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ep.6 会長は知りたい

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「うっ…いってー……」






何だ?頭がガンガンする…





あれ?俺って何してたんだっけ…





いつの間に寝てしまっていたのか、どうやらベッドにうつ伏せで寝ているようだ…





何故か視界が揺らぐ。。









「あれ?」




いつもとは違う部屋の匂い…





しかも、柔らかいものを抱きしめている感覚…




「俺抱き枕なんかいつ買った…っけ…」






目が覚めて視界がハッキリしてきた。







「なっ!えっ??!!雪城ゆきしろ??!!!」










俺はベッドで雪城におおいかぶさっていた。




乱れた髪、軽くめくれ上がったスカート、外されたネクタイ………







俺は目のやり場に困り、慌てて雪城から退きベッドから転げ落ちた。






「ゆ、雪城?!おい!」





「あー…かいちょー…」ゴシゴシッ


雪城も寝ていたようで、寝ぼけて目を擦りながら起き上がった。






「ちょ、あの…これ、どういう状況…?」











「あぁ…会長…さっきは…凄かったですね…」



雪城は相変わらず無表情だ。









(えっと…ちょっと待って、凄いって…なにが…???!!!!!!!)








俺は叫び出したい気持ちを堪えて記憶を辿った…





















4時間前ーーーーー











ーーーー生徒会室





「もう17時か!皆帰るぞ!!」





最近日入りの時間が遅くなり、まだ明るかった為時間を忘れて各自仕事に励んでいた。





7月に入ると希望者は海外語学研修で1週間程アメリカかオーストラリアに行くことになっている。





交流内容や時間などの最終確認を行うのは生徒会と引率の教師なので、俺たちは慌ただしくしていた。













「あら、もうこんな時間なのね。迎えの者を待たせすぎましたわ。わたくしお先に失礼しますわね。ごきげんよう。」





「おう!西園寺またな!」



「西園寺さん…さようなら…」











「さてと、俺らも帰るか。」





「会長…今日…暇ですか?」





「え?ああ、特に予定は無いが…どうした?」








「会長…うちに…来てくれませんか?」






「へっ??!な、なんで?!」






「会長にしか…頼めないこと…あるんです…ダメですか…?」





「いや!全然良いぞ!暇だしな!!!」





珍しく少し上目遣いで困った顔をして来たので、思わず俺は即答してしまった。















そして言われるがまま雪城家にのこのこ着いて来たは良いものの…













「着きました…」






学園から徒歩15分くらい歩いたくらいか…?







並んだ家の中でも一際大きくかなり目立つ外観の家の前に着いた。



どうやらここが雪城の自宅らしい。









ここまで向かっている最中も、特に会話はなく、俺は無駄に緊張していた。




何で呼ばれたのかまだ謎なままだ。











「ゆ、雪城…結局俺はなんで家に呼ばれたんだ?」




「家…入れば分かります…手取り足取り…教えて欲しい…」





「っ??!」






(ててて、手取り足取り??!!!)





絶対無いとは分かっていても俺は在らぬ妄想をしてしまう。。





(な、無い無い!あの雪城だぞ!俺の事毛嫌いしてるし何考えてるか分からないし…)









