自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

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第二十九話「乱入者の迎撃と作戦の成否について」

戦略的後退

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 OFMが持つ銃剣による一撃は、一般的なAMWであれば、武装ごと真二つにする斬撃だった。だが、それらはことごとく、白いAMWの腕部から生えている、薄緑に輝くカッターに弾かれる。

 OFMの胴体に埋め込まれている球体型のコクピットの中で、白鴎は悪態をついた。自分の操るターコイズと、相手の白い機体、名前は知らないが、その性能――馬力は、ほぼ互角と言ったところだろう。白鴎は、己の師匠とも言える人物から教わったことを思い出す。機動兵器による格闘戦の要は、馬力と機動力だと言っていた。

 では、機動力の方ではどうか。こちらと切り結んでいた白いAMWが、銃剣を弾き飛ばすと、素早く後ろに飛んだ。そこを、紫野のタンザナイトが放った光矢が追撃するが、これをするりと避けて見せて、再び白鴎へ目掛けて突進してきた。

 見る限り、機動力も相手のAMWと、自分たちが使うOFMは互角に思えた。相手は空を飛べないので、その分はこちらが有利かもしれないが、白鴎は首を振って、その考えを捨てた。相手の機体は、背中の羽根を使って、空中でも自在に行動することができる。それをさっきの一撃で見せつけてきた。

 性能差は、細かい差異はあってもトータルで五分と五分だ。装甲と防御障壁も、あの薄緑色に輝くフォトンの刃を前には無意味。あとは、操るパイロットの技量次第だが、

「やっぱり、強い……!」

 二人掛かりならと思っていたが、相手はそう簡単には倒されてくれない。どころか、こちらが若干押されている。ターコイズの銃剣は、相手のカッターに阻まれて届かない。タンザナイトの狙撃も、相手の機体を捉えることが出来ない。それどころか、少しでもこちらに隙が生じれば、鋭い矢のような反撃が来る。すでに数度、攻撃を掠めたターコイズの白いボディ表面に、浅くはない傷が生じていた。

 何とか致命傷は避けているだけでも、自分で自分を褒めたくなるが、勝利を見出すには至らない。自身の後方で援護に徹していたタンザナイトの方も、反撃の射撃を幾度と受けていた。一度、防御障壁で攻撃を防げなかったせいで、右肩にダメージを負っている。

 矢を射るには、まだ問題なさそうだが、明らかに攻撃の手は緩まっている。あまり攻撃に集中していると、反撃を受けた時に防御し損ねてしまうからだ。
 何せ、相手の背中から生える砲台は、別の人間が操っているかのように、自在に動いて射撃してくるのだ。攻撃のタイミングを見計らうのも難しい。

 あの時、去年戦ったのと同じ相手かどうか確信は持てなかったが、今目の前にいる相手はそれと同等か、それ以上の強さに感じられた。出撃前、師匠、白鴎が先生と呼ぶ人物から言われた言葉が、少年の脳裏を過る。

『性能に胡座をかいている者から、あっさり死んで行く、それが戦場の理だ。OFMもAMWも、それは変わらない』

「……でも、先生」

 ここには居ない師匠に問うかのように白鴎は、弱々しく呟く。

「油断も慢心もしてないのに勝てない相手と戦場で出会ったら、どうすればいいんだ?」

 その問いに対する、代わりの答えだと言わんばかりに、突風と化したかのような勢いを持った白い敵が、自分を殺そうと飛び掛かって来た。
 勝てないとわかっていても、抗わなければ死ぬ。それだけは、間違い様のない事実であった。無情な現実に、白鴎は銃剣を構え直してそれに立ち向かった。



 何度目かの攻撃を受け止められて、Tkー11のコクピットの中で比乃は思わず叫んで居た。

「あーもう、しつこい!」

 目の前の二体をさっさと始末して、味方の援護に行きたいというのに、この白と紫のOFMは、しぶとく比乃と心視の操るTkー11に食い下がって来ていた。
 相手の技量は底が見えた。正直に言って、去年までと比べればマシになった程度だ。Tkー7改だったら危なかったかもしれないが、この新型の性能ならば、まず負けることはない。

