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第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」
未知との激突 その一
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「くっ……大丈夫か二人とも」
『効かねーよこんなん』
『問題ありません、大丈夫です』
猛烈な熱気と衝撃に曝された三体だったが、咄嗟に張ったシールドと強靭な装甲によって損傷は間逃れていた。精々表面に煤汚れが付いた程度である。
シールドは一定以下の衝撃波や砲弾などは難無く防ぐが、文字通り壁を作り出しているわけではないという特性が、装甲の汚れとなって現れていた。
そして誘導弾の雨を凌いだ三体の前方から、三機のAMWが高速で接近してきていた。
その三機は、何重にもなった装甲版からなるずんぐりむっくりした胴体。低いタービン音を上げて、その巨体を持ち上げてホバリングさせている太い脚。
そして頭部には。シャープなデザインの胴体とはアンバランスな複合センサーがついており、白鴎の脳裏に頭に飾りが乗った鉄のダルマを彷彿とさせた。
その三機は、全体的な造形こそ同じに見えるが、その両腕にはそれぞれ異なった装備をしていた。
肩に「X-1」とペイントされた中央の機体は肘から先が巨大な砲塔になっていて、通常のAMWが持つ五指のマニピュレータがオミットされていた。
その右翼の「X-2」と書かれた機体は、肥大化した腕にナックルガードと巨大な鉄杭が装着されている。
反対側の「X-3」は、通常のAMWと同じマニピュレータを備えた腕に見えるが、その腕には巨大なライフル砲が抱えられていた。
近距離の二番機、中距離の一番機、遠距離の三番機、如何にもわかりやすい見た目であった。
『くそが、舐めた真似しやがって!』
「おい待て緑川、迂闊だぞ!」
早まって突出した緑川のジェードに、近接型の二番機が受けて立つとばかりに、正面からぶつかるように動く。それを見た緑川が「上等だおらぁ!」と手に巨大な戦斧を具現化させて突っ込んで行き、他の二体と距離を離した。
「待てってば緑川、連携して叩くぞ!」
『しるか! 勝手にやってろ!』
「あの馬鹿! 紫野、援護をってうわっ」
『きゃあ!』
慌てて白鴎と紫野がそれに続いて援護に入ろうとした時、ジェードと二体の間を紫電を纏った砲撃が立て続けに撃ち込まれた。二体はたまらず身を翻して回避した。二人の頬に冷や汗が流れる。
まるで光弾の如く鈍く輝く砲弾は、二体を誘導するように精密に撃ち込まれた。ジェードと自衛隊の二番機から無理やり自分たちを引き剥がしたのだ。そう理解した白鴎だったが、ならばどうすればいい、と考えても思考が追い付いていかない。
無理矢理援護しようとして意識を反らせば、あの砲撃を受けることは必至に思え、身動きが取れないのだ。
『私が抑えます!』
西洋鎧三体による連携が早くも崩された。ならばせめてと、ライフルを構える三番機に武器を構えた紫野。
だが今度は、自衛隊の一番機が、両腕の砲塔から徹甲弾を乱射。ターコイズ目掛けて突っ込んで来た。白と紫の鎧が引き離される。
目標を咄嗟に変更し、ターコイズに肉薄する一番機に向けて弓を引き絞ろうとしたタンザナイトだが、そこを再度砲撃が襲った。
紫の西洋鎧は慌てて回避運動を取ることになり、援護しようとしていた味方から距離を取らざるを得なくなる。
結果、西洋鎧側は互いが互いに援護しようとすると、フリーになった相手から攻撃を受ける形となり、三体は見事に孤立させられることになった。
こうして、付け焼刃程度の連携は訓練を受けた自衛隊によって崩され、戦闘は三対三の団体戦から一対一の個人戦へと移行した。
「おらぁぁぁっ!」
