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第二十七話「唐突な再会と長距離出張について」
格納庫でのいざこざ
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ブリーフィングが終わると、比乃たち一行は乗り込むことになる空母に赴いた。そこで、同行していた技術班と、各自で打ち合わせを始める。
比乃と心視が乗るTkー11“ネメスィ”は、先日の模擬戦でもそうだったが、技術班や整備士の手によって、完璧なコンディションに仕上げられていた。
比乃が見上げたTkー11の体格は、Tkー7などに比べても更に人型に近い。手足はすらりと長く、製作者の趣味か、丸っこいながらもヒロイックなデザイン。そして背中に生えた一対の羽根と純白の塗装によって、見るものに天使か神像を思わせる。
その背中に生えた羽根のように見える円筒の装備は、日本の持ちうるフォトン関連技術を結集して作られた、通称“フォトンウィング”と呼ばれる。フォトンスラスターに代わる文字通り空を駆けるための翼である。
空中に展開したフォトン粒子の塊を、同じくフォトン粒子を纏った羽根で叩くことで、空中での多段跳躍を可能にしている、画期的で先進的な装備だった。
この装備は羽根であると同時に、それぞれに一門ずつ内蔵された大口径滑腔砲の砲塔として、またある時は、格闘戦用のサブマニピュレータとしても機能する。それを操作するのは、後部座席に収まる心視の役目だ。
しかし、欠点もある。この装備を羽根として使っている間は、滑腔砲の使用が出来ず、逆に滑腔砲、補助腕として使用している時には羽根として使うことができないのだ。
勿論、羽根を用いなくともTkー11は第四世代AMWとしても高い運動性能を誇っているが、それでも、折角の強力な火力と機動力を両立出来ないというのは、痛い点であった。
それを少しでも改善する為、Tkー11の腰のウェポンラックには、跳躍時の射撃用、あるいは予備として、短筒が一挺マウントされている。もっとも、今回想定されている相手に、それがどれだけ通用するかは怪しいところだった。それでも、無いよりはましだろうという処置だ。
他の自衛官、志度や安久、宇佐美も、今回の為に用意された新装備について、技術班と資料を片手に話し合っていた。
いかんせん、どれもこれも試作兵器である。なので、どこまで実用に耐えうるのか、どういった状況において負荷が掛かるのか、使用不能に陥る危険性など、専門用語を飛び交わせ合いながら話し合っている。そのような専門家でない人物が、内容を聞いても到底理解出来ないような会話が続いている。
そんな会話をしていた一人である比乃は、早速、技術班と一つの懸案事項について話し合っていた。それはつまり、発艦してから上陸地点に到達するまでに、フォトンウィングが連続使用に耐えられるかということであった。
「理論上は可能ですけど、どうしても速度はフォトンスラスターでかっ飛ぶのに比べると遅くなりますね。代わりに、空中でも上手く使えば急制動が掛けられますが」
「その理論上っていうのが怖いんですけどね……この間のテストの時、最高使用回数は何度でしたっけ」
「十回です。それでも一キロ以上の連続跳躍は出来てますから、今回もまぁいけるんじゃないですかね?」
「いや、倍以上の距離があるんですが……なんだかあやふやですけど、そこは技本のスタッフを信じましょうか。整備はくれぐれも念入りにお願いしますね。上陸前に池ぽちゃでリタイアなんて嫌ですから」
「それは勿論。任せといてくださいよ」
怪訝そうな表情を浮かべる比乃に、技術スタッフは笑って、資料を手に整備員らの元へと向かって行った。その後ろで、話を聞くだけで発言しなかった心視が、声を掛けてきた。
「比乃……心配?」
「そりゃあ始めての試みだもの、心配もあるし不安もあるさ」
比乃がそう言って軽く両手をあげた、顔には軽い笑みが張り付いている。言っていることに対して、その表情と仕草は飄々としていた。それを見て、心視が首を傾げる。
「そうは、見えないけど……むしろ、ちょっと楽しそう」
「そりゃあ、悲観しててもしょうがないじゃないか。事前準備を万全にしてもらったら、後は僕達次第。嫌でもやるしかないなら、いっそ楽しもうと思い込んだ方がマシってもんでしょ?」
「なるほど……」
「おーおー、日本のボーイスカウトは随分と余裕あるんだな」
そこに、M6のパイロットが数名やってきた。厭味ったらしい下種な笑みを浮かべ、比乃を挑発するような発言。誰も彼も、二人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていて、心視に向けて笑顔を浮かべていた比乃は、一瞬でそれを引っ込めた。
