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鳳の羽を纏う龍
帝の葬儀
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長らく朱病を患って床に伏せていた中、正殿の火災と臣下が巻き添えになったとの知らせを受けた帝は気落ちをして亡くなった。
そういうストーリーを立てて行われた帝の葬儀は、国師不在のまま行われた。
葬儀に参列しようと、リーエンは喪服に着替えて霊廟に向かっていた。
その時リーエンは少し先を歩く一行に目を止めた。
(あ、ソニア様…。)
フェイとなったジンシからはソニア様を参列させるつもりはないと聞いていた。
公式の場ではどうしても正妃となるソニア様がジンシの隣に立つ。
フェイをよく知るお方である、少しでも接触を減らしたいというのが本音だった。
「…どうしましょう。」
側に控えてくれたシーレンに問いかけた。
全てを知る数少ない者のひとりである。
「リーエンの周りに事情を知るものがいた方が、何かと支えになるだろう。」
という父とジンシの計らいで、ジンシが推挙し、私付きの小姓となったお人である。
「…何かお考えがあるのかもしれません。聡明なお方ですから。」
シーレンはそう言うが、それはそれで怖いことだ。
公の場で何か言い出されてしまえば、取り返しがつかない。
帝の宮の前で不安な気持ちのまま、ジンシの到着を待つ間、ソニア様は軽く会釈をするだけに留められて私に声は掛けてはくださらなかった。
どちらの一団も無言のまま、重く長く感じる時間が過ぎた。
ジンシ、いいえ、フェイの一行が棺と共に宮から出て来た。
火傷を負ったとされるフェイの顔は包帯と頭巾に覆われて、その表情はわからない。
そもそも武芸に長けた立派な体躯を持つジンシと、そうではないフェイである。
着ている服こそ似てはいるが、その姿から立ち登る気配は全く違う。
その事をとやかく言う者がいれば、容赦なくフーシン達が「踏み絵」をさせる事になっている。
(ソニア様は何をされるおつもりなのか…。)
フェイはチラリとソニア様を見て、そのまま列を止めることなくその前を通り過ぎた。
当たり前のように、ソニア様が後を付いて歩き出される。
他に手立てはない。
リーエンもまたソニア様の後に続いて霊廟へと向かう列へと加わった。
祭祀となる国師の代理はフキの師の弟子のひとりである。彼の人は昔フェイの先読みを行った者だそうだ。
占術の力量はフキにははるかに及ばない、しかしフキが意に沿わない事を簡単に投げ捨ててしまうのに対し、黙ってそれを拾い上げてくれるお人なのだと聞いた。
おそらくフキは国師の任を解かれる。
放逐し、帝の葬儀を投げ捨てたのである。
黙って拾い上げてきた事が、彼の人を国師として掬い上げようとしている。
葬送の斎詞が読み上げられて、榊の枝を奉納する。
当たり前だけれど、いや異常だけれど、棺は開けられる事はない。棺の上にたくさんの濃緑の枝が積み上げられていく中を、奏楽が流れ、誄歌が捧げられる。
その間、ジンシはソニア様を気遣うことはなかったが、ソニア様はフェイを気遣う様子を見せていた。
不自然なところは全くない。
皇太子として、皇太子妃として文句の付けようもない2人の姿がそこにある。
この時、リーエンは思った。
もしソニア様がここに姿を現さず、その場所にリーエンが立っていたら?
口さがない臣下達は皇太子妃ソニア様を蔑ろにする皇太子の姿、皇太子妃を差し置いて正妃のように振る舞うリーエンを悪く罵ったに違いない。
助けられたのだと悟った。
ソニア様の御心の中はわからない。
夫に蔑ろにはさせまいと足掻いているのかもしれない。
湧いて出てきた側女のリーエンにその座を譲らないと矜持を保たれているのかもしれない。
けれど今、公式の場でジンシがフェイである事を咎めることが出来る者はいないのだ。
棺を埋めて、供物と斎詞を捧げて、帝の葬儀は何事もなく静かなうちに終わった。
そういうストーリーを立てて行われた帝の葬儀は、国師不在のまま行われた。
葬儀に参列しようと、リーエンは喪服に着替えて霊廟に向かっていた。
その時リーエンは少し先を歩く一行に目を止めた。
(あ、ソニア様…。)
フェイとなったジンシからはソニア様を参列させるつもりはないと聞いていた。
公式の場ではどうしても正妃となるソニア様がジンシの隣に立つ。
フェイをよく知るお方である、少しでも接触を減らしたいというのが本音だった。
「…どうしましょう。」
側に控えてくれたシーレンに問いかけた。
全てを知る数少ない者のひとりである。
「リーエンの周りに事情を知るものがいた方が、何かと支えになるだろう。」
という父とジンシの計らいで、ジンシが推挙し、私付きの小姓となったお人である。
「…何かお考えがあるのかもしれません。聡明なお方ですから。」
シーレンはそう言うが、それはそれで怖いことだ。
公の場で何か言い出されてしまえば、取り返しがつかない。
帝の宮の前で不安な気持ちのまま、ジンシの到着を待つ間、ソニア様は軽く会釈をするだけに留められて私に声は掛けてはくださらなかった。
どちらの一団も無言のまま、重く長く感じる時間が過ぎた。
ジンシ、いいえ、フェイの一行が棺と共に宮から出て来た。
火傷を負ったとされるフェイの顔は包帯と頭巾に覆われて、その表情はわからない。
そもそも武芸に長けた立派な体躯を持つジンシと、そうではないフェイである。
着ている服こそ似てはいるが、その姿から立ち登る気配は全く違う。
その事をとやかく言う者がいれば、容赦なくフーシン達が「踏み絵」をさせる事になっている。
(ソニア様は何をされるおつもりなのか…。)
フェイはチラリとソニア様を見て、そのまま列を止めることなくその前を通り過ぎた。
当たり前のように、ソニア様が後を付いて歩き出される。
他に手立てはない。
リーエンもまたソニア様の後に続いて霊廟へと向かう列へと加わった。
祭祀となる国師の代理はフキの師の弟子のひとりである。彼の人は昔フェイの先読みを行った者だそうだ。
占術の力量はフキにははるかに及ばない、しかしフキが意に沿わない事を簡単に投げ捨ててしまうのに対し、黙ってそれを拾い上げてくれるお人なのだと聞いた。
おそらくフキは国師の任を解かれる。
放逐し、帝の葬儀を投げ捨てたのである。
黙って拾い上げてきた事が、彼の人を国師として掬い上げようとしている。
葬送の斎詞が読み上げられて、榊の枝を奉納する。
当たり前だけれど、いや異常だけれど、棺は開けられる事はない。棺の上にたくさんの濃緑の枝が積み上げられていく中を、奏楽が流れ、誄歌が捧げられる。
その間、ジンシはソニア様を気遣うことはなかったが、ソニア様はフェイを気遣う様子を見せていた。
不自然なところは全くない。
皇太子として、皇太子妃として文句の付けようもない2人の姿がそこにある。
この時、リーエンは思った。
もしソニア様がここに姿を現さず、その場所にリーエンが立っていたら?
口さがない臣下達は皇太子妃ソニア様を蔑ろにする皇太子の姿、皇太子妃を差し置いて正妃のように振る舞うリーエンを悪く罵ったに違いない。
助けられたのだと悟った。
ソニア様の御心の中はわからない。
夫に蔑ろにはさせまいと足掻いているのかもしれない。
湧いて出てきた側女のリーエンにその座を譲らないと矜持を保たれているのかもしれない。
けれど今、公式の場でジンシがフェイである事を咎めることが出来る者はいないのだ。
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