国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

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フェイの告白

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「どこから知りたい?」
「最初から。」
「…長くなるぞ。」
「構いません。」

なんでこうなったのか、俺は知りたかった。

「フキは俺を郭公の子と揶揄した。」
「郭公?」
「そうだ。」

郭公は托卵をする鳥のひとつだ。ほかの鳥の巣に卵を産んで、ほかの鳥に雛を育てさせる。…ということは?

「そうだ。俺は帝の子じゃない。
その事を知ってから、俺は帝がいつ俺を切り捨てるのか、怖くなった。
切り捨てられないように顔色を伺い、様々な事を身につけて。それでも不安が消えなくて、どこまで俺に与えてくれるかを確かめなくなった。」

フェイがなんでも欲しがる理由…それを聞いてなんだか胸が痛くなる。

「アナンは俺を皇子とするのと引き換えにお飾りの妃にされた。まあ殺されても文句が言えない立場だったから、ある意味温情ある措置かもしれない。

宮に囚われたアナンは更に色事と遊興に耽るようになって、自堕落な生活を狂ったように送っていった。
俺は2歳になる前に母から離されて宮から出された。」
「えっ!2歳?」
これにはリーエンも流石に驚いた。

「それが当たり前だと思っていたけれど、違った。
お前は母といるのになんで俺だけ?と思ったよ。だから乳母に隠れてアナンの宮に行った事がある。まるで地獄絵図だったよ。
たくさんの男と女が酒を飲みながら交わっていた。」

「…見たのか。」
「ああ見たよ。6歳の時だ。」
「その時全てを聞かされた。そこにいた宰相に。」

「宰相?」
「…ああ。だけじゃない。大夫も正殿の長も母を警護していた朱雀の将も。
まだ俺は帝がその事を知らない、と聞かされた。
バレたらお前は身分を偽った罪人だ、だから騙し通せ、そのために協力してやる、そう言われたんだ。
だからそれから俺は奴らの操り人形にされた。」

「俺を通して欲しいものはなんでも手に入れるようになった。やりたい事はなんでも好きなようにやった。
俺はさぞ我儘で金の掛かる皇子だったと思う。
けれど帝は黙って俺にそれらを与え続けた。

リーエンの先読みで帝は国を割らないように、常に俺に気を遣っていた。
先読みに帝が怯えていたのは確かだ。

愚かだよな。どこかで正せば良かったんだ。お前に国はやらん、と放り出してくれていたら良かったんだ。

俺を真っ直ぐに見てくれていたのはハンジュ様だけだった。
貴方はジンシが守ってくれる、だから安心して良いのよ、と。

俺がねだったら笛をくれる約束までしてくれたのに、お前に新しい笛を与えるよりも前にハンジュ様は亡くなってしまった。
そしてまた俺は独りになった。

俺の周りにいたのはフェイなんかに用はない、あいつらに必要だったのは金と力を引き出せる「皇子」の存在だった。

次第に奴らは皇太子の権力まで欲しがった。
さすがにそれだけは与えられはしない…と思ったが、帝はそれさえも俺に与えてしまった。
その時に悟った。帝は俺を本当に息子として愛してくれていた、と。

でももう遅かった。俺が愚かだったせいで、もう後戻りは出来なくなっていた。
終わりかたがわからなくなってしまっていた。」

「帝が与えてくれたもの、それらは全部奴らに取られた。たったひとつを除いて。」

ひとつ…だけ?

それはリーエンが言い当てた。
「…シオン、ね。」
「ほお、気付いたか。」
「山荘に残されていた馬、エンよ。」
「エン?あれがシオン?」
エンなら知っている。リーエンが乗っていた、良い馬だった。
「ええ、少し癖があるけど、いい子よ。」

「ああ、良い馬だった。「影」に頼んだ。上手く取られないようにしてくれ、と。あれだけが本当に俺が望んで、与えられたものだった。
良く会いに行ったよ。
そうかリーエンはシオンに乗れたのか。
俺は何年も掛かったのに。」

兄が飽きもせずあの単調な狩場に足繁く通っていた事を思い出した。

「乗れるようになれた?」
「ああ、必死で練習したから。」

乗りやすいコハク、乗りにくいシオン。
どちらも良い馬だったけれど、たまらなくシオンに惹かれた。
「お前に負けたくなかっただけなのかもしれないが。」

「すまない、誤解していた。なんでも欲しがって、すぐに飽きて捨てるとしか思ってなかった。」

「そう思われるようにしていたからな。
帝にもお前にも、郭公にはもうやらん!って思ってくれないと、俺の後ろにいる奴らは消えてはくれないから。」

「終わりにしたかった。せめて子がいなければ廃嫡してもらえるかと思ったが、帝は奥に通えと煩かった。

大夫は皇后を入れた時、皇后に子は与えるな、スーチーに与えろ、と煩かった。
哀れな女だ。俺は大夫の子は抱けない。
母の宮に出入りしていた者の子は…俺は怖くて抱けないと言うのに。

子が出来なければ、ジンシかジンシの血筋に全てを返してやれたのに。
なぜ父があんなに奥に通えと煩かったのか、オレに子を作れと拘ったのか、理解できない。」

フェイの話をただ黙って聞いていた。
何を言えば良いか、何を言って欲しいのか、わからない。

ただ初めて兄の心に触れられた。
上に立つ者としてずっと忠誠を誓ってはいたが、人としての心を見せられた事はない。

俺との会話をフェイは求めてはいないのかもしれない。
フェイの話は「長くなる」と言ったそのままに、続いた。

「あの日、帝に呼び出されたあの日。
初めて帝は「廃嫡も辞さない」と俺を詰ってくれた。
いずれそう遠くない将来に、俺は廃嫡となっただろう。
父の希望通りに奥には通わなかっただろうから。
大夫は宮から出されただろうし、宰相は罷免された筈だ。
終わりになったはずだった。

でもそうはならなかった。
太夫が父に喰って掛かったのを合図に、俺を食い物にしていた奴らが一斉に帝に牙を剥いてしまった。

もう何も変わらない、あとは延々と地獄が待っている。」

「帝を手に掛けても宰相は慌てもしなかった。
朱病の筋書きは既にあったから、それを実行に移すだけだった。
本当はジンシも朱病にされるはずだった。
ジンシを人質にして帝に、帝を人質にしてジンシに、やらせたい事をやらせる予定だった。」

「…だからジンシを城から出したの?逃す為よね。」
「…違うよ。フキの先読みの結果を見たかった。
ジンシとリーエンが出会えばきっと国が割れる。何かが起こる。何かが起これば全部終わる。
宰相が「草」に山荘に近づく者は殺せと命じていた事を知らなかった。知っていたら俺が行ったよ。そして俺が斬られて全部終わっていたのに、残念だ。」

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