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11 たまに鯖缶じゃなく出てくるカンはと言えば
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とりあえず、消滅した畑の中から、まだしも食べられそうな小芋を掘り出してみた。
それを魔族の名無しがが適度に魔法で焼いてくれた。
疲れた四人は、畑の隣の芝生に座り込んで、出来たての焼き芋を食べながら、しばらく黙っていた。
リヴィの方は、ただ疲労していると言うよりも、失敗した事についてのだるさの方が酷かった。
(何があったのかな……)
何か後ろから、訳の分からない気配で突き飛ばされた件の事である。あれがなければ、誤爆せず、芝生が枯れる程度ですんだはずなのに。
霊素魔道の起動はうまくいったのだが、変な方に飛んだのがまずかったんだから。
芋を食べながら、頭の中で、古語の配列だの呪文の文法だのを、何回も考え直していた。
「で、なんで、リヴィたん、霊素いじろうなんて思ったんだ?」
そこで、魔族が、ぼーっとしているリヴィに話しかけた。
「ん~?」
リヴィは、疲れてぼんやりした表情で言った。
「ん……王室関係者だから、名無しさんと話すような事でもないんだけど……」
リヴィは遠慮がちだった。
政治的にまずいということで、本来、公爵家は、魔族とのつきあいをするべきではないからだ。
「別にいいぞ。お前みたいながきんちょが、霊素に手を出すのは、何か事情があってのことなんだろ」
「それがね……」
言いかけて、リヴィは口を噤んでしまった。
この件について話すには、ちょっぴりばかり勇気が必要だった。
「王室の、フローレンス姫の話ぐらいは、聞いた事あるでしょ?」
かわりに、メルがそう答えた。
「ああ、あの、魔力ダダ漏れのやつだろ?」
そこはやはり、魔族のネットワークがあるのか、相当なレベルまで把握しているらしい。
「分かっているのか」
ブライアンが、どういうことかと、探りを入れるように聞いた。
「お前の方が、どの程度、わかってんのか」
魔族がそう言い返したので、ブライアンは黙ってしまった。
ノアとの会話の件を話す訳にはいかないからだ。
「要するに、その魔力漏れで、この間、大聖堂のマドンナ・シーズを滅茶苦茶にしちゃったのよ。そのとき、私達が、居合わせて色々あったんで、フロリーに同情しちゃってね。特に、リヴィは気になる事があったみたい」
「そうか。それで、なんだ? 霊素いじってどうするんだ」
マドンナ・シーズが滅茶苦茶になったと聞いても、流石は魔族。名無しは顔色一つ変えなかった。
「うちの学校の先生で、たまたま知識がある人がいて……」
ピートだということは濁しながら、メルは言った。ピートと魔族の名無しがそんなに仲が良くない事は知っている。
「その人から、ある程度の事を教わって、資料を借りて、私達で研究していたところなの。魔力漏れを止めれば、大勢の人達にとっていいことには繋がるんだから」
「そういうものなのか」
メルのメル語については、別に何も言わないで、魔族は頷いた。
「……」
不意に、リヴィが、ピートの顔をまじまじと見上げて見せた。
「何だ?」
「いや……生命体になら、霊素ってあるんでしょ。魔族でも、霊素ってあるの?」
「そりゃ、あるに決まってるだろ。人間のとはかなり違うがな」
リヴィは、香ばしい匂いを放つ小芋を囓りながら、名無しに向かった。考えて見れば凄い光景である。何故に、公爵令嬢が庭園に自分の畑を持っているのか。しかもそこで小芋をほっくり返して、焼き芋にしてるのか。そしてその焼き芋を芝生に座って魔族と一緒になって食っているのか……そんなことをしていいのか?
「魔族でも、霊素を抜くと、ヤバイ感じになるの?」
しかし、リヴィはそんなことはまるで意識していなかった。農園令嬢、芋がおいしきゃそれでいい。
「霊素を抜いたら、魔力や生命力が無駄に放出されちまうだろ。ヤバイなんてものじゃねえよ」
名無しはおかしそうに笑って言った。
「魔族でもそうなのか……うーん……」
「なんだ、がきんちょ?」
「いや、だからさ……」
小芋を囓りながら変な顔をしているリヴィの顔を、名無しがのぞきこむ。何百年と生きる魔族にしてみれば、17や18の人間の娘など、正しく幼児みたいなものなのである。リヴィもそれは知っているので、子ども扱いされても特に腹を立てる事はなかった。
「なんだ。俺が、王室関係者を嫌っている事が、そんなに気になるか」
「え、分かる!?」
「そりゃ-、分かるだろ」
名無しは顔をくしゃっとさせて笑った。
「要するに、そのお姫さんを助けたいってだけなんだろ? そりゃー俺としては気分悪いから、直接、触る事はしたくないが、リヴィたんがそんなに真剣になってるなら、力になってやらんこともない」
「本当に~?」
メルが、あからさまに疑いの視線を名無しに向けた。
「なんだよ。それじゃ、メルたんがリヴィたんと二人だけでやっちまうのか? まあ、出来るっていうんなら、俺は何もしないが」
「う」
それを言われるとメルも弱い。名無しの魔法と自分の魔道では、生命体からして違うんだからとんでもない格差があるのは当たり前だ。
「もし仮に頼めるんだとして、どんな方法があるんだ」
そこで、ブライアンが果敢に切り込んでいった。
「どんなって。そりゃ単純に、霊素を変質させるか、霊素を全とっかえするか、どっちかだろうな。魔力が高い事自体は、王室の人間としては、なんも悪くないんだろ?」
「まあな。むしろ、喜ばしいことだ」
ブライアンは、なんの気もなさそうにそう言った。そして、リヴィの兄らしい茫洋とした表情を作りながら、目つきばかりは鋭く名無しを観察している。
「じゃ、魔力や生命力それ事態に触るのはやめとけ。魔力を包み込む、クッションである霊素をいじるか、とっかえちまえばいいんだ」
「そんなことが出来るのか?」
名無しの言う事を全て疑っている訳でもないんだろうが、ブライアンは一つ一つ言葉を吟味している様子である。
「というか……クッションというのは、どういうことだ。霊素がクッション?」
「お前ら人間が、どういう解釈をしているのかは、知らんが。俺達は、魔力が安定して”座ってられる”、ちょうどいいサイズと柔らかさのクッションみたいなもんだと思ってるんだよ」
名無しの方は芋をかじりながらのんびりとした様子でそう言った。
「生命力や肉体が、魔力を支える椅子で、魔力を放出させる脳や術式(呪文や魔方陣などのこと)が机だとしたら、霊素は椅子についてるクッションな。そのフロリーとかいうお姫さんは、クッションのサイズがあわないか、よっぽど座り心地の悪いクッションだって言うことだ。それで、魔力が嫌がって勝手に出て行こうとしている感じなんだろうな。たまにいるわ。俺達魔族の中にも、そういうの」
「たまに……って、フロリーだけじゃないってことか?」
「100年か200年に一人か二人、見かける」
グランドン兄妹はぐったりと首を下ろした。魔族の中でも交友関係の広い名無しがそう言うぐらいなんだから、フロリーのケースをグランドン兄妹が知らないのは当然といえば当然である。
