竜の女王

REON

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二章

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ドアマンが開けた扉から当主が会場を出るとデビュタントを迎える新成人たちでホールはごった返していた。

『…………』

ドラゴニュートの特徴が色濃い漆黒の髪と真紅の瞳で誰かに気付いたらしく、女性は純白のドレスを摘みカーテシーで、エスコートの男性はボウアンドスクレープで挨拶する。
当主はその光景に軽く目をやると再びまっすぐ歩き出して、新成人たちは急いで道をあけた。

「当主」

静かになってしまった新成人たちを不憫に思って見ていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「入場時間なのにどちらへ行かれるのですか?」

デビュタントに相応しい華やかな純白ドレスを掴み小走りに近寄って来たのは、シャルロットの実の妹のカーラ。
涅色くりいろの髪に朱色の虹彩。
頭には新成人を表すティアラを乗せている。

「そちらの女性は……」

当主が何故か片手に抱えている女性を見上げたカーラは見覚えのあるその顔を見て表情を歪ませた。

「誰が私の行く道を遮っていいと言った」

前に立たれ道を遮られたことに怒りを滲ませる当主。
話す声は静かだったけれど威圧感は尋常ではなく、シャルロットの身体も静電気のような痛みを感じた。

当主が輝く白だったからもしかしたらと思ったのに。
父と母と兄だけでなく妹までが黒の魂。
ロラはそれを見て溜息をついた。

「疲れたのか」
「歩かせてくださらないのにどう疲れますの?」
「息をするだけで疲れそうな身体をしているだろう?」
「そこまで病弱ではありませんわ」

溜息を疲れたと勘違いする当主にロラは苦笑する。
脳筋だけあって身体には敏感なのかもしれない。

「今回は目を瞑ろう。シャルの衣装を汚したくない」

いつの間にか『シャル』呼びに。
流れるような距離感の縮め方はやはり番だからなのか。

「私が足を運ぶ目的はシャルに会うことだと言ったはずだ。行き先は同じなのだからと言うから同行は許可したが、やる意味のないデビュタントに興味はない。退け」

真っ青になっているカーラはすぐに道をあける。

馬鹿な子ね。
一族の掟に当主の道を遮ってはいけないとあるのに。
教育を受けさせて貰えなかったシャルロット嬢でも知っていたのに、家族から甘やかされ育った我儘お嬢さまは忘れたのか、自分が特別な存在だとでも勘違いしたのかしら。

「お久しぶりね、カーラ。変わらず元気そうで良かったわ。デビュタントおめでとう。とっても素敵よ」

当主の腕に座ったままドレスを掴み微笑む。
シャルロット嬢を馬鹿にして罵り虐げてきた貴女が晴れの舞台に人前で怒られるなんて、最高に無様で素敵でしてよ。
当主はそんなロラを鼻で笑うと再び歩き出した。

城の外に出ると驚いた顔でこちらを見た城仕えを尻目に当主は左肩のペリースを外してロラを包む。
驚くのも無理のない話で、一族にすら厳格な当主が愛らしい孫とはいえ自分の外套を着せただけでなく腕に抱いて歩いてるのだから。

「温室に飲み物を運ばせろ」
「承知いたしました」

それだけ城仕えに話すと翼を出して飛び温室に向かった。

「さあ聞かせろ。お前は誰だ」

温室に入って下ろされたと思えば壁に押し付けられてまた同じことを聞かれる。

「シャルロットですわ。よく見てくださいませ」
「そうだな。灰色だった髪と瞳の色が変化しているが、肉体はシャルロットだろう。だが、中身は全くの別人だ」

さすがドラゴニュートの当主。
どうしてこの人が竜の王じゃないのか不思議。
竜の王の力を持たずこの強さというのが恐ろしいけれど。

ヴァンピールとドラゴニュートは主神から恩恵を受け生命の起こす問題に対処できる力を授かった特別な種族なのだから、この星のドラゴニュート族も当然強い。

「貴方、始祖の力をお持ちなのかしら」
「なぜ知っている。私以外は誰も知らないそれを」

やはり。
竜の王でもないのにこの強さは異常。
この星の人々が思うよりも当主は強い。

「ではご挨拶いたしますわ」

するりと横をすり抜けたロラはドレスのスカートを摘む。

「貴方さまのお孫さまの肉体に宿った今のワタクシの名は、シャルロット・ロラ・カタストロフ・アレニエ。光の星の双子星にあたる闇の星での名は、ロラ・カタストロフ・ヴァンピール。主神より賜った始祖の力は審判。善(無罪)の魂を救済し悪(有罪)の魂は滅ぼす役割を持つヴァンピール族ですわ」

