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第四十二話「自衛官の反撃について」
下される決断
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ホテル二階の食堂。一時的な避難所と化したそこでは、大勢の人がいた。テロに巻き込まれている状況に対して、それぞれ異なる反応を示していた。
一階の銃声が静かになったと思ったら、今度は外から爆音、金属同士がぶつかり合う音などが聞こえてきたのだ。近くで機動兵器による戦闘が発生していることは明確で、普通の一般人なら不安で仕方がなくなる。
その証拠に、観光客らはざわつき、近くにいた従業員を囲んで「ここは大丈夫なんだろうな?」などと詰め寄っている。
従業員は「近隣の自衛隊がすでに鎮圧のために出動しております。お客様においては、このまま避難を続けていただいて――」と、テンプレートな回答をした。それを聞いた数人は「自衛隊が出たからなんだっていうんだ!」と騒いだが、他の、その自衛隊が第三師団であることを知っている観光客は、何かを察した顔でそこから離れた。
狂ってる師団の噂は、一般人でも少しニュースに詳しい人なら知っているのだ。
その一方で、歓天喜地高等学校の生徒たちはというと、
「おー、外はド派手にやってるな」
「くそ、生のAMW戦を見に行くチャンスなのになぁ……」
「やめとけやめとけ、命あっての物種だろ」
「それより誰だよハートの列止めてるの、手札が全然減らないんだが」
などと言いながら、外の騒ぎなどなんてことないと言わんばかりに、トランプやUNO、人生ゲームに興じていた。その他にも、何故か将棋盤を挟んでいたり、麻雀卓を囲っているグループもあった。
大人よりも余程落ち着いている学生たちを見て、一部の客は「最近の高校生は落ち着きがあるなぁ」と、関心していたのだった。
それらから離れた所で、少女三人に詰問されている一人の男子がいた。
「それで、ひびのんたちをあっさり行かせたと、そういうことなんだな? 晃らしくもない! そこは加勢しに行くべきだろう! ひびのんたちも薄情なものだ、私たちに何も告げないで行くなど!」
無茶なことをマシンガンのように言い放ち、嘆くように天を仰ぐ紫蘭に、メアリが「まぁまぁ」と宥めるような口調で、
「日比野さんたちは軍人、晃さんは一般人です。むしろ、晃さんがそのようなことをしないように配慮した日比野さんたちと、短慮を起こさなかった晃さんを褒めるべきです」
「そうだねー、私たちもだけど、一般人に何かできる状況じゃなさそうだしね……AMWもないし」
それにアイヴィーが同意し、晃もうんうんと頷く。だが紫蘭は納得がいかないようだった。
「確かに、確かに今の私たちは無力だ。しかし、それでも何かしらであいつらの手助けをしてやりたいというのが、人情というものだろう!」
「いや、それは余計なお世話ってやつだと思うぞ」
晃の正確な突っ込みに、紫蘭は言い返せず「ぐぬぬ」と呻く。それでも何か言おうとする紫蘭の口を手で塞いだ晃は、彼女の目を真っ直ぐ見て言う。
「とにかく、俺たちにできることは比乃たちと、あの駐屯地の自衛官さんたちがなんとかしてくれるのを祈るだけだ。余計なことして場を混乱させてみろ。俺、明日からどんな顔で比乃たちに会えばいいのか、わからなくなっちまうよ」
その説得に、紫蘭は不承不承といった表情を浮かべながらも、わかったと頷いた。
なんとか落ちついたらしい彼女から手を放した晃に、アイヴィーが「それにしても」と、首を傾げた。
「なんで比乃が狙われてるの? 普通なら、紫蘭かメアリか、まぁ私じゃない?」
晃ならば何か聞いているのではないか、という意図も含んだ問いだったが、問われた晃も首を振る。
「そればっかりは、俺も何も聞かされてないから……」
「ひびのんは優秀なパイロットではあるが、逆に言えばそれくらいだしな」
「何か、秘密にしている隠し事でもあるのでしょうか?」
一同は「うーん」と一頻り考えてから、
「よし、では奴が戻ってきたら、その件を問い質さなければな!」
