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幸せな時間
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それから部屋を出た葵は佳代子と暮らしていたマンションへと向かった。急いで着替えた為、少し服が寄れていたりして玄関先で整えた。玄関のチャイムを鳴らし少し待つと佳代子が姿を現した。エプロン姿で現れた彼女に葵はポカンとしていると彼女は手を引き家の中に入れた。
「どうしたの?」
葵はキョトンとした顔で聞いた。
「料理作ったの。もしよかったら食べてほしいなって」照れた表情で言う佳代子にとびっきりの笑顔で「ありがとう」と言った。二人で暮らしていたあの頃は滅多に佳代子が料理することは無かった。それに彼女自身、自炊などしたことがなく自信がなかった。なんでも卒なくこなす葵に変なものを食べさせてしまうんじゃないかって不安もあった。葵は嬉しさのあまり彼女を抱きしめた。動揺する彼女の顎をクイッとあげキスをした。安心する人が返ってきた。自分で追い払ったくせに佳代子はそんなことを思っていた。「あ…」と鍋を見てパッと離れた。自分のしなくてはいけないことを思い出したのだった。
「ごめんね、私料理したことなくって」まず詫びておこうと佳代子は言った。
「何を作ったの?」キッチンへやってきた葵は聞いた。
「えっと…ロールキャベツとパスタにしようかなって思ってて…」キャベツを洗いながら言った佳代子に
「なら、パスタ茹でよっか?」と聞いてきた。本当だったら待ってて貰ってもよかったのだが、まだ一つも出来上がってないし、それに自信がないことをするんじゃないかなと思って「うん、ありがとう」と返事した。(何もできてないのか)なんて彼は一切言わなかった。彼女のペースに合わせて手伝ってくれていた。
キッチンで隣に立つ葵を意味もなく見てしまう。スラリとした身長で白くて長くきれいな手。何もかもが絵になり様になる。これでよく今まで彼女ができなかったなぁと思う。佳代子自身も気づかなかった彼の美貌に思わず顔を赤らめる。佳代子の視線に気づき葵はちらりとこちらを向いた。
「ん?」パスタを茹でる手を止め
「水、冷たかった?」と聞いた。慌てて佳代子は首を振った。
彼のやさしさにずっと甘えていたい。そんな風に感じた。今までであった男がどんな感じだっただろうか。比べちゃいけないのはわかってる。でも、経験を通して得るものだってあるはずだ。
「佳代のことをもっと知りたいんだ」そう言って板倉は私をホテルに誘った。部屋の中はとてもキレイで、夜空のように輝く天井を眺めているとそっと亮介は電気を消した。
「怖い?」そっと後ろから抱きしめ彼はそう言った。微笑みながら首を振る私の耳を愛撫した。「ん…」耳はとても弱く少し触れられただけで感じてしまう。心地よくて幸せなひと時が流れた。私の服がパサリと床に落ちた…。
あの時の亮介は優しかった。次第に自分の元から離れるようになって、一人ぼっちにされた。それが分かっていても怖くて聞けなかった。知りたくもなかった。知ってしまったら余計離れて行ってしまうって思った。そうなるのが怖い。何よりも怖くて、いつの間にか誰かがいないと生きていけない女になっている。
「どうしたの?」葵の言葉に我に返った。(だめ…。なんで亮介のことを思い出したの?)自分の訳の分からない行動に嫌気がさす。何も知らない葵は自分のことを心配してくれる。それがまた心にグサッと刺さる。
「ううん、大丈夫」と笑って答え、その場をやり過ごした。
「そっか…」何かを察したのか、もしかしたら私自身が何か口走ったのかわからないけれど、葵は彼女の方を向くのを止め、ため息をついた。
「ねぇ…」佳代子はその場の空気がどんよりするのが嫌で後先を考えず声をかけた。
「ん?」手を止めずに返事する葵に「ロールキャベツって…」と言いかけたが、何を言おうか焦った。
「知ってるよ」黙っていると葵が返事をした。
「え?」ポカンとした顔で佳代子が聞くと
「それ、亮介が好きなやつだよね」手を止めずに言い出す。慌てて火を止めた佳代子は驚いていた。
「どうして僕にそれを作るのかなって思っていたよ。さっきから様子がおかしいのも何かあったかと思ってけど…」口元が笑っている。恐怖を感じて完全に佳代子は固まってしまった。迫ってくる彼に思わず後ずさりする。
「わ…私の得意料理っていうか…これしかできなくて…」
心臓がドキドキして止まらない。別にやましいことがあるわけでもないのに、なんなんだろう。
「それも知ってる。前にも言ったことあるけど僕は何でも知ってるよ」そうだった、この人は私のことをずっと見ていたって言っていた。それをわかり切ってて私はこの家に呼んだのだった。それに今後付き合っていきたいって思ったから、ここに呼んだ。背中に冷たいものを感じ逃げられなくなった。ダンっと壁に手を置いた。葵の顔が近く佳代子の心臓はドキドキしている。
