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第四十五話「敵地での激闘について」

陸上兵器、滞空

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『Child1、出撃準備はできてるな?!』

 指揮所の管制官が通信越しに言ってきた。先ほどから、このエレベータまで、外の戦闘の音が聞こえてきている。空母が激しく振動する。近くで何かが爆発したのかもしれない。

 その管制官の声に聞き覚えがあった。前にハワイ戦に出撃する前に聞いたものと同一だった。あのときと同じ空母なのだから、それも当然かもしれない。

「肯定です。エレベータで待機中、いつでもいけます」

『本艦は現在、敵の対艦攻撃部隊からの攻撃に晒されている。防空隊がどうにか抑えているが、外は乱戦状態だ。その中を突っ切ってもらうことになる。やれるな?』

「前と同じですね。問題ありません、いけます」

 返答と同時に、エレベータが上昇を始める。もう問答をしている時間も惜しいらしい。
 エレベータの警告灯が光り、二人と一機を見送る。揺れるエレベータが甲板に出ると、青空の下、大量の戦闘機とミサイルが乱舞していた。

 この中を上陸地点まで三十キロ飛んでいけという。対空砲火は来るだろうし、敵戦闘機からも攻撃されるかもしれない。なんとも無茶な話だと思った。それでも、比乃と心視の心中には、やれるという自信が確かにあった。

 戦闘模様とは裏腹に、風は微々たるもので、快晴。フライトには適している。足下の電磁カタパルトが、急ごしらえの固定具でTk-11の足裏と接続される。
 腰に接続されたフォトンスラスター二基が、上下左右に揺れて最後の動作確認。異常なし、お膳立ては整った。

 比乃がAIに、最終射出信号を送るように指示する。それを受け取った指揮所から、最後の通信が送られてくる。

『ハワイのときと状況は一緒だが、お前たちなら、今回も同じだけ活躍してくれると信じているぞ。日本の侍の力、また見せてくれ。グッドラック!』

「了解、Child1、行きます!」

 無人の甲板上に警告ブザーが鳴り響き、カタパルトとスラスターが爆音を上げる。機体に猛烈な加速が加わり、強烈なGがかかる。それも、もう慣れたものだ。
 カタパルトの拘束から解放されたログを見るまでもなく、機体は瞬時に空母から離れ、海上へと押し出された。

 比乃が飛行コースをイメージすると、AIが自動制御でスラスターを微調整し、機体を強引に安定させる。ぐんぐん加速するTk-11、高度はあまり上げない。海面スレスレを飛んで行く。
 安定したと言っても、機体は激しい振動に襲われていた。フォトンウィングで飛んでいる方が、よほど静かだ。だが、悠長に空中を翼で叩くよりも、ずっと速い。

 技本が全霊をかけて仕上げた急造のスラスターは、莫大な推力を発揮して、Tk-11を敵本拠地に突っ込ませる。

 《敵戦闘機補足 機数二 距離五〇〇〇 六時方向》

「おいでなすった!」

 ミグもどきの接近をAIが知らせた。AMWとしては馬鹿げた速度でも、最新型の戦闘機からすれば追いつくのは容易い。Tk-11が頭部を向けると、遙か向こうに空母、そして敵戦闘機が小さく見えた。
 距離を詰めた敵機が、必中距離から短距離ミサイルを撃ってくるのも時間の問題だ。

 考えてる間に、距離が縮まる。あと三キロまで迫ってきた所で、心視が念じた。
 比乃が何か言うまでもない、やることはわかりきっている。ハワイの時と違うのは、背中の砲塔が自由に使えるということだ。そして、それを操っているのは自衛隊でも屈指の狙撃手である。

「直線運動……外さない」

 心視が呟く。背中の翼が二本とも起き上がり、一瞬だけ位置調整。直後、両方の翼の先端、砲門から鮮緑が舞った。

 装填されているフォトンバレットは、貫徹力もそうだが、その弾速も既存の実弾とは比べものにならない。二発の弾丸は秒も経たずに戦闘機を貫いた。

 高速飛行中のサブアーム展開と発砲に、機体の振動が一瞬激しくなるが、すぐにAIが補正して納まる。
 だが、一息つく暇もなく、新手のミグもどきが迫ってくる。数は四、レーダー表示された。

「しつこいなもう!」

 こちらに対空能力があることを理解したのか、今度は必中距離など考慮せずに、射程外からミサイルを放ってきた。計四本、一直線に向かってくる。この機体には電子的な妨害装置など積んでいないし、真っ直ぐ飛ぶのが精一杯の陸戦兵器に回避運動など取れない。もっとも、現代のミサイルは回避運動程度でなんとかなる代物ではない。

「比乃……短筒、使う」

「落とせる?」

「ハワイで実証済み……」

 任せた! と比乃が心視に片腕のコントロールを貸す。受け取った心視の操作で、ウェポンラックから短筒が引き抜かれる。先ほどよりも機体の揺れが大きくなるが、AIが健気に空力計算と姿勢制御を行い、機体が墜落するのを防ぐ。

 ミサイルが飛んでくる方角は三時方向、真横だった。貫徹力と破壊力だけなら、今でも手持ち火器の分類上で他に追従を許さないハンドガンがミサイルを指向し、四発連続で徹甲弾を撃ち出した。

 弾幕など張る必要もなかった。四発の対空兵器は、真芯に弾を受け、ちくわのようになって爆発した。

「二度目なら……外さない」

「とんでもないよまったく!」

 言ってる間に、島が見えてきた。そこそこ大きい島だ。山も見え、木々が生い茂っている。こちらに口を開けるように開けている砂浜。事前説明を受けていなければ、そこがテロ組織の本拠地だとは思えなかった。
 しかし、木々がスライドしたかと思うと、その下から対空砲台が迫り出してきた。別の所からも、AMW――ここまで来て、まだ敵に運用されているペーチルSが、次々と姿を現した。

 残り十キロを切った。九キロ、八キロ、七キロ。海岸が迫り、島から曳光弾の嵐が降り注いできた。

「フォトンシールド起動」

 《了解 PS起動 出力安定》

 両腕を胴体の前で構え、防盾を前に向ける。すると、その表面が光り瞬いた。曳光弾の内数発が直撃コースで飛来する。しかし、機体の一メートルほど前で、何かに妨げられたように弾かれた。

 迎撃を完全に無視して、Tk-11が爆進する。海岸まで五キロを切ったところで、比野が念じた。背中の翼二本が、頭部の脇を通るようにして前に出る。その側面には、大量の円筒が設置されていた。

「ヘルファイアⅢ起動。マルチロックの後に一斉射」

 《ヘルファイアⅢ 対多目標照準モード 敵対空砲並びにAMW 捕捉完了 発射します》

 次の瞬間、サブアームに懸架されていた計十二発の対地空ミサイルが一斉に発射された。尻からロケットモータの燃焼炎を放出し、目標目掛けて高速で襲いかかる。

 まさかAMWに対地ミサイルが搭載してあるとは思いもしなかっただろう。敵の迎撃は間に合わなかった。砂浜と森林に爆発と黒煙が上がる。対空砲火が少し緩む。その隙に、もう眼前に迫った着地地点に滑り込むように着陸する。

 海水を巻き上げ、中身をぴったり吐き出し切ったフォトンスラスターと、ミサイル懸架装置の基部を切り離す。
 濛々と上がる煙から姿を現した敵機に、白いAMWが三門の砲塔を向けた。
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