「そちらこそ、出撃前に何か御用ですか?」
「なに、作戦前にわだかまりを解いておこうと思ってよ? なぁお前ら」
先頭にいたパイロットが言うと、後ろの連中も口々に「そうそう」「作戦前に啀み合ってもしかたねぇ」「ガキ相手に大人気ないしな」と、心にも無さそうな調子で言う。心視が先頭の男を睨みつけて前に出そうになったのを、比乃が片手で制す。ここでいざこざを起こすのは良くない。
「それには大いに賛成ですね。僕達は同じ作戦を行う味方同士なんですから」
「おう、それじゃあ仲直りの握手でもどうよ、坊や」
そう言って差し出された手を比乃が取ると、男がその手をぐいっと引っ張った。思わず前につんのめった比乃の耳元に、男が低い声で忠告した。
「いいかガキ、これは俺達の作戦だ。てめぇら外野は引っ込んで隅っこで大人しくしてるこった」
囁くように、侮蔑と軽蔑を込めてそう言う。それを聞かされた比乃は、すぐに姿勢を戻し、怒ることもなく、むしろ呆れた様子で、しかし意地の悪そうな顔をして言い返した。
「そちらこそ、わざわざ日本から尻拭いに来てあげたんですから、無様な戦いを見せないでくださいよ。どうせ、皆さんあの少尉さんより弱いんでしょうから、期待はしてませんけど」
言い返された男は、顔を一瞬で忿怒に染め上げて「クソガキ!」と声を張り上げた。腕を振りほどき、拳を振り上げる。耳元で叫ばれた比乃が迷惑そうに離れると、振り下ろされた拳をひょいと避けた。
話を後ろで聞いていた他のパイロット達も、比乃の発言に顔色を変えて、殺気混じりの視線を向けて来ていた。
「さっき、貴方方が言ったんでしょう。味方同士で啀み合ってもしかたないって、それなら、まずはそちらの態度を改めたらどうですか?」
「黙れクソガキ! てめぇ、一生AMWに乗れないようにしてやろうか!」
そう言って一歩踏み出したパイロットの男。心視がもはや我慢ならぬと、比乃の前に出た。一触即発の空気。が、そこに新たな声が割って入った。
「お前たち、いったい何をしている。パイロットは待機室に集合のはずだが」
それは、そこにいるパイロット達と同じ野戦服を来た男、コールター少尉だった。少尉よりも階級が下なのか、男らは「しょ、少尉、これは……」と狼狽えた。
「聞こえなかったのか、待機室で大人しくしていろと言っているんだ」
「りょ、了解しました」
少尉の有無を言わさぬ言いように、彼らはすごすごとその場を立ち去っていった。それを見送った比乃は「コールター少尉、ありがとうございました」と、素直に礼を言って頭を下げた。頭を下げられた少尉は、少し居心地が悪そうにすると、逆に頭を下げた。
「こちらこそ、部下が申し訳なかった。それに、先日の発言も撤回させてもらう。君達の技量とその機体は今回の作戦に欠かせない力を持っている。無礼なことを言って申し訳なかった」
「いえ、頭を上げて下さい少尉。彼らを煽ったのはこちらも同じですし、それに普通の軍人さんからしたら、僕らみたいなのがイレギュラーなんですから、言われ慣れてますし、気にしてないですよ」
「そう言ってもらえると助かる。では、戦場ではよろしく頼む」
コールター少尉も足早にその場を立ち去る。残された比乃に、先程まで殺意マックスだった心視が聞いた。
「あの人達と連携……上手くいきそう?」
「さぁ、少なくとも、隊長クラスの人とは話が通じそうで、僕は安心したかな」
比乃と心視が乗るTkー11“ネメスィ”は、先日の模擬戦でもそうだったが、技術班や整備士の手によって、完璧なコンディションに仕上げられていた。
比乃が見上げたTkー11の体格は、Tkー7などに比べても更に人型に近い。手足はすらりと長く、製作者の趣味か、丸っこいながらもヒロイックなデザイン。そして背中に生えた一対の羽根と純白の塗装によって、見るものに天使か神像を思わせる。
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空中に展開したフォトン粒子の塊を、同じくフォトン粒子を纏った羽根で叩くことで、空中での多段跳躍を可能にしている、画期的で先進的な装備だった。
この装備は羽根であると同時に、それぞれに一門ずつ内蔵された大口径滑腔砲の砲塔として、またある時は、格闘戦用のサブマニピュレータとしても機能する。それを操作するのは、後部座席に収まる心視の役目だ。
しかし、欠点もある。この装備を羽根として使っている間は、滑腔砲の使用が出来ず、逆に滑腔砲、補助腕として使用している時には羽根として使うことができないのだ。
勿論、羽根を用いなくともTkー11は第四世代AMWとしても高い運動性能を誇っているが、それでも、折角の強力な火力と機動力を両立出来ないというのは、痛い点であった。
