ひーくんは今日も気づかない

宇治ノ宮レルフィ

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ep.8 決してやましくはない!

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ーーーー校門前




バチンッ


「よしっ!」





今日も自分に喝を入れる。


もちろんまだ生徒は誰も来ていない。





いつもの日課を済ませ、今日も平和に1日が終わりそうだ、と校門に足を踏み入れようとした時ーーー





バシッ

「おっす成瀬!」


「うわっ!!!」


咄嗟に腕を強い力で掴まれ、片足を上げていたので余計バランスを崩し、俺は一瞬何が起こったのか分からないまま、転倒しそうになり思わず目を瞑る。







ドシンッッッ


「あっぶねー!!」



次に目を開けると、俺は男子生徒の胸に顔を埋め、覆い被さるようにその場に倒れていた。



…顔は見えていないが誰だかすぐに分かる。





「おい…黒木…」



睨みを利かせ顔を上げると、へへっと生意気な顔で黒木が笑った。




どうやら黒木が俺を庇って下敷きになってくれたようだが、元はと言えばこいつが急に引っ張って来たのが悪い。


「いい眺めだな。」



俺はまたがるようにして黒木の腰辺りに馬乗りになった。





「いや、ちょっと成瀬さん?パッと見まずい格好ですよ、僕達…」





確かに傍から見たら喧嘩してるのかイチャついてるのか分からない体勢だったが、こんな早朝に誰もいるはずがないので気にならなかった。





「そんなことより、お前、帰ってくんの遅すぎだろ!!!」



バシッ


軽く頭を叩くと、黒木は「痛い~!!」と大袈裟にジタバタした。




「お前、俺を生徒会長にしておいて、すぐ渡米しやがって!!!書記の仕事もたまって他の奴らもピリピリするわで大変だったんだからな!!!」



もう一発頭を叩く。


「ごめんって!!!てか成瀬さん、このまま続くんすか?!!」



わざとらしい敬語が余計に気に触る。



まあでもずっとこのままでいると他生徒が登校して来たら誤解を生むかもしれないので、とりあえず上から降りることにした。





「お前相変わらず容赦無さすぎー!!久しぶりに会った親友にこんな態度しちゃダメだろ~?」



親友、という言葉に不本意にも多少ニヤつきながら「とりあえず生徒会室に行こう」と二人で歩き出した。









ーーーー生徒会室







「うっあー!ひっさしぶりの俺の城★」


本当に調子の良い奴だ。城と言っても書記に任命されてから数度しか来てないだろうが。





「はあ。そんなことより、お前の仕事そこにたまってるからな。」



「うぐぁっ!酷いっ!こんなに俺に押し付けて…!」



黒木は泣きそうな顔で俺を見たが、「自業自得」と跳ね除けると、しぶしぶ書類を整理しだした。





むしろ溜まった仕事がこれだけで済んでいるのはみんなで分担してこなしていたお陰だ。







ガラッ



「あ…黒木…くん?」




しばらくして雪城が生徒会室に来た。


朝が弱い雪城だが、黒木が帰って来ると聞いていつもより早く家を出たんだろう。




最初は久しぶりで戸惑った顔をしていたが、すぐにムスッとした顔に変わった。




無理もない、黒木の仕事のほとんどを担っていたのは雪城だ。






「黒木、お前雪城に感謝しろよ!ほとんど雪城がお前の尻拭いしたんだからな!」




「わ!!マジか!ごめんユッキー!」

両手を合わせ片目を瞑り舌を出し謝罪した黒木を、雪城は盛大に無視した。






ガラッ



「皆さん、ごきげんよう。」





次は西園寺が何やら荷物を持って入ってきた。



「おっはーユカリンリン♪その荷物なあにー?」



「リンリ…ゴホンッ!黒木さんが帰省なさると伺って、きっと皆さん早めにご登校なされると思いティーセットをお持ちしましたのよ。」




「うお~っ!相変わらずリンリン出来る女~♪」



冷めた目で黒木を見ると、西園寺は手馴れた手つきで生徒会室に常備してあるティーカップに持ってきた茶葉を入れ、お茶菓子を盛り付けた。









ガラッ




