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王妃様1
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流石に王子宮に入って2週間も経つと与えられた環境にも慣れて来た。
宰相閣下からは王子妃教育を受けながら過ごしなさいと言われていたのにちっともその気配はなくて、一度だけこれで良いのか?とカレンさんに尋ねてみた。
やりたいのではなくて、やっているように見せ掛けておかなくて良いのか?という意味で。
だけど、
「アイリーン様には必要ないですよ。」
とカレンさんにはあっさりと断られた。
必要がない、それは私が貴族としてのマナーを身につけているからではなく、王子妃として振る舞う事が今後ないから、「必要がない」という意味だと私は漠然と想像して、本当にのんびりとここで兄様の迎えを待っていれば良いんだなぁ、と楽観的に考える事に決めた。
相変わらず人形のように感情は見えず、さりとて様々な事によく気付き色々と世話を焼くカレンさんだったが、今朝からはなぜか嬉しそうに張り切って私の身支度を整えてくれている。
こんなにカレンさんの感情が見えるのは初めてでなんだか落ち着かない。
いつもより隅々まで念入りに、マッサージも化粧も、フルコースで行われたその理由は、突然の来客によって知ることになった。
午後のお茶の時間に現れたのは、王妃殿下その人だった。
おそらく来訪の事をあらかじめ知っていた様子の殿下から「母上だ。」と紹介された王妃様は、とても2人のお子の母親とは思えない、見惚れるほどの美しい人だった。
ただ少し、瞼の下に青白い隈がすこし目立つのがこのところの心労の深さを漂わせてしまっている。
お互いに儀礼的な挨拶を交わして、何か不自由がないかなどとご心配の言葉を頂いてから、
「アイリーンには本当に申し訳ない事をした。私にはランスを止められなかった。」
と王妃様はいきなり話題を変えたのち、頭を下げられてしまった。
慌てて王妃様が謝る事ではない、と押し止め、どうにか頭を上げてもらう。
「本当はすぐにでもレインのところへ帰してあげたいのですが、ランスの説得ができていない状態でアイリーンを返してしまうとどのような咎がエリールやレインに向かうかまだ読めないのです。
フランもまだ離宮におります。今のところ大人しく過ごしているようですが、今回の件はフランが陛下を急かしたのだというのに、実際に事が動いた途端かなり立腹したと聞いております。
王子宮ならフランも易々と手は出せません。陛下も満足して大人しくしている事でしょう。もう少し先の目処が立つまでしばらくここでお待ちくださいませんか。?」
本来なら、私にお願いするまでもなく、それを望みさえすれば周りがそうするのであろうお立場の方から、頭を下げて願われるという状況にとまどってしまう。
だけどなんとなくホッとしてしまうものもあった。
おそらく国王を止められるとしたら王妃様しかいない気がするから。
王妃様のお言葉は私に家に帰れる希望を与えてくださったから。
「はい、お心遣いありがとうございます。」
「帰れる状況になれば必ず帰すと約束しますから。」
優しい眼差しと言葉に涙が出そうになる。
だけど、そこにすかさず殿下が割って入ってきた。
「母上、俺はリーンを帰したくはありません。」
優しかった王妃様の目が一瞬で険しくなった。
「なぜ?其方はそのつもりなの?」
「はい。」
「何のために?陛下やニルスの為ならやめておきなさい。」
「俺自身の為です。」
「アリの為、というの?」
「はい。そうです。」
「その意味がわかっているの?その道は険しいのよ。」
どんどんと険しくなっていく表情を和らげることもなく、怖いくらいに冷めた目で殿下を見つめている王妃様を殿下は負けないとばかりにしっかりと強く見据えている。
殿下の発言に驚きつつも、王妃様の「その道は険しい」というお言葉には納得出来る。
私のような平民の職人娘が王子殿下の婚約者とか妃とか、普通に高貴なる身分の感覚を持つ人なら、絶対に反対すると思ったから。
反対してくださって良かったとも素直に思ってしまう。
少なくても王妃様は普通の感覚をお持ちの人のようだ。
そう思ったのも束の間、
「アイリーンはレインの元へ帰さなければならないのですよ。
これ以上の不幸の種を蒔いてもいい事は何もありません。」
と言い放った王妃様の言葉に、私の中の警鐘がなった。
これ以上とは?まるで過去に不幸の種が蒔かれたことがあるような言い方で、それが何なのか王妃様は良くご存知のような気がしたから。
王妃様は味方だけど、それは敵の敵だからで状況が変わればどうなるのかわからない…そんな気もしてくる。