分断されようが知ったことではない緑川は、雄叫びをあげて戦斧を上段から大きく振り下ろす。
相対する鋼鉄の達磨。Tk-9はそれをひらりと避け、ジェードのがら空きとなった横っ腹を殴り飛ばした。
衝撃で「ぐっ」と息がつまる。ジェードが勝手に受身を取って、転倒することなく姿勢を立て直す、直後、拳――大型のナックルガードを纏い鈍器と化したそれを振り上げたTK-9が突っ込んできていた。
「舐めんじゃねぇ機械細工が!」
激昂し、戦斧を横薙ぎに振る。突進した先に置くようにして振るわれたその斬撃は、しかし獲物を捉えることなく空を切った。
斧が振るわれる直前に、Tk-9がボクシングの選手のように高速でバックスウェーをして、紙一重で避けたのだ。そして再度正面へ加速する。
ホバリングを生かした急制動。搭乗者が普通の機士だったならば、急激な慣性の変化に対応できずにロストコントロールしかねない動きだった。だが、強靭な肉体を持つ搭乗者がそれを可能にしていた。
何が起きた? 緑川がそれを理解する前に、裏拳に変化した打撃が再びジェードを襲う。もろに受けたジェードが大きくのけぞり、致命的な隙を見せてしまう。
その隙を逃さず、一回転して構えを取ったTk-9の右腕。そこに取り付けられた鉄杭が「ジャキン」と機械音を上げた。
「……!」
そこでとった回避運動は、緑川かジェードか、どちらにせよほぼ本能的な動きだった。
殺気を感じた機体が身を捩らせた瞬間、一瞬前まで胴体があった場所、ジェードの右肩に鉄杭が叩き付けられ、次の瞬間、猛烈な衝撃が緑川を襲った。
立て続けの衝撃にくらくらする頭を抑える。そして肩の方を見やって、緑川は驚愕した。
これまで、罅割れすら生じなかった装甲に、AMWの拳大の大穴が開いていたのだ。
ジェードや他の機体も、装甲自体の強固さに加えて、表面にはフォトンの膜(整備員らはフォトンコーティングと呼ぶ)を纏うことで絶対的な防御力を有していた。
しかし、今の攻撃はそれを物ともせずに破ってみせた。
もしあれを胴体に食らっていたら――
思わず自分がミンチにされる場面を想像してしまい、たじろいだ緑川とジェードの前で、鋼鉄達磨が鉄杭毎射出装置をパージした。
腕に取り付けられたシリンダー状の装置によって弾丸を装填したTk-9が、ボクサーのようにその腕を構えた。
「ちぇっ、比乃みたいに上手くはいかねーや」
《対装甲電磁ブレイカー セット完了 出力安定》
自身の乗るTk-9二番機の右腕に取り付けられた。鉄杭を撃ち出すための電磁出力が強すぎるために、装備その物が耐えられず。一発毎に丸ごと使い捨てにせざるを得ない試作品を横目に、志度はぼやいた。
炸薬の代わりにフォトン粒子による莫大な発電を利用した電磁誘導もどきで鉄杭を射出することで強力な運動エネルギー兵器と化すその武装。
直撃すれば相転移装甲を持つ同型機をも撃破し得るという謳い文句を信じて放ったそれは、見事に正体不明機の装甲を破壊して見せたが、志度は不満気だった。
「比乃や剛さんみたいにスマートにやっつけたかったんだけどなぁ……」
そうぼやく志度は、基本的に近接格闘戦で敵を倒すタイプで、傍から見てお世辞にもスマートとは言い難い戦法が得意な機士である。
そんな志度から見て、二人は対AMW戦において一つのあるべき姿として写っていた。
周辺に被害を出す前に一撃で目標を撃破し、何食わぬ顔で「普通のこと」もしくは「できて当然だ」と言ってのける。
AMWでも生身でも勢いがままに相手を殴殺するしか能がなかった志度からすれば、それ以外のことを教えてくれた二人に抱くそれは、羨望に値する物であった。
しかし、今回は状況が状況であるので、それに拘っているわけにもいかない。
幸いにも、相手の機体性能はともかくとして、中身は大したことがないことはこの数回の攻防で判った。
別に一撃で無くとも、動かなくなるまで
「存分に……」