ということになった。そんな感じで、食堂内はパニックなども起きず、あとは自衛隊がテロを解決するのを待つばかり、という雰囲気になっていた。
***
しかし、外の状況は芳しくなかった。ホテル近辺でKomadori小隊のTk-7が四機、OFMに攻撃を仕掛けたが、いずれも装甲に弾かれるか、障壁で無効化されてしまう。しかも、道路から少し外れたら人がいる住宅街がある。建物を盾にするわけにもいかず、どうにかして相手からの攻撃を避けるしかなかった。
『くそっ、これはしんどいな!』
やけくそ気味に叫んだ機体が、撃ち放たれた光線を避けるために、惜しみなくフォトンスラスターを吹かす。地上で回避運動をとって、流れ弾になった光線が民家に直撃でもしたら、間違いなく死傷者が出る。それを防ぐために、上へ逃げるしかないのだ。
そうして回避ばかりしている間にも、西洋鎧三体は、悠々とホテルのすぐ前、百五十メートルの位置に着陸した。そこで、初めて西洋鎧が言葉を発した。声の低い、若い女の声だった。
『我々の目的は、そこのホテルにいる森羅財閥の令嬢と、英国の王女、そして自衛官の身柄である』
このとき、声が聞こえてきたホテルの食堂で「え、王女いんの?」「マジで?」という会話が聞こえて、メアリが冷や汗をかいていた。
『大人しく引き渡せばそれでよし、そうでない場合は』
そこまで言って、一体の西洋鎧がホテルに銃剣の矛先を向けた。周囲を囲むTk-7が、動きを止める。人質を獲られるという、予期していた内でも最悪の展開になってしまった。こうなっては、迂闊に攻撃することもできない。
『三分待つ。それまでに対象が現れなかった場合、この建物を破壊する』
左右にいた別の西洋鎧が、勝ち誇ったように片腕をあげてみせる。それを見て歯噛みするしかないKomadori1に、部下の口から『た、隊長……』と、指示を仰ぐような声が漏れた。
自分とて、どうにかできるなら、どうにかしたい。しかし、この状況では――
苦渋の決断を迫られている彼に、部下とは別チャンネルの通信が入った。その周波数は、部隊長からの物だった。すがるように通信を繋げる。どうするにしても、上官の指示がほしかった。
『おう、奴らの要求はこっちも聞いた。各機へ』
部隊長は淡々とした言葉で、その命令を告げた。
『眼前の敵性勢力を排除せよ。最優先だ』
一階の銃声が静かになったと思ったら、今度は外から爆音、金属同士がぶつかり合う音などが聞こえてきたのだ。近くで機動兵器による戦闘が発生していることは明確で、普通の一般人なら不安で仕方がなくなる。
その証拠に、観光客らはざわつき、近くにいた従業員を囲んで「ここは大丈夫なんだろうな?」などと詰め寄っている。
従業員は「近隣の自衛隊がすでに鎮圧のために出動しております。お客様においては、このまま避難を続けていただいて――」と、テンプレートな回答をした。それを聞いた数人は「自衛隊が出たからなんだっていうんだ!」と騒いだが、他の、その自衛隊が第三師団であることを知っている観光客は、何かを察した顔でそこから離れた。
狂ってる師団の噂は、一般人でも少しニュースに詳しい人なら知っているのだ。
その一方で、歓天喜地高等学校の生徒たちはというと、
「おー、外はド派手にやってるな」
「くそ、生のAMW戦を見に行くチャンスなのになぁ……」
「やめとけやめとけ、命あっての物種だろ」
「それより誰だよハートの列止めてるの、手札が全然減らないんだが」
などと言いながら、外の騒ぎなどなんてことないと言わんばかりに、トランプやUNO、人生ゲームに興じていた。その他にも、何故か将棋盤を挟んでいたり、麻雀卓を囲っているグループもあった。
大人よりも余程落ち着いている学生たちを見て、一部の客は「最近の高校生は落ち着きがあるなぁ」と、関心していたのだった。
それらから離れた所で、少女三人に詰問されている一人の男子がいた。
「それで、ひびのんたちをあっさり行かせたと、そういうことなんだな? 晃らしくもない! そこは加勢しに行くべきだろう! ひびのんたちも薄情なものだ、私たちに何も告げないで行くなど!」
無茶なことをマシンガンのように言い放ち、嘆くように天を仰ぐ紫蘭に、メアリが「まぁまぁ」と宥めるような口調で、
