国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

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不甲斐ない男

シンエン

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「もうここには来るな、そう伝えた筈だ。」
フーシンが久しぶりに訪れた家の主、シンエンという男は、内務府の高官である。

城の中に屋敷を持つシンエンは帝に重用されていた文官のひとりであった。
フーシンにとって、このシンエンという男は特別な人のひとりである。
父親同士、文官と武官という異なる立場でありながら、なぜかウマが合いよく酒を酌み交わしていた仲であった。
その度に家族共々家を行き来し、シンエンの子シンサイ、マオとは幼馴染でもあった。

「…マオには会わせられない。」
苦しそうにそう呟くシンエンにフーシンは
「いえ、シンエン殿。今日のお話は別のことです。」
と告げた。

マオの事が気にならないわけではなかったが、幾度も同じように断られ続けて、フーシンの心は折れ掛けてもいる。

「別の事…とな?」
「ええ。ここでは。」
いつ誰が訪れるかわからない、玄関先で話せるような事でない事を匂わせ、奥へ通せ、と願い出た。

「…仕方ない。遠乗りでも参るか。」
こんな夜更けに遠乗り!
どうしてもフーシンを屋敷には入れたくはないということなのだろうか。

「…このような宵闇では…。わかりました、我が家に…。」
これからする話は誰にも知られてはならない。闇に紛れ誰が聞いているかもわからないのでは口には出せない。ならば我が家に足労願うしかない。

フーシンがそう思ったその時だった。
屋敷に赤子の泣き声が響き渡った。
「…赤子が?」

シンエンの息子シンサイはもう成人して別の地で暮らしている。
フーシンの体は一瞬で冷たくなった。

シンエンは諦めたように溜息を吐いて、
「…先月、マオが産んだ。」
と諦めたように呟いた。

「マオがっ!あ、いや、マオ…殿が?」
マオが子を産んだと聞いて更に身体が凍るように冷たくなる。
「済まない。其方には言えなかった。マオも知られたくはないだろうと。」
「…どういう事ですか?」
何があったとて家族ぐるみで付き合いのあった幼馴染だ。
知られたくはなかったとはとても穏やかではない。
孫の誕生に全く喜ぶ気配さえ見せないのも、フーシンの疑心を煽った。

「…もう良い、入れ。」
先程まで家に通すつもりはこれっぽっちもなかったのに、掌を返して家に入れというシンエン。
きっと隠したかったのはこの事なのだ。
未来の妻に…と願っていたマオが、俺に知らせずに身籠もり子を産んだ。

マオは2年の約束でアナンの宮に上がり、たった半年で帰された。
理由は病、気鬱の病という話だった。

どんな辛酸を舐めたのだろう、奥の宮では女は長く勤めるものと早々と帰されるものに分かれがちだ。

マオならば長く勤められるだろうと思っていた。特にアナンの宮はあまり侍女や女官が動かないと聞いていた。
婚礼適齢期を過ぎても宮に残る事を熱望する者さえいると聞いている。

あの日、マオを奥の宮に続く門まで送り届けたのはフーシン自身である。

「約束してくれる?絶対2年で戻ってくる、と。」
「もちろん、約束する。だから…帰ってきたらフーシン兄のお嫁さんになってあげるわ。」
マオは可愛らしく首を傾げて、こちらを見上げた。

ったく。
このマオには勝てない。
言い出したくても言い出せない心の弱さをすっかり見抜かれた。

「…こういうのは俺から言わせろ。…わかった約束する。
奉公が終わったら、シンエン殿にお目通りを願い出る。」
「…良かった。じゃあきっと頑張れるわ。」

何かないか…と周りを見回して、たまたま咲いていた菜の花をひとつ摘み取った。
よーく覗き込んで確認してからマオに手渡した。
「約束する。勤めが終わったら結婚だ。」
菜の花を受け取るマオの頬は赤い。

「絶対よ!忘れないでね。」
そう言って門の中に颯爽と歩いて、最後にこちらを振り返り特上の笑顔を見せたマオ。
あの姿を最後に、俺はマオには会えなくなった。
マオが宮を出されたと聞いてから幾度となくこの屋敷を訪れたけれど、いつも答えは同じ。

「帰れ」
「もう来るな」
「マオには会わせられない」
とシンエンに素気無く追い返されていた。

理由はこれか…。

フーシンは苦い思いが込み上げるのを唇を噛み締め、耐えるしかできなかった。



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