「要するに、そのクッションを取り換えちゃえばいいのね? サイズがあって、ふかふかしたなんかこう、素敵な感じのクッションに」
「簡単に言えば、そういうことになる」
メルのまとめ方に対して、名無しは大きく頷いた。満足そうである。名無しはブライアンに嫌われても大して気にしていない反面、優秀なメルの方へはリヴィのお守り役として好感度が高いようだった。
「そのクッションの取り換え方ってどうやるの?」
リヴィがこれまたのんびりと、芋の焦げた皮を指先で器用に剥きながらそう言った。
「ふ~ん、そうだなあ。俺のやり方だと、魔族式だから、人間にはちょっと無理かもなあ……」
もっきゅもっきゅと芋を囓りながら、名無しはのんきな声を出す。
「方法を知っているなら、早くしろ」
ブライアンの方は、やや苛立っている。彼としても、フローレンス姫のストームがなくなってくれることは、国の安泰を願う事でもあり、同時に、王室にグランドン家が恩を売る事が出来る絶好のチャンスなのだ。
「んーっと……リヴィたん、ちょっと、それを見せてくれるか?」
名無しは、リヴィの持っていたピートのレジュメを指差してそう頼んできた。
「いいよ」
リヴィは、レジュメを素直に手渡した。
メルが妙な顔をする。そういう人間の大切な術式を、あっさり魔族に見せていいものだろうか--とは思ったが、今は非常事態でもあった。
名無しはざっと、レジュメに目を通した。
「なるほど、人間は、こういう解釈の仕方をしているのか……」
そう、眉間に皺を寄せながら呟いた。
とりあえず、人間のやり方にあわせようという気はあるらしい。
そして、魔族は、枯れ散った畑の周辺の野菜に対して、さっと手をかざすと、何やら聞き慣れない発声で一通り、何事か述べた。
その数秒後、枯れていた野菜に、活力が戻った事が見て取れた。みるからに瑞々しい、鮮やかな緑色に戻ったのである。
「分かる?」
名無しはリヴィを振り返って笑って言った。
「えッ、何がッ!?」
動揺するリヴィ。
「早いんだって」
ブライアンが思わず苦笑しながらそう答えた。
「あーうん。今、霊素を復元して突っ込んだんだけどな……」
「魔族の言葉じゃ分からないよ!」
リヴィは慌てている。
「あーうん。キッツイ方言みたいに聞こえるんだろうな」
名無しはカンラカンラと笑ってそう答えた。
「もっと、私達のレベルに合わせて言ってよ~」
メルまでも不満そうにそう言っている。
「そうか? 俺にしてみれば人間のやってることの方がまだるっこしくてなあ」
名無しはそう答えると、レジュメを見直して、リヴィの方にちょいちょいと指を動かして見せた。
リヴィは、自分が持ってきていたペンを魔族の方に渡した。
ピートから貰った参考書をまとめた、リヴィとメルの術式に、名無しがカタコトのクインドルガ語で捕捉を入れていく。
基本は、リヴィとメルが作ったものだ。
全部を手助けする気はまるでないらしい。
「こうすれば、失敗して、畑やそこらの人に迷惑かけることもないだろう」
「ちょっと、見せてくれ」
名無しの実力がいかほどであるのだろうと、気になったのだろう。
ブライアンが、レジュメの方に手を差し出した。
ちなみにリヴィよりも年上であるブライアンは、王室学院の大学部に所属している。霊素については一通りの知識があった。
妹に、これ以上おかしな真似はさせられない。
「……ん?」
ブライアンは首を傾げている。
聞いた事もないような術式や単語がいくつかあったらしい。
「何かおかしいか?」
「おかしくはないが……ちょっと待て。この魔属性の単語を、人間が発したら、魔力が一回で消し飛ぶぞ」
「はい?」
「魔族と俺達は体力からして違うんだ。リヴィのレベルでこの単語や、この術式を使ったら、リヴィの霊素こそ飽和して消えてしまう」
ブライアンの言葉に、リヴィとメルは顔を見合わせた。
(え、つまり、どういうこと……?)
(呪文一つでMPを消費しすぎて命消えるって事なんじゃないの?)
リヴィの言葉に、ゲーマーのメルが簡単にそう答えた。
(どんな感じよ、それ)
(要するに、魔族さんの持ってる体を乗り物に例えるとね、エンジンはブースターとか色々ついてる特殊性だから、いきなりギアをたっかいところに持っていって突っ込んでっても無事に発進出来るけど、私達が乗ってる乗り物は生憎馬車なの。馬車にはギアも何もついてないんだから、おんなじことをやろうとしたら、馬も死ぬし私達も死ぬってこと)
(なるほど、理解)
リヴィは頭痛をこらえて青ざめながらそう言った。
「俺が手伝ってやってもいいが……」
ブライアンが控えめながら言ってはみるが、リヴィ達は、断った。
「お兄ちゃんが公爵家の嫡男として、最近、パパ達から仕事教わっている事を知っているもの。お兄ちゃん一人でも大変なのに、私の事まで……」
妹達はしおらしく、そう言って頭を下げたのだった。
そう言われると、実際、勉強だけではなくそろそろ仕事も任されてきたブライアンにしてみれば、やりたくても時間が割けない状態だったため、それ以上は申し出る事も出来なかった。
「じゃあ、どうするんだよ」
「この単語を、一回で一発どかーんじゃなくすればいいんだと思う」
リヴィは、自分なりに頭を使ってそう言った。
「私達のレベルまで、下げればいいんでしょ。この魔族単語を、人間の高位呪文に置き換えて、それをさらに置き換えて、置き換えてってやっていけば、それなりに私の体になじむ呪文になるんじゃないかな」
「そのかわり、その作業、辞典や参考書と首っ引きになる上に、単語一発ですむところが、改行改行改行ってタグを打ち込みまくりの長文詠唱になっちゃうけどね」
メルは肩を竦めてそう言った。
「だけど、今更、フロリーの事は放っておけないよ」
メルの言葉に、リヴィはそう答え、レジュメを睨み付けるのであった。
「まあ、そうまで言うなら、やってみろ。どうしようもなくなったら、俺に泣きついたって、かまやしねえよ」
芋をがつがつ食いながら、名無しはそう言っていた。
一方、ブライアンは、神経質そうに胃の辺りを撫でている。リヴィとメルの顔をかわるがわる見比べながら、こう言った。
「あんまり、無茶しないでくれよ。俺は、心配しているんだからな」
リヴィはそれを聞いて、顔をきっぱりと上げた。
「任せて。私がやってみせるわ、お兄ちゃん!」
そういう訳で、リヴィとメルは、連日徹夜に近い状態で、霊素魔道の研究に没頭することになった。
そうは言っても、メルは、男爵家の令嬢であり、住んでいる家は別々である。
しかもメルにはメルの日課があり、徹夜するよりは、朝は三時半に起き出して、ひたすらせっせとステータスageの修行をするような少女であった。スケジュールはもうびっしり立て込んでいる。
その上、そもそも言い出したのはリヴィである。リヴィは、ピートの参考書を、徹底的に読み込む事にした。
自分の頭で理解したと言えるレベルになるまで、読んで読んで読み込んだ。
結果的に、睡眠時間は一日三時間という状態だったが、なんといっても、リヴィはぴちぴちの18歳。なんとか若い体力は、持ちこたえる事が出来た。
同じ事はメルもやった。
(フロリーストームを解決出来れば、悪役令嬢のバッドエンドは回避出来る! そうしたら、私は自分の事に専念することが出来るのよ!)
