや。俺はしてない」
「違うのか。だから寝不足で遅刻したのかと思った」

4時4分にはミルクと行為の真っ最中。
と言うよりついさっきまでずっと真っ最中だったけど。

「お兄さんはアクセスしたのかな」
「多分。昨日省吾と話してたし」
「リンクあって送ってたりして」
「………」
「ごめん。冗談がすぎた」
「いや。俺もあったらどうするんだろうってふと思った」

もしお兄さんがアクセスしてリンクがあったら。
ただの愉快犯が作ったんだろうとは思うけど、もし本当にリンクがあったらお兄さんは書きこむんだろうかと。

「おはよう。来たか」
「お寝坊さん。おはよう」
「おはよう」

優弥と話しながら教室に入ると俺の席に正樹が座っていて、登校してきたことに気づいて省吾と歩いてきた。

「寝てないのか?」
「寝不足。寝付きが悪くて」
「あー、あれだ。朝まで寝れなくていざ寝たら寝坊」
「そんな感じ」

2人にも最初に指摘されたのは寝不足のこと。

「そんな分かるほどクマが出来てるか?」
「クマは分からないけど疲れてる感じがする」
「ああ。それで」

授業道具を出したスクールバッグをロッカーに仕舞う。

「朝まで勉強してたとか?」
「21時頃に和美たちから呼ばれてカラオケに行って」
『行って?』

こんな時だけ息ピッタリに詰め寄る3人。
どうして俺は同性から壁ドンされているのか。

「帰ってから勉強してた」
「つまらない!ツトムそんな青春で良いのか!?」

なんだと言うように興味を失くした正樹と省吾。
優弥は力強く青春を語る。

「ツトム」

熱い優弥の話は聞き流しながら自分の席に座ると、いつの間に来ていたのか和美から声をかけられた。

「昨日のことなんだけど」

返事を返さずにいると和美もそのまま無言になる。

「……廊下で話そ?」
「悪いけど今は話したくない」

本人に事実を聞いた上での謝罪なのか、何をしたんだとまた訊くつもりなのか知らないけど、今は平気な顔で椎名さんの話が出来る気がしない。

「でも椎名、学校休んでて」
「だから俺が何かしたんだろって?」
「理由を話してくれなくて」
「じゃあ言いたくないんだろ」
「そんな言い方」
「だから今は話したくないって言っただろ!」
『ツトム!』

腹立たしくて声を荒らげた俺を省吾たちが止める。
だから今は話したくないと先に断ったのに、しつこく続けた和美より俺の方が悪いと言うのか。

「ツトム濱名さんが死んでからおかしいよ!」
「は?」
「黒峰さんゼミで変人って呼ばれてるって言ってた!」
「ミルクの悪口言うな!お前には関係ないだろ!」
「あの人と付き合っておかしくなったんじゃないの!?」
「立沼やめろ!」

俺が省吾たちから押さえられているのを良いことにミルクのことまで言い出した和美を優弥が怒鳴る。

「これ以上俺の友達を傷つけるな!」

優弥が女子に怒った。
その事実で俺の熱は一気にさめる。

「何があったのか知らないけど、それじゃなくても傷ついて立ち直ろうと頑張ってるツトムをこれ以上傷つけないでくれ。立沼の言い方まだツトムに未練があってヤキモチを妬いてるようにしか聞こえない。ヤキモチで人の悪口を言うとか最低だ」

和美は優弥からそう言われると教室から走って出て行った。

「ちょっと。優弥が善いこと言った。雪が降る?」
「無駄な努力してる胸が背中にあたってるから」
「だからパット入れてないって!」

省吾の背中にはり付いたのは白井。
他にもまた白井の友達が集まってくる。

「ありがとう。ごめん。ついカッとした」
「珍しいね。ツトムがキレるの」
「キレたくないから今は話したくないって断ったんだけど」

場を和ませようとした白井に謝って椅子に座る。

「優弥もありがとう」
「いや俺もカッとして余計なことまで言った気が」

今更になって言いすぎたと後悔したのか、落ちこむ優弥を白井の友人たちがイイコイイコと頭を撫でる。

「言いたくないなら良いけど昨日何があったの?」
「ストレートに訊くか!」
「捻りないな!」

省吾の背中にはり付いたまま訊いた白井に、優弥の膝に座った友達2人が即座にツッこむ。

「いやだから言いたくないなら良いけどって言ったじゃん。でもツトムが椎名さんに悪いことするとは思えなくて。ツトムって基本は塩対応だけど酷いことするような奴じゃないし」
「ああね。それは分かる」
「意外と正義感が強いしね。塩なのに」

