人間不信になったお嬢様

園田美栞

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それでも一歩踏み出したい

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 それから紗紀子は部屋に籠りがちになった。外に出ていく勇気が出ないままベットから起き上がり庭を見ていた。この屋敷はとても静かだ。女中が来ること以外は何もなく、お客様もこの頃滅多にいらっしゃらない。というのも、紗紀子の父が今は遠くの別荘に行ってるため用がある人はそちらを訪れる。紗紀子の訪問者はいない。
「お嬢様、招待状が届いていますけどいかがなさいます?」
女中の一人が紗紀子の部屋のドアを開けるなりそう聞いてきた。
「そこに置いておいて、きっと行かれないと思うけど」
紗紀子はソファーの前のテーブルを指さした。
「なら御断りの手紙を書かなければなりませんね」
女中はそう言って去って行こうとした。
(このままずっとこんな日が続くのかな)
あれから真紀子にも会っていない。きっと嫌われてしまったかもしれない。私がいつまでもグズグズしているから。そんなのはもう嫌。嫌われるのはいいけど、誰かを傷つけたままでいるのは嫌。
(でもどうやったら…?)
頭が混乱する。あれからベットに入ってる時も、食事中も、本を読んでいるときもいつもこの間のことを思い出してしまう。
(どうしたらこんな苦しいのが消えるの?)
「…待って」
紗紀子は何かを思いつき彼女を呼んだ。その女中は紗紀子が小さい時から世話をしてくれる人だった。名は鈴木さんといった。昔から相談事は彼女にはできた。お母様が亡くなった時もずっとそばにいてくれたのは真紀子と鈴木さんだった。彼女なら何を話しても恥ずかしくないしいいアドバイスをもらえるかもしれない。
「私…鈴木さんに少し聞きたいことあるの」
時間いい?と聞くと鈴木は首をかしげて彼女のもとにやってきた。背中のファスナーを上げてあげ
「どうなさいました?」
と鈴木は聞いた。なかなか言い出せず紗紀子は外を見ていた。鈴木さんは急かすことなくずっと待っていてくれた。心が落ち着いた気がして紗紀子は口を開いた。
「この間のことを彰宏さんにちゃんと誤っておきたいの。急に部屋に戻ってしまったことを…。だけどそんな勇気が全くでなくて…」
鈴木は紗紀子の言葉を聞いて涙ぐんだ。
「鈴木さんどうしたの?急に泣くなんて…」
「いいえ、お嬢様ったら成長なされたんだなって」
「そんな…今そんなこと言ってる時じゃないでしょう?」
紗紀子は顔を赤くして言った。そんな彼女を鈴木さんはニコッと笑って紗紀子の手を握った。
「あの招待状は白椿様からですよ。舞踏会できちんとお会いするといいと思いますよ」
紗紀子は俯いた。自分のせいでまた誰かを傷つけてしまった。この間のことをきちんと誤っておかなければ。だけどそんなことを私はできるのかしら?
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