メルは、もしも、悪役令嬢もののセオリーを回避することが出来たら、この世界でも小説家を志したいと思っていた。ステータスageはいわばその準備である。近代イギリス風の世界で、悪役令嬢や乙女ゲームノベライズが、どれだけ受けるかは分からない。だが、だからこそ、開拓者としてのやりがいはあるだろう。
しかし、今はその前段階。フロリーストームを解決出来ないということが、目下の課題である。
それなら、メルがやることはただ一つ。リヴィと息を合わせながら、呪文の書き換えの研究を完成させることであった。
メルの方は、毎晩0時までみっちり霊素魔道の研究を行い、ベッドに入るのもそこそこに、三時半かっきりに起き出すという毎日を繰り返す事となった。
メルの方は17歳。そもそも鍛えていた体力が違うため、そうそう簡単にへこたれはしなかった。
その30分後、大体、毎朝四時前後にリヴィは起き出して、農民らしい格好に着替えてしまう。
朝食を食べる前に、畑とビニールハウスを見て回るのだ。
この世界にはまだ農薬というものが開発されていないので、野菜を食い荒らしている虫は素手か魔法で捕ってしまう。
そして、やはり、手動か魔法で水やり。
この場合は、心理学は関係ないので、魔道ではなく魔法だ。
土の状態もよく見極めて、必要だったら、雑草を引っこ抜く。肥料の関係は、丁寧に慎重にやる。
そうこうしているうちに二時間ぐらいは軽くつぶれてしまう。
六時過ぎ、太陽も高く登った頃合いになってから、屋敷に戻って、朝風呂を浴びる。そうでなければ、土くさくて学校に行けない。
髪も綺麗に洗って、メイドについてもらって公爵令嬢らしく縦ロールに決めると、一階の食堂に降りていって、朝食。
大体が、イギリス人らしいブレックファーストである。
そこで、両親とブライアンに挨拶。
その後、自室に戻って学院の制服に着替え、授業の準備をして、登校。
そういう段取りである。
朝っぱらから肉体労働。リヴィもそれなりに鍛錬を積んだ体を持っていた。
メルの方は、朝の三時半から起き出して、屋敷の外周を何周もジョギングするという日課を持っている。
そうして、ダイエットをすると同時に、基礎代謝を上げてつるつる美肌を目指しているのだ。
自分でルーチンと決めた回数を走ると、家に戻って、ヨガとストレッチを一通り。筋肉が痛まない程度に、クールダウンも兼ねて、ゆったりと丁寧に行うのだ。
その後、朝風呂に入って、半身浴をしながら、魔道書を熟読。現在は、ピートの参考書を一生懸命読み込む事が肝心である。
風呂から上がると、丁寧に美容クリームや美容水を使って自分の体の手入れ。髪の毛だって、リヴィに負けないように綺麗に整える。
貴族らしい音楽室に移動すると、そこのグランドピアノをかき鳴らして、お嬢様をしている自分に酔いしれ、精神を集中して研ぎ澄ませる。悪役令嬢なら悪役令嬢らしく徹底するぞ! ただし全てはハッピーエンドに繋げるのだ!
そうして、自室に戻ると、机の上でガリ勉体勢。霊素魔道の勉強ばかりしていては授業に遅れてしまうので、予習復習はバッチリとやってしまう。
それから、メイドに呼ばれて食道に向かい、おもむろに、栄養の計算されたブレックファーストを食べるのである。リヴィは農民なので、タンパク質がどうしても多めになるそうだが、メルの方はかなり気取った野菜と乳製品が主のプレートだ。
その後、余裕を持って登校。
そんなふうにして、あっという間に一週間が過ぎていった。
窓から気持ちのいい風が吹き込んでくる。
暖かい光とともに。そろそろ四月も近い、春の午後。
黒板の前にはマリーベル教の修道女。気だるい声で「婦徳の教え」とやらを延々と呟いている。メリハリのない声は、正に呟いているとしか言いようがない。
リヴィは半分、目を閉じながらそれを聞いていた。
現代日本でも、未だに三従の教えとか女三界に家なしとか聞いた事はあるのだが、それをまるまる写して長文ブログにしたような事を昼下がりの教室で語られたらどうなるだろうか。
この世界には、ブログというものは勿論ない。あるのはペンやペンシルばかりである。
ちなみにリヴィの持っている鉛筆は、先程から、蛇行を続けている。
一生懸命、板書を取ろうとしているのだが、連日の疲労が流石に出て来ていた。
彼女のやりたいことは、農業なのだが、ステータスageの怪人メルという目付役がいる以上、勉強の方も手抜きが出来る訳ではないのである。その上に、最近は、フローレンス姫の魔力漏れに関する大工事をしなければならない。
疲れ切っているのも当然の話で、そこにこのうららかな春の日射しとだるさだけが残る授業のダブルパンチ。
書いても書いてもノートには子蛇がのたくってるような文字が続き、それを消して、綺麗な文章に整えようとするが、片っ端から同じ事の繰り返しになってしまう。
やがて、文書の蛇行は、リヴィの全身に及び始めた。
椅子に優雅に腰掛けている公爵令嬢の体が、右に左に揺れ始め、頭はかしいで、本当に船を漕ぐような姿勢となっていった。
近所の席の女生徒たちからくすくすと笑いが立ち上る。
しかし、それにも気付かず、リヴィは、なんとか重い瞼に力をこめて押し上げながら、板書を続けようと、時々は意識を取り戻して、鉛筆を握り直すのだった。
当たり前の話だが、授業中の生徒達が突然、しめやかながらも笑い出したら、修道女先生だって気がつく訳だ。
そして、笑いの中心では、リヴィが寝ている。
少なくとも、修道女の方は、リヴィの事情を知らない訳だから、公爵令嬢がいい気になって授業をさぼっているようにしか見えない。
厳格で、本人真面目に生きて来たと思い込んでいる修道女は瞬間沸騰器と化した。
自称”愛の鞭”を天井高く捧げ持つと、ツカツカと、ぼんやりしている(ように見える)リヴィの方に歩み寄っていった。
ばあさんとは思えない鋭い動きであった。少なくとも、怒りを体現する際には、鋭敏に動ける人らしい。
そして、眠たい目をこすりながらも懸命に板書を続けようとするリヴィの頭を”愛の鞭”で思い切りぶったたいた。
「!?」
悲鳴こそ上げなかったものの、リヴィは仰天して立ち上がった。
「お座りなさい!」
まるで犬にでも命令するような口調でばあさん先生は怒鳴りつけた。
それを聞いて、女生徒達はどっと笑い崩れた。
すると、ばあさん先生はその女生徒達を睨み付け、自称”愛の鞭”を振り回した。
「シャラップ!!」
リヴィはぎょっとした。大昔の日本時代に、確かにそんな発声の仕方をする外国人がいるとネタにされていた事は聞いていたが、まさかここで聞く事になるとは思いも寄らなかった。
しかし女生徒達の方は、自分がぶったたかれてはたまったものじゃないと思ったのだろう。首を縮めて黙り込んでしまった。
「ミス・オリヴィア? 授業中に大変、優雅な時間をお過ごしのようですね?」
「いいえ、シスター・エディス?」
リヴィは引きつり笑いを浮かべながらなんとか返事を行った。向こうが優雅にとか優雅なと言われてしまうと、不思議にそれに沿った行動を取らなければいけないような気がしてくる。
「私は、大変、真面目に艱難辛苦を耐えていましたわ?」
カチンと来たシスター・エディスは、自分も負けじとリヴィに微笑みかけた。勿論、こめかみに青筋が浮かんでいるため、全然笑っているように見えないのだが。
リヴィはリヴィで、今更、引っ込みがつかずに、公爵令嬢の営業スマイルを浮かべたまんま、しずしずと椅子に座り直した。
「おやおや、公爵令嬢のあなたが、何の辛苦があると言うのです? 家に帰ったらソファに横たわって、お茶でも飲んでいるんでしょ? 何時間も」
「……」
リヴィは説明をためらった。
モンペ着て野良作業に励んでいる私の事、なんだと思ってるんだろ。
あんたの自己紹介じゃないんかい?
