竜の女王

REON

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二章

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「幾つかワタクシのついた嘘をお話ししたいのですけれど」
「嘘?」

空になった当主のグラスにワインを注ぎつつ話す。
当主と甲斐性なしが話した時に今までロラがついた嘘がバレないよう話しておく必要がある。

「旦那さまには竜の力を持っていると話してあります。ミドルネームがないのはロラというホーリーネームだからとも」
「それがどうした。事実だろう。ホーリーネームについても神の権限でロラの魂を宿されたのだから嘘ではない」
「竜の力を持っていることに気付いておりましたの?」
「始祖の力を持つ私が竜の力に気付かないはずがない」

たしかに。
始祖の力を持つ自分もヴァンピールが相手なら力の有無が分かるとロラは納得する。

「後は、幼い頃から洞窟に篭り修行をしていたから成長が遅れているという嘘や、成婚前も修行をしたから一時的に食が細くなり痩せているという嘘も。髪や瞳が灰色だったのは修行で力が弱っていただけで本当の色は今の色だとも。そうそう、修行で痩せすぎたから貴方に成婚を延期するよう言われたものの、大切な日を遅らせたくなくて断ったとも話しましたわ」

噂話を否定するための嘘。
本当は殆どが事実の噂話だったけれど。
ロラが宿る前のシャルロットに竜の力はなかったし、髪も灰色で生家の家族から虐げられていたことも事実。

「私もその嘘に合わせろと?」
「そのような話題になるほど貴方と腰を据えて話せる人は少ないでしょうけど、その話題になって否定されては面倒なことになりますでしょう?その嘘も旦那さまや屋敷の者しか知りませんから、話題にするとしても旦那さまくらいですけれど」

噂話を否定したのは夫と屋敷の使用人にだけ(あと愛妾)。
だから今日のデビュタントボールに現れるまで、噂話を知る人のシャルロットの印象はだった。

「まあいい。たしかに嘘でごまかさなければ夫としては心配になる小ささと細さではあるからな。もっと食べろ」

膝に乗せたまま後ろからをしている当主は、銀の器から葡萄を一粒とってロラの口元に寄せる。
はたから見れば成人した孫をまだ抱っこしている孫馬鹿が過ぎる祖父の図。

「当主とくらべたらみんな小さいですわ」

そう答えてロラは葡萄を食べる。

今の言い方だと当主はシャルロットの噂話を知らない。
そして本家の公爵家がシャルロットを虐げていたことも。
だから夫に心配をかけないよう嘘をついたと思っている。

でも、思えば当主は知らなくてもおかしくない。
幼い頃の一度しか見たことがないほど公爵邸には足を運ばないし、孫を蔑む話題を当主に話す馬鹿も居ないだろう。
成婚相手にも関与していなかったし、成婚したことを知ったのも嫁いだ後だったから、一族の中では比較的会う機会が多い現公爵が娘のことを黙っていれば当主は知らないまま。

「それにしても小さ過ぎるだろう。妹のカーラより小さいではないか。病弱なカーラと違いシャルが体調を崩した話は聞いたことがなかったが、元から食の細い方だったのか?」
「ええ。そうね」

頷いてまた口元に寄せられた葡萄を食べる。

当主に近付いて家族の話をすることの出来る人物と言えば現公爵でしょうけど、妹のカーラの体調のことは話題してもシャルロット嬢の体調のことは話題にしなかったと言うこと。

まあそうよね、自分たちが虐げている娘の話ですもの。
本当に身体が弱かったのは虐げられていたシャルロット嬢で、妹はたまに風邪を引くだけでも大騒ぎしていただけ。
ほんと清々しいクズどもですこと。

ああ、そもそもクズばかりでしたわね。
屋敷の外にある納屋しか与えられず、粗末な衣装で一日中働かされて使用人以下の扱いを受けていたシャルロット嬢は、嫁ぐ15歳まで一度も公爵邸を出たことがない。
それなのに噂話の内容がほぼ事実だったということは、噂話の発端はシャルロット嬢の家族か屋敷の使用人か公爵邸へ足を運んだことのある一族の中の誰かということになる。