美しくカーテシーをしたロラは自己紹介をして微笑む。
そんなロラをジッと見た当主は声をあげて笑い出した。

「ドラゴニュートとついの存在の守護者ということか。道理で。お前の魔力量の多さや強さはこの星では異常だ」
「あら。これでも制限されて弱々ですのよ?」
「制限?」
「ええ。とある方の権限でシャルロット嬢の肉体に宿ることになりましたけれど、魂と肉体の融合が済んでおりませんの。定着するまで力が制限されている孅い少女ですわ」

それが事実で、今のロラは本来のロラの強さの半分。
これがテネブルなら審判人の役目を果たせない。

「孫の魂はどうした」
「今は神の腕に抱かれて眠っておりますわ」
「死んだということか」
「ええ。生まれ変わりの時を待っておりますの」

その事実だけは伝えると当主は考える仕草を見せる。

「原因は?」
「不慮の事故ですわ」
「……そうか」

竜の始祖が授かった力は守護と破壊。
シャルロット嬢と番になるはずだったこの人が番の最期を知ればきっと、自分が作った一族のドラゴニュート公爵家はもちろんアレニエ公爵家も滅ぼすだろう。
いや、怒りに狂った竜は善も悪も関係なく破壊し尽くす。
だから言わない。

「自己紹介も終わったのですから座って話しませんこと?貴方もワタクシに聞きたいことがあるでしょうし、ワタクシも貴方に聞きたいことがありますの。お茶もじきに届くでしょう」
「ああ」

頷いた当主はまるで当たり前のように抱きあげる。
何かを考えながら歩いているようだけれど、自分でも普段とは違う自身の言動が理解できていないのでしょうね。
一族にすら興味のない自分がなぜこんな行動をするのかと。
番への本能的な執着と知らず。

「……これはひっど(酷)いですわぁ……」

当主は椅子に座ってもロラを離さないまま。
自分はアンティーク調の豪華な猫脚ソファを全面に使って横たわった脚の上にロラを座らせている。
背が高すぎてソファを全面に使って座らないと床に固定されているコーヒーテーブルに脚が当たることや、ソファが一つしかないから全面を使う自分が座ったらロラが座る場所がないということは理解できるけれど、まるで幼い子を膝に座らせただけかのように当たり前に座らせるのだから酷い。

「私の孫なんだろう?祖父が孫を愛でているだけだ」
「ええ。孫ですわ、肉体は。でも中身は他人でしてよ」
「肉体の方も血は繋がっていないがな」
「書類上は孫に違いないでしょう?」

書類上は祖父と孫の関係。
みんなも当然そう思っている。
ただ、代々に渡って当主と関わりがある王家だけは、当主とドラゴニュート一族に血の繋がりがないことを知っている。