殴る。ナックルガードを展開させて志度の二番機は滑るように加速し、防御するように戦斧を構えた敵機を、勢いのままその上から殴り飛ばした。
『効かねーよこんなん』
『問題ありません、大丈夫です』
猛烈な熱気と衝撃に曝された三体だったが、咄嗟に張ったシールドと強靭な装甲によって損傷は間逃れていた。精々表面に煤汚れが付いた程度である。
シールドは一定以下の衝撃波や砲弾などは難無く防ぐが、文字通り壁を作り出しているわけではないという特性が、装甲の汚れとなって現れていた。
そして誘導弾の雨を凌いだ三体の前方から、三機のAMWが高速で接近してきていた。
その三機は、何重にもなった装甲版からなるずんぐりむっくりした胴体。低いタービン音を上げて、その巨体を持ち上げてホバリングさせている太い脚。
そして頭部には。シャープなデザインの胴体とはアンバランスな複合センサーがついており、白鴎の脳裏に頭に飾りが乗った鉄のダルマを彷彿とさせた。
その三機は、全体的な造形こそ同じに見えるが、その両腕にはそれぞれ異なった装備をしていた。
肩に「X-1」とペイントされた中央の機体は肘から先が巨大な砲塔になっていて、通常のAMWが持つ五指のマニピュレータがオミットされていた。
その右翼の「X-2」と書かれた機体は、肥大化した腕にナックルガードと巨大な鉄杭が装着されている。
反対側の「X-3」は、通常のAMWと同じマニピュレータを備えた腕に見えるが、その腕には巨大なライフル砲が抱えられていた。
近距離の二番機、中距離の一番機、遠距離の三番機、如何にもわかりやすい見た目であった。
『くそが、舐めた真似しやがって!』
「おい待て緑川、迂闊だぞ!」
早まって突出した緑川のジェードに、近接型の二番機が受けて立つとばかりに、正面からぶつかるように動く。それを見た緑川が「上等だおらぁ!」と手に巨大な戦斧を具現化させて突っ込んで行き、他の二体と距離を離した。
「待てってば緑川、連携して叩くぞ!」
『しるか! 勝手にやってろ!』
「あの馬鹿! 紫野、援護をってうわっ」
『きゃあ!』
慌てて白鴎と紫野がそれに続いて援護に入ろうとした時、ジェードと二体の間を紫電を纏った砲撃が立て続けに撃ち込まれた。二体はたまらず身を翻して回避した。二人の頬に冷や汗が流れる。
まるで光弾の如く鈍く輝く砲弾は、二体を誘導するように精密に撃ち込まれた。ジェードと自衛隊の二番機から無理やり自分たちを引き剥がしたのだ。そう理解した白鴎だったが、ならばどうすればいい、と考えても思考が追い付いていかない。
無理矢理援護しようとして意識を反らせば、あの砲撃を受けることは必至に思え、身動きが取れないのだ。
『私が抑えます!』
西洋鎧三体による連携が早くも崩された。ならばせめてと、ライフルを構える三番機に武器を構えた紫野。
だが今度は、自衛隊の一番機が、両腕の砲塔から徹甲弾を乱射。ターコイズ目掛けて突っ込んで来た。白と紫の鎧が引き離される。
目標を咄嗟に変更し、ターコイズに肉薄する一番機に向けて弓を引き絞ろうとしたタンザナイトだが、そこを再度砲撃が襲った。
紫の西洋鎧は慌てて回避運動を取ることになり、援護しようとしていた味方から距離を取らざるを得なくなる。
結果、西洋鎧側は互いが互いに援護しようとすると、フリーになった相手から攻撃を受ける形となり、三体は見事に孤立させられることになった。
こうして、付け焼刃程度の連携は訓練を受けた自衛隊によって崩され、戦闘は三対三の団体戦から一対一の個人戦へと移行した。
「おらぁぁぁっ!」
分断されようが知ったことではない緑川は、雄叫びをあげて戦斧を上段から大きく振り下ろす。
相対する鋼鉄の達磨。Tk-9はそれをひらりと避け、ジェードのがら空きとなった横っ腹を殴り飛ばした。
