自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字

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第四十五話「敵地での激闘について」

白熱の砂浜

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 挟み撃ちにしようとした自分たちの後方から、更に追加の増援が現れることは想定していたらしい。海から現れた“キャンサー”は、海岸で止まろうとはせず、装甲を活かして強引に米軍の陣地に突っ込んできた。クローで斬り掛かられたM6が、素早い反応で引き抜いた超振動ブレードで、それを受け止める。

 同時に、無人機の動きに変化があった。それまで、闇雲に射撃しながら突撃するだけだったペーチルが、突然、中身が入れ替わったかのように、真面な戦闘機動を取り始めたのだ。相手も、キャンサーを巻き込んで自爆することは避けたいらしい。

 それらの変化から少し遅れて、安久や宇佐美、志度を含めた連合軍の第二陣が海岸へと到達。連合軍から見て、敵、味方、敵、味方と、サンドイッチのように重なった戦線は、あっという間に混戦状態に陥った。

 連合軍のM6が、自衛隊のTk-11とTk-7が、テロリストのキャンサーが、無人のペーチルSが、全機、ライフルを格納するか投棄するかをしてから、誰からともなく、ウェポンラックから近接格闘武器を取り出す。

 同士討ちを避けるために飛び道具が封じられた、障害物も何も無い戦線は、まるで古来の戦を再現するように、斬撃音と破砕音が響き合う、混沌のパーティ会場と化した。

 こうなってしまうと、数と装甲の性能で劣る連合軍が不利かと思われたが、それは“通常装備なら”の話である。一機のM6が、眼前のキャンサーを特殊装甲の上から叩き斬ってみせた。その手には、腰のコンデンサに送電線で接続された、一振りの刀を持っている。

 光分子カッター。フォトン粒子を刃の表面で高速回転させることで対象を分子単位で削ぎ斬る、日本技本が開発した、切れ味なら他に追随を許さない日本刀である。
 しかも、それは試作段階を終えて、小型軽量化し、小太刀ほどにコンパクトとなった最新モデルだった。既存のブレードに近いが故に、米軍の最新鋭機はそれを見事に使い熟す。

『少佐殿! こいつはいつ我がアメリカ陸軍にも配備されますか?!』

 自慢の装甲による優位性が崩れ去り、距離を取ろうとしたキャンサーに素早く距離を詰め、難なく串刺しにして見せたM6のパイロットが、動かなくなった敵機を蹴り飛ばしながら上官に問う。

「合衆国がまた日本と同盟を結べば、すぐ使えるようになるわよ!」

 言いながら、メイヴィス機も素早く敵機を切り伏せる。センサーが背後から接近してきたキャンサーを捉えた。振り返りもせずに真後ろに切っ先を突き刺すと、また一機が動かなくなる。

(……おかしいわね)

 敵機を切り捨てて、メイヴィスは違和感を覚えた。現在の状況はこちらが優勢だ。敵の主力機であるキャンサーは続々と撃破できているし、もう後続の揚陸艇も到着する。そうすれば、後はもう敵の本拠地に踏み込んで占領するだけだ。

 ここまで有利に進んでいるのは、自衛隊から提供された新兵器の力もあるし、部下らの実力、M6の性能があってこそのものでもある。だが、それにしても“上手く行きすぎている”。

 あのオーケアノスの部隊の機体が、こんなにあっさりと撃破できるものか? 個人技量に任せた乱戦は確かに奴の十八番だったが、ハワイの時に比べると、今回の敵は随分と稚拙だ。
 しかも、先ほどから件のオーケアノス機らしき機体も、比乃が交戦した取り巻きもいない。どいつもこいつも、碌な指示を受けていないかのように、連携も統制もとれていない。

(何が目的なの……?)

 違和感が、小さい棘のように刺さる感覚が抜けない。まるで、大事な部下を投げ打って、僅かにでも時間稼ぎに徹しているかのように思えた。

「――そういうこと?!」

 敵の狙いは至極単純だったことに、メイヴィスはようやく気付いた。彼女も聞かされた、部隊長からの情報を思い出す。敵は世界をどうにかして滅ぼす手段を持っていて、正確な予想はできないが、間もなく実行に移せると伝えてきた。

 もし、そのタイムリミットが、まさに今日、それどころか数時間以内だとしたら――

「各機! 敵機は後続に任せて、地下施設の入り口を探すわよ!」

『どうしたのメイ少佐?』

 ちょうど、揚陸艇で到着した第三陣、後詰めのM6と各国の機体が、海岸線に展開する。その中にはリアもいた。彼女の機体が跳躍して、メイヴィス機の隣に着地する。他の連合軍機も、続々と揚陸艇から降りて、乱戦ですら無くなり、誤射の恐れがなくなった敵の集団に向けて、猛烈な弾幕を展開し始める。

 警告しようと自衛隊機の姿を探すが、すでにその姿はなかった。ふと見たレーダーに、彼らのマーカーが、ここから離れた地点へ向けて移動しているのが表示されていた。
 戦場を迂回して島の中心部を目指しているらしい。ここは、メイヴィスたちに任せるということだろう。

 彼らも勘付いたのだろうか、しかし、あの小隊だけでは戦力不足だ。援護に向かう必要がある。

 残っているキャンサーは僅かだ。この戦力差ならば押し切れるだろう。森林の奥から無人機がまだ出てきているが、そっちは通常兵器でなんとかできる。イギリスにドイツ、イタリア、それにスペツナズに残敵の掃討を任せて、自分たちは地下入り口を探すべきだ。

 光分子ブレードをウェポンラックにしまって、ライフルを構え直す。すぐにでも移動しなくてはならない。もし自分の予感が当たっていたら、悠長に戦闘をしている暇は無い。

「各機急ぐわよ。嫌な予感がするの、もしかしたら、間に合わないかも知れない……!」

『間に合わないって、何が?』

「説明は後! とにかく、急いで敵拠点を制圧しないと」

 言っている間に、別小隊のM6が、ペーチルの群れの間を縫うようにして森林地帯に突入する。だが、数秒して通信機から聞こえてきたのは、部下の断末魔だった。

「bravo小隊? どうしたの、応答して!」

 メイヴィスは通信を試みるが、返ってくるのは雑音だけだった。そして、部下を葬った敵が正体を表した。それは、今、砂浜で大量に撃破されて転がっているのと同型の機体。曲線で構成されたシルエットに、長い両腕、二対のクローアーム。頭部の一つ目が、こちらを見て鈍く光った。

「キャンサー……? まさか?!」

 森林から次々に出てくるその機影の数は二十はくだらない。無人機を盾にするように悠々と戦場に歩み出てきたキャンサーは、揃って片腕を胸元に添えると、小さく頭を下げてみせた。まるで、隊長であるオーケアノスのように。

 先ほどまでのは囮、本命である本物のオーケアニデス大隊は、無人機の壁の向こう側から、両腕を振り上げ、通常弾の弾幕など物ともせず、連合軍に突撃してきた。

 最初に犠牲になったのは、前に出過ぎていたイタリア軍機だった。
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