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5話
しおりを挟む卒業は盛大なパーティで祝われるらしい。
学園内のダンスホールに卒業生が集まり、そこで最後の交流を行うのだ。
服装は学園の制服だが、各々装飾するのは自由らしい。
僕も攻略対象者たちからそれぞれの色の宝石がついた装飾品を贈られたが、全て丁重にお断りした。
これ受け取ったらルート確定のやつだよね?
実は僕もこっそり用意した。
黒曜石のついたシンプルなタイピン。
黒髪黒目のせいで地味な色だけど、このシンプルさとコンパクトさなら受け取ってくれるかもしれない。
それを大事にポケットにしまい、僕は会場へ向かった。
「エル!」
「ルイ、遅刻するかと思ったぜ」
「ごめんごめん」
会場入りの所謂エスコートも彼に頼んだ。
いや、本当は僕がエスコートしたいんだけど。
体面ってゆうのかな…彼と僕は付き合ってるわけでもないし…。
神子である僕は王族の次に位が高いため入場は後の方。
まだ少し時間があるな。
ポケットからタイピンの入った箱を取り出す。
「あのね、エル」
「あのさ、ルイ」
同じタイミングで同じ言葉を掛け合ってしまった。
同じように手に化粧箱を持って。
「え、あ、これエルにって思って」
「お、俺も…ルイにやる」
ぎこちなく交換をする。
エルがくれた箱の中にはペリドットが嵌められたブローチ。
若葉のような明るい緑…彼の瞳の色だ。
「ありがとう、エル。すごく嬉しい」
「俺も。装飾品はあまり好きじゃねえが、これは良いな。良い色だ」
えへえへ、とだらしなく頬が緩んでしまう。
彼も優しい笑顔でタイピンを着けてくれて、その耳を少しだけ赤く染めている。
この思い出だけで一生この国を平和に出来そうなくらいだ。
でれでれしていたらいつの間にか入場の時が来ていたらしい。
さて不服ではあるがエスコートされようか、と思っていると、彼の方が僕の右側に立った。
「え?」
「…お前はそっち側がいいんだろ?俺がエスコートされてやる」
「でも…エルが笑われたりするかも…」
「気にしねえよ。俺は貴族社会に残るわけじゃねえし。それに…これも思い出だろ?」
ぎゅっと心臓を鷲掴みにされた気分だ。
どこまでも君は…。
泣きそうになるのを我慢して、僕は彼に手を差し出した。
会場へ入ると一斉に僕たちに視線が集まった。
息を呑んだような音と、ひそひそと囁く声。
その全てがどうでも良かった。
今この瞬間の僕は世界一しあわせに違いないのだから。
僕たちが歩みを止めても近づいて来る者はいなかった。
遠巻きに眺めるだけ。
ありがとう、みなの衆。
僕はエルとの時間を満喫させてもらうよ。
そう思っていたのに。
「みなの者聞いてくれ!卒業を祝う前に!裁かれるべき罪があるのだ!!!」
その時間を邪魔する者が現れた。
何か仕掛けてくるとは思っていたよ…王子様。
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