そのうち里帰りをしなくてはね。
公爵邸の人々の魂の色を見るために。
審判人として裁きを与えるために。
シャルロット嬢の魂の欠片を返して貰うために。

お会いする日が楽しみですわ。

「夫はしっかり食事を用意してるのか?」
「もちろん。旦那さまも料理人コックも食が細いワタクシに気を配ってくれてますわ。当主のように大きな身体にはなれませんけれど、まだ成長期ですから長い目で見てくださいませ」

ロラも葡萄を一粒とって当主の口元に近付けると、躊躇することもなくロラの手からパクリと食べる。
何も知らなかった人ではあるけれど、少なくともシャルロットを虐げてもなければその気もない当主は裁かずに済む。

「ふふ。主神から宿命を与えられた同じ守護者の貴方に会えて嬉しいですわ。つい甘えてしまってごめんなさいね」

同じ始祖の力を持つ守護者と出会えて嬉しい。
それが寒気を感じさせるくらい強者であることも。
ヴァンピールが好む美しい魂の持ち主であることも。

「私も自分以外で始祖の力を持つ者と会ったのは初めてだ。甘やかしてしまうのはその所為なのかもしれないな」

それはシャルロット嬢の番だからかと。
そうでなければ他の一族への対応と同じようにワタクシも距離をとられていたのではないかしら。
もちろん最初は始祖の力を持つワタクシが気になったということも間違いではないでしょうけど。

「そろそろ戻った方がいいかしら。嬉しくてすっかり話し込んでいて、旦那さまを置き去りにしてしまいましたわ」

当主と同じタイプのロラもデビュタントボールに興味はないけれど、一番肝心な王家への挨拶は夫婦でしたとは言え夫を会場に残したままなのも妻としていかがなものかと。

「なあ、シャル。あの男が好きか?」

抱きしめてそう問われる。

「ええ、好きよ」

シャルロット嬢は。
可哀想だけれどそれが現実。
歯車が狂ってしまって貴方の番だった者はもう居ない。

「ロラは?あの男が好きか?」

そう聞かれて一瞬言葉に詰まる。

「ええ、好きよ」
「嘘だな」
「もう。意地の悪い人ね」

シャルロットが甲斐性なしを好きだから、たくさんシャルロットが愛されるようロラが代わりに演じているだけ。
演技をしている話をした時点でロラの方は夫に恋愛としての好意を持っていないことは当主も分かっていた。

「聞いただろう?私の孫以外になる気はないかと」
「無理ですわ。この肉体はシャルロット嬢ですもの」
「今はロラのものだろう?血縁を断る理由にするのは無駄だ。私とシャルは血どころか魔力さえ繋がっていないのだから」

それはそう。
血の繋がった祖父ではないことを王家は知っていて法に反する訳でもないから、当主とシャルロット嬢は成婚できる。
文字通りというのが事実だけれど。

「魂がワタクシでも構わないほどシャルロット嬢が好きですの?」

番への執着とはこれほど?
僅かに感情が残っているだけなのに。

「私が孫以外にならないかと聞いたのはロラにだが。お前が孫だと言うから孫という言葉を使い呼んでいるだけで」
「……え?」
「強い者が現れる時を何百年と待っていた。その念願が漸く叶ったというのに孫のまま終わらせる訳がないだろう?」

ソファに押し倒されてぐっと迫られる。

「私に惹かれているだろう?同じ守護者の役割を持つ私に」

それはな……いとは言えない。
力や心が強い者や魂が美しい者にヴァンピールは惹かれるのだから、ロラが当主に惹かれないはずもない。
しかも同じ役割を持つ守護者。
人を裁く姿を見せて怯えさせないよう配慮する必要もなく自然体で居られる相手。

