国を割る姫  避けていた宿命が向こうから飛び込んで来るなんて想定外!

枝豆

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不甲斐ない男

フェイの願い

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こうしてフェイの側にいながら、シンエンとティバルの間を伝書鳩よろしく行き来する生活が始まった。

本来なら近習は主人の側を離れる事は出来ない。
しかし、昔ながらフェイに仕えている近習達はことあるごとにフーシンを側から離す。
特に帝の様子を見に訪ねる時には絶対にフーシンは置いていかれる。

その隙にこれ幸いとばかりにシンエンやティバルの下を訪ねる。
シンエンは度々思考の沼に落ち、そして策をフーシンへと授け、フーシンはそれをそのままディバルへと伝える。


「何をコソコソやっている。」
フェイに尋ねられたのはそんな時だった。
「いえ…何も。」
背中を冷たい汗が流れる。
「…まあ良い。好きにしろ。」

「…フーシン、ジンシは生きているらしい。フーシンはどう思う?」
確かめたいのは生きているかどうかではなく、その事を知っていたかどうか、と問われている気がした。
「そうなのですか?全く想像もしておりませんでした。」

この答えは答えた瞬間から後悔した。
もっと驚くべきだったか…?

フェイはチラリとこちらを睨んで、
「フーシンは芝居が下手すぎだな。」
と口元を歪めた。

「フーシン、俺のために死ねるか?」
「…はい、もちろん。」
一瞬の迷いをフェイは見逃さない。元々人の機敏には鋭い人である。
「ははは、やっぱり芝居は下手だ。」
と、やはり見抜かれてしまった。

しかしフェイは話題を変えた。
「まあ良い。お前に頼みがある。ひとり宮に入れたい女子がいる。シェンと調整してくれ。」
「…宮に…女子ですか?」
男色のフェイが宮に女子を…?と戸惑いの気持ちが強くなる。
囲ったまま放置されるのに、何故…と?

「ああ、そうだ。どうせコソコソやってるんだ、お前がちょうどいい。
ティバルの娘を宮に入れたい。」

「ティバル殿の娘ですか!」
思いもかけない選択に驚くしかできない。
シンエンが言うにはティバルの娘はジンシと一緒にいるはずだ。
…まさかフェイはその事まで知っている…のか?

「驚くことではない。お前なら俺の望む物はわかっている筈だ、そうだろう。」

フェイの望む物…。
ああ、わかる。わかりすぎるくらいにわかる。
いつもそうだった。フェイはジンシの大切にしたいと思う物を欲しがる。
笛も、馬も、権力も、父からの愛も…。
もしかしたら俺も…。

「奪われたくはないというなら、お前が来い、そう伝えろ。」
「えっ?お前とは?」
「…わかるだろう。」
「わかりません。」
と言うしかない。
ジンシが生きている事を自分が認めるわけにはいかない。

「わからないのならばシンエンに聞け。」
その言葉を聞いて、フーシンの頭は真っ白になった。
「…シンエン殿ですか…なぜ?」
このことまでバレていたことに慄然とした。

「…自分で少しは考えろ。」

この話は終わりだとばかりにフェイは立ち上がってしまった。



「筒抜けでした。」
シンエンにフェイからの言葉を伝えると、シンエンは思った通りだと言った。

「思った通り、ですか?」
「ああ、これでフェイの望みがわかった。」
「フーシン、フェイのために死ねるか?」
なぜフェイと同じことを聞く?
「お前がこれからする事は、ジンシにとっては死と同義。主人が死ねばお前には生きている価値がないのと同じだ。
それでもフーシンがやらなくてはならない。」

「ティバルに伝えろ。娘の腹にジンシの子を宿らせてから、宮に入れろ、と。
出来なければ、ティバルの娘としてジンシが来い。
あと足りないのは次帝だ。
フェイは子を作るつもりもないし、それをさせるつもりは俺にはない。
必要なのはジンシの子だけだ。それさえ揃えばフェイはもう用済みに出来る。」

フーシンには信じられない。
「シンエン殿が…マオ殿の父であるシンエン殿が…それを言うのですか!」

望まない行為を強要されて、悍ましさを感じさせる子を産んだマオ。それを具に見ていた父親がそれを他人に望む…。

「ああそうだ。俺にはこの国を想う義はないし、誰かのために流せる涙はもうない。
マオのかたきの為、俺は鬼にでも何にでもなる。」

「ティバルの娘を宮に入れる事がマオの敵討ちになると仰いますか?」

「ああ、なる。マオを辱めた奴とフェイにたかる者はきっと同じだ。
ジンシに子が出来れば奴らは動かなくてはならなくなる。
追い詰められた奴らは必ず愚を犯す。
いいか、先に子だ。これは譲れない。
大丈夫、きっとそうなる。

一旦宮に入ってしまえば、ティバルの娘はマオと同じになる。
ジンシなら種馬だろう。
せめて好きあった者と、これは慈悲だと思えばいい。

奴らの憂いはティバルだ。奴らの壁となるのはティバルしかいない。
娘が奴らの手に堕ちれば、ティバルは沈黙しなくてはならなくなる。
娘のために、そうなる前にティバルは立つ。なればジンシも立つだろう。

フェイはジンシを立たせたがっている。
おそらくは…フェイに集る輩と共に一掃しろ、フェイはそれを願っている。」
「自分とまとめて一掃しろ、と?」
まさかそんな事があるはずがない。いくらシンエンの言葉でも受け入れ難い話だった。

「いいか、フーシン。迷ってはいけない、絶対に怯むな。ここが正念場となるのだから。
あの皇子は追い詰めないと何もしない。容赦なくとことん追い詰めてやれ。
喉元に刃を突きつけてもいい、何がなんでもジンシを立たせろ。」

シンエンは迷うことすら許そうとはしてはくれなかった。

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