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第十五話「第八師団と相棒達の活躍について」
第八師団の戦い
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開始された救助作戦は、開幕から派手な様相となっていた。
第八師団が送り出した、二個小隊計六機のTkー7と、待ち伏せていたペーチル六機が、ほぼ無人の埠頭で激突したのだ。
飛び交う銃撃の最中、第八師団の面々は、まさかAMWで待ち伏せされているとは思わなかった。と言うことはなかった。むしろ、想定したのでAMWで出てきたのである。逆に望む所だと、対AMW戦に突入する。血の気の多い連中だった。
「残り三機……今一機やった! 矢代、田村、突っ込め!」
胴体に至近距離から徹甲弾を食らい、もんどり打って倒れたペーチルを尻目に、小隊長である小田一尉が、部下二人に突入を指示する。
普通のパイロットであれば、銃撃の合間を縫っての突撃するなど、あり得ない選択だが、自衛隊の機士は一味違う。
指示を受けた二人は「了解!」と勇ましく応答すると、隠れていた遮蔽物から勢いよく飛び出した。
突撃した二機のTkー7は、敵の牽制射撃を右へ左へ回避。銃弾の雨の中を、前進、前進、とにかく前進する。
己の得物の距離にまでレンジを詰め切ると、ナイフを片手に飛び上がった。そして、ライフルを立射していたペーチル二機にそれぞれ飛び掛かる。
落下の勢いのまま、相手に組み付いて身動きを封じると、動作系と制御系に高振動ナイフによる一撃を加えて、呆気なく無力化した。
ナイフを引き抜くと、どちらの敵機も痙攣した様に動いて、そのまま地面に倒れた。
これで、敵機を三つ仕留めた第一小隊のTkー7は、短筒を油断無く構えて、周囲を警戒する。そして、更なる敵対目標がいないと判ると、気を抜いて銃を降ろした。
「こちら第一小隊、敵AMWを制圧完了」
無線から、同じくペーチルと交戦していた第二小隊の通信が入る。損傷機は無し。余裕の制圧だった。
『こちら第二小隊、こっちも制圧が終わった。周囲に動作反応無し』
『こちらHQ了解。当初の作戦からは大いに逸れたが、救出作戦は続行する。テログループの潜伏場所を捜索しつつ、周囲を警戒せよ』
当初の作戦。それは捕まった三曹が持っているという発信機の頼りに、生身の助っ人二人が潜入。それに合わせてAMW隊が後ろから静かに忍び寄り、人質を保護した直後に一気に制圧するという物だった。しかし、ご覧の通り、相手の方が一枚上手だったのか、Tk-7は真正面から敵と戦闘をするはめになってしまった。
だが、この騒ぎに乗じて、あの小さい二人も潜入できているはずだった。何せ、あの二人は白兵戦でもトップクラスと噂の第三師団からやってきた手練れである、見た目はともかく、その腕前は信用に値するだろう。
小田は小さく息を吐いてから、辺りを注意深く見渡す。周辺にあるのはペーチルの残骸と、穴だらけになった倉庫くらいだ。敵の本丸はもっと奥か、あるいは泊っている船舶くらいだろうか。
『第一小隊了解。と言っても、もう怪しい物と言ったら並んでるフェリーくらいしか……』
今のところ順調、問題なし。敵AMWは全て撃破され、後は捕まっている三等陸曹殿を探し出して助け出すだけ。その肝心の居場所がまだ掴めていないのだが、それも時間の問題だろう。
小田が望遠カメラで不審なフェリーにあたりをつけ、僚機に「おい、あのフェリー」と通信を入れようとしたところで、第二小隊からの通信が割り込んで来た。
『……敵機全滅……いや、新しい反応を感知』
「どうした?」
『まだ動いているAMWがいる……何?』
第二小隊の隊長機が当惑した声をあげる。その理由は、小田とその僚機にもすぐ解った。その新しく出てきたAMW、見たこともない造形のその機体が、倉庫街の大通りに堂々と姿を表わしたのだ。
(なんなんだ、あいつは……?)