「シャルロット嬢ではなくワタクシに惹かれてるのですか?」
「シャルを愛らしく思う理由は私にも分からない。好意かと思って今でもシャルが生きていたらと考えてみたが、夫と上手くいっているならいいと迷わず思えた。でもそれが本当はロラだと思うと駄目だ。そうは思えない」

肉体は番になる運命だったシャルロット。
魂は同じ守護者で長年求めていた強者でもあるロラ。
僅かに感情が残っているだけのシャルロットは幸せならいいと思えても、何百年と待った強者のロラは諦められない。
ロラが他の男を旦那さまと呼ぶのでさえ少し腹が立つ。
それが当主の本心。

「ただ、私が何を言おうがお前はあの男の元に帰るだろう。あの男を好いているシャルのために。シャルが喜ぶことをしてやりたいがために。自分を殺しても全てはシャルのために。それが私には無性に腹が立つ。私がこんなにも惹かれているロラの存在をなぜ殺してしまうのかと。悪くないと分かっていてもシャルを恨んでしまいそうだ」

そう話して当主は身体を起こした。

「……ああもう本当に。貴方、意地が悪いですわ」

少なからず惹かれている相手にそんなことを言われたら。

自分でも気付いておりますわ。
だって貴方、義兄さまにそっくりですもの。
ワタクシが憧れ惹かれていた強い義兄さまに。

どんなに惹かれても届かなかった義兄さま。
肉体を失い生きる星も変わって義兄さまを忘れようと思っていたのに、飄々と現れ忘れさせてはくれなかった。
そのような迷惑極まりない襲撃犯の義兄さまにそっくりなこの人に惹かれないはずがないでしょう?

「シャル」
「もう!ワタクシはロラですわ!貴方が旦那さまを呼ぶワタクシが鼻につくようにワタクシも貴方がシャルと呼ぶと腹がたちますわ!何も知らない人の前でロラと呼ばれるのは困りますし、ワタクシもシャルロット嬢の肉体に宿った限り旦那さまと呼ぶ他ありませんけれど、そこは子どもではないのですから我慢なさいませ!」

ほんのり頬を染めぷくぷくと怒るロラを見た当主は困ったように眉を下げて笑い声を洩らす。

「ロラ。お前は幾つだ」
「16歳ですわ!」
「シャルと同い年か」
「そうですわ!ヴァンピール年齢ではですけども!」
「ヴァンピール年齢?」
「20年で1つ歳をとる種族ですので!」
「つまり320歳と言うことか」
「通常の種族の年齢で表すならそうね!」

ぷくぷくとしながらもしっかり答えるロラの頬に当主が口付けると、風船が一瞬にしてしぼんだようにぷくぷくがおさまり静かになる。

「ロラ。お前は竜の王の継承者のようだな」
「…………」
「誤解するな。それ目当てに好意を口にしたのではない」

そう言って再び頬に口付ける。

「双子星の両守護者の力を持っているのだから強いはずだ。それでもまだ制限されているというのだから、制限が解かれる時が今から楽しみで仕方ない。不老長寿にも飽きていたが、長生きする理由ができた。その時には私と戦ってくれ」
「構いませんけれど、ほんと脳筋ですわ」

清々しい脳筋。
竜たちの力も不可侵領域も求めていない。
ただただ強者と戦いたいだけ。

「自分は恋愛感情を抱いていない男でも離縁しないのは、シャルが好いているからという以外にも理由があるのか?」
「ありますわ。審判のヴァンピールとして」
「やはりそうか。私に惹かれていることは認めたのに離縁するとは言わなかったからな」

ロラが当主に惹かれても甲斐性なしと離縁するかは別。
宿命を与えられた守護者の役目は果たす。
シャルロットの魂の欠片を取り返すためにも。

「ならば待とう。ロラが守護者の役目を果たすまで」
「……待ってくださいますの?」
「ああ。竜の王は次の継承者が誕生するまで不死。不老長寿の私もただ歳をとるだけでは死なない。今まで何百年と強者が現れるのを待ち続けたんだ。その強者と共に生きられるなら、あの男の寿命ぶん待たされたとて大したことではない」

