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第三十七話「策謀と共闘について」
少佐の決意
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先日の模擬戦で付着したた塗料は、整備班の手によって綺麗に落とされていた。軽度の損傷箇所も完全に修復されている。その鈍く黒光りする本国仕様のペーチルの足元で、スペツナズの四人は集まっていた。
「そうか、そんなことが……」
自身の部下から、観光中に起こったという、別部隊によるものと思われる自衛官拉致未遂の報告を受けたアバルキンは、苦々しく顔を顰めた。
「にしたってどこの部隊ですかねぇ、あの三人の、特に白間軍曹と浅野軍曹のヤバさを知ってたら、あんな安直な手を使わないと思うんですけど」
カラシンが皮肉るように言う。あそこに倒れていた黒服たちは全員ロシア人だった。それは間違いない。しかし、もしも同じスペツナズだったとしても、やり口がお粗末だし、流石に二人相手に数十秒で伸されてしまう程度の技量しかないとは思えない。
もしくは、それほどまでにあの二人の日本人が規格外に強く、黒服達が油断していたのか……真相はわからない。だが、前日の“予備弾倉”の件からして、自分たちが上層部の企んでいる厄介ごとに巻き込まれつつあることは理解できた。
「ともかく、あの三人が無事で良かったと思うべきか。他部隊からの接触はあったか?」
「いいえ、ありませんでした。移動中に追跡もあるかと思いましたが、それも受けませんでした」
エリツィナが言った通り、あれからその拉致役たちから協力の要請でもあるかと思われたが、そんなことはなく。更に移動中に追跡、あるいは”交通事故“でも仕掛けてくるかと思っていたのだが、それもなかった。
これらのことから、完全に自分たちとは別管轄の部隊が、あの三人を手中に収めようとして仕掛けたのは違いないと確信が持てた。しかし、自衛官を拉致することが何のためなのかはわからない。手元の情報だけでは推測のしようがない。
「そうか……」
「同じロシア軍なのに、不気味極まりないですなぁ全く」
やれやれと肩をすくめるカラシンに、エリツィナが厳しい目線を向ける。
「そもそも、貴様が観光など考えなければ、このようなややこしい事にはならなかっただろうが……!」
カラシンに詰め寄る勢いのエリツィナに、アバルキンが「いや」と制した。
「日露の関係改善の手前、交友関係を持つことは問題ない。問題なのは、それを潔く思っていない者、あるいは利害関係の内の利益しか見えていない者が、裏で糸を引いているということだ」
少佐の言葉に、彼女はひとまず矛を納めて、カラシンも苦笑いから真面目な顔になった。そこで、事を後ろで見ていたグレコフが挙手した。
「あの、質問よろしいでしょうか、少佐殿」
「どうした、少尉」
「……邪推かもしれませんが、今回の失敗の尻拭いを、我々がやらされる可能性というのは、やはりあるのでしょうか?」
「それは……」
ない、と即答仕掛けて、アバルキンは口籠った。あれから件の部隊が何もしてこないということは、自分たちに拉致の役目を押し付けるつもりなのかもしれない。
「いっそのこと、予備弾薬を理由をつけて外してしまうのはどうでしょうか、それならば、いざ命令が下されたとしても、遂行することが困難という言い訳にもなりますし」
「グレコフ貴様、上からの指示を無視するための口実を考案するなど……」
「ではエリツィナ中尉は、彼らを捕縛しろと命令されたとして、それを迷い無く実行できるのですか? 自分は一度彼らに敗れています。技量的にも、そして心情的にも、任務を確実に遂行できるとは、とても思えません」
「グレコフ少尉、そこまでにしておけ。今の発言は聞かなかったことにしておいてやる」
「しかし少佐殿……!」
アバルキンに遠回しに諭されながらも、なおも食い下がろうとするグレコフを、今度は横にいたカラシンが肩に手を回して止めた。
「あんまり少佐殿とエリツィナを困らせるなよグレコフ、お前今の発言、言ってる相手次第じゃ処罰物だぜ? その自覚あったか、ん?」
「で、ですが……」