「ん~!紅茶のいい匂い~!ひーくんと仲間たちおっはー★」



次は上機嫌な夏葵が軽快にドアを開け入ってきた。




「わーお!ナッツー久しぶりじゃん!相変わらず元気が取り柄みたいな顔してるね~」



黒木が皆同様謎のあだ名?で挨拶するが、夏葵に対してだけは何処と無く嫌味に聞こえる。




「は?折角来てあげたのになんで嫌味言われないといけない訳?」

「相変わらずナッツーは運動は出来てもおツムは弱いのかな?自分の胸に手を当ててよーく考えてみたらどう?」

「まーーーったく何も思い当たらないし、字しか書けない奴に言われたくないし!」




「ちょ、お前らいい加減にしろよ!ていうかそんなこと言い合う関係だったっけ?!」


俺が間に入ると「「別に!」」と二人揃って俺を牽制したが、それがまた同時だったので更にいがみ合っていた。








ガラッ


「あれ?何の騒ぎ??」



騒ぎを聞きつけてか、元々寄る予定だったのか桐生が心配そうに入ってきた。





「あ、愛未ちゃーん!おはようっ何でもないよ~!」



今まで夏葵と掴み合う勢いだったのに、桐生が入ってきた途端、黒木はコロッと態度を変えてニコニコしだした。





「はあ?さっきまでおツ…」ガバッ「んんー!!」



夏葵の口を掌で抑えると黒木はまたニコニコした。





仲がいいのか悪いのか…。






「はあ、全く。皆さんお茶の用意が出来ましたわ。冷める前に頂きましょう。」



「わーいっ朝ごはん食べてないからお腹ペコペコ~♪」

「あれ?ユカリン、私の分まで用意してくれてたの?」


「今日黒木さんが戻られると伺った時に、どうせ皆さんいらっしゃると思いましたので…」


西園寺は呆れたような顔で人数分のティーカップにお茶を注いでいたが、心做しか楽しそうにも見えた。





皆で席に着きお茶を頂く。


西園寺は生徒会室に来ると必ずコーヒーか紅茶を入れてくれる。


俺はどちらも好きだが、西園寺は俺のその日の気分が分かるようで、日替わりで出してくれるので「なんで?」と聞くと、疲れていたり機嫌が良さそうだったり、表情を見てその日の気分が分かるらしい。


表情一つで人の心理まで見抜けるとは、流石は学園の跡取り。人の上に立つ英才教育が行き届いているのだろう。本物のお嬢様は凄いな。







「はーっ相変わらずリンリンのお茶は絶品だね~★」


「黒木さんは相変わらずお上手ですわね。」



ツンっとした顔で言い放ったが、案外満更でもない顔をしているのが憎めない。




「いや、ほんとほんと!俺世界各国回ってるけど、リンリンが入れてくれるお茶が世界一美味しいよ~!!」



「まあ!そんな軽率な言動と態度ですから、周りに勘違いされて色恋沙汰が止まないのではなくて?」



「わー!相変わらず的確で心に来るなー!」



黒木はハハッと笑ったが、実際西園寺が言うことは当たっていて、生徒会発足後しばらくは女生徒が黒木に差し入れやら、次は私と遊ぶ番だとかでよく揉めていた。



黒木に「いい加減にしろ!」とは言ったが、「友達沢山!楽しい方がいいじゃん?」としか言わず相変わらず態度は改めないので手に負えないでいる。







「ふんっチャラ男!」

「黒木くん…相変わらずなんだね。」



蔑んだ顔で見下げる夏葵と、苦笑いをする桐生が黒木の素行の悪さを物語っている。





「いやいや!勘違いしてもらっちゃー困る!確かに俺は女の子の友達多いし遊びに行ったりするけどさ!嫌がるような事はしないし、何って、心は愛未ちゃん一筋なんだよ~?」




そう、黒木はこんなんだが、、実はずっと桐生のことが好きらしい。


とは言っても、いつもふざけたトーンで言うので本当かどうかは怪しいが…


何かと桐生のことを気にかけていて、アタックもするものの玉砕、のパターンがここの所当たり前の光景になっている。





「んー、黒木くんいつもそう言ってくれるけどさ、私、真剣な気持ち意外興味無いんだよね。」



「うわ!愛未ちゃん今日もスパッとぶった切って来るねー!!でも、それは本当に俺が浮ついた気持ちでいるから?それとも問題は気持ちとか以前にじゃ及びじゃないのかな?」



「なっ!べ、別にそういうんじゃないよ!!」



桐生は突然立ち上がり手をブンブン振り回し全否定した。


そんなに黒木の告白が嫌なのか?