血が繋がっているのはドラゴニュート一族だけ。
当主に血の繋がった家族は居ない。
それが真実。

「失礼いたします。お飲み物をご用意いたしました」

カートを押して温室に来たのはニ人のパーラーメイド。
その後ろには王宮の騎士が二人。
パーラーメイドからは緊張が伝わってくる。

「ごめんなさいね。それでなくともデビュタントボールで忙しくしているというのに手間を増やさせてしまって」
「滅相もないことです」
「光栄にございます」

ぎこちないながらも答えたパーラーメイドたちは、一瞬のミスも許されないかのような真剣な面持ちでコーヒーテーブルの上に飲み物を用意する。

「あら。お酒も運んでくださったの?」
「飲み物ということでしたのでどちらか分からず」
「たしかにそうね。当主の頼み方が悪かったわ」
「そ、そんな悪いなどとは!」

真っ青になって否定するパーラーメイド。
怖がらせるつもりではなかったのだけれど。

「当主。お酒と紅茶のどちらを召し上がりますの?」
「シャルはどちらにする?」
「せっかくですからワタクシはお酒をいただきますわ」
「私も合わせよう」

そう返事をした当主はロラの背中に手を回して落ちないよう支えつつ身体を起こす。

「種類は何になさいますの?」
「同じものでいい」
「ではスパークリングワインを二つお願いしますわ」
「「承知しました」」

意地でも下ろさないのねとロラは内心で思いつつ、早く役目を終わらせてこの場から去らせてあげようとピンクのスパークリングワインを二つお願いした。

「後は自分たちで出来ますわ。下がって結構よ」
「「失礼いたします」」

お酒や紅茶の他に果物やお菓子も並べて四人は深々と頭を下げると最後まで緊張した面持ちのまま去って行った。

「貴方、怖がられ過ぎではなくて?」
「何もせずとも私の前では一族の者ですらああなる。怖がらない者などお前くらいだ」

強すぎる存在は人々にとって恐怖の対象。
ルミエールはテネブルと違って自然災害や魔獣の脅威レベルが低いだけに人々も力のない者が多く、始祖の力を持つ当主の人離れした強さになおさら恐怖を覚えるのだろう。

ワタクシも始祖の力を持つヴァンピールですもの。主神から受肉した肉体と力を賜った仲間を怖いとは思いませんわ」

ロラにとっては当主も自分と同じ主神の恩恵を賜った者。
始祖の力を持っていると聞けばなおさら身近に感じる。
星は違えど同じ守護者に恐怖など感じるはずもなく、パーラーメイドが注いでくれたグラスの片方を渡した。

「シャル」

後ろから顔に手を回され近付いた顔をグラスで遮る。

ワタクシ人妻でしてよ」
「離縁してしまえ」
「簡単に言わないでくださいませ」

これがロラ本人なら妻の状況も知らず呑気に愛妾を囲って一年以上も帰って来ない夫など疾うに離縁していた。
むしろ今でも離縁を望まれれば喜んで出て行く自信がある。

ただ、甲斐性なしと成婚したのはシャルロットで、そのシャルロットは甲斐性なしに好意があり今の生活を喜んでいる。
シャルロットが喜ぶならロラの気持ちは関係ない。

全てはシャルロットの欠けた魂を取り戻すため。
美しい魂のシャルロットが来世で幸せになるように。
それでも甲斐性なしが悪(有罪)の魂になってしまえば宿命を持つ審判人として鉄槌をくだすことにはなるけれど。

「そんなに好きなのか。あの男が」
「なぜそのようなことを聞きますの?顔も見たことのない旦那さまを成婚相手に決めたのは貴方と公爵でしょう?」

何も知らないシャルロット嬢を風呂に入れ痛がるのも構わずゴシゴシ洗いドレスを着せ、下着と数枚の衣装しか持たせず追い出すように馬車に乗せ嫁がせたのに何を言っているのか。

「私は知らないが?」
「……え?」

シャルロットが体験したことの記憶を思い出して腹立たしくなるロラに当主は意外な発言をする。

「シャルが成婚したことを聞いたのは嫁いだ後だ。好いた男の許に嫁いで行ったと。城に暮らす私はシャルを幼い頃の一度だけしか見たことがないが、もうそんな年齢になっていたのかと話を聞いて気付いたくらいなのに決めるはずもない」

……まさか当主は成婚に関与していなかったとは。
関わりが薄いと言え、孫娘が嫁ぐのに顔を見せないどころか何一つ持たせないろくでなしの祖父だと思っていたのに。

「一度しか見たことがないとは言え私に近い本家の孫には違いない。夫とは上手くやっているのか報告を聞くついでに嫁ぐ時には渡せなかった成婚祝いを贈ろうと持ってきた」

当主がパチンと指を鳴らすとアイテムボックスからリボンで飾られた大小様々な箱が出てきてドサドサ地面に落ちる。

「貴方はシャルロット嬢が竜の王の継承者を産むことを期待して嫁がせたのではないの?」
「言ったように嫁いだことすら後から知ったが、生まれた子が竜の王の継承者ならば嬉しいに決まっている。強くなるだろう者の誕生を何百年と待っていたのだから。もし育て方が難しければ夫と子を連れ私の城で暮らしてもいい」
「報告しろって……夫と上手くいっているかでしたの」

ああ、脳筋。
いえそれはどうでも良くて、シャルロット嬢。
貴女の身内にもろくでなしではない者がおりましたわ。
継承者を産む道具とは思っていなかった者が。
しかもそれが貴女の番だと言うのですから、何かが変わっていれば貴女は命を絶つことなく幸せになれたでしょう。

