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第四十話「腕試しと動き出す者達について」
弟分の実力
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その頃、白熱し始めた模擬戦をモニターで視聴している高校生組はと言うと、
「いけぇそこだ!」
「危ない! 横だ!」
最初に比乃が引き撃ちをし始めた時は冷めていた各々だったが、状況が一転して激しい近接戦闘になると、狭い観戦室の中で歓声をあげ始めた。
ちなみに、安久はメアリの「紅茶はありませんか?」の一言を受け、給湯室へと足早に去って行った。なので、解説役不在で素人の晃達にはどちらが優勢かまではわからなかったが、先程までの一戦――真っ先に相手から距離を取り始めた比乃と、その機体に追い付いて泥を着けた宇佐美のやり取りで、彼が相手をしているのが遥かに格上だと言うことを、先程の安久の言葉だけでなく、実際に見て理解していた。
それ故に、そんな不利な状態でも果敢に戦いを挑む比乃へのエールが熱くなったのは、当然とも言えた。
特に、晃と紫蘭の二人は、サッカーのサポーターのように盛り上がっていた。モニター越しに二機のTkー7改が動く毎に一喜一憂している。
「それにしても、宇佐美さんが凄腕だと言うのは解りますが、ついて行く日比野さんも日比野さんですね」
それとは対照的に、静かに試合観戦をしているメアリが呟く。
「私映画で見たことあるよ、あれ確かガンカタって言うんでしょ」
隣のアイヴィーが、昔見たガンアクション映画を思い出して、その主役のアクションシーンと比乃の機体を重ね合わせる。
確かに、距離を詰めて斬撃を見舞おうとする宇佐美機の腕を、拳銃にしては長い砲身で弾き、軌道を反らして回避する様は、一昔前に流行ったフィクションの戦闘流派に酷似していた。
「サムライとスタントマンの一騎打ちと言った所でしょうか」
メアリの言い得て妙な例えに、アイヴィーは「ああー」と納得したように声を漏らした。
英国組二人がそんなことを話している間に、遂に席から腰を浮かせた紫蘭が声を張り上げる。
「いけっ、もっと攻めろ! 攻めてこそ自衛隊機の本領発揮だろう! ガンガンいこうぜ!」
「お、おい紫蘭、ちょっと興奮し過ぎだぞお前」
「何を言う! 模擬戦と言えどこんなに熱狂できる戦いなど、そうは見られないぞ!」
大興奮の紫蘭を見て逆に冷静になった晃が、彼女の服の裾を引っ張って無理矢理着席させる。
それでも、彼女の熱が冷める様子はなく、
「うぉー! 今のは惜しい! 惜しかったぞひびのん! もう一息だいけるいける頑張れ!」
と、両手を振り上げて声援を送っていた。
そんなクラスメイトにして友人にして恋のライバルを見て、メアリは「ふっ」と小さく、気付かれないように嘲笑の笑みを浮かべた。
「……まだまだ、お子様ですね」
しかし、そう言って涼しげに模擬戦を見ているメアリの掌にも、薄っすらと汗が滲んでいることを、彼女は自覚していなかった。
そんな手に汗握る模擬戦は、まだまだ決着を見ない。
***
観客がヒートアップしていることなど露知らず、比乃は懸命に機体を操作していた。
モニターにデジタル表記されている計器が絶え間無く数値を変える。それらの情報を無意識の内に脳内に読み込みながら、眼前の相手、宇佐美機の一挙動全てを把握しようと目を見開く。
そうしている間にも、機体は動きを止めない。踏み込まれた分だけ下がり、相手の攻撃のテンポを遅らせる。距離の取り方が甘ければ斬り捨てられる、だが逆に距離を取り過ぎると、今度は小さく助走を着けて突進してくる。
その間、斬撃がぎりぎり届かない距離までステップで下がり、着地と同時に短筒を素早く構えて撃つ。何度目かの射撃で放たれた弾丸は、長刀を振った勢いでそのまま屈んだ宇佐美機の頭上を通り過ぎて行った。
「くっ、しぶとい……!」
『しぶといわねぇ日比野ちゃん!』
二人が同じ言葉を重ねる。普通のパイロットだったら、もう十回は撃破されているだろう攻撃の応酬に、比乃は疲労感を隠せないでいた。
途切れそうになる集中力を強引に繫ぎ止める。一呼吸置く暇も体制を整える暇も無い。そんな隙を作れば、次の瞬間には致命的な一撃を食らっている。
疲労困憊ながらも、比乃は頑張っている方だろう。近接戦を始めて数分保っているのが、その証拠だった。
対する宇佐美はと言うと、
「楽しい、楽しくなってきたわよ日比野ちゃん……!」
そんなことを言いながら舌なめずりをして、愛機の長刀を構え直す。疲れなど全く見せていなかった。