「いいですわねー、人生全てイージーモードの令嬢サマは。私達、神に仕える修道女の苦しみと栄光の事など何も分からないんだから! 若いうちの苦労は買ってでもしろという格言を知らないんでしょう!」
そのまま、シスター・エディスは細かい事を並べ立て始め、いかに、イージーモードの令嬢サマが気に入らないかということを説教し始めた。
(エディスってイージスとも読めるんだっけ。イージス艦はイージーが好かん……)
本当にどうでもいい駄洒落を心の中で呟きながら、リヴィは今日の悪役令嬢としての艱難辛苦のノルマをこなした。
相乗りさせられたのは笑っていた女生徒達である。授業が遅れること、遅れること。
そのぶんは自宅の予習復習で取り戻すか、あるいは、学期末の猛ラッシュで授業がめくられまくることにつきあわされるのだ。結局自分が苦労することになる。
(だから、普通に起こしてくれりゃよかったのに……)
ねちねちと嫌味な説教を受けながら、胸の中でそう呟くものの。悪役令嬢のふてぶてしさで、決してそれを口にすることはないのであった。
そんなこんなで授業が終わると、タイミングを狙いすまして、メルがリヴィの教室に飛び込んで来た。
「さあ、早く帰るわよ、オリヴィア!」
放課後に遊んでいる暇などない。
無論、遊ぶ時は遊ぶ時だが、今はそんな余裕などあるわけがなかった。
「アメリア、そんなに急がなくてもいいってば」
口ではそんな事を言いながら、リヴィは、手早く机の中のテキスト類を学院指定の鞄に突っ込み、椅子から立ち上がった。
その後、周囲の男子生徒女子生徒に、優雅な一礼を行ってにっこりと微笑みかけるリヴィとメル。
「それではみなさま、ごきげんよう」
礼儀正しくそう告げると、二人は、ほとんど走っているような早足で教室を突き抜け、学校の門をくぐり抜け、猛然とおしゃべりを開始した。
「どうだった!? 今日の魔道関係の授業!」
「どうもこうもないわよっ」
リヴィの質問にメルが答える。
「確かに、私は、魔道Sクラスだけど、あんたよりも一学年遅れているんだから! あんたが去年受けた授業の中に、使えそうなのあった!?」
「ぐう……。私、魔道関係、A止まりだったんだってば。それで、Sクラスの授業ってどんな感じなのよ」
「言った通りよ。霊素の霊の字も出てこないのよ! かわりに、心理学関係で使えそうなのがいくつかあったわ。魔道ぶっ放す時に、フロリーが動揺して逃げないように、うまいことやれるかも!」
「あ~、魔力や生命力関係に、精神状態が悪影響を及ぼしたら意味ないもんね」
ぱぱっとそんなふうに情報交換を行いながら、リヴィは今日の授業の事を思い出す。メモも板書もちゃんととっていたけれど、婦人の学問についてはどうだったっけ。
「こっちは、魔道よりも、生物と化学が面白かったわ。私の畑作業に役立ちそうなのがいくつかあった」
「農業なんてやってる場合なの!?」
「農作業は一日の遅れも許されないものなの! こっちもちゃんと結果出さないと、どこからどんなクレームつくか分からないでしょうが!」
正論に正論で返しながら、リヴィは口の中でぶつぶつと暗誦を行った。化学の方程式のおさらいである。
「それで、全体的に、授業はどんな感じよ。ステータスステータス!」
「ん~……チョンボがちょっとついちゃったんだけど」
「またかぁあああ!? お前は、またなのかぁあああああああ!!??」
絶叫するメル。
笑って誤魔化す事も出来ないリヴィ。
いずれにしろ、シスター・エディスの機嫌を損ねてしまったことを話しつつ、次のどこでどんなふうに取り返すか相談する。
こういう際には、メルが役に立つ事は必然なのであった。悪役令嬢マニアはそのへん全く隙がない。
そうして、公爵家の屋敷に着くと、二人はリヴィの自室に直行。
着替えもそこそこに、授業のテキストと付き合わせながら、せっせと霊素魔道の研究を続ける。
「フロリーに新しいクッションを上げるだけで、こんなに苦労するなんて、本人気づきもしないでしょうね」
メルがため息交じりにそう言った。
「クッション一つで国が救えるなら、それに越した事はないわよ」
リヴィは苦笑いをまじえつつもそう言って、霊素の基礎研究の方程式を簡単な呪文に置き換え置き換え、頭痛と眠気をこらえて頑張るのであった。
「リヴィ、リヴィ……メル」
そうして何時間経ったのだろうか。
夕飯の時刻になっても食堂を訪れない二人を気にして、ブライアンが妹の部屋に入ってきた。
そこでは、すっかり寝落ちしかかっている二人が、ラウンドテーブルを囲みながら、ノートにへばりついて、何事か必死に書き付けているのであった。
どっちも完全に目が据わって充血しているが、一心不乱に口の中でリズミカルに呪文を刻みつつ、懸命に研究を続けていた。
「お前達、食事ぐらいちゃんと食べなさい。後は、夜は寝るの! 若いからって無理していると、いつか、手痛いしっぺ返しが来るんだからな!」
ついついそんな説教をしながら、ブライアンは、リヴィをノートからひっぺがした。
「お兄ちゃんは心配しているんだからな? 一途に頑張るお前はとても可愛いけれど、それで体を壊したら元も子もないだろ……」
「ん……ん~?」
リヴィは、ブライアンの顔を呆然と見上げながら、やがてへなへなとその広い胸に額を押しつけるようにした。
「お兄ちゃん……私……」
「なんだよ」
「フロリーが一段落して……畑に戻ったら……今年も一番美味しいサラダ、お兄ちゃんに作ってあげるんだからね……!」
そのまんま、リヴィは、ブライアンに頭をもたせかけるようにして、立ったまま、寝落ちした。口から涎。
「……」
俺の妹は公爵令嬢としてどうかしていると思ったが、そもそも、色々な部分でどうかしているんじゃなかろうか……。
そんな気持ちが胸に去来するものの、妹の体をそっと抱き寄せ、ブライアンは、深い深いため息をつくのであった。
それを魔族の名無しがが適度に魔法で焼いてくれた。
疲れた四人は、畑の隣の芝生に座り込んで、出来たての焼き芋を食べながら、しばらく黙っていた。
リヴィの方は、ただ疲労していると言うよりも、失敗した事についてのだるさの方が酷かった。
(何があったのかな……)
何か後ろから、訳の分からない気配で突き飛ばされた件の事である。あれがなければ、誤爆せず、芝生が枯れる程度ですんだはずなのに。
霊素魔道の起動はうまくいったのだが、変な方に飛んだのがまずかったんだから。
芋を食べながら、頭の中で、古語の配列だの呪文の文法だのを、何回も考え直していた。
「で、なんで、リヴィたん、霊素いじろうなんて思ったんだ?」
そこで、魔族が、ぼーっとしているリヴィに話しかけた。