額に口付ける当主の背中に手を添えるロラ。
番のシャルロットではなく自分が惹かれてしまったけれど、僅かに感じるシャルロットの感情もなぜか温かかった。


「ロラはインベントリを使っているのか」
「ええ。当主はアイテムボックスをお使いでしたわね」
「私の主な才は武力だ。余計な魔力は消費しない」
「使えるには使えるのですね」
「一応な」

貰った贈り物をインベントリにしまうロラを眺める当主。
泣いて崩れた自分の化粧や髪や衣装を直すだけでなく同時に当主の乱れた髪や衣装も魔法で簡単に直したことで、やはり魔力の量も威力も器用さも異常だと改めて実感しながら。

まるで魔力の塊。
ヴァンピールという種族がそうなのか、ロラが特別なのか分からないけれど、魔力特化型の強者。
今なら勝てる自信があるけれど、全て解放された時に膝をつくのは自分の方かもしれないと思うと自然に口許が緩んだ。

今のロラは強く美しい雪の姫君。
その未来は全ての者が平伏す竜の女王。
愛おしくてたまらないのも当然のことだろう。

「また抱きあげますのね」
「祖父が孫を愛でてなにが悪い」
「16歳の孫を抱っこする祖父はお見かけしませんわ」
「私の妻になるまでにもっと育っていれば考えよう」

ぷくっと膨らむロラに当主は笑う。

「あの男との間に継承者は産むな。私の子を産め」
「そう言われましても産み分けできませんわ」

今の時点では初経もまだだから可能性はゼロ。
そもそもそのような関係になるかも分からないけれど、仮にそうなっても産み分けることは出来ない。

「口をあけろ」
「?」

なにかと思いつつ素直に口をあけると、自分の中指の先を牙で噛んだ当主はロラの口の中にその指を入れる。

「飲め。それで暫くの間は継承者を産めなくなる」

口の中に広がる血の味。
当主が血を飲ませた目的は別のことだったけれど、その味にロラのヴァンピールの血筋が反応する。

「……駄目ですわ。ヴァンピールは血がご馳走ですの」

そう言ってとろんとした目で吸い始めたロラを見て当主はサッと指を引き抜いた。

「知らず血を与えた私も悪かったが、そのような顔をしていては会場に戻らせることが出来ないだろうに。私の前で見せるだけなら構わないがな」

引いて正解。
始祖の力を持つ当主の血は強い魔法使いのそれ以上。
魔力特化型のロラと比べたらと言うだけのことで、当主の魔力も通常の人より遙かに多く質もいい。
ロラにとってはご馳走。

「飲ませれば当主も気持ちよくなれましてよ?」
「血を貰う変わりにか。色欲のヴァンピールは厄介だな」

ヴァンピールは色欲。
ドラゴニュートは強欲。
種族全体がその性質を持っている。

「もっといただきたかったのに」
「牙が出ているぞ」
「首筋に噛みつきたい衝動が」
「その気にさせられても手を出せない私の身にもなれ」

呆れ顔で言う当主にロラはくすくす笑った。

抱えられたまま温室を出ると冷たい風。
城を出た時にはまだ太陽が昇っていたのに、ゆっくりと話している間に夕日が空を染めている。

「迎えが来ているようだな」
「旦那さまが用意してくださったワタクシの護衛ですの。ただ、今は当主と一緒だと分かっておりますから、念のため周囲の警戒をしていると言うだけでしょうけど」

