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第四十五話「敵地での激闘について」

橋頭保

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 比乃は機体を跪かせ、短筒を正面、森林地帯にいるペーチルSの一機に向ける。対空砲を優先して狙ったので、敵AMWはミサイルで半分も撃破仕切れなかった。けれども、相手の一団は爆発と衝撃のあおりを受けて、体勢を崩している。隙だらけだった。

 照準、発砲。徹甲弾は狙い違わず敵機の胴体を貫いた。倒れた機体の両サイドにいた二機が、反撃しようとライフルを構えた、直後、その二機も胴体に大穴を開けて吹っ飛ぶ。

 いくらペーチル系列が、AMWにしては重装甲と言っても、戦車に比べれば大したことはない。そして、こちらのメイン火器は全て、戦車を破壊できる火力を持っているのだ。

 瞬く間に三機を撃破。しかし、敵は味方の損害など気にしていないかのように、狼狽えもしない。それに、たった三機を倒した程度では、まだ奥の森林から湧いて出てくる敵の全体数に比べれば、ほんの一割にも満たない。

 一斉にこちらに照準が向けられる。比乃も防盾を構え、心視は翼の砲塔を敵に向ける。自分たち一機だけでは、いくら奮闘して大暴れても、いつかは蜂の巣にされるだろう。だが、比乃は少しも慌てなかった。
 相手が射撃する前に、海の方角から轟音が鳴り響く。次の瞬間、前方に展開していたペーチルの群れが、比喩でもなんでもなく粉々に砕け散った。

『隊長! 流石に飛行中にレールガンの発砲は無茶苦茶ですよ!』

『何言ってるの少尉、ちゃんとできたんだから、結果オーライよ!』

 無線から、英語の会話が聞こえきたかと思うと、Tk-11の横に、海水を大量に舞い上げて米軍のM6が次々とスラスターを切り離して着地していく。橋頭堡確保のために、先陣を切った自衛隊のすぐ後に発艦した部隊だった。
 近くに着地した何機かが、マニピュレータで比乃たちにサムズアップしていた。ハワイで共闘した顔見知りがいるのかもしれない。

 比乃はそれに敬礼で返し、無線の周波数を合わせて、駆けつけてくれた米軍機、メイヴィス機に礼を言う。

「援護感謝します、メイヴィス少佐。命拾いしました」

『お礼は良いわよ軍曹、どうせ、貴方は無理に突撃するだろうって思ってたのよ……むしろ、放っておいたら私たちの出番が無くなるところだった』

『はは、少佐の言う通りだな』

『自衛隊にばかり活躍されたんじゃ、合衆国の面目が立たねぇぜ』

『その通りーー各機、全兵装使用自由(オールウェポンフリー)。新手が来るわよ! こちらの第二陣が来るまで約五分、それまでにパーティ会場の入り口を確保する!』

 メイヴィスが号令し、米軍機が並んでライフルを構える。同時に森林の奥から、新手のペーチルSが向かってきていた。どちらともなく射撃が始まり、遮蔽物の無い海岸で弾幕の張り合いが始まった。

 敵は弾幕を恐れていないかのように、目標目掛けて真っ直ぐ接近しながら、ライフルを乱射する。対して、米軍は片膝を立てるか、伏せ撃ちの体勢を取る。被弾面積をできる限り抑え、正確な射撃が行える状態で迎え撃った。

 その差は歴然で、ペーチルは次々と被弾、物言わぬ鉄くずに成り下がって行く。米軍側の被害は小さくなかったが、第一射で撃破された機体はいなかった。けれども、敵の勢いは全く衰えない。次から次へと、森林から海岸まで飛び出してくる。

『くそっ、こいつら何機いるんだ!』

『撃て撃て! 弾薬を惜しむな!』

 米軍が弾幕を張る中、Tk-11も全身の銃火器を展開し、敵機を着実に葬り続けていた。それでも、先ほど米兵の一人が言った通り、敵の群れは途切れる様子を見せない。

 遂に、ペーチルの一機が、最前列で射撃していた小隊に向かって跳躍した。無防備に急接近してくる敵機に即座に四十ミリ弾を叩き込む。
 ペーチルは瞬く間に蜂の巣になるが、それでも原型を留めていた胴体部分が、小隊のすぐ目の前に落下。砂を巻き上げた。

 閃光と爆発、猛烈な衝撃波と高熱、鋭利な破片がM6四機に襲いかかった。

 ペーチルの胴体部分が大爆発を起こしたのだ。巻き込まれた四機が、メイヴィス機のレーダーからロストする。おそらくは即死だろう。友軍機が一瞬、状況が理解できずに、呆然とするように停止してしまうが、

『ぼけっとするな! やられるぞ!』

 メイヴィスが叫んで、部下に戦闘を再開させる。警告のためにメイヴィスが続けて簡単な指示を出す。

『各機、敵機は特攻を仕掛けてくるわ、近づけさせないように、弾幕を絶やさないことを優先しなさい!』

『りょ、了解! 小隊各機、ローテションで射撃するぞ、リロードの隙を突かれるな!』

 指示してから、メイヴィスは唇を噛む。まさか、敵が特攻を仕掛けてくるとは、自分も考えていなかった。それ故に、部下を四人も失ってしまったのだ。このような作戦を行ってくる指揮官など、一人しか思い浮かばない。その相手がまたしても、自分の部下を殺したのだ。

 比乃も、薄々と勘付いていることがあった。敵のペーチルは爆薬を満載して、こちらに捨て身で突っ込んでくる。物量的にも、その作戦を考えても、これに人間が乗っているとは思えない。つまり、この敵機は、

「爆発する無人機か、厄介なことだね……!」

 言いながら、比乃も短筒を撃ちまくる。迫ってくる敵機が徹甲弾で貫かれ、崩れ落ちるが、その亡骸を踏み越えて、更に敵機が押し寄せてくる。
 弾を撃ち切った円形の弾倉を短筒から放り捨てて、新しい弾倉を押し込む。その間に、心視の射撃によって四機のペーチルを屠った。

「このままだと……弾が、先に尽きる……」

「けど、接近戦をしたら爆破される……嫌な手を使ってくるよ!」

 流石は本拠地、容赦なく物量を活かした攻撃をしてくる。比乃は、これを仕掛けてきた相手の指揮官は、相当のやり手だと確信を持った。そして、敵の組織で優秀な指揮官と言えば、自分が知ってる中には一人しかいない。

(オーケアノス、奴も出てくるのか?)

 この状況で、あの男が指揮する部隊が襲ってきたら、自分たちは壊滅するかもしれない。その嫌な予感が、比乃の脳裏をかすめる。そして、その予感は、非情にも的中することになる。

《AMWらしき反応  六時方向  距離三〇〇〇》

 センサーが、自分たちの後方、“海側”から接近する多数の機影をキャッチしたことをAIが告げた。Tk-11でわかるならば、M6にも察知できるだろう。何機かのM6が思わず振り向いた。海中を移動可能で、しかも、この距離まで隠れられるステルス性を持ったAMWを運用している部隊は、一つしかない。

(本当に嫌なタイミングで……!)

 ここで挟撃されたら、流石に持ち堪えられない。その場の全員が危機感を覚えた。が、比乃だけは違った。振り向いた先、海の上に広がる空に、こちらにぐんぐんと近づいてくる複数の機影を見つけたのだ。
 それらが帯びている光の線は二つ。つまり双発機、米軍のM6のスラスターは単発だ。

 ならば、接近してきているのは――

『こちら陸上自衛隊第三師団第一小隊、パーティへ乱入させてもらう』
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