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二章
10
しおりを挟む結局今日も朝まで。
入れたまま眠ってしまったらしく目覚めて自分が一番驚いた。
俺に付き合って疲れたのかミルクも眠っていて起こさないようゆっくり抜いた。
心地よい疲労感。
心地よいレベルの回数ではなかったはずなのに。
ただ頭の中も気持ち的にもスッキリしていた。
スマホで時間を確認すればもう9時。
また遅刻だ。
もうこのままサボってしまおうと再び横になるとミルクがパチと目を開けた。
「おはよう」
「おはよう。何時?」
「もうすぐ9時」
「え、遅刻!のんびり寝てないで学校!」
「休む」
「駄目。僕と会って行かなくなるならもう会わない」
それを言われては起きるしかない。
ミルクと会えないのは絶対に嫌だ。
本当は会う会わない以前に離れたくないけど。
前回も学校に行くよう怒られた。
遅刻はしたけど。
当たり前かも知れないけどミルクはその辺はしっかりしてる。
2人で風呂に入ってホテルを出たのは10時近く。
受験生の時間の使い方として最低だけど勉強が手につかない。
もう濱名さんを見送ったんだから気持ちを入れ替えるべきなんだろうけど。
簡単に濱名さんを忘れることは難しい。
ミルクはそんな心の隙間を埋めてくれる。
現実逃避と言われたらその通りで反論の余地はない。
健全な時間に歩くホテル街。
手を繋いで歩く俺たちとは反対にこれからお楽しみと思われる男女たちとすれ違う。
そんな人たちと事後と事前の違いはあってもやることは同じなんだと思うと不思議な気分だった。
「じゃあね。着替えて学校に行くんだよ?」
「うん。また電話しても良い?」
「良いよ」
前回と同じ駅の前。
また名残惜しい俺とは反対にミルクはあっさりしてる。
時間がたりない。離れたくない。
「今度休みの前の日に会おうか」
「え?」
「そしたら慌てなくて済むから」
「本当に?」
「うん。だからちゃんと学校行くように」
「分かった。約束する」
俺の気持ちを見透かしたようなことを言ったミルクは「じゃあまたね」と軽快な足取りで駅に入って行った。
家に帰り着替えて学校に着いたのは休み時間になる少し前。
職員室で遅刻の手続きをして静かな構内を歩いていると教室の少し前でチャイムが鳴った。
「あ。おはようツトム」
「おはよう」
「今登校?」
「うん。寝坊した」
授業が終わって別の教室から出てきた白井と会って、省吾に辞書を返すらしく話しながら一緒に教室へ行く。
「おはよう。寝坊した?」
「うん」
俺のクラスも終わったようで、何人かのクラスメイトとすれ違いながらも話して人の声が聞こえる教室のドアを開けた。
「おはよう。またしてもお寝坊さん」
「おはよ」
最初に声をかけてきたのは正樹。
「おはよう。少しは寝れたか?」
「うん。昨日は。お蔭さまで寝坊したけど」
「健康管理も大事な時期だし今はそれで良いんじゃないか?」
省吾も来て白井から辞書を返して貰いつつ俺の状況を知っているだけに苦笑して見せる。
「おはようツトム。こんな時間に登校とかいやらしい」
「おはよう」
ロッカーにスクールバッグを仕舞っていると優弥も来ていつもと変わらない様子でニヤリと笑う。
「来たってよ?どうする?」
「来た?」
「遅刻して来たって。生き残り」
耳元で囁かれたそれ。
白井が居るから聞こえないよう言ったんだと思う。
「なになに?内緒話?」
「生き残りが登校して来たって」
「え、そうなんだ」
肩を組んで聞いた正樹に優弥はスマホを見せながら説明した。
「見に行く。昨日の今日でどんな顔して来たのか」
「じゃあ俺も付き合う」
「俺も。気になるし」
「ありがとう」
「省吾。トイレ行こ?」
「え?うん」
普段トイレに誘うことはないから、正樹が話した時点で省吾も白井が居るからそんな誘い方をしたと分かったと思う。
白井には省吾がそこそこに誤魔化して、歩きながら優弥が生き残りが登校したことを話して別棟にある一年の教室に行った。
「ん?なんか揉めてる?」
休み時間のはずの教室。
席を立って集まってる子も居るけど雰囲気がおかしい。
教室に居る生徒が見てる先に居たのは生き残りだった。
「虐め!?」
喋っているのは生き残り独り。
「ユウコどういうこと!?どうして私が虐められるの!?」
前の席の子に訴えてもその子は振り向きもしない。
「優香の次は私なの!?どれだけ虐めが好きなのよ!」
奇妙な光景。
大声を出しているのは生き残り独りで、クラスメイトは普通の顔をして授業の準備をしたり集まっている友人と話したり、まるでその存在が居ないもののように無視している。
「性格悪すぎでしょ!虐めて楽しいの!?」
濱名さんを虐めていた本人がそれを言うのかと。
怒りの感情とは反対に笑い声が洩れた。
そんな俺に向けらた視線。
見られていることに今まで気付いていなかったのか、気まずい顔をしている子も数人居る。
「ツトム先輩がみんなに言ったんですか!?」
「まさか。昨日の今日でどんな顔して登校したのか見に来ただけ。でも面白いことを聞かせて貰ったから見に来て良かった」
虐めの連鎖。
虐めていた奴が虐められる。
首謀者だった5人中の4人が死んでもまた新たな首謀者が現れて誰かが虐められる。
まるで働き蟻の法則。
傍観者だった者は〝首謀者予備軍〟だった。
