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雑誌モデル

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「野上さん、頼みます。スポンサー筋からのどーしても野上さんにっ、っていう話なんです。」
「ですが、シーズン中ですよね。あまりに非常識では?」
「向こうもそれはわかってるんです。それでも…って話なんです。」

ナチュライフという生活雑貨ブランドの商品に話題性のある男性有名人を絡ませてのインタビュー記事の依頼を受けたのは、その撮影がオフシーズンに行われるという話だったからなのに、それが何かの手違いでシーズン中にズレ込んだ。
ただでさえ、上半身だけだけれど脱がされるというのに。

「半日で済ませるって言ってくれてますし、移動日でチャチャっと。
絶対話題になりますし、集客力にも繋がると思います。どーか、頼みます。」

球団の広報責任者が額を机に擦り付けるような願いに、嫌と言い切る事ができるプロ野球選手は果たしてどれくらいいるのだろう…か。

「いつですか?」
「今度の月曜です。移動日といっても…。」
埼玉のホーム試合が2カード続く合間の移動日だと言う。
自身が所属するリーグでは下手をしたら北海道から福岡まで移動、という日程もある。
それに比べたら、まだ誠意があるのかもしれない。

「わかりました。」
そう答えると、広報責任者が安堵したらしく、大きく息を吐いた。

「あー、よかった。助かります。
で、これが一応その雑誌で、違う商品の記事が載ってます。」

広報が差し出した雑誌「セボン」の予め何か挟んであったらしいページをサッと開いて見せられた。商品は入浴剤。
確かこの間主演ドラマが話題になっていた男性アイドルが、女性モデルと泡風呂に浸かってこちらをじーっと見つめていた。

「…条件つけていい?」
「はい、もちろん。」
「モデル、この子にしてくれる?」
雑誌の違うページを開いて指で差した。
「…この子、ですか?
えっーと、ユキ、ですね。タイプなんですか?」
「…大学の後輩の友達。」
「あっ、知り合いですか。」
「違うよ。」

困惑する広報責任者に、
「これから知り合いになるんだ。」
と伝えた。

「やっぱりタイプなんじゃないですか。まあ広報としてはなるべくならそういうのは…。いや、なんでもないです。」

私生活に口を出して臍を曲げられたら困るとでも考えたのか、FA権行使に繋がったらマズイとでも考えたのか、とにかく広報責任者は、相手のモデルを「ユキ」にしてくれるという条件で先方に話しをつける、と約束してくれた。
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