「…みんな、お茶冷めちゃいますよ…?」


雪城の言葉で桐生は我に返ったのか慌てて席に着く。





「はー、めんどくさ。」

夏葵が周りを見渡し、ため息をついた。





「そういうナッツーも、相変わらず面倒臭い立ち回りばっかしてるね。」



「はあ??!!あんたに何が分かる訳?!」


今度は夏葵と黒木がいがみ合う。



犬猿の仲とは正にこの事だ…







「ちょっとお前らいい加減にしろって!黒木も帰国したばっかで、久しぶりなんだから、もっと他に話すことあるだろ!」



「…。成瀬も相変わらずだなー。」


黒木は不敵な笑みを浮かべて俺を見据えた。


ふざけた言い方だが、言葉に棘を感じる。




「え?」


「んーん!別に!生徒会が相変わらずで俺は嬉しいですよっと♪さーてと、そろそろ教室戻らないとまずいんじゃない?」





時計を見ると、ホームルームまで残り10分を切っていた。




何やら言いたげな夏葵を他所に、みんな片付けて各々教室に向かった。




今年も黒木とクラスが同じなので、夏葵も一緒に3人でクラスに入っていくと、あっという間に黒木の周りは人でいっぱいになった。




黒木はクラスの人気者だ。


毎回この光景を見る度に、黒木が生徒会長だった方が良かったんじゃないかと胸が痛くなる。







ホームルームが終わり、授業も終わり、、あっという間に昼休みになった。





黒木は相変わらずクラスメイトたちに囲まれていたので、1人で生徒会室に向かう。





すると、生徒会室の前に見知らぬ女生徒が立っていた。







「会長~待ってましたぁ~!!」


ほんわか話してくる女生徒はネクタイの色を見るとどうやら同じ学年らしい。


「何か俺に用か?」


俺はコミュ障を悟られまいと必死に口を開いたが、いつもツンとした言い方をしてしまうので自責の念にかられる。





「あ、まず自己紹介でしたね~。私、新聞部部長のすめらぎ 未来みくと言います。いきなりで失礼ですが…取材させて頂けますかぁ~?」


「取材?発足した時に君のとこの前部長が取材に来て、もう話すことは何もないはずだが?」



うちの新聞部は伝統を重んじていて、生徒会役員や部長などの後任が決まった後でも、新生徒会メンバーの記事だけは新聞部の前部長やメンバーが書いて幕を閉じるという決まりがある。


なので、皇に会うのは初めてなのだが…こんな中途半端な時期に取材とは、一体何でだろうか?




「単刀直入に言い過ぎましたね~。えっと、今朝の件でお聞きしたいことがあったんですぅ~。」



スッと渡してきた写真を受け取り目を向ける。






「…?!これは??!!!」



そこには今朝のことであろう、俺が黒木に馬乗りになっている光景がバッチリと写っていた。


しかも、撮ったアングルのせいか、絶妙な位置に馬乗りになり、何やら微笑み合っているようにも見える…





「ふふふ…生徒会長…黒木さんとデキてるんですか?」


今までふわふわした雰囲気しか出ていなかったのに、皇はペンと紙を取り出し何やら黒い笑みを浮かべた。








…思い出した!!!


皇 未来!!

あの皇出版の次女で母は出版社のやり手女社長、父は敏腕ジャーナリストで、数多の有名人や政治家など著名人を闇に葬り去ったという、ゴシップの悪魔と言われる一族だ!!!!