ガチャッ





俺は期待と疑問を両方抱きながら玄関に足を踏み入れた。










「お邪魔しま…」「あーーーっ!!!君が噂の会長くんだね★うんうんっイケメン!!」




突然リビングの扉が開き、中から雪城のお姉さん?らしき人が飛び出してきた。






「あ、こ、こんにちは。突然お邪魔してしまいすみません。雪城さんと同じ生徒会役員の成瀬ヒトミと申します。お姉さん…ですか??」




かなりの美人で、雪城に何処と無く似ている。




「やーだもうっお姉さんだなんて♡ミツのママです♡」



「え?!そ、そうなんですか?!俺てっきり…」


「嬉しいな~ありがとうね♡」



そう言うと雪城の母親は俺の腕に手をまわす。



「ちょ!えっと…!」



胸が当たりそうになり肩に力が入る。






「…ママ。やり過ぎ…。会長…困ってる…」




「あらっごっめーん!反応が可愛いから、つい、ね♡」





雪城とは打って変わってかなり明るい人のようだ。





「ささ、とりあえず入って入って!お茶の用意するから座って待っててね♡」







リビングに移動し、ソファーに腰掛ける。



「はあ…」



緊張しながら家まで向かっていたのと、突然雪城の母親に会ったことでどっと疲れ、無意識にため息が出た。








「会長…ごめんなさい。ママ…かなり自由人…」


雪城はまた表情を崩し、困った顔をした。




普段表情を崩す時は、軽蔑した目で見てくる時くらいだからか、困った顔や悲しい顔をされるのに俺はかなり弱いらしい。。




「あー、いいよいいよ!びっくりしたけど!明るくて綺麗なお母さんだな。」





「私と…全然違います。私はパパ似なので…」





「雪城のお父さんは寡黙かもくな感じなのか?」




「パパは学者で…忙しいからあんまり会えない…けど…ママの尻に敷かれてるのは確か…です」





何となく想像出来て、会ったこともない雪城父に対して同情の気持ちが沸いた。。








「おっまたせ~!コーヒー飲める?会長くんはお砂糖入れる派?ブラック派?」



「あ、はい飲めます!甘いのでもブラックでもどちらでも大丈夫です!」



「両方イケるなんて、会長くんは浮気性かなあ~??」



「…ママ、五月蝿い。」





はは…っと軽く笑ったが、どうも雪城母のテンポが掴めない。。。







「…あ、で、僕が呼ばれた理由は何ですか??」




ふと本題を思い出し口にした。

この様子じゃきっと俺を家に呼ぶように頼んだのはこの母親だろう。








「あ!そうそう!あのね、私雑誌の編集長してるんだけどね、、雑誌何種類も担当してて…の中にティーン向けの雑誌もあるんだけど。。。」




そう言えば以前、雪城の母は編集長だと言っていたな。

あの…例の雑誌事件の時に。。。







「記者の子達にね、今時男子高校生の本音っていうアンケートを街で取らせたんだけど、なーんか作り話っぽい、いい子ちゃんな話ししか取材出来てなくて。。聞いてみれば、カップルにばっか声を掛けたって言うじゃない?そんなもん彼女の前で本当の数なんか言う訳ねーだろこのスットコドッコイ!!!もっと飢えた目つきをした奴を狙ってこい!!!!!って叱ったんだけどさー。」



突然声色が変わって驚いた。


普段ニコニコしている分、怒ると怖いタイプの人だ…









「そしたら、編集長もたまには現場の声届けて下さいよ~、なんて泣かれちゃってー。カチーンってなったけど、まあ確かに普段私がひとつの雑誌の一コマくらいの細部に関与することってないから、だったら私もリアル高校生の話し聞いてきてやるわよ!!!って言っちゃって。。」




「でも…ママ…男子高校生なんて周りにいない…」





「そうなのよー!!!!!!!うち光兎みつの上にお姉ちゃんいるだけで、男の子いないし、光兎は彼氏いないって言うし…誰でも良いから身近な男子高校生連れてきて!!!ってお願いしちゃって★」






なるほど…
それで俺が呼ばれたのか…





「ママ…お願いと言うより…泣き落としだった…」





この様子を見ると普段からこんな感じらしい。。

母親といる雪城は、やはり気が抜けるのかいつもより表情がコロコロ変わるように感じた。



(もの凄く微量だけどな!!!)









「えーっと…男子高校生ってところは当てはまるんですけど…僕そんな頼りにならないと思いま」「だあーーーーいじょうぶ!!!簡単なことしか聞かないから★」




「雪城くんって経験人数何人?付き合った人数は?対象は男性?女性?それとも両方イケちゃう口???」






「………。」







(えー!!!!!!!!!!)






こ、これ…本当に答えないとダメか…?





助け舟を出すようにチラッと雪城を見た。
…が、何故かいつになくキラキラした目でこちらを見ている。




どうやら雪城も俺の恋愛事情が気になるらしい。


普段生徒会でこういった話しをしないからだろう…きっと面白半分に聞いているに違いない。








ここは素直に童貞と話すべきか…


高2で童貞はおかしいのか…?普通か…?


いや、1人くらいはいないと今時DKとしてまずいのか?!


でも普段嘘なんて付かないからすぐに見破られそうだし…






だからってDTなんて学校で広まったら、、、



『会長DTなんだって!』
『え!あの会長が?!』
『うわなんか俺裏切られた気分だわ』
『モテるくせに未経験とか難ありなんじゃない?』

『『『ひくわーーーーー』』』









うおおおおーーーー!!!!!!







絶対DTということは伏せておかなくては。。





だがしかし…一般男子高校生の経験人数が分からない。。。

1人なら踏み入った話しをする奴はいるが…果たしてそれが普通かが分からない…




あーっくそっ!!!!!



