国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

文字の大きさ
5 / 87

腹心のフーシン

しおりを挟む
「皇太子殿下の用向きで出かける。」
側小姓のフーシンにそう告げると、フーシンは直ぐに自身も共に行くと言い出した。

同じ歳のフーシンがジンシの側に付いて既に8年、供というよりは友に近い。
どこに行くのにも何をするのでも常にジンシの側でジンシを支えてくれる、かけがえのない者だ。
共に手習いをして、共に剣術に励んで。
今回は久しぶりの別行動という事になる。

「お一人で行く先も告げられずに出掛けるなんて、あり得ません。」
通常ならばフーシンの言葉は最もだ。
しかしこの度はそうはいかない。

「フーシンならそう言うと思ったが、でもフェイ殿下の命だ。」
「…殿下といえど伴もなしとはあんまりです!どうかご自身のお立場を…。」
「口説い!」

つい声を荒げてみても全く持ってフーシンは動じない。
あまり感情の揺れがないジンシではあるが、全くない訳ではない。
その感情の全てをフーシンは易々と飲み込んでくれるが、時々このように頑なになる事もある。
主の顔色を伺うようでは側小姓は務まらない事をフーシンは先輩小姓から徹底的に叩き込まれたらしい。

フーシンが自分を案じてくれるのはありがたいが、全くどうしたら諦めてくれるのであろうか…。

ジンシは臣下達の中に少数ではあるが、次期帝にはジンシがなるべきだと思っている者がいることを知っている。
だからこそ兄の腹心の中ではジンシの存在は具合の悪いものになっていることも知っている。

ジンシが兄を押し退けて帝の地位を欲してなんかいない事は、フーシンだけでなく、ジンシの腹心達は良くわかってくれている。
しかし兄や兄の陣営にはそれがなかなか伝わらないでいる。

いつか皇太子派の者達から何か悪しきことをされるのではないか、と疑心暗鬼なのだ。

また帝になりたいというのと、帝が務まるという事は別次元の話でもある、と中立の臣下達は口さがない。
それが更に兄達を疑心暗鬼へと落としていくだけだというのに…。

皇位継承の放棄はまだ出来ないでいる。
一回父に申し出てみたが、しばらく待てと言われてしまった。

既に正室を娶り、幾人かの側女を従えて、奥の宮を持つ兄ではあるが、まだ子はいない。
子さえ出来たなら、ジンシは再び継承放棄を願い出るつもりだ。

「…案ずるな。たださるところへ行って荷をお渡ししてくるだけだ。夜には戻る。」

まだ不満げにこちらを睨むフーシンを安心させようと、大したことがないと思ってもらえるように言ったのに…。

とうとうジンシは困り果てて、
「フーシンとフェイ殿下と、どちらの言いつけを守るべきなのだろう…なぁ。」
と言うしかなかった。

狡いな、と苦笑するしかない。
フーシンが皇太子の言を覆せる筈も無いのに。

それでもフーシンは
「皇太子といえど、この度の命はいささかやり過ぎです!替のいない皇子に忍びでの密命等、あり得ません!」
と苛立った。

まずい…。これ以上興奮されるとまずい。
誰かの耳に入れば、フーシンに不敬の咎が向いてもおかしくない。

「悪いが、引いてくれないか。私は兄に忠義を示したい。」
と頭を下げて、ようやくフーシンを黙らせることに成功する事が出来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...