「ん~?」
リヴィは、疲れてぼんやりした表情で言った。
「ん……王室関係者だから、名無しさんと話すような事でもないんだけど……」
リヴィは遠慮がちだった。
政治的にまずいということで、本来、公爵家は、魔族とのつきあいをするべきではないからだ。
「別にいいぞ。お前みたいながきんちょが、霊素に手を出すのは、何か事情があってのことなんだろ」
「それがね……」
言いかけて、リヴィは口を噤んでしまった。
この件について話すには、ちょっぴりばかり勇気が必要だった。
「王室の、フローレンス姫の話ぐらいは、聞いた事あるでしょ?」
かわりに、メルがそう答えた。
「ああ、あの、魔力ダダ漏れのやつだろ?」
そこはやはり、魔族のネットワークがあるのか、相当なレベルまで把握しているらしい。
「分かっているのか」
ブライアンが、どういうことかと、探りを入れるように聞いた。
「お前の方が、どの程度、わかってんのか」
魔族がそう言い返したので、ブライアンは黙ってしまった。
ノアとの会話の件を話す訳にはいかないからだ。
「要するに、その魔力漏れで、この間、大聖堂のマドンナ・シーズを滅茶苦茶にしちゃったのよ。そのとき、私達が、居合わせて色々あったんで、フロリーに同情しちゃってね。特に、リヴィは気になる事があったみたい」
「そうか。それで、なんだ? 霊素いじってどうするんだ」
マドンナ・シーズが滅茶苦茶になったと聞いても、流石は魔族。名無しは顔色一つ変えなかった。
「うちの学校の先生で、たまたま知識がある人がいて……」
ピートだということは濁しながら、メルは言った。ピートと魔族の名無しがそんなに仲が良くない事は知っている。
「その人から、ある程度の事を教わって、資料を借りて、私達で研究していたところなの。魔力漏れを止めれば、大勢の人達にとっていいことには繋がるんだから」
「そういうものなのか」
メルのメル語については、別に何も言わないで、魔族は頷いた。
「……」
不意に、リヴィが、ピートの顔をまじまじと見上げて見せた。
「何だ?」
「いや……生命体になら、霊素ってあるんでしょ。魔族でも、霊素ってあるの?」
「そりゃ、あるに決まってるだろ。人間のとはかなり違うがな」
リヴィは、香ばしい匂いを放つ小芋を囓りながら、名無しに向かった。考えて見れば凄い光景である。何故に、公爵令嬢が庭園に自分の畑を持っているのか。しかもそこで小芋をほっくり返して、焼き芋にしてるのか。そしてその焼き芋を芝生に座って魔族と一緒になって食っているのか……そんなことをしていいのか?
「魔族でも、霊素を抜くと、ヤバイ感じになるの?」
しかし、リヴィはそんなことはまるで意識していなかった。農園令嬢、芋がおいしきゃそれでいい。
「霊素を抜いたら、魔力や生命力が無駄に放出されちまうだろ。ヤバイなんてものじゃねえよ」
名無しはおかしそうに笑って言った。
「魔族でもそうなのか……うーん……」
「なんだ、がきんちょ?」
「いや、だからさ……」
小芋を囓りながら変な顔をしているリヴィの顔を、名無しがのぞきこむ。何百年と生きる魔族にしてみれば、17や18の人間の娘など、正しく幼児みたいなものなのである。リヴィもそれは知っているので、子ども扱いされても特に腹を立てる事はなかった。
「なんだ。俺が、王室関係者を嫌っている事が、そんなに気になるか」
「え、分かる!?」
「そりゃ-、分かるだろ」
名無しは顔をくしゃっとさせて笑った。
「要するに、そのお姫さんを助けたいってだけなんだろ? そりゃー俺としては気分悪いから、直接、触る事はしたくないが、リヴィたんがそんなに真剣になってるなら、力になってやらんこともない」
「本当に~?」
メルが、あからさまに疑いの視線を名無しに向けた。
「なんだよ。それじゃ、メルたんがリヴィたんと二人だけでやっちまうのか? まあ、出来るっていうんなら、俺は何もしないが」
「う」
それを言われるとメルも弱い。名無しの魔法と自分の魔道では、生命体からして違うんだからとんでもない格差があるのは当たり前だ。
「もし仮に頼めるんだとして、どんな方法があるんだ」
そこで、ブライアンが果敢に切り込んでいった。
「どんなって。そりゃ単純に、霊素を変質させるか、霊素を全とっかえするか、どっちかだろうな。魔力が高い事自体は、王室の人間としては、なんも悪くないんだろ?」
「まあな。むしろ、喜ばしいことだ」
ブライアンは、なんの気もなさそうにそう言った。そして、リヴィの兄らしい茫洋とした表情を作りながら、目つきばかりは鋭く名無しを観察している。
「じゃ、魔力や生命力それ事態に触るのはやめとけ。魔力を包み込む、クッションである霊素をいじるか、とっかえちまえばいいんだ」
「そんなことが出来るのか?」
名無しの言う事を全て疑っている訳でもないんだろうが、ブライアンは一つ一つ言葉を吟味している様子である。
「というか……クッションというのは、どういうことだ。霊素がクッション?」
「お前ら人間が、どういう解釈をしているのかは、知らんが。俺達は、魔力が安定して”座ってられる”、ちょうどいいサイズと柔らかさのクッションみたいなもんだと思ってるんだよ」
名無しの方は芋をかじりながらのんびりとした様子でそう言った。
「生命力や肉体が、魔力を支える椅子で、魔力を放出させる脳や術式(呪文や魔方陣などのこと)が机だとしたら、霊素は椅子についてるクッションな。そのフロリーとかいうお姫さんは、クッションのサイズがあわないか、よっぽど座り心地の悪いクッションだって言うことだ。それで、魔力が嫌がって勝手に出て行こうとしている感じなんだろうな。たまにいるわ。俺達魔族の中にも、そういうの」
「たまに……って、フロリーだけじゃないってことか?」
「100年か200年に一人か二人、見かける」
グランドン兄妹はぐったりと首を下ろした。魔族の中でも交友関係の広い名無しがそう言うぐらいなんだから、フロリーのケースをグランドン兄妹が知らないのは当然といえば当然である。
「要するに、そのクッションを取り換えちゃえばいいのね? サイズがあって、ふかふかしたなんかこう、素敵な感じのクッションに」
「簡単に言えば、そういうことになる」
メルのまとめ方に対して、名無しは大きく頷いた。満足そうである。名無しはブライアンに嫌われても大して気にしていない反面、優秀なメルの方へはリヴィのお守り役として好感度が高いようだった。
「そのクッションの取り換え方ってどうやるの?」
リヴィがこれまたのんびりと、芋の焦げた皮を指先で器用に剥きながらそう言った。
「ふ~ん、そうだなあ。俺のやり方だと、魔族式だから、人間にはちょっと無理かもなあ……」