今世のDKは!!!今時のヤリラフィーは!!!何処までたしなんでいるんだ??!!!!いとわろし!!!!!!!((錯乱))










「会長…???」




俺の様子を見兼ねて雪城が心配そうに声を掛けてきた。














「…5人です。今彼女はいません。」




結局俺は嘘をついた。



でもなるべく信憑性のある嘘を…








「あら!意外といるわね!会長くんはモテそうだけど意外とピュアな子かと思ってたわ★元気があっていいわねー★」




「そ、そうですかね?普通だと思いますけど…」





「で、元カノちゃんたちはどんな子だったのー?!!やっぱりタイプは可愛い子?」





「あ、えーっと…元カノは、、金髪で結構派手な感じでした。んー…みんな共通して言えるのは、、顔が整っていて、どっちかと言うと綺麗系で、みんなむ…す、スタイルがいいです。」



「へー!会長くんは見た目重視なのかな?」




「…はあ…」




俺は苦笑いでなんとか誤魔化す。。。





少し罪悪感にむしばまれながら、 雪城の顔を見ると、何故か食いつくこともなくいつもの覇気のない無表情に戻っていた。







「で、初めては何処?まさか公園とか?!」




「お、僕の家です!!!」



「ふーん、案外普通ねー。高校生ならもっと!こう!エキサイティングに!アクロバティックに!全力投球してるかと思ったのにー★」






なんだそれ!!!!!







「ちなみに、最後の子とは何で別れちゃったの?!!やっぱり一瞬の気の迷い?!寝取られ?!宣戦布告なの??!」





…この人は本当に何を言ってるんだ…






「えっと、、僕も相手も忙しくて、あんまり会えなくて自然消滅…みたいな…」




「なるほどー、1番よくあるパターンよね、じゃあ次は…」「…ママ!もう良いでしょ…?会長から色々聞けた…」




「んー、そうね。まあリアルな人数聞けたし、尋問はこの辺にしとこうかな★協力ありがとうね★」



雪城母は少し納得いかないような顔をしていたが、ぐったりしている様子の俺を見て、諦めてくれたようだ。







「ねー会長くん!今日うちお姉ちゃんもサークル活動?とかいうので帰ってこないし、良かったら一緒に夕食食べない?今日は珍しく午後休取れたから、夕飯作って待ってたのよ~★まさか光兎が本当に男の子連れてくると思わなかったけど★」






「もう…ママが言ったんじゃない…」





「えっと…」



夕飯か…正直もう帰りたい気持ちでいっぱいなんだが…




「えー!!!食べてってくれないの?!光兎はあんまりお友達連れて来ないから、ママもっと会長くんとお話ししたいわあ~!!!」





流石は親子。

どうやら雪城母の悲しそうな顔にも俺は弱いらしい………








「あ、じゃあいただきます。」




「会長…いいんですか…?」





「ああ、うちも今日母さんたちは外食してくるって言ってたから、適当に1人で済まそうと思ってたし、逆に助かるよ。」





「そう…ですか…」




ほっとした様な雪城の顔を見て、何故か食べていくことにして良かったな、と心から思った。









「さーて、今日はコトコト煮込んだビーフシチューと、コロッケ、和風サラダよー★」





「うわっ美味そう!いただきます!」




ドンッと並べられた料理たちは彩り鮮やかで、流石雑誌で色んな物を見て来てるだけあるなーとその出来栄えに圧巻された。





疲れていたので料理が体に染み渡る…美味い。






「ママ…こんなんだけど…料理上手です…でもたまにおっちょこちょいだけど…」





「本当に美味い!全部美味いけど、このサラダ、和っぽい感じもして今までに無い味だ!」




「ふふふー★会長くんは上手ねぇ★このサラダはうちの雑誌でよく取材に行く料理人さんが教えてくれたのよ~!醤油とみりんを入れるのがミソ★」






「ママ…今日みりんの味強い…。ちゃんと火にかけてお酒飛ばした…?」




「え?あ!そのまま入れちゃった★」



「みりん…14度くらいあって普通にお酒…。まあこれくらいなら…良いけど…」











「ふあっ???」






突然視界が揺らぐ。






「会長…??」





「これ、、おしゃけ…はいってりゅ???」



段々回らなくなる呂律で必死に話す…






「おれ…おしゃけ…のめにゃい…」







バタッッ





「会長…??!」「会長くん!!!!」











俺はその場で意識を失った。






























と、ここまでは記憶があるんだが…







「俺って、倒れた後どうしたんだ…?」






「本当に…何も…覚えてないんですか…?」






「ああ…何も…。俺何か変なことしたのか…?!」






もしかして雪城を押し倒したり、嫌がるようなことをしたんじゃないか…不安が込み上げ冷や汗が出た。








「倒れて…ママと起こそうとしたら…会長いきなり起き上がって…。もっとサラダ食べる…って全部食べちゃって……」









話しを要約すると、、



酔った俺は残りのサラダも全部平らげ、更にベロベロになり、いつもより饒舌じょうぜつに色々話し出したらしく…


それを見た雪城母は、私も飲むー!とワイン1本1人で飲み干したらしい。。




それで、俺と肩を組み大はしゃぎ…


雪城のいい所を2人で語り合いだし、終いには雪城母はソファーで熟睡。


俺はベッドで寝る…と駄々をこね…


雪城に支えられながら雪城の部屋に向かい、ベッドに着いた瞬間、雪城ごと倒れ込みそのまま眠りこけ、必死に動かそうとしたが重くて動かせず、結局雪城も眠ってしまったらしい。。。



ちなみに、ネクタイは苦しくて雪城自身で外したそうだ…。
















うあーーーー最悪だ…!!!!!!