ドラゴニュート一族の当主と居て襲撃する者は少ない。
当主にあっさり見つかり殺されるだけだから。
だから温室から少し離れた場所でピートが警戒している。

「さあ、もう行け」
「当主は会場に戻りませんの?」
「私の用事は終わった」

当主の目的は最初からシャルロット。
もう報告も受けて祝いの贈り物も渡したのだから、ここに居る必要がない。

「カーラのデビュタントですのに」
「そもそも私は一族のデビュタントに足を運んだことは無い。カーラも両親と兄が居るのだから充分だろう」
「ふふ。そうですわね」

家族が来てくれただけ幸せ。
いや、デビュタントボールに参加させてくれただけ幸せ。
シャルロットはデビュタントどころか誕生日さえも祝って貰えなかったのだから。

「先ほどの様子だと妹と仲が悪いようだな」
「あら。仲良しですわ」
「妹の方はそういう表情ではなかったが」

にこりと笑うロラに当主はふっと笑う。

「ロラの好きにするといい」
「なにがあっても恨まないでくださいませ」
「主神から権限を与えられた守護者の裁きを恨むはずもない。それで誰か死んでも裁かれる理由のある魂だったというだけ。仮に裁かれるのが私だったとしても恨みなどしない」

守護者が自分の役割を果たすだけ。
同じ守護者だからこそ恨むも止めるもない。
自分たちも役割を果たしながら生きているのだから。
周りは裁くのに自分のことは裁くななどと都合のいいことは言わない。

「当主は善(無罪)ですわ。真っ白の魂」
「今まで多くの命を奪った守護者が白とはおかしな話だ」
「犯罪者が黒(有罪)で聖職者が白(無罪)とは限りませんの。犯罪者の罪を裁くのは人。ヴァンピールが裁くのは魂ですわ」

例え犯罪者でも魂が白(無罪)ならば審判人は裁かない。
それは人が作った法律でのみ裁かれる。

「では自分がロラの手を汚させずに済むことを喜ぼう」

そう話して当主はロラの耳元に口を近付ける。
 
「先ほど与えた血の効果が切れる頃に会いに行く」
「継承者が産まれなくなるという?」
「ああ。正しくは始祖の力を持つ私以外の者との間に継承者が産まれなくなる。半年ほどしかもたないが」

竜の王と始祖の力を持つ女性。
竜の女王と始祖の力を持つ男性。
それが最も継承者が産まれる可能性が高く、継承者ではなくとも子の能力が高くなる組み合わせで、少しでも強い子孫を残すために始祖の力を持つ者にはその力が備わっている。

「その時しか会ってくださらないのかしら」
「手紙を送れ。会いに行く」
「必ず書きますわ」

約束を交わしロラから離れた当主が大きな黒竜に変わる。
これもドラゴニュートの始祖の力を持つ当主だけの能力。

『またな』
「ええ。お気を付けて」

飛び立った当主にロラはカーテシーをして見送った。

「ピート」
「お戻りなさいませ」

少し離れて護衛についていたピートに声をかける。

「お待たせしてごめんなさいね」
「不要かと思いましたが念のため」
「ええ、ありがとう。会場に戻りましょう」

外気を防ぐ魔法をかけていることを確認してそれには触れず、再びデビュタントボールの会場がある王城に戻る。
今まで居た花を育てている温室も城や宮殿がある王宮庭園の中にあるけれど、普通に歩いて戻るには少々距離がある。
行きは当主が翼で飛んだからすぐに着いたけれど。

ワタクシたちが出たあと式は滞りなく進められたかしら」
「ご退場になられたあと暫くして開始しました」
「そう。ワタクシたちが出て始められたなら良かったわ」

騒ぎの中心だった当主やロラがあの場に残っていたら、せっかくの式典の開始が遅れていた。
晴れの舞台を会場の外で今か今かと待っていた新成人たちには少なくとも迷惑をかけずに済んで良かった。

「奥さま」
「ええ。気付いていてよ」

斜め後ろに居たピートがすっと近付き警戒する。
デビュタントボールの真っ最中のはずなのに、不自然に庭園に居る人たちの気配に。

ロラは独りフフっと笑い声を洩らした。
    
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