その機体は、全体的に丸いフォルムに、一つ目の単眼センサー。ダラリと垂れ下がった両腕の先には、長いクローアームが二対付いている。それらを青一色に染め上げた、まるで甲殻類のような機体。
第八師団の面々が困惑する中、その機体はゆっくりとまるでお辞儀をするように身を屈めた。次の瞬間、その見た目からは想像も付かない俊敏さで、第二小隊の隊長が乗るTkー7に迫ると、その胴体にクローアームを突き立てた。
「なっ……」
一瞬の出来事だった。第一、第二小隊共に、反応できた者はいない。コクピットを貫かれて絶命した隊長もだ。その敵機は、困惑したまま固まる自衛隊の前で、クローで串刺しにしたTkー7を高々と持ち上げると、スピーカー越しに名乗りを上げてみせた。
『自衛隊の諸君、私はオーケアノスと呼ばれている者だ。始めまして――さようならだ』
そして、クローアームを横に振って刺さっていた獲物を放り捨てる。その一連の動作から、機体越しに感じた猛烈な殺気に、小田は身震いすると、同じく硬直している部下二人に咄嗟に命じた。
「全機散開! 距離を取れ!」
指示を出すと同時に、自身も逃げるように反射的に後ろへと飛んだ小田の目の前に、青い機体がそれを上回る速度で走り迫った。
『反応が遅い、回避運動も遅い。零点だ』
第八師団が送り出した、二個小隊計六機のTkー7と、待ち伏せていたペーチル六機が、ほぼ無人の埠頭で激突したのだ。
飛び交う銃撃の最中、第八師団の面々は、まさかAMWで待ち伏せされているとは思わなかった。と言うことはなかった。むしろ、想定したのでAMWで出てきたのである。逆に望む所だと、対AMW戦に突入する。血の気の多い連中だった。
「残り三機……今一機やった! 矢代、田村、突っ込め!」
胴体に至近距離から徹甲弾を食らい、もんどり打って倒れたペーチルを尻目に、小隊長である小田一尉が、部下二人に突入を指示する。
普通のパイロットであれば、銃撃の合間を縫っての突撃するなど、あり得ない選択だが、自衛隊の機士は一味違う。
指示を受けた二人は「了解!」と勇ましく応答すると、隠れていた遮蔽物から勢いよく飛び出した。
突撃した二機のTkー7は、敵の牽制射撃を右へ左へ回避。銃弾の雨の中を、前進、前進、とにかく前進する。
己の得物の距離にまでレンジを詰め切ると、ナイフを片手に飛び上がった。そして、ライフルを立射していたペーチル二機にそれぞれ飛び掛かる。
落下の勢いのまま、相手に組み付いて身動きを封じると、動作系と制御系に高振動ナイフによる一撃を加えて、呆気なく無力化した。
ナイフを引き抜くと、どちらの敵機も痙攣した様に動いて、そのまま地面に倒れた。
これで、敵機を三つ仕留めた第一小隊のTkー7は、短筒を油断無く構えて、周囲を警戒する。そして、更なる敵対目標がいないと判ると、気を抜いて銃を降ろした。
「こちら第一小隊、敵AMWを制圧完了」
無線から、同じくペーチルと交戦していた第二小隊の通信が入る。損傷機は無し。余裕の制圧だった。
『こちら第二小隊、こっちも制圧が終わった。周囲に動作反応無し』
『こちらHQ了解。当初の作戦からは大いに逸れたが、救出作戦は続行する。テログループの潜伏場所を捜索しつつ、周囲を警戒せよ』
当初の作戦。それは捕まった三曹が持っているという発信機の頼りに、生身の助っ人二人が潜入。それに合わせてAMW隊が後ろから静かに忍び寄り、人質を保護した直後に一気に制圧するという物だった。しかし、ご覧の通り、相手の方が一枚上手だったのか、Tk-7は真正面から敵と戦闘をするはめになってしまった。
だが、この騒ぎに乗じて、あの小さい二人も潜入できているはずだった。何せ、あの二人は白兵戦でもトップクラスと噂の第三師団からやってきた手練れである、見た目はともかく、その腕前は信用に値するだろう。
小田は小さく息を吐いてから、辺りを注意深く見渡す。周辺にあるのはペーチルの残骸と、穴だらけになった倉庫くらいだ。敵の本丸はもっと奥か、あるいは泊っている船舶くらいだろうか。
『第一小隊了解。と言っても、もう怪しい物と言ったら並んでるフェリーくらいしか……』
今のところ順調、問題なし。敵AMWは全て撃破され、後は捕まっている三等陸曹殿を探し出して助け出すだけ。その肝心の居場所がまだ掴めていないのだが、それも時間の問題だろう。
小田が望遠カメラで不審なフェリーにあたりをつけ、僚機に「おい、あのフェリー」と通信を入れようとしたところで、第二小隊からの通信が割り込んで来た。
『……敵機全滅……いや、新しい反応を感知』
「どうした?」
『まだ動いているAMWがいる……何?』
第二小隊の隊長機が当惑した声をあげる。その理由は、小田とその僚機にもすぐ解った。その新しく出てきたAMW、見たこともない造形のその機体が、倉庫街の大通りに堂々と姿を表わしたのだ。
(なんなんだ、あいつは……?)
その機体は、全体的に丸いフォルムに、一つ目の単眼センサー。ダラリと垂れ下がった両腕の先には、長いクローアームが二対付いている。それらを青一色に染め上げた、まるで甲殻類のような機体。
第八師団の面々が困惑する中、その機体はゆっくりとまるでお辞儀をするように身を屈めた。次の瞬間、その見た目からは想像も付かない俊敏さで、第二小隊の隊長が乗るTkー7に迫ると、その胴体にクローアームを突き立てた。
「なっ……」
一瞬の出来事だった。第一、第二小隊共に、反応できた者はいない。コクピットを貫かれて絶命した隊長もだ。その敵機は、困惑したまま固まる自衛隊の前で、クローで串刺しにしたTkー7を高々と持ち上げると、スピーカー越しに名乗りを上げてみせた。
『自衛隊の諸君、私はオーケアノスと呼ばれている者だ。始めまして――さようならだ』
そして、クローアームを横に振って刺さっていた獲物を放り捨てる。その一連の動作から、機体越しに感じた猛烈な殺気に、小田は身震いすると、同じく硬直している部下二人に咄嗟に命じた。
「全機散開! 距離を取れ!」
指示を出すと同時に、自身も逃げるように反射的に後ろへと飛んだ小田の目の前に、青い機体がそれを上回る速度で走り迫った。
『反応が遅い、回避運動も遅い。零点だ』
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