衝撃で「ぐっ」と息がつまる。ジェードが勝手に受身を取って、転倒することなく姿勢を立て直す、直後、拳――大型のナックルガードを纏い鈍器と化したそれを振り上げたTK-9が突っ込んできていた。
「舐めんじゃねぇ機械細工が!」
激昂し、戦斧を横薙ぎに振る。突進した先に置くようにして振るわれたその斬撃は、しかし獲物を捉えることなく空を切った。
斧が振るわれる直前に、Tk-9がボクシングの選手のように高速でバックスウェーをして、紙一重で避けたのだ。そして再度正面へ加速する。
ホバリングを生かした急制動。搭乗者が普通の機士だったならば、急激な慣性の変化に対応できずにロストコントロールしかねない動きだった。だが、強靭な肉体を持つ搭乗者がそれを可能にしていた。
何が起きた? 緑川がそれを理解する前に、裏拳に変化した打撃が再びジェードを襲う。もろに受けたジェードが大きくのけぞり、致命的な隙を見せてしまう。
その隙を逃さず、一回転して構えを取ったTk-9の右腕。そこに取り付けられた鉄杭が「ジャキン」と機械音を上げた。
「……!」
そこでとった回避運動は、緑川かジェードか、どちらにせよほぼ本能的な動きだった。
殺気を感じた機体が身を捩らせた瞬間、一瞬前まで胴体があった場所、ジェードの右肩に鉄杭が叩き付けられ、次の瞬間、猛烈な衝撃が緑川を襲った。
立て続けの衝撃にくらくらする頭を抑える。そして肩の方を見やって、緑川は驚愕した。
これまで、罅割れすら生じなかった装甲に、AMWの拳大の大穴が開いていたのだ。
ジェードや他の機体も、装甲自体の強固さに加えて、表面にはフォトンの膜(整備員らはフォトンコーティングと呼ぶ)を纏うことで絶対的な防御力を有していた。
しかし、今の攻撃はそれを物ともせずに破ってみせた。
もしあれを胴体に食らっていたら――
思わず自分がミンチにされる場面を想像してしまい、たじろいだ緑川とジェードの前で、鋼鉄達磨が鉄杭毎射出装置をパージした。
腕に取り付けられたシリンダー状の装置によって弾丸を装填したTk-9が、ボクサーのようにその腕を構えた。
「ちぇっ、比乃みたいに上手くはいかねーや」
《対装甲電磁ブレイカー セット完了 出力安定》
自身の乗るTk-9二番機の右腕に取り付けられた。鉄杭を撃ち出すための電磁出力が強すぎるために、装備その物が耐えられず。一発毎に丸ごと使い捨てにせざるを得ない試作品を横目に、志度はぼやいた。
炸薬の代わりにフォトン粒子による莫大な発電を利用した電磁誘導もどきで鉄杭を射出することで強力な運動エネルギー兵器と化すその武装。
直撃すれば相転移装甲を持つ同型機をも撃破し得るという謳い文句を信じて放ったそれは、見事に正体不明機の装甲を破壊して見せたが、志度は不満気だった。
「比乃や剛さんみたいにスマートにやっつけたかったんだけどなぁ……」
そうぼやく志度は、基本的に近接格闘戦で敵を倒すタイプで、傍から見てお世辞にもスマートとは言い難い戦法が得意な機士である。
そんな志度から見て、二人は対AMW戦において一つのあるべき姿として写っていた。
周辺に被害を出す前に一撃で目標を撃破し、何食わぬ顔で「普通のこと」もしくは「できて当然だ」と言ってのける。
AMWでも生身でも勢いがままに相手を殴殺するしか能がなかった志度からすれば、それ以外のことを教えてくれた二人に抱くそれは、羨望に値する物であった。
しかし、今回は状況が状況であるので、それに拘っているわけにもいかない。
幸いにも、相手の機体性能はともかくとして、中身は大したことがないことはこの数回の攻防で判った。
別に一撃で無くとも、動かなくなるまで
「存分に……」
殴る。ナックルガードを展開させて志度の二番機は滑るように加速し、防御するように戦斧を構えた敵機を、勢いのままその上から殴り飛ばした。
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