「シャル?」
「遅いですわ。もう遅いの」

どこで歯車が狂ってしまったのか。
幼いシャルロット嬢と遙か年上の当主に恋が芽生えることはなかったと分かるけれど、番になる運命の二人であれば同じ時間を過ごす内に惹かれあったでしょうに、いざそうなれる年齢になったら有無を言わさず嫁がされてしまった。

嫁がずこの人と恋に落ちていたら。
誰一人味方の居ないあの屋敷で苦しむこともなかった。
生きることに絶望して自ら命を絶つこともなかった。
貴女が最期に呟いた『たくさんの花が見たかった』とそんな些細な願いも、この人なら嫌になるほどたくさんの花を貴女のために咲かせて願いを叶えてくれたでしょう。

「なにがそんなに悲しい」

シャルロットを思ってポロポロと涙を零すロラの瞼に当主は口付ける。

「泣くな。なぜか私まで苦しくなる」

自分の番が泣いていることへの本能的な反応。
それでも番だと気づかないのは魂がロラに変わったから。
肉体に残されているのは番だった者の僅かな感情だけ。

「悲しくなるものは私が全て消してやる。言ってみろ」

シャルロット嬢を苦しめたもの全て。
でも言えない。
善(無罪)と悪(有罪)の審判をして裁くヴァンピールと違って、ドラゴニュートのこの人は全てを破壊してしまうから。

「ふふ。ソワソワする当主を見たらみんな驚きますわね」

この人はシャルロット嬢の番でワタクシと同じ守護者。
輝くほどに美しい白の魂を穢させたりしない。

「どうしてどさくさに紛れて口付けますの」
「分からないがしたいからだ」
「その自分の本能が第一なところが誰かさんにそっくりで嫌ですわ。そういうところが敬遠される理由でなくて?」

口付けようと迫る当主と顔を押し返すロラ。
そんな強引なやり取りで、逃げられないよう人を捕まえて楽しそうにからかってくるジルのことを思い出して膨れる。

「誰かとは誰だ。夫のことか?」
「旦那さまとはまだ口付けもしておりませんわ」

つまり当主が軽い気持ちでしたそれが初めての口付け。
シャルロット嬢の番だと知り気を抜いていた自分の失態。
まだ清らかな唇を奪われるなんてなんたる不覚。
わざとではないと言え不貞行為をさせてしまうなんて。 
尤も夫は一年以上も不貞行為をしていましたけれど。

「成婚式ではしただろう」
「成婚式をしていませんもの」
「なに?」

ピタリと当主の動きが止まる。

「私の孫を娶って式をしていないだと?」

その威圧感のある声にまた肌がピリっとする。

「お前が平民を好いて嫁いだのなら分かる。金銭的に余裕がなかったのだろうと。だが、公爵家に嫁ぎ式をあげていないとはどういうことだ。あの男はシャルを蔑ろにしているのか?大切にされているから口付けもまだなのではないのか?」

強いですわぁ……。
この星に来て初めての強者ですわぁ……。
久しぶりに背筋がゾクゾクする感覚を味わうロラ。

「嫁いですぐ行う予定だった成婚式はシャルロット嬢が馬車の長旅で体調を崩したことで延期になって、ワタクシが宿ったあと改めて旦那さまからお話しが出た時はお断りしました」
「断った?なぜだ」
「当主がデビュタントに興味がないのと同じですわ。成婚の誓いは必須でも、式はしてもしなくても変わりませんもの」

そう答えるとスンっと威圧感が消える。
自分がそうだけに『たしかにな』と思ったのだろう。

「早とちりをして怒らないでくださいませ。今のワタクシの姿を見れば分かりますでしょう?妻を蔑ろにしているような夫がこのように価値のある物ばかりを集めてきて着飾らせてくれると思いますの?旦那さまはワタクシを大切にしてくださってますわ」
「それもそうか」

