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第二十九話「乱入者の迎撃と作戦の成否について」

日米軍の力

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 撃破されたAMWの残骸から煙が立ち昇る滑走路の上。灰色の塗装をしたAMW、米軍のM6と、表面を玉虫色に鈍く輝かせた西洋鎧、OFMが、ある意味では一方的な戦闘を繰り広げて居た。
 残存する十五機の内の一機を操るコールター少尉は、悠々と地面の上を滑って接近して来た西洋鎧にライフルを向けて、三点バーストで発砲した。

 しかし、そのいずれの弾丸も、相手の装甲表面近くで、透明な膜のような物で弾かれてしまった。回避運動すら取らずに、こちらを嘲笑うかのように、愚直に接近して来る相手が、手に持った銃剣を振り上げた。

「――ッ!」

 咄嗟に、コールター少尉はスティックとペダルを巧みに操作し、機体を横に倒れ込むように動かした。訓練で何百回も繰り返した、重心が高いAMWならではの素早い回避運動。それに相手は対応出来ず、斬撃を空振らせる。

 その勢いを殺さずに側転し、相手の側面を取ったM6が、今度はフルバーストでマガジンに残っている弾丸を全て吐き出させた。
 不意打ちの逆襲となった攻撃を、相手に防御障壁を展開させる間も無く叩き込んだ。だが、放たれた無数の弾丸は、相手の表面装甲を傷つけただけで、致命傷どころか有効打にも至らなかった。

 わかってはいたが、側面からの攻撃ですら効かないとは――コールター少尉は小さく舌打ちをして、距離を取るように後方に跳躍しながら、予備のマガジンをライフルに叩き込む。

 今、自分たちに出来ることは、何とかして対OFM用の兵器であるレールガンを相手に叩き込むか、出来る限り時間を稼いで、有効な近接武器を装備している自衛隊に何とかしてもらうかだ。

 私情的には、出来ることならば前者で行きたいというのが、少尉の心情であった。しかし、レールガンは発射までに、展開からチャージと言った工程が必要だ。敵の目の前で隙だらけになってしまう。こうして距離を詰められた状態で使うのは、あまりにリスキーだった。

 肝心の自衛隊は、相手の隊長機らしきOFMの相手をするのに精一杯と言った状況。援護は期待出来そうにない。相手は相当に腕が立つようで、あの小さい軍曹よりも強いと言っていた大尉が二人掛かりでも、未だに撃破できていない。

 幸いなことに、敵のOFMに乗っているパイロットは、素人に毛が生えた程度の練度だった。必殺の威力を持っていても、攻撃パターンは単調、防御力を過信しているのか回避運動も遅い。

 あの装甲と障壁さえなければ、こんな連中、自力で撃破してみせる物を――性能差に胡座をかいているだけの脆弱な敵を、自身が磨き上げて来た技術を総動員しても倒せないという現実に、少尉は歯噛みして悔しがった。

 それでも、なんとかするしかないことには変わりない。一か八か、思い切り距離を取ってレールガンを展開してみるか、チャージ中は機動力が著しく制限される。チャージが終わる前に接近されたら一巻の終わりだが、このままではジリ貧だ。

(やってみるか……?)

 そう考えついて、機体を後ろに跳躍させようとしたその時。こちらに飛び込もうとして来た敵機が、胴体から薄緑色の刃を生やして、痙攣した。敵機から突き出した刃は、そのまま横にスライドし、敵を斬り捨てる。崩れ落ちた西洋鎧の向こうから、白いAMWが姿を表した。

『お待たせしました!  これより援護します!』

 何度聞いても軍人とは思えない、若過ぎる少年の声がして、少尉は安堵の笑みを浮かべた。やっと、こちらにも切り札が揃った。あとは反撃するだけだ。

「遅いぞ軍曹、だが感謝する」

 礼を言ってから、表情を引き締めて、自機のライフルを構え直し。コールター少尉が比乃に指示を飛ばす。指示と言っても内容は単純。この乱戦の中で、自身とこの友軍機が出来る事を考えれば、やることは明白だった。

