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鳳の羽を纏う龍
悪阻
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「おめでとうございます。」
前にフェイの寝所でおざなりに破瓜を確認した医師が、今回は念入りに診察をしてからそういった。
「ご懐妊されております。
臭いに敏感になったり味覚が変わったのもその為です。
色々ありましたから、暫くは安静にされて、食べられるものを食べて滋養をつけなさいませ。」
…懐妊。ここに、私のお腹にジンシの子がいると聞いて、温かい気持ちになった。
不思議なものね…。
初めは気持ちが整わないままで、流され義務のように身体を重ねる事になったのに…。
それでも嬉しかった。
ジンシの子だからだ。
愛している人の子を身籠れた事が、こんなに幸せで穏やかなものになったことが、ただ嬉しかった。
シーレンは甲斐甲斐しくリーエンの世話を焼き、程なくして時折りセイが姿を見せるようになった。
セイは山荘でフェイと暫く生活をしていたのだと教えてくれた。
「どれほど怖い人かと思いましたが、そうでもなかったです。」
というセイだった。
慣れ親しんだセイと、母のように手を掛けてくれるシーレンと穏やかに日中を過ごす。
「こんなに臭いに駄目になると思わなかったわ。」
油類は悉くダメだった。
灯油、香油、鬢付け油…。白粉も紅も苦手だ。
気を遣って、セイとシーレンもそれらを付け無くなっている。
「今暫くの辛抱ですよ。まだ食べ物が食べられるだけマシだと思いますよ。」
既に成人した子を持つ母のシーレンの言葉に初めての事ばかりで不安なことばかりのリーエンの心は随分と解されている。
臭いがダメな悪阻のために、ジンシと夜を過ごす事も無くなった。ジンシと過ごすのは締め切った部屋で灯りを灯さないとなくてはならないから。
昼間、政務の隙を見て部屋に来てくれるフェイは包帯でグルグル巻きにされている。
「ごめんなさい…。」
謝りながら、唯一出でいる手を握る。
「今だけ、と聞いているから気にしないでいい。丈夫な子を産んでくれればそれでいい。」
「あなたは…大丈夫なの?」
身体だけじゃない、心持ちも心配だった。
元は優しいお人だ。
自分の素性を訝しく思う、ただそれだけで臣下を切っていく日々はどれだけ心を削っているかわからない。
「大丈夫、そこはフーシンと将軍が上手く乗り切ってくれそうだ。政り事は気にしなくていい。」
気にしないでいい、そればっかり!
と頬を膨らませる。
「嘆き事はどうか私にぶつけて下さい。」
とお願いしても、シーレンに怒られるからとそれすらしてくれない。
私のお腹をさすりながら、
「赤子は既に聞き耳を立てているそうだ。
健やかに育てるために余計な事は言わないよ。」
と強がって見せてくれる。
もうすぐ帝の喪が明ける。
そうすればジンシは新帝となり、国を治めていかなくてはならない。
「国師の制度をやめようと思う。」
そう聞かされたのは最近のこと。
「フキ様はまだ見つからないのね。」
「ああ。どこに消えたんだか。」
「占師達は?」
「理解してくれている。」
帝の葬儀を仕切った彼の人に全てを曝け出したそうだ。
「俺を竜の皇子と呼んだ。彼らは騙しきれなかった。」
しかしフキの振る舞いで、いく人もの人が踊らされてねじ曲がった人生を歩まざるを得なかった事を彼の人は理解してくれた。
「俺が迷い道に陥らないように気を付けてはくれるそうだ。」
権威を与えられなくても、彼らが国を民を思う気持ちには変わりがない、と彼の人は仰ったそうだ。
「本来、卜占とはそういうもの、だそうだ。」
こちらも敬う気持ちには変わりがない、彼らを庇護していく事も変わりがない。
ただ悪戯に政策に口は出させないだけ。
「彼らにも感謝しなくてはなりませんね。」