もっきゅもっきゅと芋を囓りながら、名無しはのんきな声を出す。
「方法を知っているなら、早くしろ」
ブライアンの方は、やや苛立っている。彼としても、フローレンス姫のストームがなくなってくれることは、国の安泰を願う事でもあり、同時に、王室にグランドン家が恩を売る事が出来る絶好のチャンスなのだ。
「んーっと……リヴィたん、ちょっと、それを見せてくれるか?」
名無しは、リヴィの持っていたピートのレジュメを指差してそう頼んできた。
「いいよ」
リヴィは、レジュメを素直に手渡した。
メルが妙な顔をする。そういう人間の大切な術式を、あっさり魔族に見せていいものだろうか--とは思ったが、今は非常事態でもあった。
名無しはざっと、レジュメに目を通した。
「なるほど、人間は、こういう解釈の仕方をしているのか……」
そう、眉間に皺を寄せながら呟いた。
とりあえず、人間のやり方にあわせようという気はあるらしい。
そして、魔族は、枯れ散った畑の周辺の野菜に対して、さっと手をかざすと、何やら聞き慣れない発声で一通り、何事か述べた。
その数秒後、枯れていた野菜に、活力が戻った事が見て取れた。みるからに瑞々しい、鮮やかな緑色に戻ったのである。
「分かる?」
名無しはリヴィを振り返って笑って言った。
「えッ、何がッ!?」
動揺するリヴィ。
「早いんだって」
ブライアンが思わず苦笑しながらそう答えた。
「あーうん。今、霊素を復元して突っ込んだんだけどな……」
「魔族の言葉じゃ分からないよ!」
リヴィは慌てている。
「あーうん。キッツイ方言みたいに聞こえるんだろうな」
名無しはカンラカンラと笑ってそう答えた。
「もっと、私達のレベルに合わせて言ってよ~」
メルまでも不満そうにそう言っている。
「そうか? 俺にしてみれば人間のやってることの方がまだるっこしくてなあ」
名無しはそう答えると、レジュメを見直して、リヴィの方にちょいちょいと指を動かして見せた。
リヴィは、自分が持ってきていたペンを魔族の方に渡した。
ピートから貰った参考書をまとめた、リヴィとメルの術式に、名無しがカタコトのクインドルガ語で捕捉を入れていく。
基本は、リヴィとメルが作ったものだ。
全部を手助けする気はまるでないらしい。
「こうすれば、失敗して、畑やそこらの人に迷惑かけることもないだろう」
「ちょっと、見せてくれ」
名無しの実力がいかほどであるのだろうと、気になったのだろう。
ブライアンが、レジュメの方に手を差し出した。
ちなみにリヴィよりも年上であるブライアンは、王室学院の大学部に所属している。霊素については一通りの知識があった。
妹に、これ以上おかしな真似はさせられない。
「……ん?」
ブライアンは首を傾げている。
聞いた事もないような術式や単語がいくつかあったらしい。
「何かおかしいか?」
「おかしくはないが……ちょっと待て。この魔属性の単語を、人間が発したら、魔力が一回で消し飛ぶぞ」
「はい?」
「魔族と俺達は体力からして違うんだ。リヴィのレベルでこの単語や、この術式を使ったら、リヴィの霊素こそ飽和して消えてしまう」
ブライアンの言葉に、リヴィとメルは顔を見合わせた。
(え、つまり、どういうこと……?)
(呪文一つでMPを消費しすぎて命消えるって事なんじゃないの?)
リヴィの言葉に、ゲーマーのメルが簡単にそう答えた。
(どんな感じよ、それ)
(要するに、魔族さんの持ってる体を乗り物に例えるとね、エンジンはブースターとか色々ついてる特殊性だから、いきなりギアをたっかいところに持っていって突っ込んでっても無事に発進出来るけど、私達が乗ってる乗り物は生憎馬車なの。馬車にはギアも何もついてないんだから、おんなじことをやろうとしたら、馬も死ぬし私達も死ぬってこと)
(なるほど、理解)
リヴィは頭痛をこらえて青ざめながらそう言った。
「俺が手伝ってやってもいいが……」
ブライアンが控えめながら言ってはみるが、リヴィ達は、断った。
「お兄ちゃんが公爵家の嫡男として、最近、パパ達から仕事教わっている事を知っているもの。お兄ちゃん一人でも大変なのに、私の事まで……」
妹達はしおらしく、そう言って頭を下げたのだった。
そう言われると、実際、勉強だけではなくそろそろ仕事も任されてきたブライアンにしてみれば、やりたくても時間が割けない状態だったため、それ以上は申し出る事も出来なかった。
「じゃあ、どうするんだよ」
「この単語を、一回で一発どかーんじゃなくすればいいんだと思う」
リヴィは、自分なりに頭を使ってそう言った。
「私達のレベルまで、下げればいいんでしょ。この魔族単語を、人間の高位呪文に置き換えて、それをさらに置き換えて、置き換えてってやっていけば、それなりに私の体になじむ呪文になるんじゃないかな」
「そのかわり、その作業、辞典や参考書と首っ引きになる上に、単語一発ですむところが、改行改行改行ってタグを打ち込みまくりの長文詠唱になっちゃうけどね」
メルは肩を竦めてそう言った。
「だけど、今更、フロリーの事は放っておけないよ」
メルの言葉に、リヴィはそう答え、レジュメを睨み付けるのであった。
「まあ、そうまで言うなら、やってみろ。どうしようもなくなったら、俺に泣きついたって、かまやしねえよ」
芋をがつがつ食いながら、名無しはそう言っていた。
一方、ブライアンは、神経質そうに胃の辺りを撫でている。リヴィとメルの顔をかわるがわる見比べながら、こう言った。
「あんまり、無茶しないでくれよ。俺は、心配しているんだからな」
リヴィはそれを聞いて、顔をきっぱりと上げた。
「任せて。私がやってみせるわ、お兄ちゃん!」
そういう訳で、リヴィとメルは、連日徹夜に近い状態で、霊素魔道の研究に没頭することになった。
そうは言っても、メルは、男爵家の令嬢であり、住んでいる家は別々である。
しかもメルにはメルの日課があり、徹夜するよりは、朝は三時半に起き出して、ひたすらせっせとステータスageの修行をするような少女であった。スケジュールはもうびっしり立て込んでいる。
その上、そもそも言い出したのはリヴィである。リヴィは、ピートの参考書を、徹底的に読み込む事にした。
自分の頭で理解したと言えるレベルになるまで、読んで読んで読み込んだ。
結果的に、睡眠時間は一日三時間という状態だったが、なんといっても、リヴィはぴちぴちの18歳。なんとか若い体力は、持ちこたえる事が出来た。
同じ事はメルもやった。
(フロリーストームを解決出来れば、悪役令嬢のバッドエンドは回避出来る! そうしたら、私は自分の事に専念することが出来るのよ!)
