国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

文字の大きさ
48 / 87

最後の時

しおりを挟む
上の方が騒がしくなってきた。
人の足音が響いている。

「時間だ。足りない事は影に聞け!影はお前を選んだからなんでも正しく教えてくれるだろう。さあ殺してくれ。」
穏やかな声だった。
フェイが手に持っていた懐剣を俺に向かって差し出した。
フェイの覚悟を知り、迷いながらもそれを受け取ろうとした。

「…ダメよ!ジンシ!殺しては駄目!」
とリーエンが俺の伸ばした手にしがみついた。
「リーエン、離してくれ。父を殺した奴だ。俺を殺そうとした奴だ。きっと見逃しては貰えない。」
この先を思うとそうするしかないか、と俺は半ば諦めていた。

「ダメよ。あなたも同じになる。父を殺したフェイと同じになる。兄殺しになってしまう!」
必死な顔で俺を説得するリーエンの顔を見て迷いが更に大きくなる。

「…違うよ、リーエン。帝は父じゃないし、俺を殺してもジンシが兄に手を掛けた事にはならない。」
変わらず穏やかな声でフェイがそれを拒む。

「なるわ!なるのよ!」

その時、フェイがリーエンを引き寄せて抱え込んだ。
手にしていた懐剣をリーエンに当てる。
「ダメよ!諦めてはダメ!」
とリーエンが叫び、
「じゃあ、お前が死ね!」
とフェイが怒鳴る。
「やめろ!」
フェイは本気だ、リーエン、リーエン!
「じゃあ、お前がやれ!」

フェイは言葉を続ける。
「自分じゃ出来なかった。だから殺してくれ!」
ああ、これが。きっとこれが、フェイが願っていた事。
「兄」が「皇太子」が俺に願っている。

その時、上から何か塊が降ってきて、突然周りが白い煙が立ち上る。

次第に濃くなる煙に囲まれて何も見えなくなった。
「リーエン!影だ!動くな!」
「ジンシ!」

ダン!ダン!
誰かが上から飛び降りて、着地する音がいくつも響いた。

誰かに手を取られて、後ろに回された。
「やめろ、離せ!」
「…影の一族は新しい長を決めました。
申し訳ありません。ジンシ殿下には再び死んでもらわねばなりません。」
「やめろ!」
「イヤ!やめて!なんで!なんでジンシなの!」
リーエンの泣き叫ぶ声が空気を裂いていく。

「国の安寧の為です。死んだはずの皇子が生きていて、皇太子を殺した等、民に知らせるわけにはいきません。」

「待て!帝の血はジンシにしか残されていない!殺すなら俺だ!俺を殺せ!」
「帝の血はリーエン様の中に居ります。問題はございません。」

「いや!ダメ!もう誰も殺してはいけない!でないと終わらないの!終わらないのよ!」
リーエンの泣き叫ぶ声だけが響いた。

俺は…。
また諦めるのか?
ダメだ、もう諦めてはいけない。

「駄目だ!もうこれ以上の死は要らない。
例え罪人と成り果てても、命は奪うな!」

「それがあなたの願いですか?」
影の声が耳元で響く。
「ああ、そうだ!もう誰も傷付く必要はない!咎めは俺に与えればいい。」

本音だった。
これ以上誰かが傷付くのはもうウンザリだ。

「御免!」
影の声と共に、バシッと首筋に痛みが走る。
「うっ!」
首に手刀が入れられた途端、何も見えなかった真っ白な世界は、真っ黒な世界へと変わった。

…リーエン…。

最後に見えたのは、「生きろ」と言ったあの天女の顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...