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二章
【功(つとむ)】・開1
しおりを挟む駅まで走って息を切らせながら周囲を見渡す。
まだ終電前の構内は明るくて人の往来も多い。
ホテルを出て送ったメッセージには返信がなかった。
これだけ明るくて人も多い中で騒動が起きている様子はなく、駅から外に出て逃げたのかと思いながら整わない呼吸のまま再びメッセージで『どこに居る?』と送る。
俺が来ると言って待たせたから。
椎名さんにもし何かあったら俺のせいだ。
最初から行かないと断っておけば椎名さんは怖い思いをせずに済んだのに。
スマホの画面を今か今かと見ているとカラスの大きな鳴き声が構内に響き渡り、驚いて鳴き声のする方を振り返った。
「椎名さん!」
柱の向こうで真上にいるカラスを見上げていた椎名さんを見つけて駆け寄る。
「大丈夫!?変な人たちは!?」
椎名さんの傍には誰もおらず周囲を見渡したけれど、歩いている人は男性も女性もこちらを見ることさえなく帰宅時間真っ最中の人たちにしか見えなかった。
「……どういうこと?変な人に絡まれて隠れてたんだよね」
「もう居なくなったから」
「まっすぐ俺の目を見て言えよ」
騙された。
取り繕うような言葉と気不味い様子で気付く。
「一度は約束したのにやっぱ行かないって意見を変えたことは申し訳ないと思う。でもこんな嘘をついて強引に来させるとか何を考えてんの?これが椎名さんじゃなくてもクラスメイトから怖い助けてって連絡が来たらそれは来るよ。馬鹿みたいに全力で走って来るよ。……信じて心配した俺が馬鹿だった」
話すほど苛立ちは増す。
本気で心配して走った自分が馬鹿みたいだ。
こんな狡い嘘はない。
「俺の番号今すぐ消して。俺も履歴から消すから」
「牧君!」
「消せって!」
手に握ったままだったスマホから椎名さんの番号の履歴を目の前で削除する。
「人の優しさを利用した嘘をつくなんて最低だ。軽蔑する」
「牧君待って!」
「もう二度と話しかけるな」
冗談で済まされる嘘じゃない。
心配だったからこそ、その嘘が許せなかった。
追いかけて来ようとする椎名さんを走って振り切った。
ホテルに戻りながら手の中のスマホが鳴る。
まだ消してないのかと腹立ちながら無視していると一旦切れてまた鳴り出す。
電源を落とそうと見ると画面に出ていた名前は和美。
舌打ちして通話にする。
『ツトム?』
「なに」
『今どこ?』
「なんで」
『椎名から泣きながら連絡来たんだけど』
「ふーん」
だからなんだと言うのか。
ホテルに向かう脚は止めることなく返事をする。
『何をしたの?椎名に』
「されたのは俺の方だ。二度と俺の番号を勝手に教えるな」
言いたかったそれだけ伝えて通話を切り電源を落とした。
泣かせた俺が悪いのか。
嘘をつかれて怒った俺が悪いのか。
それでも俺が悪いと言うなら好きなだけ言ってれば良い。
ホテルに戻って部屋をノックする。
待っていてくれてるだろうかと少し不安になりながら。
1度目のノックでは反応がなくて2回目は少し長めにノックすると、カチャと音をたててドアが開いた。
「お帰りツトム」
良かった。
待っていてくれた。
「思った以上に早かっ」
バスローブ姿のミルクの何かを言いかけていた口を口で塞ぐ。
「……そうなんだ。良いね。気持ちいいよ」
離れた口から短い笑い声を洩らしたミルクはそんなことを言うと俺の両頬に手を添えてキスをした。
なんだろう。クラクラする。
ミルクからする香りに。
深く舌を絡ませるほどその香りは強くなる。
「気持ちいいよツトム。もっとちょうだい」
艶めかしい黒猫。
濡れた口唇を笑みで歪ませる。
「もっと。足りない」
俺の首に腕を絡ませた身体を抱きあげてベッドに下ろす。