「誰もお前の発言を否定なんてしてねぇんだからよ、少しは落ち着けっての」
言われ、はっとしたグレコフは、渋い顔をした自身の上官二人の顔を交互に見て、その心内を察した。二人とも、解っているのだ。彼らをAMWや生身で制圧することが非常に難しいことを、更に言えば、折角の友好関係を作る場を壊してしまうことへの忌避感もあった。
「申し訳ありませんでした。口が過ぎました」
「いや、少尉の提案もありだとは思う。しかし、その場合、命令遂行が出来なかったとしてお前達が処罰される可能性がある。予備弾倉はつけたままでいろ」
「しかし、それでは」
「まぁ聞け。指示系統の関係上、万が一、そのような指示があった場合には私の所に来るだろう。私はそれをどうにかして跳ね除ける」
「跳ね除けるったって、どうやってです?」
カラシンの疑問に、少佐はにやっと片頬を釣り上げた。何か悪いことを考えている顔だった。
「知らんかもしれんが、私にもそれなりにコネや伝手と言った物がある。それに、上官がすると言ったのだ、そこを心配するのはお前たちの仕事ではない」
それを聞いて、カラシンは笑った。グレコフも釣られるように苦笑いする。エリツィナだけが、真面目そうな表情をしている。一瞬場の空気が緩んだが、少佐の「しかしだ」という短い一言で、再び場が引き締まる。
「この報告を受けて、私から一つ、貴様達に命令する事ができた。今、それを伝える」
その上官の言葉に、元から姿勢を整えていたエリツィナは表情をさらに引き締め、カラシンは部下の肩に回していた腕を解いて直立し、ワンテンポ遅れてグレコフが慌てて気を付けの姿勢をとった。
「……私から何かしらの指示があるまで、自衛隊に対し危害を加える行動の一切を禁ずる。これは厳命である。破ることは許さん。返事は」
「「「了解しました!」」」
部下三人の揃った返事に、アバルキンは満足気に頷いた。
「よし。それではこの後、日比野軍曹らからの座学による対OFM戦闘のレクチャーを受け、3Dによる仮想敵機を相手にした実機訓練を行う。各自、機体の点検等の用意を済ませておけ。以上、解散」
解散の言葉に足早に自機の方へと駆けて行った部下達を見送って、三人の姿が見えなくなると、アバルキンはふっと息を漏らし、苦笑した。
「……格好付け過ぎたな。私らしくもない」
「そうか、そんなことが……」
自身の部下から、観光中に起こったという、別部隊によるものと思われる自衛官拉致未遂の報告を受けたアバルキンは、苦々しく顔を顰めた。
「にしたってどこの部隊ですかねぇ、あの三人の、特に白間軍曹と浅野軍曹のヤバさを知ってたら、あんな安直な手を使わないと思うんですけど」
カラシンが皮肉るように言う。あそこに倒れていた黒服たちは全員ロシア人だった。それは間違いない。しかし、もしも同じスペツナズだったとしても、やり口がお粗末だし、流石に二人相手に数十秒で伸されてしまう程度の技量しかないとは思えない。
もしくは、それほどまでにあの二人の日本人が規格外に強く、黒服達が油断していたのか……真相はわからない。だが、前日の“予備弾倉”の件からして、自分たちが上層部の企んでいる厄介ごとに巻き込まれつつあることは理解できた。
「ともかく、あの三人が無事で良かったと思うべきか。他部隊からの接触はあったか?」
「いいえ、ありませんでした。移動中に追跡もあるかと思いましたが、それも受けませんでした」
エリツィナが言った通り、あれからその拉致役たちから協力の要請でもあるかと思われたが、そんなことはなく。更に移動中に追跡、あるいは”交通事故“でも仕掛けてくるかと思っていたのだが、それもなかった。
これらのことから、完全に自分たちとは別管轄の部隊が、あの三人を手中に収めようとして仕掛けたのは違いないと確信が持てた。しかし、自衛官を拉致することが何のためなのかはわからない。手元の情報だけでは推測のしようがない。
「そうか……」
「同じロシア軍なのに、不気味極まりないですなぁ全く」
やれやれと肩をすくめるカラシンに、エリツィナが厳しい目線を向ける。
「そもそも、貴様が観光など考えなければ、このようなややこしい事にはならなかっただろうが……!」