この小さなコロニーの中で虐めの連鎖は終わらない。
ここはそういうクラスなのだと気づいて笑ってしまった。
「まさか虐めっ子が虐めて楽しいのって言うとはね」
「え?そこ?俺は性格悪すぎの方がウケたけど」
「どれだけ虐めが好きなの?もだろ。全部特大ブーメランが刺さってるんだぞ?天才かよ」
口々に言う省吾と正樹と優弥。
自分が濱名さんにしてきたことは棚にあげて虐められる側になれば文句を言うんだから救えない。
事実で笑った俺たちを憎しみのこもった目で睨んでいる。
コイツは反省なんかしない。
濱名さんを傷つけたことに罪悪感さえない。
自分だけが可愛いどうしようもない人間のクズ。
コロニーの中で新たなターゲットと傍観者が生まれた。
次に虐められるのはコイツ。
元首謀者。
「俺たちはただの傍観者だ。虐めもしないけど止めもしない。濱名さんの受けた痛み、お前ら全員身を以て知れ」
終わらない虐めの連鎖。
俺がわざわざ手を出さずとも終わらない。
このコロニーが滅びるまでその連鎖は続く。
俺にとっては首謀者も傍観者も同じ存在。
全員が憎い。
そして俺も今日から〝憎しみを抱えた傍観者〟になる。
憎しみの連鎖は終わらない。
終わらせない。
────────・・・
「良いね良いよ!ツトム君!」
「うるせ。食べないなら終わり」
「え。待ってよ。まだご馳走さましてない」
闇の中にポツリ。
苦情を訴え追い出されてしまったそれをシロは慌ててクロに入れ直す。
「ツトム君が居るとたくさん美味しいもの食べられるね」
「感謝してくれるかな。僕にも」
「してるよ?クロが集めてくれないと死んじゃうし」
「僕とシロに死の概念はない」
「人間の身体が滅ぶことが死なら、僕たちの消滅も死だよ」
話しながらも夢中で食事を貪るシロ。
傍目には性交にしか見えないそれがシロの食事時間。
「ご馳走さま」
「早く退け。大学に行く」
「見ないの?あの女の子がどうなるのか」
「興味ない。僕の好物は気持ち良い闇だけ」
食事を終えたシロの身体を足蹴にして抜かせたクロはすぐに身体を起こす。
「忘れ物を取りに行くだけだからすぐ戻る」
「はいはーい。ちゃんと見ておくよ」
「楽しむの間違いだろ」
それだけ言って黒猫に姿を変えたクロは闇に消えた。
「心外だなー。僕はお客さまの憎しみを解消することが好きなだけなのに」
色々ありましたからね。
少し疲れちゃったのかも
みんなが嘘ついてるだけです。
本当に無視されてます
え?どういうことですか?
シロが服を羽織ると同時に空気が揺らぐ。
「お帰り緋色」
「………」
「あれあれー?なんかご機嫌斜めなのかなー?」
緋色は子供のように伺い見るシロを無視して座ると見えている外の光景に目をやった。
優香が死んだから次の虐めが私になったんです
唐沢さんが虐めに?
はい。おはようって言っても無視されました
「僕のこと無視しすぎだから」
「………」
「怖いなあ。緋色は」
視界の前に立たれて睨む緋色をシロは笑う。
唐沢さん。爪を噛むと傷みます。落ち着いて?
落ち着いてます。みんながムカつくだけで
みんなクラスメイトでしょ?
だからなに!?
クラスメイトなら虐めて良いの!?
違います。虐めはいけません
だったら止めなさいよ!それでも教師なの!?
唐沢さんっ!
「お。なんか楽しくなってきた?」
背後から聞こえた声でシロは緋色への興味を一瞬で失い、背を向けて外の光景に北叟笑む。
「ねえ緋色。緋色はこの子がどうなるのが良い?」
「………」
「護ろうとした子を虐めた子だから憎い?」
「………」
田渕先生から話は聞いた。
誰にどう虐めを受けてるんだ?
クラス全員
どんな風に?
聞いたのに何で何回も説明させるの
私が聞いたのは
みんなが三年の牧から脅されてるって話だ
あ、それはもう良い。ただの間違い。
間違い?
「あ、ツトム君の話だ」
間違いって、牧は3年の大事な時期なんだぞ?
それを脅してるって騒いでおいてあっさり言うなよ。
進学や就職に響くようなことなのに
簡単にもう良いじゃないだろ
「あの子ほんと良い餌を撒いてくれるね。さすが」
「………」
「でも僕たちが欲しいのはもっと奥のだよツトム君」
「よく喋る」
独り言で口を開き続けたシロは緋色を振り返り二ーっと笑う。
「珍しく構ってくれるんだ?」
「………」
「もうお終い?」
「………」
「緋色は僕のこと嫌いだもんね」
「………」
「違った。みんな僕のこと嫌いだもんね。〝 〟だから」
目を合わせた緋色にシロは満足そうに笑って外の光景を再び眺める。
「憎しみを抱えてるのは僕じゃない。お客さまだよ」
「………」
「お客さまから譲り受けた憎しみを解消してるだけ」
「………」
「解消してあげた代価を貰ってるだけ」
「………」
「代償を払わずに叶う願いなんてない。緋色が一番よく知ってるでしょ?」
また独り言を繰り返してシロは振り返り緋色を見おろす。
「僕は緋色が好きだよ。人間らしく狡くて脆くて醜い」
「………」
「あ。もう元人間の方が良いかな?」
睨み見上げる緋色に身を屈めたシロはまた満足そうに表情を綻ばせてちゅっと口付ける。
「憎しみの連鎖はまだ始まったばかりだよ。次のお客さまが待ってる。しっかり〝回収〟してきてね。緋色」
貴方の憎しみ譲ってください。
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