「僕は君しか見てない。君が亮介のことをまだ気になるのなら、ゆっくりでいいから消してくれないかな」
あぁ、なんて人をこの家に呼んでしまったんだろう。それになんでこんな人を好きになってしまったんだろう。決して逃れられないこの感じがなぜか私は好きになってしまった。追い出そうとは思わない。葵の声を聞くたびに彼の呪縛から逃れられなくなっていく。さっき急に亮介を思い出したのは一瞬彼に助けを求めていたからなのだろうか?もしそうならば罪深いのはこの私だ。
「私も葵のことが好きになったみたい…。もう亮介のことなんか好きじゃないの」
口が勝手に動く。それでも言わされている感じがしないのはなぜ?佳代子の言葉に葵はにこやかに頷いた。以前彼が言っていた「僕は何でも知っているよ」という言葉。あれで私の心は奪われてしまった。普通の人では有り得ない何かに私は捕われてしまった。
手がおぼつかないまま料理が出来上がり、テーブルに料理が並べられていく。
「わぁ!」佳代子は並べられた料理を見て声を上げた。
「ん?」といった顔を葵はする。
「私の好きなお醤油のパスタね」以前母親が作ってくれたお醤油のパスタだった。
「君の好きなものだから」葵はそう言った。この人は自分の嫌がることなどはしなそう。と佳代子は思った。話したことないことまで知っているけど、それを他人に言いふらすわけでもなく私が喜んでくれるよう努力している。佳代子はそんな葵を見て笑ってしまった。どうしてこんな私を愛してくれるのかと不思議に思う。どこがそんなに好きなのか、大して可愛くもなく、女子力も無く、我儘で高慢で…探さなくても自分の嫌な所が多く見つかる。今まで私と付き合ってきた人はそんな私の本性を知って逃げていった。もしかしたら葵も上っ面しか見ていないんじゃないか。唯一そんな私の内面を知っていてそれでも長く付き合ってくれたのは亮介だけだった。散々そのことで喧嘩ばかりしたけど、互いの嫌な所を知りつつも一緒にいてくれた。佳代子は自分が迷っているって気づいた。心の底にいるもう一人の自分が迷っている。このままでいいのか。こんな私を美化している目の前の人を裏切る結果になるのではないか。綺麗な私を演じ切らなければならないのではないか。結婚したとしても自分の嫌な所を一回でも見せると崩れてしまう恐怖。今までそんなことは一ミリもなかった。それだけ目の前の人のことを気にしている。食べ終わり、一緒にテレビを見ていてもそんな不安が過り内容が入ってこない。この人を不安がらせたくない。ガッカリさせたくない。どこまでの私を知っているのだろうか。聞きたくても聞けない。誰かに相談することもできない。佳代子はそれから一睡もできないまま朝を迎えた。
「どうしたの?」
葵はキョトンとした顔で聞いた。
「料理作ったの。もしよかったら食べてほしいなって」照れた表情で言う佳代子にとびっきりの笑顔で「ありがとう」と言った。二人で暮らしていたあの頃は滅多に佳代子が料理することは無かった。それに彼女自身、自炊などしたことがなく自信がなかった。なんでも卒なくこなす葵に変なものを食べさせてしまうんじゃないかって不安もあった。葵は嬉しさのあまり彼女を抱きしめた。動揺する彼女の顎をクイッとあげキスをした。安心する人が返ってきた。自分で追い払ったくせに佳代子はそんなことを思っていた。「あ…」と鍋を見てパッと離れた。自分のしなくてはいけないことを思い出したのだった。
「ごめんね、私料理したことなくって」まず詫びておこうと佳代子は言った。
「何を作ったの?」キッチンへやってきた葵は聞いた。
「えっと…ロールキャベツとパスタにしようかなって思ってて…」キャベツを洗いながら言った佳代子に
「なら、パスタ茹でよっか?」と聞いてきた。本当だったら待ってて貰ってもよかったのだが、まだ一つも出来上がってないし、それに自信がないことをするんじゃないかなと思って「うん、ありがとう」と返事した。(何もできてないのか)なんて彼は一切言わなかった。彼女のペースに合わせて手伝ってくれていた。
キッチンで隣に立つ葵を意味もなく見てしまう。スラリとした身長で白くて長くきれいな手。何もかもが絵になり様になる。これでよく今まで彼女ができなかったなぁと思う。佳代子自身も気づかなかった彼の美貌に思わず顔を赤らめる。佳代子の視線に気づき葵はちらりとこちらを向いた。
「ん?」パスタを茹でる手を止め
「水、冷たかった?」と聞いた。慌てて佳代子は首を振った。
彼のやさしさにずっと甘えていたい。そんな風に感じた。今までであった男がどんな感じだっただろうか。比べちゃいけないのはわかってる。でも、経験を通して得るものだってあるはずだ。
「佳代のことをもっと知りたいんだ」そう言って板倉は私をホテルに誘った。部屋の中はとてもキレイで、夜空のように輝く天井を眺めているとそっと亮介は電気を消した。
「怖い?」そっと後ろから抱きしめ彼はそう言った。微笑みながら首を振る私の耳を愛撫した。「ん…」耳はとても弱く少し触れられただけで感じてしまう。心地よくて幸せなひと時が流れた。私の服がパサリと床に落ちた…。