「す、すまない!!!!!!本当に悪かった!!!!!そんなに迷惑をかけたなんて…嫌われて当然だ…!!!怒ってくれて構わない!!!」







俺は家族の中で誰よりもアルコールに弱い。。



お酒入のチョコレートボンボンでも泥酔出来るレベルに…



家族が仕切りに俺にだけはアルコールの入ったものを与えないようにしていたのはこういうことが…


いやに納得できた…。









「会長…別に私…怒ってません…」







「ほ、ほんとうか?!」


でも嫌われて当然…ってところは否定しないのか…やっぱり、雪城の中でもっと株を下げてしまったに違いない…







「はい…私も寝ちゃいましたし…面白いものが見れたので…良いです。」






無表情でそう言った彼女からは、確実に俺に対し会長としての威厳がすり減っているのを感じた…










「それにしても、俺、雪城のことなんて言ってたんだ?!」







「別に…仕事が早い…とか。丁寧…とか。勉強も出来て…スポーツも出来る凄い奴…とか。。」




「俺、そんな事言ってたんだな。」




確かに普段から彼女のことを高く評価していたが。
いざ、口に出して本人に伝えていたかと思うとかなり恥ずかしい。。。







「あ…それと…」





まだ何かあるのか?!!





「それと…?!!」
















「…なんでもないです」フフッ






「…!」







また雪城は笑顔を見せた。


遠慮気味に、でも前回よりももっと屈託くったくのない笑顔だった。






そんな笑顔を見て、動揺を隠せるはずがない。


何故か自分の頬が赤くなっていくのを感じた。














ふと、我に返る。






「え、で!それと、なんだ?!」






「本当に…なんでもないです…」




また雪城は無表情に戻ってしまった。



















何があったのか全く思い出せず…
雪城の意味深な言葉を胸に抱きモヤモヤしながら俺は家を出た。






道が分かる所まで雪城が見送ってくれた。






「あ…会長…もう1つ言い忘れてました。」





「え、ま、まだ何かあるのか?!」






「経験人数とかの…質問…。黒木くんの話し…するのはダメですよ。」





ドキッ


「え、な、なんのことだ?」





「会長…嘘下手くそです…。黒木くん…生徒会室来る度に…自分の恋バナ…ずっとしてます…。」





そう、俺はあの時、咄嗟に黒木の話しをしたのだ。




嘘だけど、丸っきり嘘ではない…信憑性のある嘘…





黒木は唯一心の許せる友人で、俺から聞くことはないが、いつも一方的に彼女の話しやら過去の話しやらしてくる。


俺はそれを雪城母に自分のことのように話したのだ。





考えてみれば、黒木とはクラスが違い、話しをするのはいつも生徒会室だったので、雪城もその話しを知っていて当然だ。





考えれば分かることなのに…頭が回らなかった自分が恥ずかしくこの場からすぐ立ち去りたい気持ちに駆られた。








「…で、会長は…何人ですか…?」




「へ?」





「経験人数…です…もしかして…黒木くんより多い…?」





「はっんな訳ないだろ!俺はキスすらしたことな…」ハッ






俺のバカ!!!!

こんなんDTですって公言しているようなものじゃないか…








「へぇ…会長…付き合ったことないんですか…」



「ああ!そうだよ!悪いか!!!!」



俺はヤケになり、もうどうにでもなれ!と、空を見上げた。








「いえ…良かった…です。ちなみに…私も…付き合ったことない…です。」








「…え?!」



こんなに綺麗な雪城が付き合ったこともないって…本当か…?




俺を気遣ってるだけなんじゃないか…?





半信半疑で伺う…









「あ…でも…寝たことはあります。」







は??!

付き合ったことはないのに寝たやったことはあるだと??!!!!









まさか雪城…




こんな大人しい見た目して…意外とビッチなのか??!!!!














更に俺は困惑し、雪城と分かれてからもずっと醜態しゅうたいを晒してしまったことへの羞恥心と、雪城の意外な一面に悶々とし、結局一睡も出来なかった。。



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