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第二十一話「短期的出張と特殊部隊について」

再びの出会い

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 翌日、駐屯地で一泊し、ここの小隊をまとめている隊長と打ち合わせをした三人は、昼食を取ってから暇を持て余していた。
 いつもなら、作戦を想定した訓練でもするところなのだが、この小さい駐屯地にAMWを稼働させるほどの敷地はない。そも、自分達のTkー7はすでに港へと運ばれ、隠蔽工作が施されていた。

 一応、緊急出動用のTkー7はあるにはあるが、それを使って訓練をするわけにもいかない。第三師団や第八師団の駐屯地であればAMW用のシミュレータも置いてあったのだが、生憎、この駐屯地にはそんな高級品は置いていない。
 それではどうしたものか困って、先日訪れたばかりの司令室に向かい、山野二佐に伺いを立ててみた。

「それならば、少し敷地の外に出て貰っていても構わない。この近くにはショッピングモールくらいしかないがな」

 彼はすんなりと外出届を用意してくれた。そのことに礼を言った比乃たちは、早速、私服に着替え、そのショッピングモールへと繰り出したのだった。

 ***

「はえー、でっかい店だなぁ」

「おっきぃ……」

 生まれて初めて百貨店にやってきた志度と心視は呆然と呟いた。ここは駅と駐屯地の間にある大型モールで、かの有名なブランド店でもあった。利用客もそこそこ多く、人の往来も激しい。

 そんな人口過密地帯を、東京に住んでいるはずなのに田舎者丸出しな挙動をして観察している二人を尻目に、比乃は入り口にあった地図を眺めていた。
 書店に行って適当な本を買い、カフェでのんびり読書というのも個人的には良いのだが、後ろの二人には少々退屈だろう。ウインドウショッピング、というのも何か違う。

 さて、何か、時間を潰すのに最適な物はないだろうか……そう思いながら店舗一覧を吟味していると、百貨店の中にゲームセンターがあるのを見つけた。
 ここならば、この二人も退屈せずに済むだろう。財布の硬貨の枚数を確認し、軍資金がしっかりあることを確認すると、比乃は声をかけた。

「志度、心視、ゲームセンターがあるみたいなんだけど、そこでどう?」

「ゲーセンあるのかここ、ちょっと気になるな」

「私も、興味ある」

「それじゃあ、そこで時間を潰すってことで」

 比乃の提案に「賛成」と答えた二人を引き連れて、比乃は上階に上がるエスカレータに向かって歩き始めた。



 ショッピングモール二階の奥ばったところに、それはあった。そこそこ大きい店構えに、煌びやな目がチカチカするような装飾。大音量のゲーム音楽が、通路にまで流れ出ている。隣がフードコートになっているからか、人の入りもそこそこ多いようだ。

 またしても「はえー大っきい」と呆けている二人の手を引いて、比乃は店内に入った。店内にはクレーンゲームやガンシューティング、箱物のゲームにメダルゲームなど、様々なゲーム機が所狭しと並べられている。

 それらを目に、期待を膨らませている志度と心視を引き連れながら、ぐるっと一周見てみるつもりで店内を進んで行くと、一つのゲーム機が目に留まり、比乃は足を止めた。

 大型の卵型の球体をしたそのゲーム筐体は、横に出入り口のハッチがついている。それらが並ぶ中央にあるモニターには、対戦中のゲーム画面が映し出されていた。その画面を見て、比乃はこのゲームがどのようなものかを理解した。タイトルはそのまんま「AMW」である。

 そう、これはAMWの操縦を模した対戦シューティングゲームなのだった。比乃が興味を持つのも、AMWのパイロットとしては仕方のないことだろう。後ろの二人もそのゲームに興味津々らしく、「おおー」と漏らして目を光らせていた。

「比乃……あれ、面白そう」

「タイトルまんまってことは、操作性もまんまだろきっと、腕の見せ所だぜ!」

 そう言って、財布から早速小銭を取り出した二人の目線の先。モニターの中では、トレーヴォらしき細身の機体が踊るように飛び、太っちょなペーチルがモデルらしい機体にナイフでとどめを刺した所だった。画面に表示されるリザルト画面。そして、一つの卵型から今し方プレイしていたであろう人物が出てきた。

 その姿を見て、三人は「あっ」と声を上げて、それに反応した相手も比乃達を見て驚いたように目を丸くした。それはなんと、先日、暴漢たちから助けた、あの少年だったのだ。

「君は昨日の……こんなところで会うだなんて、奇遇なものだね」

「はい。昨日は、ありがとうございました」

 少し辿々しさが残る日本語でそう言って、ぺこりと頭を下げた少年に、比乃は「いやいや、当然のことをしたまでのこと」と謙遜するように言いながら、周囲を見渡した。
 すると、両替機の方から歩いてくる、大柄のロシア人と小柄な少女の姿が見えた。今回はちゃんと保護者同伴らしい。比乃は安心した。

 そうしていると、こちらに気付いた父親が「おお、君達は!」と小走りで駆け寄って来て流暢な日本語で声を掛けてきた。

「また会えて嬉しい。昨日は危ない所を助けくれて本当にありがとう、改めて礼を言わせてくれ」

「いえいえ、今日はご家族で遊びに?」

「ああ、街を見て回るよりも、こういう所で遊んでいた方が安全そうだからね。君たちも遊びに来たのか……学校は?」

「あー、その、うちの学校は夏休み早いんですよ、それで暇を潰しに」

 周囲に学生が殆どいないことを思い出し、比乃はしまったと思いながら適当な嘘をついてしまった。しかし、それでも父親は「そうなのか、日本の学校にも色々あるんだな」と納得してくれたようで、比乃は内心ほっとした。

「貴方方はご旅行ですか?」

「私の仕事の都合で一ヶ月ほど日本にいることになってね。流石にそんなに長く息子達を放っておけなくて、一緒に来てもらったんだ。ちょっとした旅行だと思っていたんだが……」

 父親はコインを受け取って、嬉々としてゲームの列に並んだ子供たちを見て、ため息をついた。

「折角、日本に来たというのに、二人ともこのゲームを気に入ってしまってね。やりたいと言って聞かない物だから、ほとんど毎日来ているよ」

「それはまた、大変ですね」

「ああ、おかげでこのゲームに関しては随分詳しくなってしまったよ……三人とも、これをやろうとしていたのだろう?  なら色々教えてあげよう。昨日のお礼としてね」

 そう言われて、比乃達としても断る理由もなかったので、教えてもらうことにした。ゲームをやるためには専用のカードを作る必要があることや、操作のちょっとしたコツ、テクニックなど、それはそれは詳しく教わった。

 ただ、一度手本を見せようとその父親がプレイしたのを見た時、その動きにどこか実戦に通じる物を感じて、比乃は首を傾げたのだが、それはゲーム慣れによるものだろうと一人で自己完結してしまっていた。

 ちなみに、本職歴六年にもなる三人のゲーム成績は言うまでもなかった。対人、対NPC含めて全戦全勝。試合を観戦していた少年少女から、羨望の眼差しで見られたりして、比乃たちはちょっと気分がよくなったりしたのだった。
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