それを少しでも改善する為、Tkー11の腰のウェポンラックには、跳躍時の射撃用、あるいは予備として、短筒が一挺マウントされている。もっとも、今回想定されている相手に、それがどれだけ通用するかは怪しいところだった。それでも、無いよりはましだろうという処置だ。
他の自衛官、志度や安久、宇佐美も、今回の為に用意された新装備について、技術班と資料を片手に話し合っていた。
いかんせん、どれもこれも試作兵器である。なので、どこまで実用に耐えうるのか、どういった状況において負荷が掛かるのか、使用不能に陥る危険性など、専門用語を飛び交わせ合いながら話し合っている。そのような専門家でない人物が、内容を聞いても到底理解出来ないような会話が続いている。
そんな会話をしていた一人である比乃は、早速、技術班と一つの懸案事項について話し合っていた。それはつまり、発艦してから上陸地点に到達するまでに、フォトンウィングが連続使用に耐えられるかということであった。
「理論上は可能ですけど、どうしても速度はフォトンスラスターでかっ飛ぶのに比べると遅くなりますね。代わりに、空中でも上手く使えば急制動が掛けられますが」
「その理論上っていうのが怖いんですけどね……この間のテストの時、最高使用回数は何度でしたっけ」
「十回です。それでも一キロ以上の連続跳躍は出来てますから、今回もまぁいけるんじゃないですかね?」
「いや、倍以上の距離があるんですが……なんだかあやふやですけど、そこは技本のスタッフを信じましょうか。整備はくれぐれも念入りにお願いしますね。上陸前に池ぽちゃでリタイアなんて嫌ですから」
「それは勿論。任せといてくださいよ」
怪訝そうな表情を浮かべる比乃に、技術スタッフは笑って、資料を手に整備員らの元へと向かって行った。その後ろで、話を聞くだけで発言しなかった心視が、声を掛けてきた。
「比乃……心配?」
「そりゃあ始めての試みだもの、心配もあるし不安もあるさ」
比乃がそう言って軽く両手をあげた、顔には軽い笑みが張り付いている。言っていることに対して、その表情と仕草は飄々としていた。それを見て、心視が首を傾げる。
「そうは、見えないけど……むしろ、ちょっと楽しそう」
「そりゃあ、悲観しててもしょうがないじゃないか。事前準備を万全にしてもらったら、後は僕達次第。嫌でもやるしかないなら、いっそ楽しもうと思い込んだ方がマシってもんでしょ?」
「なるほど……」
「おーおー、日本のボーイスカウトは随分と余裕あるんだな」
そこに、M6のパイロットが数名やってきた。厭味ったらしい下種な笑みを浮かべ、比乃を挑発するような発言。誰も彼も、二人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていて、心視に向けて笑顔を浮かべていた比乃は、一瞬でそれを引っ込めた。
「そちらこそ、出撃前に何か御用ですか?」
「なに、作戦前にわだかまりを解いておこうと思ってよ? なぁお前ら」
先頭にいたパイロットが言うと、後ろの連中も口々に「そうそう」「作戦前に啀み合ってもしかたねぇ」「ガキ相手に大人気ないしな」と、心にも無さそうな調子で言う。心視が先頭の男を睨みつけて前に出そうになったのを、比乃が片手で制す。ここでいざこざを起こすのは良くない。
「それには大いに賛成ですね。僕達は同じ作戦を行う味方同士なんですから」
「おう、それじゃあ仲直りの握手でもどうよ、坊や」
そう言って差し出された手を比乃が取ると、男がその手をぐいっと引っ張った。思わず前につんのめった比乃の耳元に、男が低い声で忠告した。
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囁くように、侮蔑と軽蔑を込めてそう言う。それを聞かされた比乃は、すぐに姿勢を戻し、怒ることもなく、むしろ呆れた様子で、しかし意地の悪そうな顔をして言い返した。
「そちらこそ、わざわざ日本から尻拭いに来てあげたんですから、無様な戦いを見せないでくださいよ。どうせ、皆さんあの少尉さんより弱いんでしょうから、期待はしてませんけど」
言い返された男は、顔を一瞬で忿怒に染め上げて「クソガキ!」と声を張り上げた。腕を振りほどき、拳を振り上げる。耳元で叫ばれた比乃が迷惑そうに離れると、振り下ろされた拳をひょいと避けた。
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「いえ、頭を上げて下さい少尉。彼らを煽ったのはこちらも同じですし、それに普通の軍人さんからしたら、僕らみたいなのがイレギュラーなんですから、言われ慣れてますし、気にしてないですよ」
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