カラシンに詰め寄る勢いのエリツィナに、アバルキンが「いや」と制した。
「日露の関係改善の手前、交友関係を持つことは問題ない。問題なのは、それを潔く思っていない者、あるいは利害関係の内の利益しか見えていない者が、裏で糸を引いているということだ」
少佐の言葉に、彼女はひとまず矛を納めて、カラシンも苦笑いから真面目な顔になった。そこで、事を後ろで見ていたグレコフが挙手した。
「あの、質問よろしいでしょうか、少佐殿」
「どうした、少尉」
「……邪推かもしれませんが、今回の失敗の尻拭いを、我々がやらされる可能性というのは、やはりあるのでしょうか?」
「それは……」
ない、と即答仕掛けて、アバルキンは口籠った。あれから件の部隊が何もしてこないということは、自分たちに拉致の役目を押し付けるつもりなのかもしれない。
「いっそのこと、予備弾薬を理由をつけて外してしまうのはどうでしょうか、それならば、いざ命令が下されたとしても、遂行することが困難という言い訳にもなりますし」
「グレコフ貴様、上からの指示を無視するための口実を考案するなど……」
「ではエリツィナ中尉は、彼らを捕縛しろと命令されたとして、それを迷い無く実行できるのですか? 自分は一度彼らに敗れています。技量的にも、そして心情的にも、任務を確実に遂行できるとは、とても思えません」
「グレコフ少尉、そこまでにしておけ。今の発言は聞かなかったことにしておいてやる」
「しかし少佐殿……!」
アバルキンに遠回しに諭されながらも、なおも食い下がろうとするグレコフを、今度は横にいたカラシンが肩に手を回して止めた。
「あんまり少佐殿とエリツィナを困らせるなよグレコフ、お前今の発言、言ってる相手次第じゃ処罰物だぜ? その自覚あったか、ん?」
「で、ですが……」
「誰もお前の発言を否定なんてしてねぇんだからよ、少しは落ち着けっての」
言われ、はっとしたグレコフは、渋い顔をした自身の上官二人の顔を交互に見て、その心内を察した。二人とも、解っているのだ。彼らをAMWや生身で制圧することが非常に難しいことを、更に言えば、折角の友好関係を作る場を壊してしまうことへの忌避感もあった。
「申し訳ありませんでした。口が過ぎました」
「いや、少尉の提案もありだとは思う。しかし、その場合、命令遂行が出来なかったとしてお前達が処罰される可能性がある。予備弾倉はつけたままでいろ」
「しかし、それでは」
「まぁ聞け。指示系統の関係上、万が一、そのような指示があった場合には私の所に来るだろう。私はそれをどうにかして跳ね除ける」
「跳ね除けるったって、どうやってです?」
カラシンの疑問に、少佐はにやっと片頬を釣り上げた。何か悪いことを考えている顔だった。
「知らんかもしれんが、私にもそれなりにコネや伝手と言った物がある。それに、上官がすると言ったのだ、そこを心配するのはお前たちの仕事ではない」
それを聞いて、カラシンは笑った。グレコフも釣られるように苦笑いする。エリツィナだけが、真面目そうな表情をしている。一瞬場の空気が緩んだが、少佐の「しかしだ」という短い一言で、再び場が引き締まる。
「この報告を受けて、私から一つ、貴様達に命令する事ができた。今、それを伝える」
その上官の言葉に、元から姿勢を整えていたエリツィナは表情をさらに引き締め、カラシンは部下の肩に回していた腕を解いて直立し、ワンテンポ遅れてグレコフが慌てて気を付けの姿勢をとった。
「……私から何かしらの指示があるまで、自衛隊に対し危害を加える行動の一切を禁ずる。これは厳命である。破ることは許さん。返事は」
「「「了解しました!」」」
部下三人の揃った返事に、アバルキンは満足気に頷いた。
「よし。それではこの後、日比野軍曹らからの座学による対OFM戦闘のレクチャーを受け、3Dによる仮想敵機を相手にした実機訓練を行う。各自、機体の点検等の用意を済ませておけ。以上、解散」
解散の言葉に足早に自機の方へと駆けて行った部下達を見送って、三人の姿が見えなくなると、アバルキンはふっと息を漏らし、苦笑した。
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