復讐するならストーカーの彼とともにやり遂げましょう。憎しみの連鎖にはお気をつけて

園田美栞

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壊れていく

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　葵は自分のマンションに戻った。

「どうだ？今日のデートは」

何も知らない黒井は葵に今日の感想は？と聞いた。葵はうなだれたまま何も答えずにいた。

「ごめん。寝る」

そういうと部屋に入って行ってしまった。残された黒井は首を傾げた。

　それから帰ってきた小山は考え込んでいる黒井に「どうした？」と尋ねた。

「…葵の様子が変なんだ」

「まぁ、喧嘩したんじゃねぇの？」

小山はそういうとテレビのスイッチを付けた。それでも気になった黒井は葵が引っ込んだ部屋のドアの前に立ちノックをした。中からは全く音がしない。数回戸を叩いたが返事はなく、黒井は「入るぞ」と言って中に入った。葵は起きていた。黒井に今日起きたことを話した。

やっぱり何かあったかと思った黒井は元気づけるために葵に

「どこか食べに行くか？」と言った。頑なに断っていた葵だが、黒井のしつこい誘いに押されしぶしぶ部屋を出た。

　ついた先はいつもの居酒屋。彼らが何か考え事をしていたり、話し合うときに使う場所であった。マンションにすればいいのでは？と思うだろうが、彼らが住んでいるマンションは壁が薄く、隣の部屋に聞こえるのではないかと思うほどだった。それにこの居酒屋は個室で回りの声が大きいために何も心配なく話せるのだった。

「わかってるよ。僕がどうしようもない奴だって…。いつもより深く傷つけたんだから」

珍しくビールを飲む葵は心の中の整理がつかないまま話始めた。

「説明なんてできない。それに、自分の過去なんて話そうだなんて思ってなかった…。咄嗟に彼女にそう言ったけど、言わなくていいのならそのままでいいと思ってたよ…」

「それに、どう説明するんだって話だよな。だがなんでその眞瀬は知ってたんだろう」

小山は焼き鳥を箸で摘まみながらぼそりといった。

「きっと、板倉だよ。あいつと眞瀬は繋がってるんだ。僕たちのことを調べたのも板倉の仕業だと思う」

「…」

黒井は黙って聞いていた。以前板倉の姿を見たことがあった。その話を目の前にいる葵にするべきかどうかを迷っていたのだった。一応耳にでも入れておくかと黒井は少し声のトーンを下げて言った。

「知ってるか？板倉は岡崎一筋みたいな言い方をしていたろ？それなのに葵、お前がとっていったと…」

「…あぁ…まぁ…そうだね」

「全て嘘だよ。早くお前が蹴りつけたから黙ってはいたんだが、浮気ぐせのあるやつなんだよ。俺が勝手に思い込んでるとかそうじゃない。実際に見たんだよ。お前の予感は的中していたんだな」

黒井はニヤッと笑った。「この話を使おうがどうしようかはお前の自由だ。後悔するよりはお前の耳にでも入れておこうかと思ってな」

葵はにこりと笑った。黒井はその反応に頷き、前かがみになるのをやめた。「明日、彼女ともう一度話してみるよ。そこでどういわれようと構わない。僕が彼女のことを好きなのを真正面から言うよ」葵のその言葉に黒井も小山も頷いた。

　次の日、彼女がマンションの玄関から出てくるのを見計らって葵は目の前に現れた。「葵くん…」佳代子は驚いた顔をしたが、次第にムスッと表情を変えると

「もう私の前に現れないで。私、嘘つく人嫌いなの。大っ嫌いなの」と走って行ってしまった。葵が何かを言う前に駆け出し、その場にいた住人が彼らを見ていたのだった。そのことを葵は黒井たちに話して聞かせた。

「取り合ってくれなかったよ。これ以上行くとしつこいって言われるんだろうな…。もうダメか…」葵は肩を落とし俯いた。

「元気出せって、ただ振られただけだろ？そんな落ち込むなよ」黒井は葵の肩に手を置き、慰めの言葉をかけた。

「…」葵は黙ったままだった。

「まぁ、また飲みにでも行くか？気分転換に」そう言って黒井は葵の手を引っ張った。だが、それを葵は振り払い声を上げた。

「元気出せってなんだよ！たかが振られただけ？僕がどれだけ彼女に好かれようと努力した？彼女の好きなものに合わせて、どうしたら喜んでもらえるのか、どうしたら僕のこと好きになってくれるのかいつだって考えてたよ。…彼女なしじゃいられないんだ。…もう…終わりなんだよ！」そう言うと子供の様に泣きじゃくり、モノに当たり始めた。こうなってしまっては誰も止めることができなかった。大暴れする葵を止めようと掴んだのは黒井だった。

「よせって。お前の気持ちはわかるよ。だけど、岡崎はどう思ったか考えたことあるか？」
「あぁぁぁ！！」言葉にならない叫び声で黒井の言葉を遮った。じたばたと暴れる華奢な葵はがっしりした体系の黒井に抑えられた。だんだんと落ち着きを取り戻すのを確認し、黒井は離れた。

「気は済んだか？」小山はそういうと水を持ってきた。

「お前もそろそろその癖を止めろよ。普通に周りから人がいなくなるぞ」黒井はそういいながら隣に座った。葵は泣きじゃくり背中を黒井は擦ってやった。

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