メルは、もしも、悪役令嬢もののセオリーを回避することが出来たら、この世界でも小説家を志したいと思っていた。ステータスageはいわばその準備である。近代イギリス風の世界で、悪役令嬢や乙女ゲームノベライズが、どれだけ受けるかは分からない。だが、だからこそ、開拓者としてのやりがいはあるだろう。
しかし、今はその前段階。フロリーストームを解決出来ないということが、目下の課題である。
それなら、メルがやることはただ一つ。リヴィと息を合わせながら、呪文の書き換えの研究を完成させることであった。
メルの方は、毎晩0時までみっちり霊素魔道の研究を行い、ベッドに入るのもそこそこに、三時半かっきりに起き出すという毎日を繰り返す事となった。
メルの方は17歳。そもそも鍛えていた体力が違うため、そうそう簡単にへこたれはしなかった。
その30分後、大体、毎朝四時前後にリヴィは起き出して、農民らしい格好に着替えてしまう。
朝食を食べる前に、畑とビニールハウスを見て回るのだ。
この世界にはまだ農薬というものが開発されていないので、野菜を食い荒らしている虫は素手か魔法で捕ってしまう。
そして、やはり、手動か魔法で水やり。
この場合は、心理学は関係ないので、魔道ではなく魔法だ。
土の状態もよく見極めて、必要だったら、雑草を引っこ抜く。肥料の関係は、丁寧に慎重にやる。
そうこうしているうちに二時間ぐらいは軽くつぶれてしまう。
六時過ぎ、太陽も高く登った頃合いになってから、屋敷に戻って、朝風呂を浴びる。そうでなければ、土くさくて学校に行けない。
髪も綺麗に洗って、メイドについてもらって公爵令嬢らしく縦ロールに決めると、一階の食堂に降りていって、朝食。
大体が、イギリス人らしいブレックファーストである。
そこで、両親とブライアンに挨拶。
その後、自室に戻って学院の制服に着替え、授業の準備をして、登校。
そういう段取りである。
朝っぱらから肉体労働。リヴィもそれなりに鍛錬を積んだ体を持っていた。
メルの方は、朝の三時半から起き出して、屋敷の外周を何周もジョギングするという日課を持っている。
そうして、ダイエットをすると同時に、基礎代謝を上げてつるつる美肌を目指しているのだ。
自分でルーチンと決めた回数を走ると、家に戻って、ヨガとストレッチを一通り。筋肉が痛まない程度に、クールダウンも兼ねて、ゆったりと丁寧に行うのだ。
その後、朝風呂に入って、半身浴をしながら、魔道書を熟読。現在は、ピートの参考書を一生懸命読み込む事が肝心である。
風呂から上がると、丁寧に美容クリームや美容水を使って自分の体の手入れ。髪の毛だって、リヴィに負けないように綺麗に整える。
貴族らしい音楽室に移動すると、そこのグランドピアノをかき鳴らして、お嬢様をしている自分に酔いしれ、精神を集中して研ぎ澄ませる。悪役令嬢なら悪役令嬢らしく徹底するぞ! ただし全てはハッピーエンドに繋げるのだ!
そうして、自室に戻ると、机の上でガリ勉体勢。霊素魔道の勉強ばかりしていては授業に遅れてしまうので、予習復習はバッチリとやってしまう。
それから、メイドに呼ばれて食道に向かい、おもむろに、栄養の計算されたブレックファーストを食べるのである。リヴィは農民なので、タンパク質がどうしても多めになるそうだが、メルの方はかなり気取った野菜と乳製品が主のプレートだ。
その後、余裕を持って登校。
そんなふうにして、あっという間に一週間が過ぎていった。
窓から気持ちのいい風が吹き込んでくる。
暖かい光とともに。そろそろ四月も近い、春の午後。
黒板の前にはマリーベル教の修道女。気だるい声で「婦徳の教え」とやらを延々と呟いている。メリハリのない声は、正に呟いているとしか言いようがない。
リヴィは半分、目を閉じながらそれを聞いていた。
現代日本でも、未だに三従の教えとか女三界に家なしとか聞いた事はあるのだが、それをまるまる写して長文ブログにしたような事を昼下がりの教室で語られたらどうなるだろうか。
この世界には、ブログというものは勿論ない。あるのはペンやペンシルばかりである。
ちなみにリヴィの持っている鉛筆は、先程から、蛇行を続けている。
一生懸命、板書を取ろうとしているのだが、連日の疲労が流石に出て来ていた。
彼女のやりたいことは、農業なのだが、ステータスageの怪人メルという目付役がいる以上、勉強の方も手抜きが出来る訳ではないのである。その上に、最近は、フローレンス姫の魔力漏れに関する大工事をしなければならない。
疲れ切っているのも当然の話で、そこにこのうららかな春の日射しとだるさだけが残る授業のダブルパンチ。
書いても書いてもノートには子蛇がのたくってるような文字が続き、それを消して、綺麗な文章に整えようとするが、片っ端から同じ事の繰り返しになってしまう。
やがて、文書の蛇行は、リヴィの全身に及び始めた。
椅子に優雅に腰掛けている公爵令嬢の体が、右に左に揺れ始め、頭はかしいで、本当に船を漕ぐような姿勢となっていった。
近所の席の女生徒たちからくすくすと笑いが立ち上る。
しかし、それにも気付かず、リヴィは、なんとか重い瞼に力をこめて押し上げながら、板書を続けようと、時々は意識を取り戻して、鉛筆を握り直すのだった。
当たり前の話だが、授業中の生徒達が突然、しめやかながらも笑い出したら、修道女先生だって気がつく訳だ。
そして、笑いの中心では、リヴィが寝ている。
少なくとも、修道女の方は、リヴィの事情を知らない訳だから、公爵令嬢がいい気になって授業をさぼっているようにしか見えない。
厳格で、本人真面目に生きて来たと思い込んでいる修道女は瞬間沸騰器と化した。
自称”愛の鞭”を天井高く捧げ持つと、ツカツカと、ぼんやりしている(ように見える)リヴィの方に歩み寄っていった。
ばあさんとは思えない鋭い動きであった。少なくとも、怒りを体現する際には、鋭敏に動ける人らしい。
そして、眠たい目をこすりながらも懸命に板書を続けようとするリヴィの頭を”愛の鞭”で思い切りぶったたいた。
「!?」
悲鳴こそ上げなかったものの、リヴィは仰天して立ち上がった。
「お座りなさい!」
まるで犬にでも命令するような口調でばあさん先生は怒鳴りつけた。
それを聞いて、女生徒達はどっと笑い崩れた。
すると、ばあさん先生はその女生徒達を睨み付け、自称”愛の鞭”を振り回した。
「シャラップ!!」
リヴィはぎょっとした。大昔の日本時代に、確かにそんな発声の仕方をする外国人がいるとネタにされていた事は聞いていたが、まさかここで聞く事になるとは思いも寄らなかった。
しかし女生徒達の方は、自分がぶったたかれてはたまったものじゃないと思ったのだろう。首を縮めて黙り込んでしまった。
「ミス・オリヴィア? 授業中に大変、優雅な時間をお過ごしのようですね?」
「いいえ、シスター・エディス?」
リヴィは引きつり笑いを浮かべながらなんとか返事を行った。向こうが優雅にとか優雅なと言われてしまうと、不思議にそれに沿った行動を取らなければいけないような気がしてくる。
「私は、大変、真面目に艱難辛苦を耐えていましたわ?」
カチンと来たシスター・エディスは、自分も負けじとリヴィに微笑みかけた。勿論、こめかみに青筋が浮かんでいるため、全然笑っているように見えないのだが。
リヴィはリヴィで、今更、引っ込みがつかずに、公爵令嬢の営業スマイルを浮かべたまんま、しずしずと椅子に座り直した。
「おやおや、公爵令嬢のあなたが、何の辛苦があると言うのです? 家に帰ったらソファに横たわって、お茶でも飲んでいるんでしょ? 何時間も」
「……」
リヴィは説明をためらった。
モンペ着て野良作業に励んでいる私の事、なんだと思ってるんだろ。
あんたの自己紹介じゃないんかい?