彼女の心境的にも、思ったよりも楽しめている模擬戦への喜びが五割、自分が考えていたよりもずっと成長していた弟分の力を見れた喜びが五割と、十割が喜びで溢れていた。
だが、そんな彼女の歓喜に水を差すように、機体のAIがエラーの報告をあげてきていた。
《右脚部関節 両腕部過負荷 アクチュエーター冷却効率低下 戦闘機動の制限を推奨》
「うるさいわね、今いいとこなのよ! ちょっと黙ってなさい!」
宇佐美の操縦に機体が追い付いてきていないことを健気に伝えるAIを黙らせて、宇佐美は弟分を技量を見定めるために更に踏み込む。
「さぁさぁ日比野ちゃん。数え間違いじゃなければ短筒は弾切れよねぇ?!」
相手の発砲回数を計算していた宇佐美の言葉が的中し、短筒からマガジンを落とした比乃のTkー7改が、空いている左手でナイフを抜き放った。
お得意の投げナイフでどうにかできる距離ではない。もうこちらは長刀を振り上げている。
「ナイフ一本でどう対処してみせる?!」
さぁ、次の一手を見せてみなさい――言外にその言葉が乗った斬撃が比乃機を襲わんと振るわれる。対して、比乃が取った行動はシンプルだった。
先程落としたマガジンを、片足で蹴り上げたのだ。力を加えられて上へと放り上がった大型のマガジンは、寸分違わず宇佐美機のメインカメラ、顔面へと飛んだ。
「っ!」
一瞬、一瞬だけ、宇佐美の手が止まる。だが、その程度の目眩しだけでは完全には止まらない。けれども、その一瞬で比乃には十分だった。
(しまった……!)
宇佐美がその意図に気づいた時には、ナイフを持った左腕が、自機の胸部に向けられていた。ナイフを振るうわ毛でもない、それだけの動作であれば、一瞬の間で足りただろう。
そして、その腕に取り付けられた攻撃にも転用できるワイヤーアンカーが、正に射出されようとしていた。
そんな刹那の時間、宇佐美は――
「っしゃああああ!」
雄叫びをあげて反応してみせた。振り下ろしていた長刀の筋をずらし、スラッシャーの軌道に被せ、その穂先を刀身で受け止めた。
しかし、想定外の受け方をした模擬戦用の長刀は、それでぼきりと音を立てて折れてしまう。
「やってくれるわね日比野ちゃん!」
刀を失ったTkー7改にナイフが弧を描いて迫る。それを刀身半ばで折れている長刀で弾き、宇佐美の方から距離を取って、もう一本、先程投擲した方の長刀を手早く拾い上げる。
「これでようやく戦力半減ってところね」
その刀を、今度は腰だめに構える。徐々に自分に追い付きつつある弟分の成長を実感して、宇佐美は口元がにやけるのを抑えられなかった。
「いけぇそこだ!」
「危ない! 横だ!」
最初に比乃が引き撃ちをし始めた時は冷めていた各々だったが、状況が一転して激しい近接戦闘になると、狭い観戦室の中で歓声をあげ始めた。
ちなみに、安久はメアリの「紅茶はありませんか?」の一言を受け、給湯室へと足早に去って行った。なので、解説役不在で素人の晃達にはどちらが優勢かまではわからなかったが、先程までの一戦――真っ先に相手から距離を取り始めた比乃と、その機体に追い付いて泥を着けた宇佐美のやり取りで、彼が相手をしているのが遥かに格上だと言うことを、先程の安久の言葉だけでなく、実際に見て理解していた。
それ故に、そんな不利な状態でも果敢に戦いを挑む比乃へのエールが熱くなったのは、当然とも言えた。
特に、晃と紫蘭の二人は、サッカーのサポーターのように盛り上がっていた。モニター越しに二機のTkー7改が動く毎に一喜一憂している。
「それにしても、宇佐美さんが凄腕だと言うのは解りますが、ついて行く日比野さんも日比野さんですね」
それとは対照的に、静かに試合観戦をしているメアリが呟く。
「私映画で見たことあるよ、あれ確かガンカタって言うんでしょ」
隣のアイヴィーが、昔見たガンアクション映画を思い出して、その主役のアクションシーンと比乃の機体を重ね合わせる。
確かに、距離を詰めて斬撃を見舞おうとする宇佐美機の腕を、拳銃にしては長い砲身で弾き、軌道を反らして回避する様は、一昔前に流行ったフィクションの戦闘流派に酷似していた。
「サムライとスタントマンの一騎打ちと言った所でしょうか」
メアリの言い得て妙な例えに、アイヴィーは「ああー」と納得したように声を漏らした。
英国組二人がそんなことを話している間に、遂に席から腰を浮かせた紫蘭が声を張り上げる。
「いけっ、もっと攻めろ! 攻めてこそ自衛隊機の本領発揮だろう! ガンガンいこうぜ!」
「お、おい紫蘭、ちょっと興奮し過ぎだぞお前」
「何を言う! 模擬戦と言えどこんなに熱狂できる戦いなど、そうは見られないぞ!」
大興奮の紫蘭を見て逆に冷静になった晃が、彼女の服の裾を引っ張って無理矢理着席させる。
