人間不信になったお嬢様

園田美栞

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圭吾視点と紗紀子の敵

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 圭吾は男を引ぱって会場を去って行く紗紀子から目が離せないでいた。かつて自分の婚約者だった子。自分のせいで彼女を不幸にしてしまったことを知っていた。彼女のよからぬ噂は嫌でも耳に入ってくる。発信源は瑠奈である元も知っていた。だが、止めることはできなかった。
 紗紀子と付き合っていた時から瑠奈は紗紀子の悪口を言いふらしていた。仲良くなっているふりをしていた。そんなことには全く気付かず楽しそうに話す紗紀子がバカらしかった。瑠奈のその言葉に同調して紗紀子を嘲笑ったことも多々あった。
だが今は違う。彼女の笑顔を奪ってしまったという事実が自分を襲う。スポットライトに当てられた彼女はかつての幼さが消え、大人びて綺麗だった。
(あの男は誰なのか?)
見覚えがある人物が彼女のそばにいた。彼女に連れられるように去って行ったあの男の顔を思い出すことができない。何度か辻倉に行き来していたから召使の顔をすべて覚えている。
(誰だ…?)
急に圭吾は思い出したかのように目を見開いた。
「彰宏…」
思い出した。彼を。あの色白で背は高いあの人物。普段こういうものに参加しない奴だった。顔を知ってる人が少ないのはそのせいだった。
(そんな奴がなぜ彼女の傍に?)
奪われた気持ちが胸の奥からふつふつと出てくる。
(あの男が隣にいるってことは彼女は今あの男に笑っているのか?俺にしか見せなかった笑顔をあいつに見せているのか?)
圭吾の鋭い目が冷たくなった。
「これで諦められた?」
瑠奈のその言葉に口元だけにこりと笑い
「あぁ」
と低い声で答えた。


「悲惨ね」
葛城家の玄関を出ようとすると後ろから声が聞こえた。キッと紗紀子はその声の主を睨みつけた。昔から何かと悪口ばかり言う女たちだった。派手な衣装と派手な化粧が目立ち、紗紀子を目の敵にしては陥れるようなことばかり言う。
「貴女たちには関係ないでしょう?」
紗紀子はそう言って帰ろうとした。
「ならなんで来たの?」
朋子の声が低く響き渡る。
「こうなることが分からなかったの?仮にもあんたは私たちより立場が上のはず。見てられないわ。私たちよりも下の女に負けるなんて。所詮辻倉家もその程度なのね」
朋子はそう言って笑った。
「この国で3大財閥とかなんとかいうからどんな子かと思ったけど、2つとも庶民に負けるなんてねぇ」
何も言い返せないでいる紗紀子を横目に隣に立つ仲間たちに言った。
「瑠奈って庶民なんでしょう?それに貴女の召使だったって。私たちも気をつけなくてはね。召使の教育を」
フフと朋子たちは笑っている。まるで辻倉の教育がなっていないとでも言うかのように。
「白椿ってどんな方のなのかしら」
「唯一の私たちのような鑑となる方ならいいわね。あんたとは違って」
朋子たちはそう言って目の前に彰宏の正体を知らずにフフっと笑って去って行った。(あの子たちこの間のパーティーには来ていなかったのね)
一部しか知られていない隣に立つ人物の正体。私の傍にいてくれた人がとんでもない人だと改めて気づかされた。紗紀子は車に揺られながら隣に座る彼を見ることができなかった。沈黙を破ったのは彼の言葉だった。
「あんな危険なところに行って、君が傷付いてないか心配だったよ」
そっと肩を寄せられ頭が彼の肩に当たる。
「…大丈夫」
「君が大丈夫って時はダメな時だって知ってる。色々抱え過ぎだよ、無理はするな。…常に俺は君の傍にいるから頼ってくれよな」
「…ありがとう」
強張っていた物がスッと消え、涙が流れた。彰宏は何も言わず彼女の肩を擦った。
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