「いいですわねー、人生全てイージーモードの令嬢サマは。私達、神に仕える修道女の苦しみと栄光の事など何も分からないんだから! 若いうちの苦労は買ってでもしろという格言を知らないんでしょう!」
そのまま、シスター・エディスは細かい事を並べ立て始め、いかに、イージーモードの令嬢サマが気に入らないかということを説教し始めた。
(エディスってイージスとも読めるんだっけ。イージス艦はイージーが好かん……)
本当にどうでもいい駄洒落を心の中で呟きながら、リヴィは今日の悪役令嬢としての艱難辛苦のノルマをこなした。
相乗りさせられたのは笑っていた女生徒達である。授業が遅れること、遅れること。
そのぶんは自宅の予習復習で取り戻すか、あるいは、学期末の猛ラッシュで授業がめくられまくることにつきあわされるのだ。結局自分が苦労することになる。
(だから、普通に起こしてくれりゃよかったのに……)
ねちねちと嫌味な説教を受けながら、胸の中でそう呟くものの。悪役令嬢のふてぶてしさで、決してそれを口にすることはないのであった。
そんなこんなで授業が終わると、タイミングを狙いすまして、メルがリヴィの教室に飛び込んで来た。
「さあ、早く帰るわよ、オリヴィア!」
放課後に遊んでいる暇などない。
無論、遊ぶ時は遊ぶ時だが、今はそんな余裕などあるわけがなかった。
「アメリア、そんなに急がなくてもいいってば」
口ではそんな事を言いながら、リヴィは、手早く机の中のテキスト類を学院指定の鞄に突っ込み、椅子から立ち上がった。
その後、周囲の男子生徒女子生徒に、優雅な一礼を行ってにっこりと微笑みかけるリヴィとメル。
「それではみなさま、ごきげんよう」
礼儀正しくそう告げると、二人は、ほとんど走っているような早足で教室を突き抜け、学校の門をくぐり抜け、猛然とおしゃべりを開始した。
「どうだった!? 今日の魔道関係の授業!」
「どうもこうもないわよっ」
リヴィの質問にメルが答える。
「確かに、私は、魔道Sクラスだけど、あんたよりも一学年遅れているんだから! あんたが去年受けた授業の中に、使えそうなのあった!?」
「ぐう……。私、魔道関係、A止まりだったんだってば。それで、Sクラスの授業ってどんな感じなのよ」
「言った通りよ。霊素の霊の字も出てこないのよ! かわりに、心理学関係で使えそうなのがいくつかあったわ。魔道ぶっ放す時に、フロリーが動揺して逃げないように、うまいことやれるかも!」
「あ~、魔力や生命力関係に、精神状態が悪影響を及ぼしたら意味ないもんね」
ぱぱっとそんなふうに情報交換を行いながら、リヴィは今日の授業の事を思い出す。メモも板書もちゃんととっていたけれど、婦人の学問についてはどうだったっけ。
「こっちは、魔道よりも、生物と化学が面白かったわ。私の畑作業に役立ちそうなのがいくつかあった」
「農業なんてやってる場合なの!?」
「農作業は一日の遅れも許されないものなの! こっちもちゃんと結果出さないと、どこからどんなクレームつくか分からないでしょうが!」
正論に正論で返しながら、リヴィは口の中でぶつぶつと暗誦を行った。化学の方程式のおさらいである。
「それで、全体的に、授業はどんな感じよ。ステータスステータス!」
「ん~……チョンボがちょっとついちゃったんだけど」
「またかぁあああ!? お前は、またなのかぁあああああああ!!??」
絶叫するメル。
笑って誤魔化す事も出来ないリヴィ。
いずれにしろ、シスター・エディスの機嫌を損ねてしまったことを話しつつ、次のどこでどんなふうに取り返すか相談する。
こういう際には、メルが役に立つ事は必然なのであった。悪役令嬢マニアはそのへん全く隙がない。
そうして、公爵家の屋敷に着くと、二人はリヴィの自室に直行。
着替えもそこそこに、授業のテキストと付き合わせながら、せっせと霊素魔道の研究を続ける。
「フロリーに新しいクッションを上げるだけで、こんなに苦労するなんて、本人気づきもしないでしょうね」
メルがため息交じりにそう言った。
「クッション一つで国が救えるなら、それに越した事はないわよ」
リヴィは苦笑いをまじえつつもそう言って、霊素の基礎研究の方程式を簡単な呪文に置き換え置き換え、頭痛と眠気をこらえて頑張るのであった。
「リヴィ、リヴィ……メル」
そうして何時間経ったのだろうか。
夕飯の時刻になっても食堂を訪れない二人を気にして、ブライアンが妹の部屋に入ってきた。
そこでは、すっかり寝落ちしかかっている二人が、ラウンドテーブルを囲みながら、ノートにへばりついて、何事か必死に書き付けているのであった。
どっちも完全に目が据わって充血しているが、一心不乱に口の中でリズミカルに呪文を刻みつつ、懸命に研究を続けていた。
「お前達、食事ぐらいちゃんと食べなさい。後は、夜は寝るの! 若いからって無理していると、いつか、手痛いしっぺ返しが来るんだからな!」
ついついそんな説教をしながら、ブライアンは、リヴィをノートからひっぺがした。
「お兄ちゃんは心配しているんだからな? 一途に頑張るお前はとても可愛いけれど、それで体を壊したら元も子もないだろ……」
「ん……ん~?」
リヴィは、ブライアンの顔を呆然と見上げながら、やがてへなへなとその広い胸に額を押しつけるようにした。
「お兄ちゃん……私……」
「なんだよ」
「フロリーが一段落して……畑に戻ったら……今年も一番美味しいサラダ、お兄ちゃんに作ってあげるんだからね……!」
そのまんま、リヴィは、ブライアンに頭をもたせかけるようにして、立ったまま、寝落ちした。口から涎。
「……」
俺の妹は公爵令嬢としてどうかしていると思ったが、そもそも、色々な部分でどうかしているんじゃなかろうか……。
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