この学園に娘が来ているとは聞いていたが、まさかこんな形で弱みを握られるとは…




俺は何と返せばいいか分からず口を噤む。


いや、決してやましいことはしてないので、本当のことを言えば良いのだが…


下手な言い方をして明日の学園新聞に醜態を晒す訳にはいかない…





しばらく沈黙が続く…





すると、「ん?何だこれ?」とどこからとも無く現れた黒木が、俺の手から写真を奪った。





「…ぶはっ何これ傑作!!」パシャッ




「ちょっと!黒木書記!!大切なネタを勝手に撮らないでくれますか?!!」



「ふーん、これが大切な…ねー。」



すると黒木はスマホを片手に何やら文字を打ち出した。



「はい!これでもうネタは俺のものだよ★」



黒木は満面の笑みで皇にスマホを向ける。


慌てて画面を覗き込むと、黒木のSNSらしきアカウントに、今撮った俺と黒木の怪しい写真が載せられている。



「おい!黒木何してんだよ!」


自ら載せるバカがいるか!と俺は黒木を睨みつけた。



「成瀬怖いって!ほら、文面よく見て?」



写真と共に載っている文を見ると、『帰国後成瀬に技かけたら返り討ちにあった★寝技かけられた後を激写★ #男の友情 #次は女の子希望』と書いてあった。





確かに先にこれを載せられては、新聞部も上手くネタとして取り上げられない。



「…っく!これは…もうネタとしては死にましたね~。」





「せっかくお2人のイチャラブ記事が書けると意気込んでいたのに…」

皇はポソッと呟くとその場を去った。






「はー、びっくりした。。。」



俺は変な緊張感から脱した安堵で黒木にもたれかかった。





「成瀬さーん?そういうことしてるとまたネタにされちゃいますよ?」


「うっせーな!お前とくっつけられてたまるかよ!」


「相変わらず俺には当たりが強いなー、成瀬さんは。これくらいみんなにも砕けて話せば良いのにさ。」



「馬鹿言うなよ、俺のダメなとこ全部知ってんのはお前くらいで十分だよ。」



「…。はー、言う相手間違えてるって。今の録音しとけばなー。」



「?ほんとに馬鹿なんか?」



黒木の言い方に少し疑問を抱きながら、生徒会室で黒木と昼食を済ませ、教室に戻る。











ーーーー教室



ガラッ





教室に戻ると、何やらクラスメイトたちがスマホと俺たちを見て騒いでいた。




黒木が「何何~?」と、ふざけてクラスメイトのスマホを奪った。

俺も無意識に近付いて覗き込む。



すると、、



『俺のダメなとこ全部知ってんのはお前くらいで十分だよ。』

大音量でさっき黒木に行ったセリフが流れ、画面には黒木にもたれかかった俺の姿が映っていた。

しかも、この動画だと黒木に抱きついているようにも見える…


それに、このセリフを聞いただけでは、本当に黒木とデキているようにしか見えない…




どうやら身元不明のSNSのアカウントが生徒たちの間にリンクを広めたらしい。



動画は隠し撮り…みたいだが、あの時周りには誰もいなかったはず…




ハッ!と顔を上げ、黒木と顔を見合わせる。






『す~め~ら~ぎ~!!!』


声には出さなかったがきっと2人とも同じことを考えていたに違いない。





咄嗟に黒木は、先程同様、「男の友情だって~」と取り繕いその場を収めたが、一部女子生徒たちはざわついたままだった。









「…?」



ふと視線を感じ後ろを振り返る。




すると皇がドアからこちらをこっそり眺めていた。






俺が近付いていくと皇は「大スクープを得るにはまず受け入れてもらえる環境作りからが鉄則なんですぅ~」と、満足気な顔をしてその場を立ち去った。








はあ…と息を吐いて席に着く。


今度は背中に悪寒を感じ振り返る。



すると、3列ほど斜め後ろの席の夏葵が、穴が開くほど俺を睨んでいた。






一瞬、ゾゾッと鳥肌が立ったが、目が合った瞬間夏葵は「ふん!」とそっぽを向いたので、俺は無かったことにし、教師が来るのを今か今かと待ち望んだ。





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