まあ一年以上蔑ろにされていたことは事実ですけれど。
でも今は心を入れ替えてシャルロット嬢を大切にしていることも事実。

「だがそれはそれで鼻につくな」
「もう。どうしろと言うのですか」

番の本能的に不快に思うのも理解できるけれど、蔑ろにしていると怒って大切にしていると不快になるとは扱いが難しい。

「夫は魂が変わっていることを知っているのか?」
「知りませんわ。双子星の守護者の起源を知るヴァンピールやドラゴニュートではない者に話して信じると思いますの?貴方はドラゴニュートの始祖の力を持っているからワタクシにこの星の生命とは違う異質さを感じたのでしょうけど」

サシャのように宿られて記憶や力を残されたなら否が応でも信じざるを得ないけれど、そうでもなければ魂の入れ替えなど神の領域の話をされても信じられるはずがない。
頭がおかしくなったのかと疑われるだけ。

「安心してくださいませ。愛らしいシャルロット嬢がみんなから愛されるよう日々演じておりますから気付かれませんわ。この肉体には僅かながらシャルロット嬢の感情が残っていて、嬉しい時や楽しい時はワタクシにも伝わりますのよ?だからワタクシはこれからも彼女が喜んでくれるよう行動いたしますわ」

シャルロット嬢が喜ぶことはする。
シャルロット嬢が甲斐性なしを好きと言うなら愛されるように演技だってする。

「そうですわ。お聞きしたいのですけれど、貴方はシャルロット嬢に竜の力がないことはご存知でしたの?」
「知っていた」
「そのことをどうお考えでしたの?」
「なにも」
「なにも?」
「竜の力がないのか。それ以上何を考えろと?」

キッパリ言った当主に頭が痛い。
竜の力がないせいでシャルロット嬢は虐げられたのに。

「力がない所為で差別を受けると思いませんでしたの?」
「ヴァンピールはそのように優しい種族なのか?」
「え?」
「ヴァンピールは力を持たず生まれた一族の者が差別されないよう大切に保護して育てているのか?自分で居場所を勝ち取らずとも周りが用意してやるのか?守護者の宿命を果たせずともただ生きているだけで素晴らしいとでも言うのか?」

ああ……ぐうの音も出ない。
ヴァンピール一族も力のない者は死ぬだけ。
生きているだけで素晴らしいと称えられるのは守護者の宿命を持たないヴァンピール以外の種族だけ。
戦えない守れない守護者など守護者ではない。

「少なくともドラゴニュートはそのように甘くない。みな生きるか死ぬかだ。だから竜の力のないシャルは外に居場所を勝ち取り嫁いだのだと思っていたが、違うのか?」
「その通りですわ」

力がないならないなりの生き方を自分で勝ち取る。
それが守護者として生まれた者の生き残る術。

「シャル。いや、ロラ。シャルに入れ込み過ぎだ」
「ええ。貴方に言われて気付きましたわ」

ヴァンピールに生まれ力のない者から命尽きるところを何度も見てきたのに、シャルロットのことになると可哀想と。
知っていたならどうして守ってあげなかったのかと、そんなのようなことを考えてしまった。

「シャルは神の身許に行ったのだろう?ならばこの肉体はお前のものだ。なぜ僅かに残った感情のために自分を殺す。権限を使ったがロラを捨てシャルになれと言ったのか?」
「いいえ。頼まれたことは光の星で彼女の身体に宿り生きてほしいとだけ。君の思うままに生きてと言われましたわ」

神竜はシャルロットの肉体に宿ってくれと言っただけで、シャルロットになれとは言っていない。
肉体はシャルロットでもロラの思うままに生きろと。
自分という存在を殺していたのはロラ自身。

「じゃあそうしろ。僅かに残ったシャルの感情がどうだろうと自分が本当に嫌なことはするな。書類上の繋がりだけと言え私の孫娘を大切に思ってくれていることには感謝する」

そう言われてロラは苦笑する。

「ふふ。本家の孫娘とすら一度しか会ったことがないほど一族と関わらない方ですのに、存外優しいのね」
「言っただろう。私の前では一族の者でもああなると。顔を合わせ怯えられるのは面倒くさい。会わない方が楽だ」

ああ、会わないことはこの人なりの優しさだったのね。
なんという孤独。
強すぎる力を持ったばかりに孤独を選んだ破壊の竜。

ドラゴンさん。
貴方がヴァンピールのワタクシを選んだ理由は、シャルロット嬢はもちろんこの破壊の竜のためでもあったのね。
同じ守護者のワタクシなら怯えないだろうと。

ロラは神竜が自分を選んだ理由を察して苦笑した。
    
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