上 下
16 / 344
第二話「正体不明の敵に対する自衛隊の対処法について」

リベンジマッチ

しおりを挟む
 木々の頭を通り越して、赤と青の甲冑。スピネルとアイオライトが着陸したのと、格納庫からTK-7が二機が飛び出したのは、ほぼ同時だった。

 両陣が、数十メートルの距離で対峙する。
 自分たちの機体を中破させた存在、それが複数いたことに対して、安久と宇佐美は至極冷静であった。

 それでも内心で「最悪な方の予想が当たった」と毒吐いているが、吉田から聞いた研究成果。つまり例の残骸目当てでここを襲撃するとしたら、それはその持ち主であろうことは、想定出来ていたことだった。

 一方で、事前情報で自衛隊の主力機が出てくることがないと思っていた襲撃者側は、見るからに狼狽えていた。銃撃戦をしていた者たちが、慌てて後ろに逃げる。
 通信機を持っていた男も、アイオライトの足元で通信機に向かって「聞いてたのと話が違うぞ!」とがなり立てている。周りの部下も浮き足立っていた。自衛隊のTkー7が、こちらの兵器を破損させたことは、周知のことだった。

 その青い甲冑に乗っている真木も、先程無力化した旧式のAMWが一機だけだと思っていた所に、新たな敵が出てきたことに驚いていた。
 それも、話で聞いていた、相方の甲冑の左腕と右足を欠損させ、この作戦を行なうことになった元凶の二機がいるとは思ってもみなかったのだ。

 そして、驚き以上に、怒りの感情を顕にしたのが、自分の相棒を傷つけられたアリサだった。スピネルが搭乗者の感情を露わにするように、わなわなと義手を震わせる。そして次の瞬間には、

『貴様らがー!!』

 激昂の声を上げて、赤い鎧が真木が制止するよりも早く、地を蹴ってTK-7目掛けて飛び出してしまった。
 義手ではない方の手先から光の剣――仲間内ではフォトンブレードと呼ばれる、木刀の様に見える武器を展開し、思い切り振り上げて斬りかかる。

 正に滑るような速度の急接近に、しかし二度目となれば対応も素早い。二機は左右に散開して突撃を躱した。横に飛ぶようにして距離を取った二番機が、右手で腰の高振動刀を抜いて、左手でスピネルに向けて手招きをする。さらにスピーカーの電源を入れて、挑発。

『おいで素人ちゃん、今度は片足と言わず全身バラしてあげちゃうから』

 赤い西洋鎧が、白い侍に向けて再び突進した。
 対する方も、ゆらりと、生身の人間がするような動きで応じる。

 巨人同士の戦闘が始まった。


「アリサはほんとにもう!」

 アイオライトの球体の中で、危惧していた通りになってしまったことを内心で悔いながら、真木は足元の仲間に下がるように言う。

「ここは私たちがなんとかするから、みんなは目標を!」

『わ、わかった!』

 そう返事が返ってきて、仲間たちが銃を構えて進もうとしたところに、徹甲弾が打ち込まれた。道路を穿いた弾丸は、衝撃で大人たちを吹っ飛ばし、動かなくした。

「?!」

 生身の人間を攻撃するのに一切の躊躇いも持っていない相手。こちらに向かって来た一番機に、青い鎧が相対する。

 ハンドガンをアイオライトに向けている白い細身の機体。肩には「〇一」と、陸上自衛隊を示す日の丸マーク。
 アリサのスピネルの片腕を捥いだ機体だ――真木が警戒して敵をよく観察する。こちらにピタリと銃口を向けているその機体は、AMWが持つ人間臭さ、イメージのフィードバックによるブレや揺れが一切感じられなかった。まるで、戦闘マシンのようだ。

 ぞくりと、真木の背筋に寒気のような物が走った。
 まるで、中に人が入っていない、機械仕掛けの兵器のようなのに、装甲越しにでも、目の前の機械から底冷えするような殺気を感じた。これまで感じたことがない感覚に、真木の動悸が早くなる。

 それはアイオライトも同じようで、操縦していないにも関わらず、今にも逃げ出したそうに後ずさっている。

 しかし、この相手を自分がどうにかしなければ、もう一機の侍と連携されたら、スピネルが今度こそ撃破されてしまうかもしれない。
 恐怖を抑え付けて、はっぱを掛けるように、球体の内側をばちんと叩く。

「いくよアイオライト……怖がらないで!」

 搭乗者よりも敏感に反応して怯えていた甲冑が、激を受けて両手の手先から光を発し、二振りのナイフを作り出すと、勇猛果敢に飛び掛る。
 対するTk-7もその動きを感知し、角を「ガシャリ」と稼動させ、戦闘機動に入った。

 黒煙が立ち上る施設の傍で、お互いの陣営が見守る中。巨人のリベンジマッチが始まった。
しおりを挟む

処理中です...