「僕の中に全部吐きだしなよ。ツトムのその醜い凝り。僕が最後まで全部食べてあげるから」
噎せ返るような香り。
この猫は俺の醜い部分を全て受け止めてくれるんだと、何故かそんなことを思った。
・
・
・
「ツトム。学校に行く時間だよ」
「うん」
返事はしたものの腕の中に居るミルクを離したくない。
「学校は行かなきゃ……ん、また」
身体を動かして抜かれてしまったものを再び入れなおす。
「ミルク」
「君は一度出てもすぐ僕の中に戻って来るね」
本当に。
自分でもよくやると思う。
でもどれだけやってもまだ足りない。
「僕の中、君の形になりそうだよ」
「なって欲しい」
そう本音を洩らすとミルクはあしらうように笑う。
「……結婚できる?」
「え?」
「俺もう少しで18になるから」
「結婚って……え?」
驚いたのか中がキュッと締まって肌が粟立つ。
奥まで入れてゆっくり引くと吸いつくように締まって口からは浅い呼吸が洩れる。
またクラクラする。
一晩中休むことなく不埒な行為を繰り返して何度この香りを感じたか。その度に俺は夢中で白く細い身体を組み敷く。
背後からの行為ではミルクの顔が見えない。
それがもどかしいけど、切なそうな鳴き声を聞くだけでも感情は昂って止められない。
汗ばんだ白い背中と部屋に響く濡れた音。
一晩中入っていても、狭い中を行き来する度に黒猫は鳴き声をあげる。
「ミルク」
「僕の中に全部出しなよ。ツトムはもう僕のものになったんだから。ちゃんと全部食べてあげる」
そんなことを言うからちっとも優しく出来ない。
優しくしたい気持ちはあるのに止められない。
噎せ返るような香りで目眩がする。
汗ばんだ首筋を甘噛みして一番奥で欲求を吐き出す。
もうこれで何度目だったか。
あまりにも長い時間の出来事で覚えていない。
「ミルク」
身体を自分の方に向かせて柔らかい口唇にキスをする。
一晩中しているからか、もうその口唇の感触も舌の感触も口が覚えている。
「もう終わりだよ。学校」
またミルクは身体を動かして自分の中から抜く。
「垂れてきた」
「当たり前だよ。何回出したと思ってるんだ君は」
顔の前にある白い太腿。
そこを俺が吐き出した醜いものが伝って行く。
「ねえ。結婚しよう」
艶めかしい太腿を伝うそれを指先で辿りながら言うとまたミルクは「え」と洩らす。
今中に入っていたらまた締まったのだろうかと思う俺はどうにかしてる。
「大学生なら結婚できる年なのは確かだよね」
「いや色々と過程をぶっ飛ばしてるけど何で急に?」
「これ」
「んっ……これって?」
太腿を伝うそれを指先で掬うようになぞって中に戻す。
逆に中にあったものが出てきてしまってゆっくり指を動かすと生々しい水音がする。
「出ちゃうよ。せっかく中にあるのに」
「また出す」
「待った待った!学校の時間だって!」
「学校よりここの中に行きたい」
「オジサンか君は!」
簡単に組敷けてしまうミルクの身体。
脚を持ち上げて見えているそこに先を擦り寄せると「こら」と怒られた。
「結婚しよう?俺が18になったら」
「だからなんで結婚なの?」
「散々出したから。中に」
「……もしかして責任とるとか考えてる?」
「出来ると思う。これだけ出せば」
それが分かっていて出した。
陳腐な話かも知れないけど、本当の意味でミルクを自分のものにしたかった。
「子供が欲しかったならごめん。出来ない」
「出来ない?」
「僕には生殖機能がない」
「……え?」
ないとはどういうことなのか。
理解できない俺にミルクは「うーん」と唸る。
「生殖行為は出来るけど肝心のものがない」
「……病気?」
「あ、それで良いよ。病気」
「それで良いって」
言っていて触れて欲しくない話題なのかと気づく。
土足で踏み込んで良い話ではなかった。
気が利かない。
「ごめん」
黒く長い髪を後ろに流して浮き出た白い首筋に両手を添え額を重ねる。