 だと言うのに、相手はギリギリの所で攻撃を受け流し、身を反らし、致命傷を避けている。先程まで相手にした玉虫色のように、すんなりと斬られてはくれなかった。
 その後ろを飛んでいる紫の方も、何度目かの射撃で、障壁さえ張っていなければ、通常弾でも有効打になることはわかったのだが、損傷を受けて慎重になったのか、攻撃よりも防御に徹している。そのせいで、援護射撃こそ飛んで来ないが、仕留めることもできない。心視も焦れて来て居た。

「……こいつら、面倒くさい」

「全くだね。それに、いい加減撃破しないと米軍が不味いかも」

 こうしている間にも、自分たちの後方では安久や宇佐美、志度が相手をしているのとは別のOFMが、群れを成して、米軍のM6に攻撃を仕掛けている。
 その戦況は拮抗状態であったが、米軍側は現状、砲撃用のレールガンしかOFMに対する有効な武装を持っていない。接近されてしまうと、碌に刃が通らない高振動ブレードか、障壁で阻まれてしまう四十ミリライフルで対抗するしか無くなってしまうのだ。

 米軍の持つ対OFM戦の戦術ドクトリンとは、OFMの足止めを行う役割を持つ部隊と、決定打を撃ち込むM6が両方いて、初めて成立するのである。故に、そのどちらかが崩壊してしまうと、たちまち米軍はOFMに対応出来なくなってしまう。

 足止めを買って出た自衛隊はと言えば、志度は緑のOFMの相手で手一杯。安久と宇佐美、は隊長機と思わしき赤いOFMの相手をしている。その赤い機体はなんと、あの二人を相手に互角に立ち回って見せていた。
 こうなってしまうと、元から数の少ない自衛隊は、壁としての役目を果たせなくなってしまう。

 幸いだったのは、量産機らしい玉虫色のOFMを操るパイロットの技量はお粗末な物で、相手にしているのは、曲がりなりにも米軍の精鋭部隊であることだった。圧倒的な技量差を持って、攻撃が通用しない相手に、米軍は適切に対処していた。

 しかし、それでも、一方的に攻撃を受けている状態では、いずれ限界が来るだろう。それ故に、比乃と心視は、この二体を速やかに撃破したかった。即急に米軍もしくは、安久たちの援護に向かわなければならない。

「ええぃ、まどろっこしい!」

 比乃が再び吠える。大振りになった斬撃を、銃剣で難なく受け止められる。ぎりぎりと音を立てて鍔迫り合いに持ち込まれた。力比べは互角、その間に、背中の砲身が紫のOFMを狙って砲撃を行うが、それも弾かれてしまった。
 相手はこちらの状況を承知の上で、時間稼ぎに徹しているのではないか、比乃の頭にその考えが浮かんで、そうに違いないと確信する。それならば、相手が受けに回っていることにも、納得が行くからだ。
 であれば、馬鹿正直に相手をしてやる道理はない。

「心視、作戦変更。こいつら巻くよ。狙いは右腕!」

「……了解」

 指示のやり取りを終えると同時に、Tkー11は鍔迫り合いの状態から、強引に身を引いて相手の体制を崩す。そのまま後退し、背中の滑腔砲を、今度は白いOFMに向けた。

 突然、砲撃の的にされた方は、慌てて障壁を張ろうとしたが、それよりも弾頭の方が速い。砲撃を右腕に受けたOFMは仰け反り、銃剣をその手から落とした。

「次……」

 続いて、仲間の窮地に援護しようとした紫のOFMに、素早く照準。相手が矢を放つよりも先に弾頭を発射。それは相手の右肩に命中すると、先程と同様に弓が腕から落ちた。

「流石に殴り合いをしようとはしてこないだろ!」

 比乃は武器を失った二体に背を向けるように機体を反転させ、跳躍した。援護するならば、まずは米軍の援護からだ。状況は、思っていたよりも悪そうだった。
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