とりあえずこの話は切り上げて、気を取り直して席に着いてお茶を一緒に飲む事にはなったけれど、その日のお茶は甘ったるいニルスのお茶のはずなのに、なぜかほのかに苦く感じた。
宰相閣下からは王子妃教育を受けながら過ごしなさいと言われていたのにちっともその気配はなくて、一度だけこれで良いのか?とカレンさんに尋ねてみた。
やりたいのではなくて、やっているように見せ掛けておかなくて良いのか?という意味で。
だけど、
「アイリーン様には必要ないですよ。」
とカレンさんにはあっさりと断られた。
必要がない、それは私が貴族としてのマナーを身につけているからではなく、王子妃として振る舞う事が今後ないから、「必要がない」という意味だと私は漠然と想像して、本当にのんびりとここで兄様の迎えを待っていれば良いんだなぁ、と楽観的に考える事に決めた。
相変わらず人形のように感情は見えず、さりとて様々な事によく気付き色々と世話を焼くカレンさんだったが、今朝からはなぜか嬉しそうに張り切って私の身支度を整えてくれている。
こんなにカレンさんの感情が見えるのは初めてでなんだか落ち着かない。
いつもより隅々まで念入りに、マッサージも化粧も、フルコースで行われたその理由は、突然の来客によって知ることになった。
午後のお茶の時間に現れたのは、王妃殿下その人だった。
おそらく来訪の事をあらかじめ知っていた様子の殿下から「母上だ。」と紹介された王妃様は、とても2人のお子の母親とは思えない、見惚れるほどの美しい人だった。
ただ少し、瞼の下に青白い隈がすこし目立つのがこのところの心労の深さを漂わせてしまっている。
お互いに儀礼的な挨拶を交わして、何か不自由がないかなどとご心配の言葉を頂いてから、
「アイリーンには本当に申し訳ない事をした。私にはランスを止められなかった。」
と王妃様はいきなり話題を変えたのち、頭を下げられてしまった。
慌てて王妃様が謝る事ではない、と押し止め、どうにか頭を上げてもらう。
「本当はすぐにでもレインのところへ帰してあげたいのですが、ランスの説得ができていない状態でアイリーンを返してしまうとどのような咎がエリールやレインに向かうかまだ読めないのです。
フランもまだ離宮におります。今のところ大人しく過ごしているようですが、今回の件はフランが陛下を急かしたのだというのに、実際に事が動いた途端かなり立腹したと聞いております。
王子宮ならフランも易々と手は出せません。陛下も満足して大人しくしている事でしょう。もう少し先の目処が立つまでしばらくここでお待ちくださいませんか。?」
本来なら、私にお願いするまでもなく、それを望みさえすれば周りがそうするのであろうお立場の方から、頭を下げて願われるという状況にとまどってしまう。
だけどなんとなくホッとしてしまうものもあった。
おそらく国王を止められるとしたら王妃様しかいない気がするから。
王妃様のお言葉は私に家に帰れる希望を与えてくださったから。
「はい、お心遣いありがとうございます。」
「帰れる状況になれば必ず帰すと約束しますから。」
優しい眼差しと言葉に涙が出そうになる。
だけど、そこにすかさず殿下が割って入ってきた。
「母上、俺はリーンを帰したくはありません。」
優しかった王妃様の目が一瞬で険しくなった。
「なぜ?其方はそのつもりなの?」
「はい。」
「何のために?陛下やニルスの為ならやめておきなさい。」
「俺自身の為です。」
「アリの為、というの?」
「はい。そうです。」
「その意味がわかっているの?その道は険しいのよ。」
どんどんと険しくなっていく表情を和らげることもなく、怖いくらいに冷めた目で殿下を見つめている王妃様を殿下は負けないとばかりにしっかりと強く見据えている。
殿下の発言に驚きつつも、王妃様の「その道は険しい」というお言葉には納得出来る。
私のような平民の職人娘が王子殿下の婚約者とか妃とか、普通に高貴なる身分の感覚を持つ人なら、絶対に反対すると思ったから。
反対してくださって良かったとも素直に思ってしまう。
少なくても王妃様は普通の感覚をお持ちの人のようだ。
そう思ったのも束の間、
「アイリーンはレインの元へ帰さなければならないのですよ。
これ以上の不幸の種を蒔いてもいい事は何もありません。」
と言い放った王妃様の言葉に、私の中の警鐘がなった。
これ以上とは?まるで過去に不幸の種が蒔かれたことがあるような言い方で、それが何なのか王妃様は良くご存知のような気がしたから。
王妃様は味方だけど、それは敵の敵だからで状況が変わればどうなるのかわからない…そんな気もしてくる。
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