あの時の亮介は優しかった。次第に自分の元から離れるようになって、一人ぼっちにされた。それが分かっていても怖くて聞けなかった。知りたくもなかった。知ってしまったら余計離れて行ってしまうって思った。そうなるのが怖い。何よりも怖くて、いつの間にか誰かがいないと生きていけない女になっている。
「どうしたの?」葵の言葉に我に返った。(だめ…。なんで亮介のことを思い出したの?)自分の訳の分からない行動に嫌気がさす。何も知らない葵は自分のことを心配してくれる。それがまた心にグサッと刺さる。
「ううん、大丈夫」と笑って答え、その場をやり過ごした。
「そっか…」何かを察したのか、もしかしたら私自身が何か口走ったのかわからないけれど、葵は彼女の方を向くのを止め、ため息をついた。
「ねぇ…」佳代子はその場の空気がどんよりするのが嫌で後先を考えず声をかけた。
「ん?」手を止めずに返事する葵に「ロールキャベツって…」と言いかけたが、何を言おうか焦った。
「知ってるよ」黙っていると葵が返事をした。
「え?」ポカンとした顔で佳代子が聞くと
「それ、亮介が好きなやつだよね」手を止めずに言い出す。慌てて火を止めた佳代子は驚いていた。
「どうして僕にそれを作るのかなって思っていたよ。さっきから様子がおかしいのも何かあったかと思ってけど…」口元が笑っている。恐怖を感じて完全に佳代子は固まってしまった。迫ってくる彼に思わず後ずさりする。
「わ…私の得意料理っていうか…これしかできなくて…」
心臓がドキドキして止まらない。別にやましいことがあるわけでもないのに、なんなんだろう。
「それも知ってる。前にも言ったことあるけど僕は何でも知ってるよ」そうだった、この人は私のことをずっと見ていたって言っていた。それをわかり切ってて私はこの家に呼んだのだった。それに今後付き合っていきたいって思ったから、ここに呼んだ。背中に冷たいものを感じ逃げられなくなった。ダンっと壁に手を置いた。葵の顔が近く佳代子の心臓はドキドキしている。
「僕は君しか見てない。君が亮介のことをまだ気になるのなら、ゆっくりでいいから消してくれないかな」
あぁ、なんて人をこの家に呼んでしまったんだろう。それになんでこんな人を好きになってしまったんだろう。決して逃れられないこの感じがなぜか私は好きになってしまった。追い出そうとは思わない。葵の声を聞くたびに彼の呪縛から逃れられなくなっていく。さっき急に亮介を思い出したのは一瞬彼に助けを求めていたからなのだろうか?もしそうならば罪深いのはこの私だ。
「私も葵のことが好きになったみたい…。もう亮介のことなんか好きじゃないの」
口が勝手に動く。それでも言わされている感じがしないのはなぜ?佳代子の言葉に葵はにこやかに頷いた。以前彼が言っていた「僕は何でも知っているよ」という言葉。あれで私の心は奪われてしまった。普通の人では有り得ない何かに私は捕われてしまった。
手がおぼつかないまま料理が出来上がり、テーブルに料理が並べられていく。
「わぁ!」佳代子は並べられた料理を見て声を上げた。
「ん?」といった顔を葵はする。
「私の好きなお醤油のパスタね」以前母親が作ってくれたお醤油のパスタだった。
「君の好きなものだから」葵はそう言った。この人は自分の嫌がることなどはしなそう。と佳代子は思った。話したことないことまで知っているけど、それを他人に言いふらすわけでもなく私が喜んでくれるよう努力している。佳代子はそんな葵を見て笑ってしまった。どうしてこんな私を愛してくれるのかと不思議に思う。どこがそんなに好きなのか、大して可愛くもなく、女子力も無く、我儘で高慢で…探さなくても自分の嫌な所が多く見つかる。今まで私と付き合ってきた人はそんな私の本性を知って逃げていった。もしかしたら葵も上っ面しか見ていないんじゃないか。唯一そんな私の内面を知っていてそれでも長く付き合ってくれたのは亮介だけだった。散々そのことで喧嘩ばかりしたけど、互いの嫌な所を知りつつも一緒にいてくれた。佳代子は自分が迷っているって気づいた。心の底にいるもう一人の自分が迷っている。このままでいいのか。こんな私を美化している目の前の人を裏切る結果になるのではないか。綺麗な私を演じ切らなければならないのではないか。結婚したとしても自分の嫌な所を一回でも見せると崩れてしまう恐怖。今までそんなことは一ミリもなかった。それだけ目の前の人のことを気にしている。食べ終わり、一緒にテレビを見ていてもそんな不安が過り内容が入ってこない。この人を不安がらせたくない。ガッカリさせたくない。どこまでの私を知っているのだろうか。聞きたくても聞けない。誰かに相談することもできない。佳代子はそれから一睡もできないまま朝を迎えた。
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