塩対応と思われてたのか。
それは気づかなかった。

「俺にも悪い部分はあったと思う。ただ、それって俺が悪いのか?とも思ってる」

心配してくれているのに黙っている訳に行かず、ミルクは巻き込みたくないから〝知り合い〟というだけの立場に変えて昨日カラオケに誘われてからのことを話した。

「……それは腹立つな。さすがに」
「ない。それは駄目だ。女子には神対応の俺でも怒る」
「女子から助けてなんて言われたらね。嘘ならキレる」

省吾たちは話を聞いて大きな溜息。
自分だったらと考えると『ない』と思ったようだ。

「早く訊いて振れば良かったのに」
「濱名さんのことで目一杯だったから」
「ああ……そうだよね。ごめん」
「ううん」

白井の友達の言う通り。
放課後に話があると言われた時に聞いて断っていればこんなことにはならなかったと思う。

「行かないって断ったんでしょ?」
「うん。取り繕うのは止めようと思って行かないって言った」
「きっぱり断られたからツトムの性格的に言えば来るだろう嘘をついたんだろうね」

きっとそういうこと。
意地でも来させるための嘘。
そんな嘘で呼ばれて平気な顔で話なんて聞けなかった。

「ところでミルクさんって可愛い名前だね。あだ名?」

しみじみ語るように話したことはもう良いのか、白井の話が突然ミルクのことに変わって省吾が噎せる。

「あ、チャイム」
「うぬ。これで追求から逃げられたと思うなよ」
「早く席に行け」

悔しがる白井を省吾が押して、正樹と優弥も笑いながら自分の席に戻って行った。

「牛乳は猫じゃなかったのか」
「猫だって。黒猫」
「………」
「悪かった。でも俺のことにミルクを巻き込みたくない」
「認めるなら良い。ただ、隠したいなら白井たちにはせめて知り合いより具体的な従姉妹とか言っておば良かったと思う」

確かに。
今更なんの役にもたたない忠告をした省吾は笑いながら前を向いて授業の準備を始めた。





その後は和美も来ることなく放課後。

「今日も行くんだろ?」

スクールバッグを出していて省吾から訊かれたそれに一瞬躊躇する。

「行かないのか?」
「いや……行きたい」

濱名さんに線香はあげたい。
でもお兄さんに会うのが気まずい。
濱名さんの面影をお兄さんに見てあんなことを。

いや、本当にそうだったんだろうか。
もし濱名さんが自分の目の前にいてあんなことをするかというと絶対に出来ない。
俺にとって濱名さんは恋焦がれた存在だから。

正直今だって現実を受け入れるのが怖い。
線香をあげさせて貰って現実と向かい合おうとしてるけど、目が覚めて全部夢だったら良いのにと思う。

「どうする?」
「……行く」

自分がどうしたいのか分からない。
濱名さんに恋焦がれて、お兄さんに焦れて、ミルクを抱く。
考えるほど最低だと思うけど頭と身体が伴わない。
3人にとって俺は迷惑な奴でしかない。

せめて濱名さんを見送るまで。
それが変わらない現実なら俺も彼女を見送りたい。


今日も事故のあったバス停は避けて濱名さんの家に行く。

「どうぞ」

迎えてくれたお兄さんの顔は青白い。
昨日よりも遥かに。
省吾たちも見てすぐに気づいたようで、大丈夫かと不安そうな表情をしていた。

「いつもありがとう。でも今日で最後」

線香をあげたあと今日も隣の部屋に飲み物とお菓子を用意してくれていたお兄さんは、濱名さんの棺を見ながらそう言って俺を見る。

「明日がお葬儀。先生方からもう聞いた?」

何も聞かされていなかった俺たちは首を横に振る。

「そっか。きっと帰りまでに間に合わなかったんだね。俺もついさっき母親から連絡が来て知ったんだけど」

両親は葬儀のことで忙しいと話していたから慌しく決めてしまうような理由があるんだろうけど、もうその日が来てしまったのかと棺を見る。

結局現実は受け止められないまま。
まだお兄さんを見ると濱名さんの面影を重ねて生きているのではと思ってしまう。

「……棺の傍に行っても良いですか?」
「うん。ゆっくりお別れしてあげて」

お別れなんて出来るだろうか。
そう思いながら濱名さんの棺の傍に座る。

「濱名さん」

この中に濱名さんは居ないんじゃないか。
ただの空の棺なんじゃないか。
本当は生きているんじゃないか。
声をかけても返らない返事にそう思う。

やっぱり俺は濱名さんが好きだ。
告白さえも出来なかった根性なしだけど、出会ってからずっと恋焦がれた。

断られても言えば良かった。
濱名さんがどうして。
今でもそう思う。

現実から逃げてるだけ。
現実から目を逸らしたくてあちらこちらを見てるだけ。
きっと今の俺はその状態なんだと思う。

「濱名さん。好きです」

今更な告白。
起きて返事をして欲しい。
断って良いから目を開けて欲しい。
濱名さんが生きていてくれるならそれだけで良いから。

返事は返らない。
返って来るはずもない。
こんな気持ちのまま明日濱名さんを見送らなくてはいけない。

何か心残りはないだろうか。
いや、突然こんなことになったんだから心残りばかりかも知れないけど。

どうして濱名さんが。
悪い奴は沢山居るのに。
……どうして。

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