人間不信になったお嬢様

園田美栞

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2人の訪問客

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 数日間部屋に籠りっぱなしだった紗紀子に2人の訪問客がやってきた。一人目は真紀子だった。紗紀子の様子が心配で訪ねてきたのだった。真紀子は彼女の部屋の扉を叩いた。女中から今日は誰にも会いたくないと返事が来たので紗紀子に何かあったのだと思ったのだった。
「真紀よ、開けて」
その声にそっと紗紀子は顔を出したのだった。元気のない笑顔が見え、思わず抱きしめた。
「どうしたの?何かあった?」
心配そうな顔で聞く彼女に首を振った。
「なんともないの。ただ一人になりたくって。真紀ちゃんこそどうしたの?」
「特に何もないけど遊びに来ただけよ」
部屋の中に入って椅子に腰かけた。
「紗紀ちゃんの家って西洋っぽいのね。なんか不思議な感じ」
そう言っていつも遊びに来る。たわいのない話が続いたり、女中が運んできたお茶を飲みながら会話して夕方ごろには帰って行った。

 二人目の訪問客は彰宏だった。あれから何も連絡がなく1か月経っていたので心配に思って訪ねてきたのだった。紗紀子は追い出そうという気にはならなかった。父は今日は居ないことだし、お友達なのだから家に招いても大丈夫だろうと思った。
 「どこか出かけますか?」
彰宏はそう誘った。だけど、父親の言いつけ通り首を横に振る紗紀子に不安げな顔をした。訳を尋ねどうこたえようか迷いながら彼女は遠回しに説明したのだった。真紀子にだったら言いやすいこの説明を他人のしかも男の人にどう言おうか大変で時折首を傾けながら話す紗紀子に彰宏は詳しく聞こうとはせず頷いていた。
「ふぅ」
心の声が漏れ紗紀子はため息をついた。応接室のソファーに腰を掛けていた彼女はテーブルに置かれたお茶を啜った。落ち着いたころを見計らって
「無理は禁物だよ。君の力になりたいからなんでも話してもらって構わないそれがむしろ嬉しいからさ」
「初めは誰もがそう言ってました…」
小さな声で紗紀子は言った。「ん?」とした顔でカップを置いた彰宏は紗紀子の隣に座った。小さな声も聞き洩らさず今にも泣きそうな彼女を放っておけなかったのだった。
「いつも、優しい声で愛してるなんて言葉を口にして…話聞くよだなんて言って…私がそれを鵜呑みにしたら他人にうわさ話が広がったりして…」
心の声が漏れていく。慌てて口を手で隠しこれ以上話さないという風な仕草をした。そっと肩を寄せられ驚いて顔を上げると彰宏は話し始めた。
「辛い過去を送ってきたんだな。俺が外の世界に顔を出さなかったのもそれが理由でもあった。舞踏会やパーティーは俺が小さなころから…あの屋敷が完成した当初から行われてた。だけど俺は外には顔を出さなかった。すべての人が着飾り、心にも無いことを言っては上っ面の関係を築いてるからね。心の内では誰もが足の引き合いで、今にも下に落そうとしている。そんなのを見るのが嫌だったんだ」
「ならなぜこの間は?」
「君の姿を見たからだ。ただ一度でも話してみたかった。こう思ったのは初めてなんだ。嘘だとは思うな。あれが初めての社交場だった。それに、君の過去の話は何となく聞いているよ」
「噂話で?」
紗紀子は顔を上げて聞いた。だが、彰宏は首を横に振った。
「いいや、圭吾から話を聞いていたんだ」
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