「これより友軍機を救援する。私が牽制するから、貴官が落とせ!」

『了解!  足止めお願いします!』

 比乃も指示の飲み込みが早く、少尉の意図を汲み取り、動き出す。百メートルほど先で、残弾が尽きてブレードで対抗しようとしているM6に、今まさに襲い掛かろうとしていた西洋鎧の背中に、無数の火花が上がる。

 少尉の射撃。それに反応してゆっくりと、悠長に振り返った敵機の懐に、Tkー11が爆発的な加速力で飛び込んだ。相手が反応するより早く、縦一閃に切り裂いている。コクピットを破壊された敵機が倒れる。そのときには、少尉と比乃は次の目標に向けて駆け出していた。



 武器を拾い直して駆け付けた白鴎と紫野の前に広がっていたのは、無残に転がる味方機の残骸だった。そのほとんどは胴体が切り開かれており、その中身がどうなったかなど、考えるまでもない。

 数の優位はどこへ行ったのか、見れば実に半分以上の味方が犠牲になっていた。それに対して、敵の米軍、自衛隊の損害はほとんど無く、一方的な展開となっている。攻撃を始めた時には、こちらが圧倒的に有利だったのに、何が戦況を激変させた――その答えがまた、味方の腕を斬り飛ばした。

「ちくしょう!  これ以上やらせるかよ!」

 白鴎は激昂した。味方に大損害を与えた張本人、白いAMWに向かって突進する。腕を失ったOFMにとどめを刺そうとしていた機体は、ターコイズに気付くと素早く身を引いて距離を取った。その間に、尻餅をついた味方のOFMを庇うように、相手との間に機体を割り込ませる。

『す、すまねぇ白鴎、助かった』

「いいから、早く逃げろ!  紫野、援護してやってくれ!」

 白鴎に促され、玉虫色のOFMは不安定に飛行しながら後退していく。それを皮切りに、まだ戦闘を続行していた他のOFMも、一転して後退を始めた。
 それでもまだ戦っているのは、緑川のジェードとジェロームだけだ。どちらも、相手の自衛隊機を抑え込んで、味方の撤退の時間稼ぎをするつもりらしい。

 だが、その間にフリーになった米軍機が、またレールガンを撃ってくるのではないか、白鴎はそれに気付いた瞬間ひやりとしたが、けれども、米軍の機体はこちらに砲撃しようとはせず、こちらに背を向けた。滑走路の奥へ向かって移動を始める。

 自分たちよりも、テロリストを追うことを優先したらしい。それでは自分たちの目的が果たせなくなる。白鴎はそれを止めるために前へ出ようとしたが、その足を止めざるを得なかった。

 移動する米軍の後ろに立つ白いAMWが、これ以上邪魔はさせないと言わんばかりに、両腕のカッターを構えて立ちはだかったのだ。

 再び対峙した白いOFMと白いAMW。今度は紫野の援護もない、正真正銘の一対一の戦い。

 果たして、目の前の強敵に自分は打ち勝つことができるのか、いや、逃げることすら危ういかもしれない。白鴎は思わず身震いした。怖い、ターコイズに乗り始めてから二度目、一年前と同じくらいの恐怖が、少年の脳髄を支配しようとしていた。

 だが、ここで自分が引くわけにはいかない。少なくとも、味方が逃げ切るまでは、時間を稼がなくてはならない。

「っ、やるぞ。ターコイズ!」

 白鴎がはっぱをかけると、ターコイズが答えるように低く唸り声をあげる。そして、その背に光の翼を広げた。薄緑色に輝く羽根が、周囲を明るく照らしあげる。これは出来る限り使うなと整備士からきつく言われていたのだが、この相手に出し惜しみなんてしていられない。

「勝負だ!」

 叫んで、白鴎は自機を目一杯の速度で突進させる。その言葉に答えるかのように、白いAMWも地を蹴った。
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