「日比野さんたちは軍人、晃さんは一般人です。むしろ、晃さんがそのようなことをしないように配慮した日比野さんたちと、短慮を起こさなかった晃さんを褒めるべきです」
「そうだねー、私たちもだけど、一般人に何かできる状況じゃなさそうだしね……AMWもないし」
それにアイヴィーが同意し、晃もうんうんと頷く。だが紫蘭は納得がいかないようだった。
「確かに、確かに今の私たちは無力だ。しかし、それでも何かしらであいつらの手助けをしてやりたいというのが、人情というものだろう!」
「いや、それは余計なお世話ってやつだと思うぞ」
晃の正確な突っ込みに、紫蘭は言い返せず「ぐぬぬ」と呻く。それでも何か言おうとする紫蘭の口を手で塞いだ晃は、彼女の目を真っ直ぐ見て言う。
「とにかく、俺たちにできることは比乃たちと、あの駐屯地の自衛官さんたちがなんとかしてくれるのを祈るだけだ。余計なことして場を混乱させてみろ。俺、明日からどんな顔で比乃たちに会えばいいのか、わからなくなっちまうよ」
その説得に、紫蘭は不承不承といった表情を浮かべながらも、わかったと頷いた。
なんとか落ちついたらしい彼女から手を放した晃に、アイヴィーが「それにしても」と、首を傾げた。
「なんで比乃が狙われてるの? 普通なら、紫蘭かメアリか、まぁ私じゃない?」
晃ならば何か聞いているのではないか、という意図も含んだ問いだったが、問われた晃も首を振る。
「そればっかりは、俺も何も聞かされてないから……」
「ひびのんは優秀なパイロットではあるが、逆に言えばそれくらいだしな」
「何か、秘密にしている隠し事でもあるのでしょうか?」
一同は「うーん」と一頻り考えてから、
「よし、では奴が戻ってきたら、その件を問い質さなければな!」
ということになった。そんな感じで、食堂内はパニックなども起きず、あとは自衛隊がテロを解決するのを待つばかり、という雰囲気になっていた。
***
しかし、外の状況は芳しくなかった。ホテル近辺でKomadori小隊のTk-7が四機、OFMに攻撃を仕掛けたが、いずれも装甲に弾かれるか、障壁で無効化されてしまう。しかも、道路から少し外れたら人がいる住宅街がある。建物を盾にするわけにもいかず、どうにかして相手からの攻撃を避けるしかなかった。
『くそっ、これはしんどいな!』
やけくそ気味に叫んだ機体が、撃ち放たれた光線を避けるために、惜しみなくフォトンスラスターを吹かす。地上で回避運動をとって、流れ弾になった光線が民家に直撃でもしたら、間違いなく死傷者が出る。それを防ぐために、上へ逃げるしかないのだ。
そうして回避ばかりしている間にも、西洋鎧三体は、悠々とホテルのすぐ前、百五十メートルの位置に着陸した。そこで、初めて西洋鎧が言葉を発した。声の低い、若い女の声だった。
『我々の目的は、そこのホテルにいる森羅財閥の令嬢と、英国の王女、そして自衛官の身柄である』
このとき、声が聞こえてきたホテルの食堂で「え、王女いんの?」「マジで?」という会話が聞こえて、メアリが冷や汗をかいていた。
『大人しく引き渡せばそれでよし、そうでない場合は』
そこまで言って、一体の西洋鎧がホテルに銃剣の矛先を向けた。周囲を囲むTk-7が、動きを止める。人質を獲られるという、予期していた内でも最悪の展開になってしまった。こうなっては、迂闊に攻撃することもできない。
『三分待つ。それまでに対象が現れなかった場合、この建物を破壊する』
左右にいた別の西洋鎧が、勝ち誇ったように片腕をあげてみせる。それを見て歯噛みするしかないKomadori1に、部下の口から『た、隊長……』と、指示を仰ぐような声が漏れた。
自分とて、どうにかできるなら、どうにかしたい。しかし、この状況では――
苦渋の決断を迫られている彼に、部下とは別チャンネルの通信が入った。その周波数は、部隊長からの物だった。すがるように通信を繋げる。どうするにしても、上官の指示がほしかった。
『おう、奴らの要求はこっちも聞いた。各機へ』
部隊長は淡々とした言葉で、その命令を告げた。
『眼前の敵性勢力を排除せよ。最優先だ』
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