そう、私たちは口を噤んでくれる人々に感謝していかなくてはならない。
前にフェイの寝所でおざなりに破瓜を確認した医師が、今回は念入りに診察をしてからそういった。
「ご懐妊されております。
臭いに敏感になったり味覚が変わったのもその為です。
色々ありましたから、暫くは安静にされて、食べられるものを食べて滋養をつけなさいませ。」
…懐妊。ここに、私のお腹にジンシの子がいると聞いて、温かい気持ちになった。
不思議なものね…。
初めは気持ちが整わないままで、流され義務のように身体を重ねる事になったのに…。
それでも嬉しかった。
ジンシの子だからだ。
愛している人の子を身籠れた事が、こんなに幸せで穏やかなものになったことが、ただ嬉しかった。
シーレンは甲斐甲斐しくリーエンの世話を焼き、程なくして時折りセイが姿を見せるようになった。
セイは山荘でフェイと暫く生活をしていたのだと教えてくれた。
「どれほど怖い人かと思いましたが、そうでもなかったです。」
というセイだった。
慣れ親しんだセイと、母のように手を掛けてくれるシーレンと穏やかに日中を過ごす。
「こんなに臭いに駄目になると思わなかったわ。」
油類は悉くダメだった。
灯油、香油、鬢付け油…。白粉も紅も苦手だ。
気を遣って、セイとシーレンもそれらを付け無くなっている。
「今暫くの辛抱ですよ。まだ食べ物が食べられるだけマシだと思いますよ。」
既に成人した子を持つ母のシーレンの言葉に初めての事ばかりで不安なことばかりのリーエンの心は随分と解されている。
臭いがダメな悪阻のために、ジンシと夜を過ごす事も無くなった。ジンシと過ごすのは締め切った部屋で灯りを灯さないとなくてはならないから。
昼間、政務の隙を見て部屋に来てくれるフェイは包帯でグルグル巻きにされている。
「ごめんなさい…。」
謝りながら、唯一出でいる手を握る。
「今だけ、と聞いているから気にしないでいい。丈夫な子を産んでくれればそれでいい。」
「あなたは…大丈夫なの?」
身体だけじゃない、心持ちも心配だった。
元は優しいお人だ。
自分の素性を訝しく思う、ただそれだけで臣下を切っていく日々はどれだけ心を削っているかわからない。
「大丈夫、そこはフーシンと将軍が上手く乗り切ってくれそうだ。政り事は気にしなくていい。」
気にしないでいい、そればっかり!
と頬を膨らませる。
「嘆き事はどうか私にぶつけて下さい。」
とお願いしても、シーレンに怒られるからとそれすらしてくれない。
私のお腹をさすりながら、
「赤子は既に聞き耳を立てているそうだ。
健やかに育てるために余計な事は言わないよ。」
と強がって見せてくれる。
もうすぐ帝の喪が明ける。
そうすればジンシは新帝となり、国を治めていかなくてはならない。
「国師の制度をやめようと思う。」
そう聞かされたのは最近のこと。
「フキ様はまだ見つからないのね。」
「ああ。どこに消えたんだか。」
「占師達は?」
「理解してくれている。」
帝の葬儀を仕切った彼の人に全てを曝け出したそうだ。
「俺を竜の皇子と呼んだ。彼らは騙しきれなかった。」
しかしフキの振る舞いで、いく人もの人が踊らされてねじ曲がった人生を歩まざるを得なかった事を彼の人は理解してくれた。
「俺が迷い道に陥らないように気を付けてはくれるそうだ。」
権威を与えられなくても、彼らが国を民を思う気持ちには変わりがない、と彼の人は仰ったそうだ。
「本来、卜占とはそういうもの、だそうだ。」
こちらも敬う気持ちには変わりがない、彼らを庇護していく事も変わりがない。
ただ悪戯に政策に口は出させないだけ。
「彼らにも感謝しなくてはなりませんね。」
そう、私たちは口を噤んでくれる人々に感謝していかなくてはならない。
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