それでも、彼女の熱が冷める様子はなく、
「うぉー! 今のは惜しい! 惜しかったぞひびのん! もう一息だいけるいける頑張れ!」
と、両手を振り上げて声援を送っていた。
そんなクラスメイトにして友人にして恋のライバルを見て、メアリは「ふっ」と小さく、気付かれないように嘲笑の笑みを浮かべた。
「……まだまだ、お子様ですね」
しかし、そう言って涼しげに模擬戦を見ているメアリの掌にも、薄っすらと汗が滲んでいることを、彼女は自覚していなかった。
そんな手に汗握る模擬戦は、まだまだ決着を見ない。
***
観客がヒートアップしていることなど露知らず、比乃は懸命に機体を操作していた。
モニターにデジタル表記されている計器が絶え間無く数値を変える。それらの情報を無意識の内に脳内に読み込みながら、眼前の相手、宇佐美機の一挙動全てを把握しようと目を見開く。
そうしている間にも、機体は動きを止めない。踏み込まれた分だけ下がり、相手の攻撃のテンポを遅らせる。距離の取り方が甘ければ斬り捨てられる、だが逆に距離を取り過ぎると、今度は小さく助走を着けて突進してくる。
その間、斬撃がぎりぎり届かない距離までステップで下がり、着地と同時に短筒を素早く構えて撃つ。何度目かの射撃で放たれた弾丸は、長刀を振った勢いでそのまま屈んだ宇佐美機の頭上を通り過ぎて行った。
「くっ、しぶとい……!」
『しぶといわねぇ日比野ちゃん!』
二人が同じ言葉を重ねる。普通のパイロットだったら、もう十回は撃破されているだろう攻撃の応酬に、比乃は疲労感を隠せないでいた。
途切れそうになる集中力を強引に繫ぎ止める。一呼吸置く暇も体制を整える暇も無い。そんな隙を作れば、次の瞬間には致命的な一撃を食らっている。
疲労困憊ながらも、比乃は頑張っている方だろう。近接戦を始めて数分保っているのが、その証拠だった。
対する宇佐美はと言うと、
「楽しい、楽しくなってきたわよ日比野ちゃん……!」
そんなことを言いながら舌なめずりをして、愛機の長刀を構え直す。疲れなど全く見せていなかった。
彼女の心境的にも、思ったよりも楽しめている模擬戦への喜びが五割、自分が考えていたよりもずっと成長していた弟分の力を見れた喜びが五割と、十割が喜びで溢れていた。
だが、そんな彼女の歓喜に水を差すように、機体のAIがエラーの報告をあげてきていた。
《右脚部関節 両腕部過負荷 アクチュエーター冷却効率低下 戦闘機動の制限を推奨》
「うるさいわね、今いいとこなのよ! ちょっと黙ってなさい!」
宇佐美の操縦に機体が追い付いてきていないことを健気に伝えるAIを黙らせて、宇佐美は弟分を技量を見定めるために更に踏み込む。
「さぁさぁ日比野ちゃん。数え間違いじゃなければ短筒は弾切れよねぇ?!」
相手の発砲回数を計算していた宇佐美の言葉が的中し、短筒からマガジンを落とした比乃のTkー7改が、空いている左手でナイフを抜き放った。
お得意の投げナイフでどうにかできる距離ではない。もうこちらは長刀を振り上げている。
「ナイフ一本でどう対処してみせる?!」
さぁ、次の一手を見せてみなさい――言外にその言葉が乗った斬撃が比乃機を襲わんと振るわれる。対して、比乃が取った行動はシンプルだった。
先程落としたマガジンを、片足で蹴り上げたのだ。力を加えられて上へと放り上がった大型のマガジンは、寸分違わず宇佐美機のメインカメラ、顔面へと飛んだ。
「っ!」
一瞬、一瞬だけ、宇佐美の手が止まる。だが、その程度の目眩しだけでは完全には止まらない。けれども、その一瞬で比乃には十分だった。
(しまった……!)
宇佐美がその意図に気づいた時には、ナイフを持った左腕が、自機の胸部に向けられていた。ナイフを振るうわ毛でもない、それだけの動作であれば、一瞬の間で足りただろう。
そして、その腕に取り付けられた攻撃にも転用できるワイヤーアンカーが、正に射出されようとしていた。
そんな刹那の時間、宇佐美は――
「っしゃああああ!」
雄叫びをあげて反応してみせた。振り下ろしていた長刀の筋をずらし、スラッシャーの軌道に被せ、その穂先を刀身で受け止めた。
しかし、想定外の受け方をした模擬戦用の長刀は、それでぼきりと音を立てて折れてしまう。
「やってくれるわね日比野ちゃん!」
刀を失ったTkー7改にナイフが弧を描いて迫る。それを刀身半ばで折れている長刀で弾き、宇佐美の方から距離を取って、もう一本、先程投擲した方の長刀を手早く拾い上げる。
「これでようやく戦力半減ってところね」
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