「本当にごめん」
自分でもどうしてこんなことをしたのか分からない。
今まで避妊をしなかったことなどなかったし、自分のものにしたいなんて陳腐な独占欲など持ったこともなかったのに。
「僕の方が〝ごめん〟なんだけど。そこまで考えるとは」
まだ難しい顔のミルクに申し訳ない気分が拭えない。
「子供が出来ないと僕のものにならない?」
「どういう意味?」
「出来ない僕だと駄目?」
それは自分に負い目があるんだろうか。
今の時代最初から子供を作らない選択をして結婚する夫婦も珍しくないのに。
「勝手に既成事実を作ろうとした俺が悪かった。ごめん」
「ん?」
「自分のものにしたくてやったことだから」
「出来なくても良いの?」
「うん。良い」
「そっか。じゃあ良かった」
笑ったミルクの柔らかい口唇がまた重なる。
またあの香り。
「「………」」
「ごめん」
真面目な話をした後で節操のない。
香りを感じて反応した場所を隠すとミルクは大笑い。
「お風呂に入ろ。学校にはちゃんと行って」
「……うん」
学生の本分は勉学。
しかも俺は今3年の受験生。
それは分かっているけど離れたくない。
「君はほんとに」
シャワーを浴びてミルクの背中を洗いながら思わず。
どれだけ飢えているのかと思う。
ミルクの中に居ないと何故か不安になる。
気まぐれにふらりとどこかへ行ってしまいそうで。
「ツトム。君はもう僕のものだよ」
「うん」
「僕と繋がったんだから、僕の」
「うん」
「後悔しても遅いよ」
「しない」
バスルームに充満する香り。
この香りに囚われる。
「また醜いのが溜まったら僕の中に吐きだしなよ」
「ミルク」
「大丈夫。僕が全部食べてあげるから」
ミルクが口にする〝食べてあげる〟と言うそれ。
最初はいかがわしい意味なのかと思っていたけど何か違う気がする。
「ハァ」
なんでも良い。
ミルクの中に全てを吐きだしたい。
何もかも。
「気持ちいい。ツトムの……」
「ん?」
最後が聞こえず止めるとミルクは笑みで口を歪ませる。
「ツトムは気持ちいい。だから僕のだ」
暴力的な黒猫にガリと首筋を咬まれる。
痛みを伴いながらも一番奥にまた醜いものを吐き出した。
「番号教えて欲しい」
風呂から上がって服を着ても離れられず、膝に座らせているミルクにスマホを見せる。
「必要?」
「連絡したい。迷惑?」
「そんなもの無くても僕から会いに行くよ」
それじゃあ俺が会いたい時は?
膝から下りた身体を捕まえて腕におさめる。
「分かった。教える。人間って機械が必要で厄介だね」
「ミルクは必要ない?」
「僕は猫だからね」
「そっか。でも俺は人間だから教えて欲しい」
ミルクは猫を貫いたまま。
そんなところも面白いけど。
厄介と言っていた割に最新機種のスマホを持っていたミルクから番号を教えて貰ってすぐに登録する。
「黒峰さん?」
「ミルクだよ。ツトムにはミルク」
「じゃあミルクで登録しとく」
いつか〝黒峰さん〟の下の名前が知りたいけど。
でも今はまだ〝黒猫のミルク〟のままで良い。
「ミルクもこれから大学?時間大丈夫か?」
「僕よりツトムが大丈夫?遅刻だけど」
「平気」
チェックアウトして太陽が照らすホテル街を歩く。
健全な時間帯に不健全な場所を歩いていると多少の罪悪感を覚えた。
「じゃあ僕はここで」
「うん」
電車に乗るのかミルクは駅につくと指をさす。
「気を付けて」
「ミルク」
「うん?」
アッサリ去ろうとする腕を捕まえて口唇を重ねる。
名残惜しいのはまた俺だけなのかと。
「またすぐ会えるよ。君は僕のものだから」
「うん」
良かった。これで終わりじゃない。
その言葉で安心して今度こそミルクを見送った。
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